2010年09月22日

●財務省が国家を動かしている(EJ第2290号)

今日からテーマが「石油危機を読む」に変わります。この記事
は、2008年3月24日から2008年6月6日までの52回
にわたって掲載したものであることをお断りしておきます。
 株安、円高、原油高――日本の経済状況が大きく変調をきたし
ています。今までも株安、円高はありましたが、そのときの原油
価格は「1バレル=17ドル」程度、現在の原油価格は「1ドル
=100ドル」をはるかに超えています。
 3月22日付の日本経済新聞は、「2つの『100』企業に重
荷」と題して次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 (2つの『100』の一つは)1ドル100円を突破した円相
 場。このまま推移すると円高による営業利益の減少額は来期、
 トヨタだけで5000億円。ホンダ、日産自動車も含めた大手
 3社では計1兆円強に達する。もう一つの「100」は1バレ
 ル100ドルを突破した原油先物市場。こうした資源価格の上
 昇は鋼材や部品のコスト上昇要因になる。
            ――3月22日付の日本経済新聞より
―――――――――――――――――――――――――――――
 ところで、原油はなぜこのように高騰しているのでしょうか。
そもそもどのようにして原油価格は決まるのでしょうか。そして
この原油高はいつまで続くのでしょうか。
 石油の問題は分からないことが多いものです。そこで、EJで
は、『石油危機を読む』と題して、石油の問題にメスを入れ、そ
れを中心に日本経済の問題を考えていきたいと思います。しばら
くはその周辺問題について書きます。
 3月16日のテレビ朝日の『サンデープロジェクト』で、民主
党の鳩山幹事長が非常に印象的な発言をしたのです。それはキャ
スターの田原総一郎氏が、鳩山幹事長に対して次のように聞いた
ときのことです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 民主党党首の小沢一郎氏は、自民党が日銀の総裁候補として提
 示しようとしていた武藤敏郎氏をなんとなく容認するような姿
 勢を見せていたのになぜ一転して拒否する姿勢に転じたのか。
                     ――田原総一郎氏
―――――――――――――――――――――――――――――
 この問いに対して鳩山幹事長は、次のような趣旨のことを答え
たのです。これはまさしく民主党の本音であったと思います。
―――――――――――――――――――――――――――――
 民主党は今度衆院選があると、政権が取れる可能性がある。そ
 の場合、もし今回武藤氏を拒否すると民主党は財務省を完全に
 敵に回すことになる。それでスムースな政権運営ができるのか
 ということまで考えたからである。  ――鳩山民主党幹事長
―――――――――――――――――――――――――――――
 これは、実に驚くべき発言であると思います。なぜなら、それ
は財務省という存在が、いかに強力で抗し難い組織であるかを如
実に表しているからです。そういうことになると、日本という国
を動かしているのは、政府でも自民党でもなく、財務省というこ
とになります。
 それに、「武藤日銀総裁案」に民主党をはじめとする野党が参
議院で不同意にしたことに対して、与党にどちらかというと批判
的な朝日新聞まで含めて、日本のほとんどの新聞が一斉に非難を
したことです。これも極めて異常な現象です。ここにも財務省の
力が働いていると考えられます。
 野党の武藤氏不同意には、いくつかの情報が飛び交っているの
です。そのひとつに武藤氏の英語力に問題があるという説があり
ます。これは複数の情報源から情報で、民主党も把握しているは
ずですが、個人の能力に関することなので、正面きっていえない
ので、「財政と金融の分離」の原則に反する人物として反対を打
ち出したと考えられます。
 それならば、民主党は自民党が最後に提案してきた田波耕治氏
をなぜ拒否したのでしょうか。
 田波氏を強く推したのは、元大蔵次官の保田博・資本市場振興
財団理事長と財務省の意向を受けた額賀福志郎財務相であるとい
われています。ちなみに保田博氏は、福田首相の父、赳夫元首相
の秘書官を務めた人物です。実は、財務省が田波耕治氏を推した
のには深い読みがあるのです。これに関しては、須田慎一郎氏が
自らのコラムで財務省有力0Bの言葉として、次のように述べて
います。
―――――――――――――――――――――――――――――
 田波氏はその入省年次において武藤前副総裁よりも2つ上、と
 いうのが今回の“提案”の最大のポイントだ。霞ヶ関的発想で
 言うならば、年次が上の田波氏が日銀総裁に就任するというこ
 とは、武藤氏が日銀総裁に就任する目が残ることを意味する。
 つまり、田波氏の役割は、晴れて武藤氏が日銀総裁に就任する
 までの“つなぎ役”というところにあったのだろう。
  ――3月19日『夕刊「フジ」/金融コンフィデンシャル』
―――――――――――――――――――――――――――――
 驚くべき深謀遠慮です。何が何でも武藤日銀総裁実現のための
あの手この手です。成功すれば、かつて慣例となっていた日銀総
裁の財務省と日銀とのたすきがけ人事の復元になるのです。どう
しても日銀総裁を財務省の天下りポストにしたいわけです。
 国益よりも省益優先――これは実に困った問題です。米国のサ
ブプライムローン問題で米国経済に赤ランプが点り、日本経済に
影響が出てきているこの大事なときに、すべての省庁に隠然たる
勢力を持つ財務省が省益優先ですから、せっかく回復しかけてい
る日本経済を失速させかねないからです。
 株安、円高、原油高の現在の状況において、政府は何一つ有効
な手が打てていないのです。それどころか、財務省はこの経済状
況において、本来行うべきは減税政策なのに、逆に増税すら画策
しているのです。いや、事実上の増税路線を敷いているのです。
それは恒久減税と称した定率減税を廃止し、暫定税率を維持させ
ようとしているからです。これは、増税以外の何ものでもないと
いえます。           ―― [石油危機を読む/01]


≪画像および関連情報≫
 ●日銀総裁「迷走」は官僚の利権への執念が原因
  ―――――――――――――――――――――――――――
  福田政権の動きがおかしい。おかしいとは、滑稽という意味
  ではなく、「変」ということだ。3月18日、日銀総裁人事
  で、参議院で蹴られた武藤氏を再度提出したかと思えば、今
  度はすぐに、やはりたすきがけ人事のセオリーで元大蔵政務
  次官の田波耕治氏(68)を総裁候補にするとの意向を示し
  た。またもう一人の副総裁には日銀審議委員の西村清彦氏と
  のことだ。これについて、民主党は、西村氏については同意
  したが、田波氏の総裁就任は「不同意」とした。またもや福
  田政権の意向は、肩すかしを食らった格好だ。
http://www.news.janjan.jp/government/0803/0803183068/1.php
  ―――――――――――――――――――――――――――

鳩山民主党幹事長.jpg
鳩山民主党幹事長
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2010年09月24日

●円高が加速する要因を探る(EJ第2291号)

 円が1ドル=100円を割ったのは、2008年3月13日の
ことです。円が100円割れを起こしたのは、1995年10月
以来、12年5ヶ月ぶりのことなのです。
 しかし、今回の円高は12年前の円高と比べるとかなり違って
います。これに関して、財務省幹部は「円高ではない」といい、
日本経団連の御手洗富士夫会長は、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 円高というよりドル安。日本の産業も過去10年の不況で鍛え
 られ、筋肉体質になり、抵抗力が強くなっている。
             ――日本経団連の御手洗富士夫会長
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、今回の円高は2週間で8円も上がるなど、急速な円高
となっています。どうして、円高は加速したのでしょうか。これ
を理解するには、背景的な事実を知る必要があります。
 「円キャリートレード」というものがあります。これが、20
05年から2007年前半まで主として海外の投資家を中心に盛
んに行われ、円安を加速してきたといわれています。
 「円キャリートレード」とは、低利の円を調達して高金利通貨
で運用して金利差を稼ぐ運用方法のことです。いま多くの個人投
資家が行っている外国為替証拠金取引(FX)も円キャリートレ
ードの一種といえます。
 なぜ、これが流行したかというと、2002年〜2005年に
かけて各国中央銀行による超金利緩和政策によってお金が豊富に
出回り、市場が大きく上下動しなくなったからです。市場のこう
いう状態を「ボラティリティが低い」というのです。
 こういう時期は、トレーダーや投資家は、為替や債券、株式を
売って値ざやを稼ぐことが難しいので、持っているだけで利益が
出せるキャリー取引を活発化させようとするのです。その結果、
本来は経常収支の黒字によって円高が進行するはずの日本で、円
売りが多いために、逆に円安が進行していたのです。
 ところが、2007年の夏以降のサブプライムローン問題を契
機にして、市場が「ボラティリティが高い」という状態になって
しまったのです。この状態になると、円キャリートレードを新た
に行うメリットは消滅します。
 この円安を後押ししていた円キャリートレードの魅力がなくな
ることによって、円高になりやすい状態になったのですが、金利
が低く、先行きの経済成長も望めない日本の通貨をどういう人が
果たして買うのでしょうか。
 今回の円高加速要因について、JPモルガン・チェース銀行の
佐々木融氏は、こういう状況において市場が円を買う理由として
次の3つを上げています。
―――――――――――――――――――――――――――――
   1.日本は多額の貿易黒字を抱えていること
   2.日本は世界最大対外純資産国であること
   3.円キャリトレードの巻き戻しがあること
―――――――――――――――――――――――――――――
 第1の要因から考えることにします。
 日本は多額の貿易黒字を抱えている国です。貿易黒字は輸出か
ら輸入を引いた数がプラスになることをいうのです。日本で作っ
たものを日本人が買わないと貿易黒字は増えます。
―――――――――――――――――――――――――――――
     貿易黒字額 = 輸出額 − 輸入額
―――――――――――――――――――――――――――――
 それでは、なぜこれまで日本は円安だったのかというと、日本
の投資家と企業による対外投資額が貿易黒字額よりも多かったか
らであるといえます。
 具体的にいうと、2005年と2006年の対外投資額は、年
間14兆〜15兆円であるのに対し、貿易黒字額は年間10兆円
前後だったのです。そうすると、対外投資には円売りを伴うので
差額の4〜5兆円分が円安になります。
 しかし、2007年の対外投資額は12兆円程度に減る一方、
貿易黒字の方は12兆円程度と増えて、円売りと円買いの額が拮
抗したのです。日本は貿易黒字から生ずる円買いが常に存在する
ので、対外投資が貿易黒字以下になると円高になるのです。
 続いて第2の要因について考えます。
 日本は世界最大の対外純資産国であり、その額は、2006年
末現在で、215兆円もあるのです。その多くは対外証券投資で
すが、それらを国内に持ってくるとき円買いを行うので、結局は
円高になります。
 これだけドル・円相場が下がっているので、為替リスクを嫌う
日本の投資家が、外貨建て証券を手仕舞いして、円を買い戻すこ
とも十分起こりうるのです。このように、円を買う理由はいくら
でも出てくることになります。
 最後に第3の要因について考えます。
 実は円キャリトレードはさまざまな形で広範に行われているの
です。例えば、専門的になりますが、海外における円建て住宅ロ
ーン、輸出企業におけるヘッジの遅れ、輸入企業による長期の為
替予約、外国人投資家の保有する日本株の為替ヘッジなどです。
 これらのキャリートレードが積み上がっている状態は、いずれ
急激な円高を引き起こす要因となるのです。いずれにせよ、これ
らは今後、円買い戻しの中心になり、円高を加速するのです。
 ここまで輸出立国をはかってきた日本では「円安は景気にプラ
ス」というのが常識でしたが、この常識に対して異論が出ている
のです。それは、「円高が進むと、GDPを0.4 %〜0.5 %
押し上げる効果がある」という説がそうです。
 実際に2005年頃から、輸出物価が上昇基調なのに、輸出数
量が増えているのです。これは高機能の薄型テレビや工作機械と
いった海外メーカーが真似ができない輸出品の割合が増えている
ためなのです。また、円高になると、高騰している原油の輸入価
格が下がるメリットもあります。 ――[石油危機を読む/02]


≪画像および関連情報≫
 ●円キャリートレードの巻き戻しについて
  ―――――――――――――――――――――――――――
  [東京 2007年6月8日 ロイター] 渡辺博史財務官
  は8日、都内での講演で、円キャリートレードについて、巻
  き戻しがあっても大きなものにはならないとの認識を示した
  うえで、現時点で大きなリスクはないと述べた。渡辺財務官
  は、世界経済について安定しているとの認識を示すとともに
  日本経済に関しても「企業部門の利益が上がっており、個人
  消費も高まっている。ますます労働市場は引き締まると考え
  ている」とし、良好な状態にあるとした。
  http://jp.reuters.com/article/businessNews/idJPJAPAN-26345120070608
  ―――――――――――――――――――――――――――

佐々木融氏.jpg
佐々木 融氏



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2010年09月27日

●漂流を続ける日本経済(EJ第2292号)

 止まらない円高――前回のレポートでも述べたように、この円
高トレンドは簡単には収まらないと考えられます。それでは、今
後日本経済はどうなっていくのでしょうか。
 多くの経済の専門家が今後の日本経済の展望について述べてい
ますが、「週刊エコノミスト」3月25日特大号に掲載された安
達誠司氏――ドイツ証券シニアエコノミストの次の論文は大変参
考になります。
―――――――――――――――――――――――――――――
   小さくなる自立余地
   『頼りは「米国回復」だけ日本経済の漂流は続く』
    ――ドイツ証券シニアエコノミスト/安達誠司氏
―――――――――――――――――――――――――――――
 以下、安達氏の論文をベースにして、今後の日本経済の展望に
ついて述べていくことにします。
 今や米国の景気は、リセッション(景気後退)入り直前のとこ
ろにきています。この米国の景気後退は世界経済にどのような影
響を与えるのかについては、次の2つの考え方があります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.米国のリセッションは世界経済に相応のマイナスショッ
   クを与える ・・・ リカップリング(再連動)論
 2.米国のリセッションがあっても、新興国などが世界経済
   を牽引する ・・・ デカップリング(非連動)論
―――――――――――――――――――――――――――――
 2008年に入ってから世界的な株価調整が行われており、現
時点では、上記リカップリング(再連動)論が優勢となっている
と安達氏は指摘しています。
 日本では、3月13日の日経平均株価終値は、1万2433円
44銭となっており、約2年7ヶ月ぶりの安値水準に落ち込んで
います。2007年2月26日から今年の3月11日までの株価
騰落率を主要株価指数で示すと次のようになります。
―――――――――――――――――――――――――――――
   米国ダウ平均 ・・・・・・・・・・  3.8%減
   英国FTSEIOO ・・・・・・・ 11.6%減
   日経平均 ・・・・・・・・・・・・ 30.5%減
―――――――――――――――――――――――――――――
 サブプライムローンではほとんど傷を負っていない日本の株式
の下落幅は突出しています。もともと日本の経済の体質が外需依
存経済であることと、株式市場においても外国人投資家への依存
度が高いので、こういう結果になったものと思われます。
 今後起こりうることとして輸出の減速が考えられますが、安達
氏によると、これはリカップリング(再連動)論による影響では
ないというのです。
 つまり、米国経済の後退による欧州や新興経済圏への外的ショ
ックが日本の輸出の減速をもたらすのではなく、それらの国々の
行き過ぎた不動産ブームがもたらしたインフレ懸念と、それを封
ずるための金融引き締めによって景気が減速し、それによって起
こるといっているのです。すなわち、リカップリングではなく、
デカップリングによるものであると安達氏はいうのです。
 欧州及び新興経済圏では、2003年以降の約4年間、金融緩
和政策を取っており、それがグローバルな不動産ブームを巻き起
こしたのです。この不動産ブームは、日本が比較的優位を有する
建設機材や発電機などの資本財や自動車の輸出を拡大させたので
すが、その不動産ブームが行き過ぎたことにより、インフレが懸
念されるまでなったのです。
 このようにして、この不動産ブームは欧州では既に終焉を迎え
ていますが、新興経済圏では今も金融引き締めが強化されている
のです。その結果、当然のことながら景気は減速することになる
のです。これにより、日本の輸出は減速することになります。こ
れについて、安達誠司氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 この(不動産ブーム)の終焉とそれに伴う当該地域の内需減退
 は、これらの日本の輸出、いや、日本経済全体を牽引してきた
 比較的優位産業の業績悪化につながりかねない。輸出産業の企
 業業績予想では、米国経済の減速は大方織り込まれているもの
 の、現時点では、欧州や新興経済圏の減速は織り込まれていな
 いと思われる。 ――「週刊エコノミスト」3月25日特大号
―――――――――――――――――――――――――――――
 さて、サブプライムローン問題に端を発した米国における金融
混乱はFRB(連邦準備制度理事会)のバーナンキ議長によって
積極的な金融緩和策が実施されています。
 米プリンストン大学のクルーグマン教授は、金融緩和に加えて
ゼロ金利の必要性を説いています。これに関してFRBは、20
02年に次の論文を発表しており、1990年代に日本が実施し
た金融政策をFRBが取る可能性があります。これは、当時日銀
(速水総裁)の取った量的緩和とゼロ金利政策が、適切な政策で
あったということを示しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
   『デフレを回避するために――90年代日本の教訓』
                      ――FRB
―――――――――――――――――――――――――――――
 もし、米国がゼロ金利と量的緩和を取った場合、それは日本経
済にとってかなりの円高インパクトをもたらすことになる可能性
があります。
 そうすると日本経済は、新興経済圏の景気減速と長期化する円
高のダブルショックを浴びることは確実であり、外需依存を強め
た日本経済の成長率をかなり押し下げる可能性があると安達氏は
予測しています。
 こういう状況において、日本はどのように舵取りをしたら良い
のでしょうか。この問題については、明日のEJで考えることに
します。            ――[石油危機を読む/03]


≪画像および関連情報≫
 ●デカップリングとリカップリング
  ―――――――――――――――――――――――――――
  デカップリングとは、元々、何かと何かを離す、あるいは分
  離することを意味する。昨年、米国でサブプライム問題が表
  面化した後、経済専門家による、この言葉の使用頻度が眼に
  見えて上昇した。彼らが言うデカップリングの意味は、サブ
  プライム問題によって減速傾向が顕在化しつつある米国経済
  と、その他の諸国、特に高い成長率を続ける新興国の経済が
  離れる=違った方向に進む、つまり、米国の経済が減速する
  一方、新興国の景気は堅調な展開を続けるという見方だ。新
  興国の経済が堅調であれば、世界経済も、それほど米国の影
  響を受けないで済むというのがデカップリング論の概要だ。
  デカップリングの反対が、リカップリング=動きが一緒にな
  る、つまり、米国経済の減速で、世界経済全体の景気が悪化
  するとの考え方だ。
       ――http://diamond.jp/series/keywords/10020/
  ―――――――――――――――――――――――――――

安達誠司氏.jpg
安達 誠司氏
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2010年09月28日

●なぜ、日本株が下がっているのか(EJ第2293号)

 行き過ぎた不動産投資のバブルの崩壊による海外の景気減速と
米国の金融混乱がもたらす円高――これらは日本経済に深刻な影
響を与える要因になります。
 外需がダメなら内需に頼るしかないが、景気の減速による雇用
調整圧力が高まるため、個人消費の基礎となる所得環境は厳しい
ままの状態です。生活に関連する物価が上がっているのに対し、
収入は増えていないのですから、消費が大きく伸びる可能性は薄
いと考えられます。しかし、もし、消費が落ち込んでしまうと、
景気の下支えは弱くなります。
 これについて安達氏は、そうかといって消費は大きく落ち込む
ことはなく、安定的に推移すると見ています。GDP統計ベース
の家計消費と所得の関係を分析すると、消費は必ずしも所得の動
きに制約を受けていないことがわかっているからであるとしてい
ます。これを「消費平準仮説」というのです。
 この点において安達氏は楽観論に立っていますが、日本の個人
消費については悲観論も多いのです。
 BNPパリバ証券東京支店経済調査本部長の河野龍太郎氏は個
人消費については次のようにいっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 中堅・中小企業を中心とした賃金回復が遅れ、原材料高による
 値上げが、家計の実質購買力を低下させ、消費を抑制する。コ
 スト増の悪影響がついに家計に波及しつつある。
  ――河野龍太郎氏/「週刊ダイヤモンド」3/1/2008
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、安達氏のいう「消費平準仮説」に立っても、1996
年〜97年の金融危機のようなことが起きると、消費は確実に大
きく落ち込むことになります。なぜなら、消費は将来の所得見通
しに基づいて決定されるからです。したがって、大手金融機関が
経営破綻するような状況になると、消費者は将来に不安を感じ、
消費を抑えることになるのです。
 幸いにもサブプライム問題が日本の金融機関の経営を揺るがし
金融不安を再燃させることは今のところ考えられないので、最悪
の事態は避けられる見通しです。
 問題は、現在の日本の景気減速の大きな原因となっている住宅
投資の落ち込みです。2005年に発覚した構造計算書偽装問題
を受けて、2006年に成立した改正建築基準法が2007年6
月から実施されたのですが、これによって、法改正以降の建築確
認申請は滞ったままの異常な状態が続いたのです。
 これは、現場知らずの国交省による法改正のミスなのですが、
そのために住宅着工は大幅に遅れ、日本の景気の足を引っ張った
のです。国交省といえば、目下道路特定財源の問題で火の車です
が、こんなひどいミスも冒しているのです。
 といっても、2008年1月の住宅投資は、年率換算で120
万戸まで回復しており、マイナス効果は一巡したと見られるので
す。しかし、これは景気の下支えにはなるものの、景気を上へ引
き上げる力はないと安達氏はいっているのです。
 つまり、日本経済は海外の景気減速や円高によって、沈むこと
はないものの、そうかといって、自力で上に上がることはできな
い状態なのです。これが「日本経済は浮遊する」理由のひとつで
ある――このように安達氏はいっています。
 それでは、日本経済を「浮遊」ではなく、「上昇」させるには
どうすればいいのでしょうか。
 重要なことは、欧州を中心とする不動産バブルは明らかに崩壊
しつつあるが、日本はそのブームの完全に蚊帳の外にいるという
事実です。一般的にいって、バブルの崩壊局面において、バブル
の拡大場面で対象外であった金融資産の評価は相対的に改善する
ものです。日本株こそまさにその金融資産であるといえます。ま
して、日本はサブプライムローン問題でも蚊帳の外なのです。
 しかし、ここで大きく値を上げていいはずの日本株が前にも増
して相対的下落――アンダーパフォームしているのです。アンダ
ーパフォームとは、その株の株価上昇率が日経平均などの株価指
数を下回ることをいうのです。反対語としてアウトパフォームと
いう言葉がありますが、これはその株の株価上昇率が日経平均な
どの株価指数を上回ることをいいます。
 ここで添付ファイルを見ていただきたいのです。これは、20
03年1月以降の日米相対株価の推移をあらわしています。日本
株は2005年8月の郵政解散以降、米国株にアウトパフォーム
して上昇してきたのですが、それを止めてしまったのは2006
年3月9日の日銀による量的緩和解除であり、アンダーパフォー
ムを決定づけたのは、2007年2月21日の日銀の第2次利上
げと7月29日の参院選での自民党の大敗、さらに9月13日の
安倍晋三内閣の突然の退陣だったのです。グラフはそれをはっき
りとあらわしています。
 日本の悪いくせは、少し景況感が回復すると、すぐ金融を引き
締め、改革路線を後退させてしまうことです。とくに2007年
5月1日の三角合併解禁以降の「外資締め出し・金融鎖国」路線
は大きな問題です。三角合併解禁とは、消滅会社の株主に存続会
社の親会社の株式を交付して企業合併ができるようになったこと
をいいます。
 問題だというのは、この法律によって、比較的簡単に企業を買
収できるようになるということで、主要企業による相つぐ買収防
衛策の発表や外資に対する空港設備規制の動きが顕在化している
ことです。なかでもまずかったのは、空港設備規制の動きが、福
田首相がダボス会議において、今後も改革路線を推進すると発言
して日本に帰国した直後に顕在化したことです。
 これでは、そうでなくても外国人投資家への依存度が大きい株
式市場から外国人投資家が逃げ出すのは当然のことです。外国人
投資家から見ると、日本が何を考えているかわからなくなってし
まっているのです。日銀総裁の空席もその一環として大きなマイ
ナスになっているのです。    ――[石油危機を読む/04]


≪画像および関連情報≫
 ●アンダーパフォームとアウトパフォーム
  ―――――――――――――――――――――――――――
  一定の期間にその株がどれだけの収益を投資家にもたらした
  か(もたらしそうか)を測る場合には、「その期間に何%上
  昇したか(上昇しそうか)」という絶対評価と、「平均的な
  収益を何%上回ったか(上回りそうか)」という相対的な評
  価がある。アンダーパフォームは相対的な評価に使う。アナ
  リストが投資判断する時に使う。比較対照となるのは、日経
  平均やTOPIXなどの株価指数で、それらをベンチマーク
  と呼ぶ。反対語はアウトパフォームである。
    http://allabout.co.jp/glossary/g_money/w001663.htm
  ―――――――――――――――――――――――――――

日米相対株価の推移.jpg
日米相対株価の推移
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2010年09月29日

●福田政権バスの行き先はどこか(EJ第2294号)

 「石油危機を読む」というタイトルを掲げているのに、なぜか
円高や株安のことを書いていて、石油の話がなかなか出てこない
――このように考えている方も多いと思います。
 株安、円高、原油高を「三重苦」と書いている新聞や雑誌もあ
りますが、円高は原油高のマイナスを少し和らげてくれる効果が
あるので、本当は歓迎なのです。なぜなら、石油はドル建てであ
るからです。
 しかし、今回の円高――実は米国に対してだけなのです。ユー
ロを含む15種類の外貨に対しては円安なのです。それもプラザ
合意以後の1985年10月と同程度であるという歴史的円安な
のです。ちなみにユーロに対しては現在は150円台後半程度で
あり、2000年に「1ユーロ=90円」を突破するまで上昇し
た円相場がまるでウソのようです。
 この2000年以降の円安傾向は、急成長するアジアの新興国
や、原油高で潤う資源国通貨が円に対して強くなったことに加え
て、日本で景気が低迷して物価下落が続いたからなのです。
 これを見ると、もはや円ドル相場だけを見ていたのでは、市場
全体が読めなくなってきており、輸出立国をはかってきた日本も
そろそろ円安政策を見直すときであるといえます。これはまさに
経済失政そのものであり、日本の経済の現在の実力を如実に示し
ているといえます。そういう日本経済が置かれている状況を展望
した上で、原油問題を考えてみようとしているのです。
 愛読している「日経BPネット」の「田中秀征の一言啓上」の
第71回に実に面白いレポートが出ています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 小泉純一郎政権をバスに例えれば、行き先はもちろん「郵政の
 民営化」。バスの前に「郵政民営化行き」と大きく標示してあ
 る。それどころかバスの腹にも後ろにもそう書いてある。その
 上、街宣車のように、運転手の小泉さんが大声で叫びながら走
 る。小泉バスは郵政の民営化が終着点。運転手は降りてしまう
 し、バスもほかには行かない。乗客である国民は、特に郵政民
 営化に行きたかったわけではない。しかし、運転手があまりに
 確信をもって走るものだから、次第に乗客もそれに同調した。
  ――「日経BPネット」/「田中秀征の一言啓上」第71回
―――――――――――――――――――――――――――――
 田中秀征氏は自民党の政治家だったのですが、1993年6月
に自民党を離党し、新党さきがけを結成、代表代行を務めた人で
す。私の印象では、政治家というより学者タイプの人です。現在
は、福山大学教授として教鞭をとっています。
 ここで田中氏が強調しているのは、小泉元首相は「行き先」を
明らかにして走ったということです。政治において、これほど重
要なことはないのですが、それをやった総理大臣は非常に少ない
といえます。
 続く安倍バスはどうだったでしょうか。田中氏は次のように書
いています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 安倍晋三政権は、バスの行き先が多すぎた。どこから先に行く
 のかもはっきりしなかった。それに運転手の技能にも乗客は危
 うさを感じた。「小泉さんが熱心に乗車を薦めたから乗った」
 という乗客も多かった。その人たちも、次第に途中で降りてし
 まった。        ――田中秀征氏の上掲レポートより
―――――――――――――――――――――――――――――
 確かに安倍政権はあれもこれもだったのです。目指すべき行き
先が多いのに優先順位がはっきりしなかったのです。それに運転
――政権運営も稚拙であったといえます。
 それでは、現在の福田バスはどうでしょうか。田中氏は次のよ
うに書いています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 福田康夫首相が運転する現政権の行き先はどこだろうか。それ
 が必ずしもはっきりしていない。運転手は実直な人柄。運転も
 慎重で安全。しかし、行き先が分からなければ、不安は消えな
 い。「何を目指しているのか」、それがもっと明確であれば期
 待や支持が大きく広がるはずだ。
             ――田中秀征氏の上掲レポートより
―――――――――――――――――――――――――――――
 正直いって、福田政権の行き先は安倍政権のそれよりももっと
わからないのです。田中氏はさきの日銀総裁人事における首相の
リーダーシップはとても褒められたものではなく、新しい政権像
や首相像を打ち出す絶好の機会をこれによって逸してしまったの
ではないかと述べています。全くその通りであると思います。
 このところ目に見えて、日本の国力が落ちていることを感じま
す。それは政治のリーダーシップ――すなわち、首相のリーダー
シップが弱くなっているからであると思います。
 田中秀征氏は、福田首相が描いている政権像や首相像は、おそ
らく父・福田赳夫首相のそれではないかといっています。もし、
そうであれば、内外の環境が一変している今の日本の政治状況に
は、対応できないと指摘しています。首相は経済の現況に対して
あまりにも無関心であるように見えます。
 今回の円高は、対処のしかたが今までとは違うと思うのです。
なぜなら、今回は、その背景にドルの信認が揺らいでいるという
構造的な問題があるからです。
 ここ数年の世界経済は、経常赤字を膨大させながら消費を続け
る米国に世界中がモノを売るという危ない均衡の上になんとか成
り立っていたのですが、それがサブプライム問題を契機に限界が
来てしまったのです。
 したがって、同じ円高、株安、原油高でも従来とは異なる手を
打っていかないと、経済の展望が開けないのです。このあたりの
ことをよくチェックしながら、そのなかで、原油の問題を考えて
いきたい――そう考えています。ドルに対する円高はかなり長く
続きそうです。   ――[石油危機を読む/05]


≪画像および関連情報≫
 ●2008年3月21日/円対ユーロ
  ―――――――――――――――――――――――――――
  円は対ユーロでは3営業日ぶりに大幅に反発して始まり、そ
  の後はやや上げ幅を縮小している。12時時点では1ユーロ
  =153円35―39銭銭前後と19日の17時時点と比べ
  2円28銭の円高・ユーロ安水準で推移している。金や原油
  が大幅に続落し、商品先物相場と反対の動きを示しやすいド
  ルが対ユーロで大幅高となったことにつれて、円も対ユーロ
  で上昇した前日の海外市場の流れを引き継いだ。その後は利
  益確定目的の円売り・ユーロ買いも出て、円はやや伸び悩ん
  でいる。              ――日経ネットより
  ―――――――――――――――――――――――――――
●「田中秀征の一言啓上」/第71回

http://www.nikkeibp.co.jp/style/biz/column/shusei/080321_71st/

田中秀征氏.jpg
田中 秀征氏

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2010年09月30日

●既に円高に強くなっている日本企業(EJ第2295号)

 円高の影響についての考察をもう少し続けましょう。円高が伝
えられると、すぐ企業業績――とくに輸出企業の業績が悪化する
ということで、株が売られて株安になる――これが今までの常識
だったのです。
 実際に3月17日、東京外国為替市場ではドルが売られ、一時
「1ドル=95円台」になったのです。この円急騰を受けて、株
が売られ、その日の終値では前週末比で454円安の「1万17
87円」と、1万2000円台を割り込んでいます。
 この株の暴落はアジアに波及し、インド・ムンパイ、フランク
フルト、ロンドンというようにヨーロッパにも波及して、そして
ニューヨーク市場のダウ平均を一時3%押し下げて、やっと底を
打ったのです。
 日本には過度の円高恐怖症があります。1995年に円が「1
ドル=79円75銭」になったときのトラウマが再現してしまう
のです。それは次の図式です。
―――――――――――――――――――――――――――――
   円高→輸出企業が競争力失墜→株価暴落→円高不況
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、今回の円高は、1995年のときとは明らかに違って
いるのです。日本の経営者は1995年の円高のときの苦い経験
を生かしているのです。日本企業は、過去2回にわたる石油危機
でも同様の対応策をとって危機を乗り越えているのです。
 『日経ビジネス』/2008年3月24日号では、円高でも為
替差益を出したスズキの例を紹介しています。
 次の数字は、スズキが2007年10〜12月期に得た為替差
益です。
―――――――――――――――――――――――――――――
     ドル ・・・・・・・・・・・・ −16億円
     ユーロ ・・・・・・・・・・・ +24億円
     ルピー ・・・・・・・・・・・ +20億円
     オーストラリアドル ・・・・・ +12億円
     ポンド ・・・・・・・・・・・  +1億円
     ―――――――――――――――――――――
     合計              +47億円
    『日経ビジネス』/2008年3月24日号より
―――――――――――――――――――――――――――――
 2007年10〜12月期といえば、円高が本格化しはじめた
時期です。トヨタはこの時期に200億円規模の為替差損を出し
ているのです。
 これに対してスズキは、競争の激しい北米市場に重点を置かず
に他社が進出していないインド、ハンガリーなどに進出していま
す。そして現在、スズキはとくにインドには力を入れているので
す。先週のEJでも述べたように、円はドルに対しては円高です
が、ユーロをはじめとする他の通貨に対しては円安なのです。こ
の点をしっかりと押さえておく必要があります。
 皮肉な話ですが、ニューヨーク在住のエコノミストは、ドルが
円に対しても下げたことに衝撃を受けたといわれます。日本経済
も落ちたものといわれても仕方がないでしょう。
―――――――――――――――――――――――――――――
 (ドルがユーロに対して下げたことは)自力のあるユーロなら
 説明ができた。しかし、弱いはずの円に対してまでドルが大き
 く下げたということは、明らかにフェーズが変わったことを意
 味している。     ――ニューヨーク在住のエコノミスト
       『日経ビジネス』/2008年3月24日号より
―――――――――――――――――――――――――――――
 円高に対する備えを早くから考えて実施している企業も多いの
です。そのひとつに松下電器産業があります。松下では、中村邦
夫会長による指示もあり、為替に左右されない事業構造作りに取
り組んでいるのです。
 その取り組みのひとつが「為替マリー」といわれるものです。
これは輸出で得た債権と、輸入で発生した債務を円に転換しない
で、そのまま同一通貨内で相殺することをいうのです。そうすれ
ば、為替リスクをヘッジできるのです。
 この制度によって、松下電器産業は、徐々に輸出額に占める為
替マリー率を上昇させてきているのです。その結果、2000年
には17%に過ぎなかった為替マリー率を2007年には70%
近くに上昇させています。金額にすると、輸出額2兆5OOO億
円中1兆6000億円を為替マリーに適用してきているのです。
そして、松下電器としては、近い将来は為替マリー率を100%
にしたいといっているのです。そうすれば、為替変動に業績は左
右されなくなるからです。
 このような為替リスクを最小限に抑える対策は、究極は「現地
生産現地販売」という事業構造に行きつくのです。しかし、日本
でしか作れない競争力のある製品は円建てでも売れるのです。半
導体の製造装置メーカーなどにそういう企業は多いのです。しか
し、そういう企業でも今回のような急激な円高になると、ライバ
ル企業との競合が厳しくなるといいます。
 いずれにせよ、それぞれの企業努力により、かつての円高恐怖
症は乗り越えられつつあります。『日経ビジネス』では、その理
由を次の3つにまとめています。
―――――――――――――――――――――――――――――
   1.輸出企業は収益源を米国以外に移している
   2.大企業は「為替リスクゼロ」経営に転換中
   3.長期円高は輸入企業にとって追い風になる
―――――――――――――――――――――――――――――
 急速なドル安を受けてポールソン米財務長官は「強いドルは国
益」とかつての主張を変えていないが、日本全体では、ドル建て
の取引は、輸入額の70%、輸出額の50%に及んでいます。こ
の構造から見ると、明らかに円高の方が国内経済に良い影響があ
ることになります。       ―― [石油危機を読む/06]


≪画像および関連情報≫
 ●為替マリーとは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  為替マリーとは、例えば、輸出で回収したドルを円に転換せ
  ずにドルのまま保有し、輸入の決済にドルが必要になったと
  きにそのドルをそのまま決済に充当するという方法である。
  つまり、外貨建ての債権と債務を個別に円決済せずに、双方
  を相殺させる形でヘッジするものである。
  ―――――――――――――――――――――――――――

中村邦夫会長.jpg
中村 邦夫会長
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2010年10月01日

●原油価格は何によって動くか(EJ第2296号)

 2008年に入ってWTI原油先物価格は「1バレル=100
ドル」以上に張り付いて、なかなか下がらない状況にが続いてい
ます。1年前はどうだったかというと「1バレル=50ドル」、
6年前は「1バレル=20ドル」程度だったのです。どうしてこ
んなに上がってしまったのでしょうか。
 少し歴史を振り返ってみたいと思います。とくに原油価格が乱
高下した2005年8月までの原油相場の状況を振り返ってみま
しょう。2005年の年初は、2004年後半の相場の下落局面
が続いていたのです。
 2004年9月にハリケーン「アイバン」が米国メキシコ湾岸
地区に上陸し、そこにある製油所や油田の設備を破壊してしまっ
たのです。米国メキシコ湾岸地区といえば、南部メキシコ湾に面
する州――とくにテキサス州、ルイジアナ州、ミシシッピー州に
は油田や製油所が結集していたのです。
 ハリケーンがそれらの設備を破壊していったので、原油が足り
なくなるのではないかという懸念が広がって、原油の価格が上昇
したのです。
 しかし、ハリケーンの被災から復旧が進むにつれて、原油価格
は落ち着きを取り戻します。2OO5年1月は「1バレル=42
ドル台」で推移したのです。
 ところが、米国に寒波が襲来したのです。冬場に気温が下がる
と暖房油の需要が高まるので、原油価格の押し上げ要因になりま
す。それにイラクでのテロが激化して、これも原油価格を押し上
げる要因になったのです。
 イラクはサウジアラビアに次いで世界第2位の原油埋蔵量のあ
る国であり、往時に比べると生産力は落ちてはいるものの、日産
200万バレル前後の原油生産を続けていたのです。テロはイラ
クの石油施設を対象としたものであったので、原油生産に影響が
出ることを懸念して原油相場は上昇したのです。こういう状況を
受けて1月半ばには原油相場は上昇――「1バレル=48ドル」
程度まで上がったのです。
 それから、2月中旬にかけて、気温は上昇し、イラクでも選挙
が何とか行われたこともあって、原油相場は「1バレル=45ド
ル」程度まで下がったのです。
 しかし、原油相場は再び上昇するのです。それは米国と中国の
経済が好調なことが原因となって需要が増大し、世界経済拡大の
兆しが見えたことから原油需要が増加し、4月はじめには「1バ
レル=57ドル」に達したのです。
 そして、6月以降原油は50ドルを割ることはなくなったので
す。7月にはハリケーン「デニス」がメキシコ湾岸に接近して一
時的に原油は60ドルを突破したのですが、油田や製油施設には
大きな被害はなかったので、7月中旬には56ドル台まで下落し
たのです。
 ところが、7月の下旬になって、米国で第3位の規模の製油所
で火災が発生し、操業が停止したのです。それに加えて、8月1
日は、サウジアラビアのファハド国王が逝去したのです。新国王
にはアブドラ皇太子が就くことが発表されましたが、新国王の就
任によって、石油政策が変更されることもあるのでその懸念から
原油相場は一時的ですが、上昇したのです。
 8月下旬にはハリケーン「カトリーナ」が、メキシコ湾岸の石
油施設が集中している地域を直撃し、甚大な被害が発生したので
す。原油生産の停滞やガソリン・灯油の供給不足の懸念が広がっ
て、8月末には「1バレル=70.85ドル」という史上最高値
をつけたのです。
 これに対して先進国はすぐ反応し、国際協調による国家石油備
蓄の放出をはじめたのです。その総量6000万バレル――これ
によって原油価格の騰勢は一服することになります。
 2005年1月から8月までの原油相場を振り返ったのですが
さまざまな要因によって原油相場は敏感に反応することが把握で
きたと思います。そして、「1バレル=70ドル台」は当たり前
となっていくのです。
 ところで、石油の問題にはわからないことが多くあります。専
門用語もたくさん出てきます。これを明らかにしないと、先に進
めないので、専門用語を覚えていきましょう。
 このEJの冒頭に――WTI原油先物価格は「1バレル=10
0ドル」と書きましたが、「WTI」とはそもそも何を意味して
いるのでしょうか。
 WTIというのは、「ウェスト・テキサス・インターミディエ
イト」の略です。米国テキサス州のミッドランドを中心とした油
田地帯で産出される原油の総称がWTIなのです。
 当時WTIは潤沢な原油の生産量があったので、米国における
原油取引の指標的存在になったのです。しかし、今やWTIはピ
ークアウトしており、1日40万バレル程度の生産量しかないの
ですが、世界の原油価格の指標になっているのです。
 それは、WTIがニューヨーク・マーカンタイル取引所(NY
MEX)に先物が上場されているためです。NYMEXは、誰も
が参加できる市場で、大量に取引されており、その取引量は1日
当り2億5000万バレルに達しています。その価格は、透明性
が高く洗練されているので、世界の石油取引の指標とするに相応
しいのです。
 この米国のWTIの他に、欧州の「ブレント」と中東の「ドバ
イ」が有名な銘柄です。ブレントは北海油田で採れる銘柄で、欧
州の原油価格の指標となっており、ドバイは中東産の原油であり
アジアで取引される原油の指標的存在です。
 原油は世界各国で取引されています。ブレントやドバイがある
のになぜWTIで石油の価格が決まってしまうかというと、石油
産業の起源が米国であるという歴史的背景があることと、原油が
ドル建てになっていることによります。ロシアや中東の原油が増
えても米国は石油産業の支配的・中心的な存在であり、そうあろ
うとしているのです。      ――[石油危機を読む/07]


≪画像および関連情報≫
 ●先物取引とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  先物取引とは、いわゆるデリバティブ(金融派生商品)の一
  つで、価格や数値が変動する各種商品・指数について、未来
  の売買についてある価格での取引を約定するものを言う。本
  来は、価格変動の影響を避けるための手段――リスクヘッジ
  として利用されるが、価格変動を利用して利益を得るスペキ
  ュレーション(投機)取引というものがある。
                    ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

サウジアラビア/アブドラ国王.jpg
サウジアラビア/アブドラ国王
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2010年10月04日

●近代石油産業はこうして誕生(EJ第2297号)

 探鉱・採掘・精製を一連の流れとする近代石油産業が誕生した
のは、1859年の米国においてです。ペンシルベニア州のタイ
タスビルにおいて、元鉄道員のエドアィン・ドレークが石油の機
械堀りに成功したのです。ドレークが採掘に成功した油田は「ド
レーク油田」と名づけられ、タイタスビルは近代石油産業発祥の
地といわれるようになります。
 もう少し詳しい経緯をお話しする必要があります。ニューヨー
クの弁護士だったゼビルは、原油から灯油が作れることを知って
世界最初の石油会社、ペンシルベニアロック社を1854年に設
立しています。
 ゼビルは株主に対して、灯油を作るために岩塩掘削技術を使っ
て原油を地下から掘り出すことを提案したのですが、同意が得ら
れなかったのです。そこで、1959年に掘削専門会社セネカ・
オイル社を設立したのです。
 ゼビルは、石油を汲み取るのではなく、穴を穿って抽出しよう
としたのですが、それを実現してくれる人物としてドレークだっ
たのです。ドレークが石油の機械掘りに成功したことを知ってい
たからです。
 しかし、採掘は簡単ではなく、周りの人から奇人、変人と冷笑
を浴びながらも黙々と採掘を続け、1859年8月28日に深さ
21メートルで約30バレルの採掘に成功したのです。しかし、
この油田はタイタスビルに最初に目を付けて、油田開発を進めた
のはゼビルだったのに、米国の人々は「ドレーク油田」と呼ぶよ
うになったのです。おそらく何をいわれても動ぜず、掘削を続け
たドレークの努力を多としたものと思われます。
 このセネカ・オイル社の成功を聞きつけて、ペンシルベニア州
には全米から投資家や山師が集まってきて、油田の開発を始めた
のです。そして、石油の採掘は、テキサス、カルフォルニア、カ
ナダへと急速に広がっていったのです。このようにして、米国は
世界ではじめて石油産業が成立することになったのです。
 さて、ドレークが油田を発見した当時はどのようにして原油を
運搬したのでしょうか。
 それは、原油を酒の樽(barrel/バレル)に入れて、当時鉄道
が引かれていたピッツバークまで馬車で運んだのです。モルト・
ウィスキーの熟成には「樽」を使うのですが、樽には次の3つが
あります。
―――――――――――――――――――――――――――――
          1.バーボン樽
          2.シェリー樽
          3.ブレーンオーク
―――――――――――――――――――――――――――――
 原油が詰められた「シェリー樽」は、スパニッシュオーク材で
作られており、シェリー酒を熟成するために使われたのです。そ
のため原油は「バレル」という単位を今でも使っているのです。
 当時のシェリー樽の内容量は「159リットル」であったので
それが「1バレル」とされたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
      1 バレル =   159リットル
      1 バレル =    42米ガロン
      1米ガロン = 3.785リットル
      1英ガロン = 4.546リットル
―――――――――――――――――――――――――――――
 ところで、1バレル、すなわち「159リットル」とはどのく
らいの量になるのでしょうか。
 ドラム缶――キャンプ場などで簡易風呂として使われているあ
のドラム缶のことですが、原油1バレルをドラム缶に入れると、
大体3分の2くらい入るといったらわかるでしょうか。結構量と
しては多いのです。
 ところで、「原油」とは何でしょうか。ここまで説明しないで
使ってきていますので、はっきりさせましょう。
 「原油」「石油」「ガソリン」の違いを明らかにするために、
英語での表記を示しておきます。
―――――――――――――――――――――――――――――
       原油   ・・・・・ Crude Oil
       石油   ・・・・・ Oil
       ガソリン ・・・・・ Gasoline
―――――――――――――――――――――――――――――
 いわゆる一般的に「オイル」という場合は、それは石油という
ことになります。すなわち、石油とは、原油やガソリンを含めた
液体の炭化水素の総称なのです。常温・常圧で液体であり、火を
つければ燃える炭素と水素の化合物はすべて「石油」と呼ばれる
のです。
 これに対して「原油」とは、油田から生産される天然の液体炭
化水素のことをいうのです。そして、この「原油」を精製してで
きるものが「ガソリン」なのです。
 実は一口に原油といってもいろいろな種類があるのです。産地
や油質によって製品は異なるのです。原油の油質というのは、硫
黄や不純物が含まれている割合や有機物の構成比の違いによって
次の2つに分かれるのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
   1. サワー ・・・・・ 硫黄分の多い原油
   2.スイート ・・・・・ 硫黄分の少い原油
―――――――――――――――――――――――――――――
 また、比重の軽いものを「ライト」、重いものは「ヘビー」と
いいます。比重はAPI度という数字で表され、比重が軽いもの
ほど大きな数値になり、比重が重いものほど小さな数値になるの
です。比重の軽いものほど沸点が低く、重いものは沸点が高い成
分なのです。われわれの身近な存在であるガソリン、灯油、軽油
は、スイートでライトな部分に属するのです。一番ライトなのは
LPGなのです。        ―― [石油危機を読む/08]


≪画像および関連情報≫
 ●ドレーク油田と切手
  ―――――――――――――――――――――――――――
  切手で語る『石油の文化の光と影』も石油産業の誕生に触れ
  る必要があります。石油産業の二大発祥の地として、ペンシ
  ルバニア州タイタスビルのドレーク油田とカスピ海沿岸のバ
  クー油田が代表的な油田地帯として挙げられます。アメリカ
  における石油産業発祥の地を切手で紹介するにも石油切手と
  して発行されたのはドレーク油田開発125年切手しか発行
  されていませんので、特別記念印、メータースタンプ、日付
  抹消印の地名で紹介していきます。切手展特にテーマチィッ
  ク部門では、切手以外に様々な郵便材料を使います。
         http://www9.ocn.ne.jp/~petro/oilbirth.htm
  ―――――――――――――――――――――――――――

ドレーク油田/125年.jpg
ドレーク油田/125年
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2010年10月05日

●炭化水素について知る(EJ第2298号)

 原油というのは、油田から汲み上げられる自然界に存在する資
源です。ガソリンや灯油は、原油を原材料として、精製して作ら
れる石油製品なのです。
 「油田」という言葉から、地底湖のように地下深くに原油が液
体のまま貯まっているように想像するかも知れません。しかし、
実際の油田とは地下数千メートルの地層に埋もれているのです。
その地層は「貯留岩」という無数の細かい粒からできている砂岩
という岩石で形成されており、原油はその貯留岩の中に存在して
いるのです。
 それでは、その貯留岩から原油を採取するにはどのようにする
のでしょうか。
 「リグ」という油田掘削装置があります。リグはダイヤモンド
を先端に取り付けた装置で、貯留岩に貯まっている油層目がけて
掘り進むのです。油層にたどりつくと、シームレスパイプを突き
立てるのですが、そうすると、地層内の圧力で原油が地上に噴き
出してきます。原油の採取はこのようにして行なわれます。
 原油は、化学的には炭素と水素の化合物である炭化水素なので
す。原油の中には、硫黄、窒素、酸素、金属などの化合物も含ま
れているので、原油を炭化水素の種類ごとに分離し、不純物を取
り除くことで、ガソリンや灯油といった石油製品化することを石
油の精製といっています。
 炭化水素というと、高校の理科で習ったフレーズ――メタン、
エタン、プロパン、ブタンを思いだす人がいるかも知れません。
これらはいずれも炭素(O)と水素(H)が結び付いた炭化水素
という物質の仲間です。
 炭化水素には炭素の数が少ないものと多いものがあります。炭
素の数が増えるほど、1個の分子の質量は増加し、沸点が高くな
る傾向があります。沸点が高くなるということは、液体から気体
になる温度が高いことを意味します。
 ここで液体か気体かは重要な意味を持つのです。なぜなら、液
体であれば、運搬したり、貯蔵したりすることが便利であるから
です。天然ガスのような気体の場合、運搬をするのに高度な技術
が必要になります。これに沸点の高低がからんできます。つまり
沸点が低いものほど、気体になりやすいのです。
 沸点と炭素の数、分子の質量の関係を次のようにまとめておく
ことにします。
―――――――――――――――――――――――――――――
  沸点が低い ・・・ 炭素の数が少い/分子が軽い
  沸点が高い ・・・ 炭素の数が多い/分子が重い
―――――――――――――――――――――――――――――
 炭素が1個のメタンは分子が軽いので、地中に埋蔵されている
状態でも気体になっています。よく原油を採掘すると、天然ガス
が出てくることがあります。しかし、かつては、気体を運ぶ技術
がなかったので、無為に燃やすしかなかったのです。
 ところが、現在では技術が進んで、パイプラインで運んだり、
液化してLNG(液化天然ガス)のかたちでタンカーで運んだり
できるようになっているのです。メタンはマイナス160度で液
化され、体積は気体のときの600分の1になるので、大量輸送
が可能になるのです。
 日本はLNGを中東から輸入し、タンクの中を超低温に保つこ
とができるLNGタンカーで輸送しているのです。また、天然ガ
スに含まれるメタンは、都市ガスに利用されています。
 炭素が3〜4個になると、分子の質量が大きくなり、沸点が高
くなります。つまり、気体にはなりにくく、液体になるのです。
プロパンやブタンは、原油の中に溶けて存在するのですが、少し
圧力を加えると、液化します。天然ガスのように超低温にしなく
ても、比較的簡単に液化できるのです。
 液化できれば、ガスポンベに詰めて、輸送したり、保存したり
できるので、用途は大きく広がります。プロパンを中心とするL
PG(液化石油ガス)は、「プロパンガス」と呼ばれて、家庭用
のガスとして使用されています。
 炭素が5〜10個程度の炭化水素は、ガソリンとして使用され
ています。ガソリンはよく知られているように次の2種類があり
ます。
―――――――――――――――――――――――――――――
  1.レギュラー・ガソリン
  2.プレミアム・ガソリン ―――ハイオクガソリン
―――――――――――――――――――――――――――――
 いわゆるハイオクガソリン――オクタン価を上げるとは、発火
点温度を上げてノッキングを起こりにくくするガソリンのことを
いうのです。
 ところで、ガソリンに関連付けて覚えておいて欲しいことがあ
ります。それは「ナフサ」です。ナフサというのは、ガソリンと
同じ沸点の留分のことですが、原材料段階のものを「ナフサ」、
製品化したものを「ガソリン」と呼んでいるのです。つまり、ナ
フサとは、石油化学工業製品の原料となるものなのです。
 暖房用に使われている灯油は、炭素が9〜15個の炭化水素が
中心となっています。灯油は「ケロシン」と呼ばれ、ジェット機
の燃料(ジェット燃料)も、この灯油の留分から製造されている
のです。
 灯油の次に高い沸点の留分は「軽油」です。軽油は、ディーゼ
ル車や船舶やガスタービンの燃料になります。欧州では、ディー
ゼルエンジンの自動車が多く、自動車の燃料のかなりの部分を軽
油が占めているのです。
 とくに寒冷地用のディーゼル燃料は、温度が低くても気化しや
すい灯油を混合した製品となっています。気化しないと、着火・
燃焼が正常に行われなくるのです。
 さて、蒸留により、分留していった残りが「残油」と呼ばれる
のです。重油は、軽油留分、残油などを混合して、粘度や硫黄分
を調節して作られます。     ―― [石油危機を読む/09]


≪画像および関連情報≫
 ●「ナフサ」とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ナフサとは、原油を常圧商流装置によって蒸留分離して得ら
  れる製品のうち沸点範囲がおおむね35〜180℃程度のも
  のである。粗製ガソリン、直留ガソリンなどとも呼ばれる。
  ナフサのうち沸点範囲が35〜80℃程度のものを軽質ナフ
  サといい、日本では石油化学工業でのエチレンプラント原料
  として多く使用される。輸入原油を国内で精製して製造する
  ものと、ナフサとして輸入するものが相半ばする。
                    ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

「ナフサ原油価格推移」.jpg
ナフサ原油価格推移
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2010年10月06日

●原油は最後の一滴まで役に立つ(EJ第2299号)

 4月1日からガソリンの暫定税率分が下がって、石油が身近な
話題になっています。こういう機会を利用して、石油について詳
しく知っておくことは意義があると思います。
 原油を採取してそれを精製するとき使う装置を常圧蒸留装置―
トッパーというのです。巨大な反応塔ですが、そこに原油を注入
し、下から暖めて蒸留するのです。蒸留によって軽い成分から分
留していき、さまざまな石油製品が作られるのです。
 炭化水素の種類というと、メタン、エタン、プロパン、ブタン
ぐらいまでは知っている人は多いですが、その先を知っている人
は少ないと思うので、そのすべてを表示し、それがどういう石油
製品に結びついているのかについてまとめたものが次の表です。
―――――――――――――――――――――――――――――
     名称   凝固点℃   沸点℃      用 途
    メタン   −183  −162     天然ガス
    エタン   −172   −89     天然ガス
   プロパン   −190   −42   液化天然ガス
    ブタン   −135    −1   液化天然ガス
   ペンタン   −120    36       溶剤
   ヘキサン    −94    69     ガソリン
   ヘプタン    −90    98     ガソリン
   オクタン    −59   126     ガソリン
    ノナン    −54   151     ガソリン
    デカン    −30   174     ガソリン
  ウンデカン    −26   196       灯油
   ドデカン    −10   216       灯油
  トリデカン     −6   230       灯油
  トラデカン      5   251       灯油
 ペンタデカン     10   268       軽油
 ヘキサデカン     18   280       軽油
 ヘプタデカン     22   303       軽油
 オクタデカン     28   317       重油
  ナノデカン     32   330       重油
  エイコサン    343   343    潤滑油など
                      ――芥田知至著
     『知られていない原油価格高騰の謎』/技術評論社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 なお、沸点の低いものほど気体になりやすいのです。さて、蒸
留によってそれぞれ分留していった残りが「残油」といわれるも
のです。残油の中には普通の気圧ではなかなか気化しない、いろ
いろな成分が混ざっています。そこで、気圧を低くして気化しや
すい状況にして分留するのです。
 重油は、軽油留分と残油を混合して粘度や硫黄分を調整して作
られるのです。この場合、軽油を中心として残油分をほとんど含
まない重油を「A重油」、残油を中心としてそれに軽油を少し混
ぜたものを「C重油」というのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
  A重油 → 漁船や農業機械のディーゼルエンジン用燃料
  C重油 → 工場や発電所などの大規模ボイラー用の燃料
―――――――――――――――――――――――――――――
 潤滑油は残油から作られます。潤滑油の条件として重要なのは
寒い冬でも凝固せず、粘度が一定であることです。そこで、残油
から一定成分を抽出したあと、それに添加剤を加えて望ましい粘
度や耐久性を備えた潤滑油を作り出すのです。
 潤滑油、すなわちオイルは、自動車、工場の機械設備、家電製
品の部品が回転などの運動によって生ずる摩擦によって磨り減る
ことを防ぐものです。
 自動車などのガソリン・エンジン、ディーゼル・エンジン、飛
行機のジェット・エンジン、船舶用のエンジンなど――これらに
はいずれも潤滑油が必要なのです。ガソリンや軽油や重油を燃焼
することで推進力を得る自動車、飛行機、船舶、農業機械などは
それぞれ同じ石油の成分である潤滑油をいずれも必要としている
のです。このように考えると、石油がいかに大切な資源であるか
がわかと思います。
 残油から精製できるもののひとつに「ワセリン」があります。
日本薬局方にワセリンについて次の記述があります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ワセリンは、石油から得た炭化水素の混合物を脱色して精製し
 たものをいう。            ――ウィキペディア
―――――――――――――――――――――――――――――
 いうまでもなく、ワセリンは軟膏剤のような医薬品の基剤や化
粧クリームのような化粧品などの基剤として用いられます。また
潤滑剤や皮膚の保湿保護剤として利用されます。
 もうひとつ、残油から採れる重要な石油製品があります。アス
ファルトがそうです。アスファルトは原油の最も重質な成分であ
り、大きな分子量の炭化水素の混合分です。
 現在アスファルトは道路の舗装に使われますが、アスファルト
は、古代から塗料や防水剤などとして利用されていたという記録
が残っています。地上にあった原油から軽質分が自然に蒸発して
天然アスファルトができたのです。
 天然アスファルトは主に接着剤として使われ、旧約聖書の『創
世記』ではバベルの塔の建設にアスファルトが使われているので
す。アスファルトという単語が英語に現れたのは原油の利用が一
般的になり始めた18世紀に至ってからです。
 日本で初めてアスファルト舗装が施されたのは長崎県長崎市の
グラバー園内の歩道なのです。その後東京で舗装がはじまったの
です。使用されたのは秋田県昭和町(現在の潟上市)からはるば
る運ばれた天然アスファルトであったといいます。
 ここで述べたもののほかに、石油製品にはプラスチックや合成
繊維などがあるのです。それだけに石油が枯渇したらそれこそ大
変なことになります。      ―― [石油危機を読む/10]


≪画像および関連情報≫
 ●常圧蒸留装置を描いた切手
  ―――――――――――――――――――――――――――
  切手の意匠として描かれた石油精製装置は、デリックについ
  て多数発行されています。デリックが産油を象徴するなら、
  精製搭は、消費国の工業を象徴します。今回は、切手に描か
  れた常圧蒸留装置を選んでその一部を紹介します。なお、切
  手だけでなく蒸留塔を描いた記念消印については改めて紹介
  します。これが、実に多い。旧ソ連邦、ポーランドなど社会
  主義国は国威高揚から発行しているようです。製油所内でひ
  ときわ高くそびえて見えるのが製油所の心臓部ともいえる常
  圧蒸留装置です。
          http://www9.ocn.ne.jp/~petro/cdudis.htm
  ―――――――――――――――――――――――――――

切手になった常圧蒸留装置.jpg
切手になった常圧蒸留装置
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2010年10月07日

●映画『ジャイアンツ』と石油の関係(EJ第2300号)

 今回のテーマは本日から石油の価格はどのようにして決まるの
かという核心に入っていく予定ですが、あまり固い話ばかりが続
くと頭が痛くなるので、今回はその幕間というか間奏曲というか
――そういう話題から入っていきたいと思います。
 1956年の米国映画に『ジャイアンツ』という作品がありま
す。あのジェームス・ディーンが演じた名作です。ジェームス・
ディーンは自分の出演シーンを撮り終えた数日後に自動車事故で
死亡してしまうのです。
 ところで、ここでいう「ジャイアンツ」とは何のことかご存知
ですか。実は映画『ジャイアンツ』は石油掘削がドラマの背景に
あるのです。簡単にどのような映画か物語を紹介します。
―――――――――――――――――――――――――――――
 メリーランド州の牧場に馬の買い付けに来たテキサスの牧場主
 ヴィック・ベネディクトと牧場の娘レズリーは恋に落ち、結婚
 してテキサスにあるヴィックの農場に移る。レズリーは東部と
 西部の生活習慣の違いに最初は戸惑うものの、やがてベネディ
 クト家の女主人として一家を支えるようになる。レズリーに片
 思いするベネディクト家の使用人ジェットは、石油を掘り当て
 一夜にして億万長者となるが、空しい心は満たされず孤独な人
 生を送る。『陽のあたる場所』(51)や『シェーン』(53)の
 名匠ジョージ・スティーブンス監督が開拓者たちの30年にも
 及ぶ壮大なドラマをダイナミックに描いた大河ウェスタン。
   http://www.geocities.co.jp/hollywood/5710/giant.html
―――――――――――――――――――――――――――――
 この映画の監督はジョージ・スティーブンスですが、そのキャ
ストを決めるのが大変だったのです。まず、スティーブンス監督
は、主役のヴィック役にウイリアム・ホールディンを考えていた
のですが、途中で気が変わってロック・ハドソンに変更し、ホー
ルディンを落胆させたといいます。
 それからヒロインのレズリー役――監督としては絶対にグレー
ス・ケリーに決めていたのですが、彼女はモナコの大公と結婚し
て映画界から引退してしまったため、出演は不可能になったので
す。今度は監督ががっくりしてしまったという次第です。
 次の候補として、オードリー・ヘップバーンとマレーネ・ディ
ートリッヒが上がったのですが、監督がダメを出し、結局決まっ
たのはエリザベス・テーラーだったのです。ところが、撮影開始
前にテイラーの妊娠が発覚、テイラーの出演に固執したスティー
ブンスは彼女が子供を出産するまで撮影を延期するのです。
 ロック・ハドソンとエリザベス・テーラーに比べれば、ジャー
ムス・ディーンなんか小者です。彼は『ジャイアンツ』が映画化
されることを聞くと、『エデンの東』の撮影中だったにもかかわ
らず、頻繁にスティーブンスのオフィスを訪ねてジェット役をや
らせてくれと懇願してやっとOKをもらったのです。
 映画『ジャイアンツ』といえば、音楽を担当したディミトリー
・ティオムキンにもふれる必要があります。ティオムキンはロシ
アの作曲家ですが、もともとはピアニストです。1925年に米
国に渡り、映画音楽を書きはじめたのです。
 以降、西部劇では「真昼の決闘」、「赤い河」、「アラモ」、
「リオ・ブラボー」。戦争映画では「ナバロンの要塞」などなど
――すばらしい音楽でヒットを連発したのです。とくに「ジャイ
アンツ」は、「アラモ」、「ナバロンの要塞」と並ぶティオムキ
ンの代表作のひとつとなっています。
 さて、「ジャイアンツ」というのは、ここでは米国のテキサス
州のことを指すのです。映画では、ヴィックとジェットとの対立
を古い時代から新しい時代への変遷として描いています。具体的
にいうなら、大牧場が石油産業という時代の変革の流れに押し流
されつつ土地を取られていくさまを描いているのです。
 大牧場の使用人をしていたジェットが牧場主の姉の死に伴い、
遺言どおりに土地の一部を譲り受けたところ、そこで彼は油田を
掘り当てるのです。ところで、当時、1日5万バレル以上出る油
田のことを「ジャイアント」といっていたのです。
 「ジャイアント」は「ジャイアンツ」の単数形――どうやら、
映画『ジャイアンツ』は、テキサス州とこの油田の「ジャイアン
ト」をもじっているのでは・・と考えて、映画『ジャイアンツ』
の話題を取り上げたのです。映画のジェットのように、当時テキ
サス州では複数の「ジャイアント」を掘り当てて、大金持ちにな
った人はたくさんいたのです。
 このように近代的な石油産業は米国で起こったのです。それは
米国内で油田の発見が相次いだことが大きな理由だったのです。
米国で油田開発が本格化した10年後に、ロシアのカスピ海沿岸
のバクーで油田が発見され、ヨーロッパに出荷されるようになり
ます。そして、第1次世界大戦後にも油田の開発ブームが起こり
イランやベネズエラなどに波及していくのです。
 1932年には、バーレーンでアラビア湾最初の油田が発見さ
れ、サウジアラビアやクウェートでの油田発見が続いたのです。
第2次世界大戦後も中東での油田の発見が相次ぎ、遂に1948
年になって、世界最大のサウジアラビアのガワール油田が発見さ
れるにいたるのです。この油田は日量500万バレル――これは
サウジアラビアの生産量の約半分に当ります。
 世界第2の油田は、クウェートのブルガン油田です。日量にし
て、160万バレル――1991年にイラクが侵攻してきた際に
攻撃された油田です。この油田はいまだに原油が地表に自噴する
ため、生産コストが非常に安い点が魅力であり、イラクはこの油
田を手に入れたかったものと思われます。
 このように中東の油田が発見されるはるか前から米国では石油
に関するあらゆる技術が開発されていたので、米国の力を借りて
油田を発見したり、生産したりしたのです。そういう意味で米国
には頭が上がらなかったのです。かくして、こと石油に関しては
今まで米国が主導権を取ってきたのです。石油がドル建てである
こともこれと深い関係があります。― [石油危機を読む/11]


≪画像および関連情報≫
 ●映画『ジャイアンツ』の批評/ブログ
  ―――――――――――――――――――――――――――
  映画『ジャイアンツ』はロックフェッラーより後の1920
  年代を舞台とするが、アメリカ石油事業の様子をよく描いて
  いて見逃せない。エリザベス・テーラー、ロック・ハドソン
  が美男美女過ぎて少し浮ついた感じがするが。・・・南部の
  牧場に突然石油が噴出し、独立石油会社がにょきにょき現れ
  る、時あたかもモータリゼーション7。石油はいくらでも要
  る。ひねくれた牧場の使用人ジェームス・ディーンが、わず
  かにもらった土地に石油が噴出すシーンが印象的だ。
  http://blog.goo.ne.jp/ys386kyam/e/41d5959b2078d64c6b980164f8a772e6
  ―――――――――――――――――――――――――――

映画『ジャイアンツ』.jpg
映画『ジャイアンツ』
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2010年10月08日

●国際石油資本による石油支配(EJ第2301号)

 近代石油産業とは、探鉱・採掘・精製・販売の一連の作業を通
して行う産業ですが、それを最初に行ったのは米国であることは
既に述べた通りです。
 しかし、初期の頃は、探鉱・採掘・精製のいずれも技術レベル
が低いこともあって、原油価格はかなり大きな幅で変動していた
のです。ちなみに当時の石油は、ランプをともす灯油として使わ
れていたのです。
 石油の将来性に目を向けたのは、ジョン・D・ロックフェラー
です。当時は石油業者が乱立して価格競争をやっていて、事業と
して収益が見込めない状況だったのです。
 そこで、ロックフェラーはスタンダード・オイル社を設立し、
それを中心として、競争を排除するために買収や密約などのかな
り荒っぽい手法を駆使して、米国の石油産業の独占化を進めたの
です。そして独占状態を利用して価格をつり上げ、巨大な利益を
上げはじめたのです。1880年代のことです。
 しかし、ロックフェラーのこういうやり方は世間の非難を浴び
司法の判断に委ねられることになったのです。そして1911年
にロックフェラーの支配するスタンダード・オイル社に対して米
最高裁は解散を命じます。その結果、スタンダード・オイル社は
34社に分割されることになったのです。
 これら分割されてできた34社のうち、次の2社が頭角をあら
わし、後のエクソンとモービルになるのです。そして、1999
年には両社は合併し、エクソン・モービル社となったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ニュージャージー・スタンダード・オイル → エクソン
   ニューヨーク・スタンダード・オイル → モービル
―――――――――――――――――――――――――――――
 こういう米国の石油資本に対抗する勢力もあらわれてきたので
す。ロシアのバクー油田の開発で成功を収めつつあったダイナマ
イトの発明者であるノーベルとロスチャイルド家のアルフォンス
男爵が組んで、石油会社シェルを立ち上げます。現在のロイヤル
・ダッチ・シェルの前身です。
 1895年当時においては、このように米国産原油とロシア産
原油が次のように拮抗していたのです。このときはまだ中東では
原油は発見されていなかったのです。1901年になると、ロシ
アは世界の石油の半分以上を生産するようになります。
―――――――――――――――――――――――――――――
   米 国産原油 ・・・・・ 日量14.5万バレル
   ロシア産原油 ・・・・・ 日量12.6万バレル
―――――――――――――――――――――――――――――
 1908年にイランで原油が発見され、中東原油も世界市場に
供給されるようになったのです。はじめたのは英国人のダーシー
であり、そのためにアングロ・ペルシャン・カンパニーを設立し
ます。これが後のBP――ブリティッシュ・ペトロリアムの前身
になるのです。
 英国は第1次世界大戦のあと、かつてのドイツの影響下にあっ
た旧トルコ領のメソポタミア――現在のイラクの石油資源を独占
しようとしたのです。イラクの原油は地表に近いところで産出さ
れ、コストが安くて済むので油田として価値が高かったのです。
これに猛反発したのは米国です。
 米国は第1次世界大戦のとき、連合国側の石油供給を一手に引
き受けていたので、石油埋蔵量の枯渇懸念が生じており、イラク
の石油資源には強い関心があったのです。かくして英国と米国は
イラクの石油資源を巡って10年間にわたり争ったのです。
 しかし、この問題は1928年に決着します。イラク石油会社
(IPC)は、次の5社で共同経営することが決まったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
      1.シェル
      2.BP
      3.エクソン
      4.モービル
      5.フランス国営石油公社(CFP)
―――――――――――――――――――――――――――――
 1917年にロシア革命が起こり、シェルの有していたバクー
油田の国有化が表明されます。そのことがきっかけでシェルを中
心として国際石油資本間で争いが激化します。これが原因で、世
界的な石油販売競争が巻き起こり、石油価格は下落したのです。
 この事態を懸念したシェルのデター・ディング社長は、自分の
居城であるスコットランドのアクナキャリー城にエクソンとBP
の首脳を密かに招き、世界の石油資源を地域ごとに3社で分割し
ようと秘密協定を結んだのです。これは後にアクナキャリー協定
と呼ばれるのですが、この協定の適用地域は米国とソ連を除く全
世界だったのです。
 この協定には、あとになって、テキサコ、ガルフ、モービル、
アトランティックの米国4社が加わって7社となり、國際石油市
場における占有率はさらに高まることになったのです。そして、
これらの7社は「セブン・シスターズ」――7人の魔女と呼ばれ
るようになります。
 1938年のことです。米国の中堅石油会社ソーカル(現在の
シェブロン)がサウジアラビアで巨大な油田を発見し、その石油
事業のためにアラムコ――後に国有化により、サウジ・アラムコ
になる――が設立されたのです。しかし、このアラムコもソーカ
ル、テキサコ、エクソン、モービルの米国企業4社によって運営
されたのです。
 この当時国際的に取引される原油の価格は米国を基準に設定さ
れる「ガルフ・プラス方式」が採用されており、この方式が19
50年代まで続いていたのです。ちなみに「ガルフ」というのは
米国のメキシコ湾岸を指しているのです。
 このように米国中心の国際石油資本に支配されていた産油国に
は不満が渦巻いていたのです。 ――― [石油危機を読む/12]


≪画像および関連情報≫
 ●スタンダード・オイルについて
  ―――――――――――――――――――――――――――
  1870年1月10日にロックフェラーは、スタンダード・
  オイル・オブ・オハイオを創設した。彼は買収によって競争
  を勝ち抜き、一社による製油所の統合戦略を進めた。この行
  為はアイダ・ターベルなどに批判される。1874年にチャ
  ールズ・プラット・アンド・カンパニーを買収する。創立者
  のチャールズ・ブラット・とヘンリー・H・ロジャーズは買
  収と同時に同社に加わった。     ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

スタンダード・オイル社/第1製油所.jpg
スタンダード・オイル社/第1製油所
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2010年10月12日

●第1次石油危機はどうして起こったか(EJ第2302号)

 1973年に第1次石油危機が起こっていますが、何が原因で
起こったのでしょうか。この第1次石油危機の原因を解明するこ
とには意義があります。そこに國際石油資本の弱体化の兆しが見
えるからです。
 1950年代は、国際石油資本セブン・シスターズの全盛期で
あったといわれています。しかし、産油国では國際石油資本に対
する強い不満が頂点に達しつつあったのです。
 1948年にベネズエラ政府は、国際石油資本、すなわち、石
油メジャーと交渉して5O%採掘権料を得ることに成功していま
す。これを知ってサウジアラビア政府も同様の採掘権料を取得し
ているのです。しかし、これでも石油メジャーは十分利益を上げ
ることができたのです。
 しかし、産油国では資源ナショナリズムの高まりによって、石
油産業の国有化宣言が相次いだのです。資源ナショナリズムとい
うのは、石油や天然ガスという貴重な天然資源を国家の富として
強く認識することにより、石油メジャーをはじめとする外国資本
にその富を収奪されないようにしようという考え方です。
 きっかけとなったのは、イランによる石油産業の国有化なので
す。当時英国とソ連の影響に下にあったイランでは、選挙で選ば
れたモハマド・モサデグ首相がそれを行ったのです。
 しかし、クーデターが起こってモサデグ政権は転覆してしまい
ます。このクーデターは米国CIAが裏にいたといわれているの
です。その結果、イランでは、1979年のイラン革命まで親米
政権が続くことになったのです。
 その頃ソ連では、ボルガ・ウラル油田の生産量が増加していた
のです。ソ連では、東欧諸国に対し、国際価格より安く石油を提
供していたのですが、1955年頃以降になると、共産圏の需要
を上回る石油を生産できるようになり、共産圏以外の西欧の国に
も石油を提供できるようになっていったのです。
 何しろソ連産原油は、アクナキャリー協定の対象外であるので
非常に安く提供することができるのです。このようにしてソ連産
原油が多く出回った影響で、世界の石油価格にはかなりの下落圧
力がかかったのです。
 こういうとき、セブン・シスターズは、1959年と1960
年に産油国支払う採掘権料を引き下げたのです。これに反発した
産油国側は、1960年にサウジアラビアのタリキ石油相とベネ
ズエラのアルフォンソ石油鉱業相らが中心となってOPEC(石
油輸出国機構)が創設されることになったのです。
 しかし、サウジアラビアでは米国の工作によって、タリキ石油
相は2年後に罷免され、親米派のヤマニ石油相に代わったことに
より、産油国の権利を認める改革は抑えられたのです。
 1968年にはイラクではクーデターによって、サダム・フセ
インが政権を取ったのです。一方リビアでは、カダフィ大佐が政
権を掌握し、石油メジャーに対し、採掘権料の引き上げを認めさ
せたのです。これは石油メジャーによる価格カルテルを打破する
ことにつながり、以後石油メジャー主導で石油価格を決めること
は困難になったのです。
 これを契機にして、産油国による石油産業の国有化が次々と進
められたのです。1971年にリビアとアルジェリアが石油産業
を国有化し、1975年にはイラクでも、それまで米欧の石油資
本に支配されていたイラク石油会社(IPC)の国有化を宣言し
ています。
 一方、国有化まではできないものの、アブダビ、クウェート、
カタールなどの小国は、石油メジャーとの交渉により、採掘権料
の引き上げに成功しています。この中にあって、終始親米路線を
取ってきたサウジアラビアも、1972年にアラムコの25%
を所有し、10年後に51%を所有、1988年には正式に国有
化を宣言し、サウジアラビア・アラムコと名称変更しています。
 1973年に、アラブ諸国とイスラエルの間で第4次中東戦争
が勃発します。アラブ諸国では、あくまでイスラエル支持を続け
る米国に反米感情が高まるなかで、OPECと石油企業との価格
交渉が行われたのです。
 交渉は最初から紛糾し、行き詰ったのです。OPEC側は石油
企業に対し、70%の値上げを通告――この瞬間に価格決定権は
石油メジャーからOPECに移ることになったのです。
 実はOPECのとは別にOAPEC――アラブ石油輸出国機構
という紛らわしい機構があるのですが、OAPECはイスラエル
がバレスチナから撤退するまで、毎月5%の減産を続けると通告
したのです。
 しかし、ニクソン大統領は、あくまでイスラエル支援を発表し
たので、サウジアラビアは米国向けの石油輸出を禁止すると発表
したのです。なお、OAPECは、次の10ヶ国によって構成さ
れているのです。これに対して、OPECの加盟国は現在13ヶ
国(巻末参照)となっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
       クウェート        カタール
       リビア          バーレーン
       サウジアラビア      イラク
       アラブ首長国連邦     シリア
       アルジェリア       エジプト
―――――――――――――――――――――――――――――
 さらにOPECは、1974年1月にさらに石油価格を2倍に
引き上げたのです。これによって原油価格は、それまでの3ドル
から、11.65ドルになったのです。約4倍の引き上げです。
 このように、石油価格の急騰と産油国の禁輸によって、第1次
石油危機は起こったのです。今まで手中にしてきた原油価格決定
権をOPECに移転して危機が発生したのです。OPECによる
原油価格引き上げにより恩恵を受けた国はソ連だったのです。ソ
連ではチュメニ油田の生産量は拡大し、1970年代後半には世
界最大の産油国になっていたのです。[石油危機を読む/13]


≪画像および関連情報≫
 ●OPEC加盟国/13ヶ国
  ―――――――――――――――――――――――――――
     イラク        リビア
     イラン        アラブ首長国連邦
     クウェート      アルジェリア
     サウジアラビア    ナイジェリア
     ベネズエラ      アンゴラ
     カタール       エクアドル
     インドネシア
  ―――――――――――――――――――――――――――

OPEC本部.jpg
OPEC本部
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2010年10月13日

●OPECはなぜ機能しなかったのか(EJ第2303号)

 第1次石油危機は、原油生産の削減と米国をはじめとするイス
ラエル支援国への石油の禁輸がセットになっており、その後に原
油価格の引き上げが追い討ちをかけたのです。
 日本は米国と同盟関係にあり、イスラエル支援国とみなされる
可能性が高かったので、政府は三木武夫副総理を中東諸国に派遣
して日本の立場を説明するとともに、国民生活安定緊急措置法・
石油需給適正化法を制定して事態に備えたのです。
 省エネルギー対策がとられ、デパートではエスカレーターの運
転中止やテレビの深夜放送の休止、ネオンサインの早期消灯やガ
ソリンスタンドの日曜休業などが実施されたのです。
 これらの措置に加えて、国や石油企業が将来の石油危機に備え
て大量の石油備蓄を行うようになったのです。こうした一連の対
策が、1979年の第2次石油危機のときに役立ったのです。
 さて、前回、OPECとは別にOAPECがあるという話をし
ましたが、実にややこしい話です。これについて通商産業省(現
経済産業省)出身で、内閣官房内閣参事官である藤 和彦氏は自
著で次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1970年代から80年代にかけて、人々の目にはOPECが
 かつてない最も強力なカルテルとして映ったはずである。石油
 危機を演出した「泣く子も黙る」OPECは日本の小学校の教
 科書にも登場した。ただ、この点はよく誤解されていることだ
 が、第1次石油危機自体は、OPECではなくOAPEC(ア
 ラブ石油輸出国機構)が引き起こしたもので、OPECはこれ
 に便乗して大幅値上げを断行したにすぎない。
 ――藤 和彦著、『石油を読む』/日経文庫1128/A52
―――――――――――――――――――――――――――――
 1979年にイラン革命が起こります。ホメイニ師を最高指導
者とするイスラム宗教勢力が、親米のパーレビ国王体制を倒して
政権を掌握したのです。
 イラン革命によってイランでの石油生産は中断されます。とく
に日本はイランから大量の原油を購入していたので、石油の需給
が逼迫したのです。しかし、第1次石油危機による学習効果によ
り、省エネをはじめとして、企業の合理化効果、膨大な量の石油
備蓄によって、第1次石油危機よりもひどい状態にはならないで
済んだのです。
 原油価格については、OPEC主導で決められるようになって
おり、リーダー役のサウジアラビアは機会があるたびに原油価格
を上げようとしたのです。
 OPEC内部は一枚岩ではなく、原油価格を上げようとはする
が、どちらかというと穏健な水準での価格統一を目指すサウジア
ラビアと一層の価格の引き上げを主張するイランやリビアなどの
強硬派がたびたび対立し、決定できないこともあったのです。
 しかし、1986年に原油価格が2Oドル以上も下落したので
す。その原因は、サウジアラビアが原油の増産をしたからですが
同時にOPECに加盟していないロシアや北海(英国)やメキシ
コも増産したため原油が大幅に余って価格が暴落したのです。こ
れは、逆オイル・ショックといわれ、産油国の収入が減少し、経
済は低迷したのです。
 これによって、あまりにも人為的に価格を引き上げようとする
と、その反動として需要が急速に減退し、原油価格が暴落するこ
とを産油国――なかんずくサウジアラビアは理解したのです。
 そこで、サウジアラビアは政府販売価格を放棄し、それを「ネ
ットバック価格方式」に変更して、事実上価格カルテルとしての
OPECの機能はその時点で、失われることになったのです。
 「ネットバック価格方式」とは、ガソリンや灯油などの石油製
品の価格から原油価格を逆算して求める方式です。この方式の利
点は、石油の精製マージンが保証される点にやり、原油価格が下
降局面にある場合や見通しが不透明でリスクが高いときは大きな
魅力のある方式なのです。
 これによって原油価格は、各地域における業者間の市場取引に
よって決まるWTI原油が國際原油価格の基準になっていったの
です。つまり、原油の価格形成は、市場メカニズムに委ねられる
ようになったわけです。
 既出の藤 和彦氏は、サウジアラビアの決断について次のよう
に述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 OPECの盟主であるサウジアラビアは、70年代のOPEC
 の人為的高価格政策を「近視眼的なものであった」として80
 年代後半以降は「無茶な引き上げではなく、長期的に持続可能
 な合理的かつ安定的な価格の維持を目指す」と言明している。
 また、「第一次石油危機の際、政治目的は達成できなかったし
 近年の市場実勢から、そもそも武器にはなり得ない」としたう
 えで、「中長期的に見て自殺行為になるようなことをやるつも
 りはない」としている。
 ――藤 和彦著、『石油を読む』/日経文庫1128/A52
―――――――――――――――――――――――――――――
 OPEC設立の目的とは何でしょうか。
 石油はこれまで述べてきたように、その産業としての確立の経
緯から、石油メジャーや先進国が主導権を取って何もかも決めて
きており、産油国はただそれに従ってきたのです。
 こういう方式に対して産油国側には大きな不満があり、産油国
の利益を守ろうという気運が盛り上がって、その結果、OPEC
が設立されたのです。
 OPECでは、あくまで原油相場の安定を目的としますが、そ
のためには産油国が原油の生産量を調整して相場の安定を図るこ
とが必要になります。しかし、この原油の生産調整の足並みがう
まく揃わないのです。原油収入を確保するために決められた生産
枠をオーバーして生産する産油国があるからです。どの国も原油
収入を増やしたいからです。   ―― [石油危機を読む/14]


≪画像および関連情報≫
 ●藤和彦氏の『石油を読む』についてのコメント
  ―――――――――――――――――――――――――――
  石油の市場は、輸送コストの低さ等の理由から、現在単一の
  世界市場として統合されており、しかも嘗ての石油メジャー
  による国際カルテルがあった時代等とは異なり、その価格は
  ニューヨーク・ロンドンの石油先物市場によって概ね決定さ
  れる。「市場の再配分機能」により、特定輸入国に供給削減
  のしわ寄せがくることはかなりの程度避けられるのである。
   http://d.hatena.ne.jp/kuma_asset/20070912/1189610922
  ―――――――――――――――――――――――――――

藤 和彦氏.jpg
藤 和彦氏
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2010年10月14日

●カルテルが成立しにくいOPECの現状(EJ第2304号)

 考えてみると、原油高騰については、次のように3段階あると
思います。
―――――――――――――――――――――――――――――
    第1次価格上昇: 第1次・第2次石油危機時点
    第2次価格上昇: 2OO3年〜2006年時点
    第3次価格上昇: 2006年〜2008年時点
―――――――――――――――――――――――――――――
 ここまで述べてきたのは、「第1次価格上昇」です。添付ファ
イルとして、1948年から2004年までの原油価格の長期推
移のグラフをつけているので、説明に合わせてごらんください。
 第1次石油危機で原油価格は1バレル20ドル台になり、それ
が1979年の第2次石油危機で4Oドル台になっています。こ
れが「第1次価格上昇」です。
 これが2006年までに6Oドル台に達しているのです。この
2回にわたる価格上昇のそれぞれのインパクトについて、三菱U
FJリサーチ&コンサルティング調査部主任研究員、芥田知至氏
は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 2Oドルから40ドルに20ドルに上がったのと40ドルから
 60ドルに上がったのとでは、同じ20ドルでもインパクトは
 違う。前者が2倍なのに対して、後者は1.5倍に過ぎない。
 学校の周りのランチの相場がそれまでの500円から急に10
 00円に上がってしまったら学生は大きなショックであろうが
 欲しいと思っていた20万円のノートパソコンが、あと500
 円高い値段であったとしても、ショックはそれほどでもないで
 あろう。                 ――芥田知至著
     『知られていない原油価格高騰の謎』/技術評論社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 要するに、「第1次価格上昇」は、価格決定権のある0PEC
が人為的に価格を引き上げた結果ですが、「第2次価格上昇」で
は、日々の相場の変動が積み上げられた結果として価格が上昇し
ているのです。この方が人為的に引き上げが行われるよりもショ
ック度は少ないといえます。
 1999年のことです。ベネズエラではチャベス大統領が政権
を担うことになったのです。この新政権は、従来の親米政権とは
異なり、米国に対立する一方で、0PEC各国との関係強化を目
指し、OPECに対し、ある方式を提案したのです。
 その方式とは「プライス・バンド制」といい、2000年3月
にOPEC各国は、この制度を導入することで合意しています。
「プライス・バンド制」――目標価格帯制とは、あらかじめ目標
価格帯を決めておき、これをベースに原油の増産・減産を決める
という方式です。
 OPECは、プライス・バンドを22〜28ドルとし、下限の
22ドルを10営業日連続で下回った場合は日量50万バレルを
減産し、逆に上限の28ドルを20営業日連続で上回った場合は
日量50万バレルを増産する――これがOPECが採用したプラ
イス・バンド制なのです。しかし、このプライス・バンド制は、
OPEC参加国のすべてが参加したわけではなく、1Oヶ国だけ
の参加だったという点を考慮すべきです。
 しかし、2003年になると、原油価格がプライス・バンドの
上限を超えた状態がずっと続いていたのです。OPECの立場か
ら見ると、原油を十分に供給しているにもかかわらず、原油相場
は下がらず上昇を続けていることになるのです。そうなると、プ
ライス・バンド制は形骸化せざるを得ないことになります。
 OPECは、2005年1月の総会において、プライス・バン
ドの22〜28ドルを一時的に停止することを決めています。当
時のOPECのアハマド議長は「原価価格は35ドルが適正」と
述べて、プライス・バンドの変更を示唆していたのですが、結局
は新たなプライス・バンドを設定することはなかったのです。
 この時期から原油価格は高止まりしているのに、世界景気は好
調で、原油需要は増加している――産油国にとっては理想的な状
態が継続していたのです。したがって、プライス・バンド制をあ
えてとる必要はなかったのです。ここで、現在OPECの市場支
配力はどの程度のものなのかについて考えてみます。
 国際石油市場におけるOPECと非OPEC生産のシェアは平
均すると次のようになっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
        OPEC ・・・・・ 40%
       非OPEC ・・・・・ 60%
―――――――――――――――――――――――――――――
 国際石油市場における国単位の市場寡占度を見ても、1970
年代以降一貫して、産油国同士の競争が激しくなっており、カル
テルが成立しにくい状況になっています。
 少し難しくなって恐縮ですが、「ハーフィンダール指数」とい
うものがあります。これは、パーセントであらわした各産油国の
シェアの2乗を合計した指数です。仮に一国が市場を完全独占し
た場合はシェア100%ですから、100%の2乗で指数は10
000になります。1965年以降の節目のある年のハーフィン
ダール指数(市場寡占度)を示しておきます
―――――――――――――――――――――――――――――
             ハーフィンダール指数
    1965年 ・・・・・・・・ 1300
    1979年 ・・・・・・・・  900
    1990年 ・・・・・・・・  700
    1999年 ・・・・・・・・  500
―――――――――――――――――――――――――――――
 指数が500以下であれば「完全競争状態」ということになり
ますが、1999年以降はそうなっています。最近では、OPE
Cの戦略を超えたところで原油価格は動いています。どういう構
造になっているのでしょうか。  ―― [石油危機を読む/15]


≪画像および関連情報≫
 ●プライス・バンドに関する記事(2004年当時)
  ――――――――――――――――――――――――――
  OPECは、15日(2004年9月15日)にウィーンで
  定例総会を開催する。主な議題は、生産上限を据え置くか否
  かという点と、原油生産上限を決める上で指標とされる目標
  価格帯いわゆるOPECプライスバンドに関し、現行の22
  〜28ドル/バレルを引き上げるか否かという点である。先
  週、OPEC関係者が引上げに合意することを明らかにした
  との報道が流れた。同報道の根拠は、これまで引上げに慎重
  な姿勢を示していたサウジアラビアが引上げを容認する姿勢
  に転じたためとされている。具体的な新価格帯については、
  総会前の非公式会議で協議する必要があるが、22〜28ド
  ルは余りに実勢から懸け離れていることから、OPECプラ
  イスバンド制、ひいては生産調整の信頼性回復に、目標価格
  帯を引き上げるべきだとする論者は多い。
http://www.shinchosha.co.jp/foresight/web_kikaku/s09.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

原油価格の長期推移.jpg
原油価格の長期推移
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2010年10月15日

●先渡し取引は先物取引の基礎(EJ第2305号)

 かつては石油メジャーが原油価格を決めていた時代があったの
です。その価格決定権を産油国によるOPECが奪い、OPEC
が一時期原油価格を支配したのですが、それも長くは続かなかっ
たのです。自ら主導して価格を決めることの難しさをOPECの
盟主サウジアラビア自身が知ったからです。
 結局、原油価格は現在のところ「市場」が価格を決定する時代
になっているのです。原油市場に参加する人の中で、今よりも高
い値段であっても原油が欲しいと考える人や高い値段でないと原
油を売りたくないと思う人が多いと価格は上がり、その逆である
と価格は下がるのです。
 このことを整理すると次のようになります。要するに需給のバ
ランスによって原油価格は決定されるのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 原油の需要が多く供給が少ないと価格は上がり、原油の需要が
 少なく供給が多いと価格は下がる
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、現在「1バレル=100ドル」以上になっている原油
価格は、こうした需給関係で決まったものではなく、投機的資金
がどれだけ流れ込むかによって決まるようになっているのです。
これについては、今後の原油価格を予測する際に重要であり、改
めて述べることにします。
 ところで、原油については、「原油先物市場」といわれますが
どうして「先物」なのでしょうか。
 既出の芥田知至氏は、航空会社の例を引いて次のように分かり
易く説明しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ある日本の航空会社が1機2000万ドルの航空機を20機注
 文したとすると注文総額は4億ドルである。注文した時点では
 「1ドル=100円」であったが、決済を行う1年後には「1
 ドル=125円」になっていたとすると、航空会社にしてみれ
 ば、「4×(125−100)=100億円」も損をしたこと
 になる。こういうリスクは航空会社としては回避したい。そこ
 で「先物」市場が有益な役割を果たす。例えば、先物市場で、
 1年後のドルを「1ドル=105円」で4億ドル分を調達する
 ことができれば、こうしたリスクは発生しない。
                      ――芥田知至著
     『知られていない原油価格高騰の謎』/技術評論社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 さて、この「先物取引」には若干「怖い」というか「油断なら
ない」イメージがあります。よく「先物相場」に手を出してスッ
テンテンになったという話をよく聞くからです。
 しかし、それは「先物取引」のことを正確に理解していないか
らです。そこで「原油先物市場」を理解するうえから、「先物取
引」について解説します。
 「先物取引」について知る場合、「先渡し取引」について理解
する必要があります。「先渡し取引」は「先物取引」の基礎とな
るものであり、実はこの「先渡し取引」――享保15年(173
0)に八代将軍吉宗の時代から行われていたのです。
 この場合の取引の対象となった商品は「米」です。当時の大阪
は米の一大集積地であったのです。もともとは淀屋という米屋の
店頭で取引をしていたのですが、後に大岡越前守によって堂島で
米会所取引がスタートしたのです。これは日本における先物取引
のはじめといわれていますが、正しくは「先渡し取引」です。こ
の取引とは、次のような取引のことをいうのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ≪先渡し取引とは何か≫
 先渡し取引とは、あらかじめ値段と数量を決めて、相対で、将
 来の決められた期日に売買を行うことを約束する取引のことを
 いう。契約日には値段と数量と受け渡し日についての契約だけ
 が結ばれ、実際のお金と品物の交換は将来、受け渡し日が到来
 した時に同時に行われる。
―――――――――――――――――――――――――――――
 先渡し取引の良い点は、受け渡し日が将来であっても価格が既
に決まっているので、将来の価格変動の影響を受けないというこ
とです。これによって、売る方も買う方も将来の事業計画を立て
易くなります。
 しかし、先渡し取引は相対取引ですので、不便な点も多くあり
ます。そこで、先渡し取引の何が問題で、先物取引だとどう解決
されるのかという点について説明します。
 添付ファイルを見ていただきたいと思います。Aさん、Bさん
Cさんの3人だけからなる市場を考えます。まず、7月10日に
AさんとBさんの間に「12月25日にAさんは金1キログラム
をBさんに300万円で売却する」という契約が結ばれたとしま
しょう。
 AさんはBさんに売却するための金1キログラムを入手するた
め、9月20日にCさんとの間に「12月25日にCさんは金1
キログラムをAさんに250万円で売却する」という契約を結び
ました。この2つの契約はいずれも12月25日を受け渡し日と
する先渡し取引ということになります。
 この契約が12月25日に正常に履行される場合は、Aさんは
50万円の利益を手にすることができます。しかし、12月25
日までは利益は入らないことと、Cさんから金1キログラムを購
入する代金250万円を用意しなければなりません。
 虫の良いことを考えるなら、自分は少しでも早く利益の50万
円を手にし、後の取引はBとCの間でやって欲しい――というも
のです。もうひとつこの取引の怖いことは、もし、商品の受け渡
し日までにBさんかCさんが倒産したり、逃げたりしたら、Aさ
んは大損害を蒙ることになります。したがって、先渡し取引はよ
ほど信頼できる相手としか取引できないということになり、市場
は限定されます。        ―― [石油危機を読む/16]


≪画像および関連情報≫
 ●「堂島米会所」とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  堂島米会所(どうじまこめかいしょ)とは、享保15年8月
  13日大阪堂島に開設された米の取引所。当時大坂は全国の
  年貢米が集まるところで、米会所では米の所有権を示す米切
  手が売買されていた。ここでは、正米取引と帳合米取引が行
  われていたが、前者は現物取引、後者は先物取引である。敷
  銀という証拠金を積むだけで、差金決済による先物取引が可
  能であり、現代の基本的な先物市場の仕組みを備えた、世界
  初の整備された先物取引市場であった。
                    ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

先渡し取引/図解.jpg
先渡し取引/図解
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2010年10月18日

●原油先物市場/NYMEX(EJ第2306号)

 前回「先渡し取引」について解説しました。今日はその続きで
「先物取引」について説明します。
 Aさん、Bさん、Cさんの3人による「先渡し取引」は、例の
ように12月25日にAさんはCさんから250万円で金1キロ
グラムを買い取り、それをBさんに300万円で売って50万円
の利益を手にすることになります。そういう内容の契約になって
いるわけです。
 しかし、Aさんが50万円の利益を手にするには、契約が確実
に果たされることが条件になります。契約の相手によってはリス
クがあり、不便な点が少なくないのです。また、信用のある人同
士でないとできないので、市場がきわめて限定されます。
 そこで、AさんとBさん、Cさんの間に中立的な立場の取引所
を入れ、取引すべての仲介をするシステムが考えられたのです。
これによって、契約不履行のリスクも取引所が負うようにすれば
取引は安全に行えるようになります。
 この場合、Aさんは契約不履行のリスクから解消されるだけで
なく、取引所との間に同じ受け渡し日の同じ品物の売りと買いが
あるので、受け渡し日を待たずに50万円の利益が確定し、取引
から離脱することが可能になります。このような取引を「先物取
引」というのです。
 先渡し取引は、将来の決まった期日に現在決めた価格で実際に
商品を受け渡す取引形態のことをいうのですが、現在の先物取引
では、実際に商品の受け渡しをせずに、期日までに反対売買によ
って差金を決済することができる取引なのです。
 反対売買とは、売りに対して買い、買いに対して売りのことを
いいまいす。「売り玉」――売り契約を仕切ることを買い戻し、
「買い玉」――買い契約を仕切ることを転売といいます。「玉」
(ぎょく)とは契約を意味します。
 NYMEX――ナイメックス/ニューヨーク・マーカンタイル
取引所――ここで取引される原油がWTI原油であり、世界の指
標原油となっているのです。NYMEXは、最も魅力的な原油先
物市場のひとつであるといわれています。それは、非常に多くの
原油先物の売買への参加者を数多く集めることに成功したからで
す。したがって、そこで決まる原油の価格は、世界の原油市場や
エネルギー市場に大きな影響力を持っているのです。
 NYMEXとはどのような取引所なのでしょうか。簡単にその
歴史を振り返ってみることにします。
 1872年にNYMEXの前身であるニューヨーク・バター・
チーズ取引所が開設されています。開設してから着実に取引品目
を増やしたあと、NYMEXに名称変更をします。その後、農産
物から鉱工業品にシフトし、1978年には暖房油を上場して、
世界ではじめてエネルギー関連の商品を上場する取引所になって
いるのです。
 1994年には、ニューヨーク商品取引所(COMEX)を吸
収したのです。これによって、NYMEXは、次の2つを部門を
有する大きな取引所になったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.NYMEX部門
   ・原油、ガソリン、天然ガス、電力、プラチナなど
 2.COMEX部門
   ・金、銅など
―――――――――――――――――――――――――――――
 なお、NYMEXは、世界の多くの取引所が電子取引を行って
いるなかで、現在でも仲介業者がフロアに集まって売買注文を交
わす立ち会い制度を引き続き採用しているのです。
 立ち会い制度の利点は、どの業者がどのタイミングでどれだけ
の注文を出したかという情報が分かり易いので、透明性が高いと
いう点にあります。もっとも立ち会い時間外においては、NYM
EXにおいても電子取引システムでの売買を行っています。
 なお、NYMEXにおいては、トレーダーが両手の手のひらを
自分の方に向けているときは「買い」であり、逆に両手の手のひ
らを外に向けているときは「売り」をあらわしています。
 最新情報によると、NYMEXを運営するNYMEXホールデ
ィングスは、2008年3月にCMEグループ――シカゴ・マー
カンタイル・エクスチェンジ――に買収されています。CMEは
米国シカゴの北米最大の先物取引所です。これによって、CME
グループは、金利・株式・原油・穀物・貴金属の先物などを幅広
く扱う世界最大のデリバティブ取引所となったといえます。
 さて、NYMEXの扱っている原油は「WTI原油の」といっ
て、米国オクラホマ州クッシング地区で現物(原油)の引渡しを
条件としている取引なのです。その日量はせいぜい30万バレル
前後であり、取引された原油はパイプラインで米国の一部地域に
供給されているだけで、国際的にはまったく流通していないので
す。WTIというのは、「ウエスト・テキサス・インターミディ
エイト」の頭文字をとったものです。
 世界の石油消費量は、2007年度の統計で、日量8500万
バレルであるので、WTI原油はその0.4%程度のシェアに過
ぎないのです。それなのにNYMEXで取引されるのは1日3億
バレルにも及ぶのです。この数字がいかに異常であるかは、その
数が世界が1日で使う石油消費量の3倍強であることを考えると
すぐわかるはずです。
 明らかに石油の需給関係とはまるで関係のないところで、原油
の価格が決められているわけです。サブプライム問題以降、原油
価格は、1バレル当たり30ドル以上上昇していますが、世界の
石油の需給関係に大きな変化が生じたわけではないのです。それ
に、第1次石油危機のときのように、OPECが価格の上昇に何
かをしたというわけでもないのです。
 一体なぜ、原油価格は「1バレル=100ドル」を大きく突破
したのでしょうか。明日から、これについて考えていくことにし
ます。            ―― [石油危機を読む/17]


≪画像および関連情報≫
 ●オクラホマ州クッシングとは !?
  ―――――――――――――――――――――――――――
  テキサス州に隣接するオクラホマ州は、米国の石油輸入施設
  や石油精製施設が集中するメキシコ湾岸地域と米国の主要石
  油消費地域である中西部やニューヨークをつなぐ架け橋の役
  割を果たしていますが、その中でもクッシングは、“世界の
  パイプラインの交差点”と揶揄されるように北米の石油産業
  の一大中心地で、WTI原油の受渡し地点の役割も果たして
  います。     http://com.nsnnet.jp/topics/tpc25.htm
  ―――――――――――――――――――――――――――

先物取引/図解.jpg
先物取引/図解
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2010年10月19日

●原油高騰の原因を探る(EJ第2307号)

 原油の価格が高止まりしている原因を明らかにする前に原油価
格に影響を与える3つの油田について説明しておきます。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.NYMEXで取引されているWTI原油
 2.ロンドンのICEで取引されている北海ブレント原油
 3.TOCOMで取引されているドバイ原油
 注:NYMEX ・ ニューヨーク・マーカンタイル取引所
   ICE ・・・ アイス先物取引所、旧IPE
   TOCOM ・ 東京工業品取引所
―――――――――――――――――――――――――――――
 つまり、これら3つの油田の原油先物価格が北米、欧州、アジ
ア各市場において、原油先物価格のベンチマークとなっているの
です。なかでもWTI原油が現在マーカーオイル(指標原油)と
して、北米市場だけでなく、世界の原油先物価格のベンチマーク
となっているのです。
 実は、原油価格は、各国の市場が開く時間と原油の性質によっ
て影響を受けるのです。まず、NYMEXで決定した原油価格が
東京工業品取引所で扱っているドバイ原油価格に影響し、さらに
ロンドンICE取引所での北海ブレント原油価格に影響する――
そういう仕組みが働いているのです。
 これに加えてWTI原油は、原油の性質の価値が高いため、そ
ういう意味からも原油先物価格の世界標準となっているのです。
原油の性質の価値が高いとは、硫黄分が少なくガソリンなどが多
く取れる軽質であることを意味します。WTI原油は、北海ブレ
ント原油やドバイ原油に比べて軽質なのです。
 さて、なぜ原油価格は100ドルを突破し、今後も高止まりす
る様相を示しているのでしょうか。
 まず、基本的なことを押さえておくことにします。原油の需要
面での要因について考えます。
 原油需要は増大の一途をたどっています。新興国では、自動車
や航空機の普及が進んだことに加えて、石油化学プラントが建設
され、電力使用量が増えるなど、さまざまな面での原油需要が急
増しています。今後この面の需要は増大すると考えられます。
 それでは、原油の供給面はどうでしょうか。
 供給面では、生産コストの高い原油が供給される傾向は不可避
なのです。開発が容易な油田は既に開発し尽くされ、多額な開発
費を投じないと開発できない案件が増えているのです。これは、
当然原油価格上昇の要因になります。
 もうひとつ米国の製油所の能力不足が上げられるのです。2O
O5年2月の米国エネルギー省の調査によると、米国のすべての
製油所は全米で19ヶ所しかなく、その製油能力は、原油換算で
日量1320万バレルです。しかし、米国国内の消費量は日量で
2800万バレル――あと日量1500万バレルの原油が不足し
輸入する必要があるのです。
 ところが、米国の製油所の分布ならぴにその構造はきわめて不
安定な状態にあります。全米の製油所の能力は、日量1320万
バレルの約60%の約800万バレル分はメキシコ湾岸のテキサ
ス、ルイジアナの両州にあるからです。
 どうしてかというと、メキシコ湾岸は俗に「ハリケーン銀座」
と呼ばれるほど、年に何度も大型のハリケーンの襲撃を受ける地
域なのです。2005年には年間実に12回ものハリケーンが、
このメキシコ湾岸で成長して米国本土を襲い、大きな被害を与え
ているのです。
 それに米国ではここ30年以上にわたって製油所の新設が行わ
れていないのです。最も新しいものでも1976年に完成したも
のであり、今日まで、30年以上使い続けられており、当然設備
は老朽化しているのです。したがって、小さい規模のハリケーン
でも設備の一部が損傷を受けて、製油所の活動が停止することも
あり得ることなのです。そういう意味で米国の製油所はきわめて
不安定なのです。
 米国の製油所の能力が原油価格に影響を与える――ちょっと考
えると不思議な感じがしますが、2006年8月7日に発生した
米国最大の油田――アラスカ州ノーススロープのブルドーベイ油
田の生産停止の影響を述べることにします。
 何が原因かというと、プルドーベイ原油を輸送するパイプライ
ンに腐食と原油漏れが発生したのです。問題のある部分は22マ
イル(約35キロメートル)のうち、16マイル(約26キロメ
ートル)であり、この部分を交換する必要が生じたのです。
 プルドーベイ油田の原油生産量は日量40万バレルであり、米
国国内の原油生産量の10%未満ではありますが、カルフォルニ
ア州を中心に米国西海岸に原油を供給し、カルフォルニア州にお
ける精製原油の20%はこの油田に依存しているのです。
 2006年7月14日――NYMEXのWTI原油価格は終値
で「1ドル=77.03ドル」に達していたのです。イランの核
開発問題、北朝鮮のミサイル発射、イスラエルによるレバノン空
爆などがその原因です。
 しかし、その後イスラエルとレバノンの停戦によって原油価格
は沈静化していたのです。しかし、8月7日のプルドーベイ油田
の生産停止の発表を受けて、NYMEXの原油価格は瞬間的に高
騰して「1ドル=77.30ドル」になり、終値については「1
ドル=76.98ドル」というその時点の史上2番目の高値を記
録したのです。
 このWTI原油の高騰は、ロンドン市場の北海ブレント原油は
78.64ドルと史上最高値をつけ、日本原油市場に上場してい
るドバイ原油も8月8日に72ドルという高値をつけたのです。
 このように、國際原油価格形成のメカニズムは、米国が発信源
となっており、米国国内の製油所のトラブル、ハリケーンの到来
など国内事情によって、WTI原油先物価格が乱高下する構造に
なっているのです。そういう状況が投機筋に買い材料を与えるこ
とになります。        ―― [石油危機を読む/18]


≪画像および関連情報≫
 ●ブルドーベイについて書いてあるブログより
  ―――――――――――――――――――――――――――
  車窓のお供は有名なアラスカパイプライン。緩やかな起伏で
  チラチラと見え隠れしつつ延々と続いています。1977年
  北極海ブルドーベイの油田から石油を輸送するために、様々
  な条件を考えて敷設されたというアラスカ半島縦断全長にし
  て1280キロメートルのグレーのパイプ。自然の大きさと
  人間のすることのすごさに目をみはり、久々に「地上の星」
  のテーマソングが頭をよぎります。
     http://babu.jp/~lorispaw/travel/06-alaska/3.htm
  ―――――――――――――――――――――――――――

ブルドーベイ油田のパイプライン/アラスカ.jpg
ブルドーベイ油田のパイプライン/アラスカ
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2010年10月20日

●プロとアマが同居している原油先物市場(EJ第2308号)

 原油の取引市場には、プロとアマが同居している市場といわれ
ています。それはどういう意味でしょうか。
 NYMEX市場における取引参加者には、米国商品先物取引委
員会(CFTC)に報告義務のある業者とそうでない業者がある
のです。
―――――――――――――――――――――――――――――
  1.CFTCに報告義務のある業者
    ・ 当業者 ・・ 原油の実物取引をする業者
    ・非当業者 ・・ 原油を実物取引しない業者
  2.CFTCに報告義務のない業者
―――――――――――――――――――――――――――――
 ここで問題なのは、CFTCに報告義務のある業者の中の非当
業者とCFTCに報告義務のない業者なのです。これらの業者は
石油の実物取引はしない投機・投資目的の業者であるからです。
 非当業者には、ヘッジファンド、年金基金などの機関投資家が
該当するのですが、彼らは投機や投資の対象として原油先物を購
入しているのです。
 非当業者のヘッジファンド、年金基金などの機関投資家は、基
本的に石油産業に関しては専門知識を持たない業者であり、いわ
ば石油に関してはアマなのです。これに対して、当業者は石油事
業者そのものであり、プロということになります。冒頭において
原油の取引市場には、プロとアマが同居している市場といったの
は、そういう意味です。
 それでは、石油産業のアマ的存在のヘッジファンド、年金基金
などの機関投資家は、なぜ、原油先物市場に参加しはじめたので
しょうか。
 それは、これまで石油を大量消費していた先進国が、今後も安
い原油の時代が続くことに疑問を持つようになったことです。そ
もそも原油は、1980年代以降20年以上にわたって、「1バ
レル=10ドル〜2Oドルの間で推移しており、投資対象として
は、まるで魅力がなかったのです。
 しかし、21世紀に入ると事情が一変したのです。それはさま
ざまな要因によって原油価格が上昇したこと、それに加えて原油
需給の逼迫懸念をあおる報告書や論文が相次いで報告されたから
であるといえます。これらを「ピークオイル論」――原油の生産
は既にピークを超えている――というのですが、何となく意図的
の感があります。
 大きなインパクトを与えたのは、米投資銀行のゴールドマン・
サックスが2005年春に出した次の趣旨の報告書です。
―――――――――――――――――――――――――――――
   原油価格は「1バレル=105ドル」まで上昇する
         ――ゴールドマン・サックスの報告書
―――――――――――――――――――――――――――――
 原油の希少性が高まり、どうやらそれが本当らしいということ
がわかってくると、原油価格が上がってくることは必定であり、
高利回りの投資対象を必死に探している投資家が原油先物市場を
見逃すはずがないのです。
 ここで重要なのは、「原油価格は絶対に下がらない」と投資家
が考えはじめているということです。米国最大の年金基金である
カルバース――カルフォルニア州公務員退職者年金基金などが、
これによって本格的に原油を投資対象として検討することをはじ
めていることです。
 ここで、言葉の問題ですが、ヘッジファンドなどの投機筋と年
金基金などの投資家を区別して使う必要があります。
―――――――――――――――――――――――――――――
    ヘッジファンドなど ・・・・・ 投機筋
    年金基金など    ・・・・・ 投資家
―――――――――――――――――――――――――――――
 「投機筋」と「投資家」はどう違うのでしょうか。
 ヘッジファンドなどの「投機筋」は、先物買い、空売りなどの
さまざまな金融手法を駆使するのに対して、年金基金などの「投
資家」は、資金運用手法に大きな縛りがあり、空売りなどで短期
的に利ざやを稼ぐことはできないのです。したがって、運用対象
は、おのずと安定的に利益を上げられる銘柄に長期投資すること
に限定されるのです。
 原油先物市場の「買い」と「売り」には、長い間にできた「常
識」というものがあります。実際にNYMEXのWTI原油価格
が「1バレル=10〜30ドル」で推移していたときには、次の
常識というかルールが成立していたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 原油先物価格は、期近物の方が期先物よりも価格は高くなる 
―――――――――――――――――――――――――――――
 原油先物価格は、「6月物」とか「8月物」といわれますが、
これは「限月」といって、数字は取引の期限の満了をあらわして
いるのです。これに関して、「期先物」と「期先物」という言葉
について知る必要があります。
―――――――――――――――――――――――――――――
       期近物 ・・・・・ 満期が近い
       期先物 ・・・・・ 満期が遠い
―――――――――――――――――――――――――――――
 満期が遠い「期先物」は価格が安いので、そこで買って、満期
が近い「期近物」になって売れば利ざやを稼げる――これが常識
だったのです。これを「バックワーデーション」というのです。
 ところが、2004年〜2006年の3年間は、一貫して原油
価格が上昇基調にあったので、すべての限月において原油価格が
上昇していたので、したがって、すべての限月において利益が上
がるようになったのです。これを「スポット・リターン」という
のです。これに対して、先物を買って、期近で売るのを「ロール
・リターン」といいます。この原油先物市場の常識があることか
ら変わることになります。   ―― [石油危機を読む/19]


≪画像および関連情報≫
 ●ヘッジファンドとは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ヘッジファンドの正確な定義は難しいが、公募によって一般
  から広く小口の資金を集めて大規模なファンドを形成するこ
  とを目指す通常の投資信託と異なり、通常は私募によって機
  関投資家や富裕層等から私的に大規模な資金を集め、金融派
  生商品等を活用した様々な手法で運用するファンドのことを
  指す。代替投資の一つ。       ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

NYMEX.jpg
NYMEX
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2010年10月21日

●バックワーデーションとコンタンゴ(EJ第2309号)

 昨日のEJの復習をしておきます。原油先物市場の「買い」と
「売り」の常識を再現します。
―――――――――――――――――――――――――――――
 原油先物価格は、期近物の方が期先物よりも価格は高くなる
―――――――――――――――――――――――――――――
 期近物とは満期の近い物をいい、これに対して期先物とは満期
の遠いものをいうのです。先物原油を購入すると、現物で決済す
る満期までの先物原油購入資金の金利が発生します。そのため、
先物原油購入のための金利相当分だけ期先の原油価格が低くなる
――これは経済学的に見て当然のことです。こういう状態を「バ
ックワーデーション」というのです。
 したがって、原油先物の常識的な投資手法では、高い期近物を
売って安い期先物を買い、ロールオーバーしていくという手法を
とるのです。
 しかし、2004年の後半からこのようなバックワーデーショ
ンの市場構造に変化が生じているのです。どういうことかという
と、「原油価格は期近物よりも期先物の方が上昇する」という事
態になっているのです。こういう状態のことを「コンタンゴ」と
いいます。
 バックワーデーションとコンタンゴ――相場関係の専門用語で
あって一般的には知られていない言葉です。参考書などを読むと
これらの言葉には次の解説が出ています。
―――――――――――――――――――――――――――――
    バックワーデーション ・・・・・ 逆ざや
    コンタンゴ ・・・・・・・・・・ 順ざや
―――――――――――――――――――――――――――――
 バックワーデーションの先物市場構造においては、投機筋は期
先で原油を買い、期近になると原油価格が上がるので、そこで原
油売りのオペレーションを行って利ざやを稼ぐことができるので
です。これは投資家によって都合の良い状態です。
 つまり、今まで原油に関しては「逆ざや」が常識であったとい
うことになります。例えば、ガソリンは「逆ざや」ですが、灯油
に関しては、需要が増す冬場は「逆ざや」、夏場は「順ざや」に
なるのです。このように商品によって、「逆ざや」「順ざや」は
違ってくるのです。
 期近物が期先物より安い状態になるコンタンゴは、投資家にと
って都合の悪い状態になります。今、原油先物市場でパラダイム
の転換といわれているのは、バックワデーションからコンタンゴ
に市場が変化してしまったことをいうのです。
 問題は、なぜ、原油先物市場においては、バックワデーション
がコンタンゴになってしまったのでしょうか。
 変化は2004年後半から起こっているのです。この時期はい
わゆる「ピークオイル論」が出はじめた時期と一致します。この
ように原油価格は今後値上がりして高止まりするという観測によ
り、年金基金や投資信託の資金が大量に原油先物市場に流入した
ことが市場の構造変化の原因とする説が現在主流なのです。
 年金基金や投資信託が具体的に何をしたかというと、期近物を
売って、その資金で期先物を購入する――これを大量の資金で繰
り返して行ったのです。その結果、原油価格は期近物よりも期先
物の方が上昇するコンタンゴの状態になったというわけです。
 既出の芥田知至氏――三菱UFJリサーチ&コンサルティング
調査部主任研究員は、年金基金や投資信託の資金が大量に原油先
物市場に入り込んできたことが原油価格高騰の原因であるという
説にやや懐疑的であるという意見を持っています。
 添付ファイルの上のグラフを見てください。このグラフでは左
ほど期近物であり、右に行くほど期先物になります。2004年
10月までの原油先物市場では、「1」のように期先物ほど価格
は低かったのです。これは、バックワーデーションですね。
 芥田氏は、2004年10月までバックワーデーションの状態
であったことについて、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 原油先物市場がバックワーデーションであった理由は1980
 年代以来の継続的な供給力の過剰や長期的な価格低迷があった
 とみられる。長い間にわたって、価格の下落や低迷を経験して
 いたため、原油価格が先行き上昇するという見方が、生じにく
 くなっていた。              ――芥田知至著
     『知られていない原油価格高騰の謎』/技術評論社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、2005年に入ると状況に変化があらわれるのです。
2005年4月には「2」のグラフのようになり、期近物の価格
が下がりはじめ、12月になると「3」のグラフのようになって
期近物の方が期先物より下がるいわゆるコンタンゴの状態になっ
たのです。
 芥田氏は原油価格先物がコンタンゴの状態になったことが過去
にもあったことを上げ、現在のコンタンゴの状態が必ずしも年金
基金や投資信託の資金の原油先物市場への大量流入のせいばかり
ではないといっているのだと思います。
 添付ファイルの下のグラフを見てください。芥田氏はここでは
コンタンゴの状態を見るために「6ヶ月物と期近物の価格差」を
グラフにしているのです。6ヶ月物は流動性は高く、投機的な思
惑や石油関連業者の価格変動リスクに対する意識などもよく反映
していると考えられるからです。
 1990年以降で見ると、2005年と同程度にコンタンゴに
なったのは、1990年の湾岸戦争直前時期と、1997年のア
ジア通貨危機のとき――いずれも期近物の原油価格が足元の需給
緩和懸念などから下落したためあまり価格が変動しなかった期先
物との価格差がプラス方向に拡大したのです。しかし、2500
年にかけては、足元の原油価格が上昇しているにもかかわらず、
期先物については先高感が出ているのです。これについては来週
考えることにします。      ―― [石油危機を読む/20]


≪画像および関連情報≫
 ●コンタンゴの語源を探る
  ―――――――――――――――――――――――――――
  コンタンゴというものは少し変わった言葉である。コンタン
  ゴの語源は、語源は明確ではなく continue という言葉が変
  化したもの、あるいはラテン語の contingo ではないかとも
  いわれている。意味はcontactと同じである。
  ―――――――――――――――――――――――――――

WTI原油の先物カーブの変遷.jpg
WTI原油の先物カーブの変遷
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2010年10月22日

●『ピーク・オイル論』と原油価格(EJ第2310号)

 1956年のことです。石油会社シェルに在籍していた構造地
質学者のM・キング・ハバートは、次の予告をしています。
―――――――――――――――――――――――――――――
    米国の石油生産のピークが1970年に来る
            ――M・キング・ハバート
―――――――――――――――――――――――――――――
 原油というものが有限の資源であることは誰でも知っているこ
とです。いつか石油の生産量はピークに達し、その後減少に向か
うということも理解できます。ハバートは米国の場合、そのピー
クが1970年に来ると予告したのです。これはその後「ピーク
・オイル論」といわれ、世界中で論議を呼ぶことになります。
 ハバートはこう考えたのです。規模の大きい、地表近くの見つ
かりやすい油田は発見しやすいので、すでに発見されてしまって
おり、残りの油田は発見に時間がかかるうえに規模は小さくなる
――と。大規模油田がこれから発見される可能性はきわめて低い
ので、1970年ごろから下降線をたどると予測したのです。
 米国には1万4000以上の油田がありますが、そのうちの大
規模な100程度の油田が総産出量の約3分の2を占めているの
です。このような大規模油田は長期にわたって安定した量を産出
できますが、その後急速に産出量が減少するのです。
 ハバートは、アラスカとハワイを除く米国本土48州で、19
01年から1956年の間に発見・生産された原油量の統計を集
めたのです。その結果、米国で確認された原油埋蔵量は1930
年代までは急増しているものの、その後勢いが衰えていることが
わかったのです。
 ハバートは、このパターンをグラフ化したところ、米国の原油
供給量が近く頂点に達し、その後減少に転ずる釣り鐘型になるこ
とがわかったのです。
 ハバートがこの予測を出した1956年の米国は、新たな油田
発見が相次ぎ、米国は世界最大の産油国だったのです。したがっ
て、誰もハバートの予告には耳を傾けなかったのです。しかし、
1970年、米国の石油生産量は、ハバートの予測通りピークを
迎えその後は2度と同じ生産量に達することはなかったのです。
 しかし、石油が出るところは米国だけではないのです。世界全
体のピーク・オイルはいつなのでしょうか。
 ハバートは、米国での予測に使ったパターン「ハバート曲線」
を使って、世界全体の石油産出量についても予測をしているので
すが、それによるとピーク時を2006年頃としているのです。
 そういえば、確かにこの頃から原油価格は上昇傾向になってい
ます。ピーク・オイル論にしたがい、投機筋による原油価
格上昇の期待形成ができたからでしょうか。しかし、専門筋では
このピーク・オイル論に否定的なのです。
 2006年9月に米国テキサス州ダラスで開催された「OPE
Cセミナー」において、サウジアラビアの国有石油会社サウジア
ラムコのトップは、次のように明確にピーク・オイル論を否定し
ているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 地球の5兆7OOO億バレルもの生産可能な原油数量に対して
 世界はこれまでにわずか約1兆バレル、いわば、約18%しか
 生産していない。残りの4兆7000億バレルは現在の生産ス
 ピードで計算して今後140年以上消費し続けるのに十分な量
 である。――藤 和彦著、『石油を読む/地政学的発想を超え
    て』より。日本経済新聞社/日経文庫1128/A52
―――――――――――――――――――――――――――――
 ハバートの予告が的中したのは、米国の場合、探鉱活動が非常
に進んでいたので、原油埋蔵量の予測が比較的正確に把握するこ
とができた点にあるのです。しかし、世界の原油埋蔵量となると
そう簡単には予測できないのです。
 残存している原油埋蔵量は、地質学者が実際に現地調査を行っ
て推計する方法と、過去の原油産出量の統計を分析して推計する
方法の2つがありますが、最低で800億バレル〜2兆9000
億バレルと大きな幅があり、正確に把握することは困難です。
 ピーク・オイル論のように資源量の枯渇から来る原油価格高騰
傾向に加えて、油田や製油所に対する投資不足が原油価格の高騰
を招くという考え方もあります。
 ピーク・オイル論があらわれた2006年11月に國際エネル
ギー機関/IEAは、次の衝撃的なレポートをまとめています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 世界の需要を賄うには2030年までに油田や製油所に4兆3
 000億ドルの投資が必要であり、この投資不足が続くと、長
 期的には原油価格は130ドルに達する可能性がある。
              ――國際エネルギー機関/IEA
―――――――――――――――――――――――――――――
 2008年4月18日付の日本経済新聞は、17日の早朝、W
TIで期近の5月物が、一時「1バレル=115.54ドル」ま
で上昇したと伝えています。その原因として、新聞は「米製油所
の稼働率低迷」とタイトルを付けて、次のように書いています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 米エネルギー省によると、直近の米製油所の稼働率は81.4
 %で、一年前の同じ時期に比べて9ポイント低く、2005年
 10月下旬(82.5%)以来の低水準だ。大型ハリケーンの
 被害で設備が破壊された当時と違い、今回は石油会社が操業を
 抑えているのが原因だ。
         ――2008.4.18/日本経済新聞より
―――――――――――――――――――――――――――――
 2008年4月の時点で「1バレル=115.54ドル」まで
きているのです。IEAの予測は2030年に130ドルですが
そんなにかかからないで、そのラインまで到達する可能性が高い
ことも予測されます。やはり、原油価格はこのまま上がり続ける
のでしょうか。        ―― [石油危機を読む/21]


≪画像および関連情報≫
 ●ピーク・オイル論に言及している本
  ―――――――――――――――――――――――――――
  現在「ピーク・オイル」という言葉が声高に叫ばれている。
  世界の石油生産はピークを迎えつつあるという意味である。
  これは世界の専門家たちがハバート博士の分析方法を利用し
  て立てた予測によるものだ。ピークはまもなくやってくる。
  石油を燃料として利用できる時代の終焉まで、もう時間はな
  い。ハバート博士に師事したケネス・S・ディフェイス博士
  は本書で起源、探査、生産、流通、代替エネルギーまで、石
  油産業のすべてを詳細に解説し、ハバート理論の長所と短所
  迫りくる事態への対処法までを網羅している。「石油の代わ
  りにステージに上がる代替エネルギーは何か?」「燃料とし
  て利用されなくなった石油はどうなるのか?」。本書はこれ
  らの疑問に答えてくれる必携の書だ。
  ―――――――――――――――――――――――――――

ピーク・オイル論.jpg
ピーク・オイル論
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2010年10月25日

●『無機成因説』の信憑性(EJ第2311号)

 「石油とは何か」――実はこの基本的なことが現在でもわかっ
てはいないのです。石油は一般的には「化石燃料」といわれます
が、化石燃料とは、古代の動物や微生物の屍骸が変質して、石油
に変化したもの――そこから化石燃料というのです。
 地中奥深く行けば行くほど、マントル層の熱を受けやすくなる
ので、屍骸に高熱が加えられ、そこに地殻の重みも加わって、強
い圧力がかかるのです。この高温と高圧によって屍骸が変質して
石油になるというわけです。
 しかし、石油には、次の2つの説があり、科学的にどちらが正
しいか、結論が出ていないのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
          1.生物由来説
          2.無機成因説
―――――――――――――――――――――――――――――
 科学的には「生物由来説」で決まりなのですが、それを裏付け
る証拠というか、根拠は意外に弱いのです。
 ジョージ・メイソン大学のロバート・アーリック教授が上げる
「生物由来説」の根拠を示しておきます。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.石油の成分には生物由来の炭化水素が含まれていること
 2.しばしば「光学活性」を示し、生物が取り込みやすい回
   転方向の分子が多く混入している
 3.生物が取り込みやすい奇数の数を持つ炭素化合物が多い
―――――――――――――――――――――――――――――
 それぞれが専門的な根拠なので、あえて説明は省略しませんが
「生物由来説」を裏付けるというほど決定的な根拠とはいえない
ように思います。
 これに対して「無機成因説」の根拠は実にたくさんあります。
コーネル大学のトマス・ゴールド教授の意見を基に他の意見を加
えて列挙すると次のようになります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.採掘してしまった油田から石油が再び同量まで自然に回
   復することがある
 2.地域により石油成分は大きく変わるはずだが、一定成分
   に落ち着いている
 3.生物起源では説明つかぬ成分の含有、地殻深部の石油に
   生物の痕跡がない
 5.生物が生息していた特定地層だけでなく、どんな深さに
   も炭化水素がある
 6.本来生物活動とは関係のない花崗岩の隙間に石油がある
   という事実がある
 7.ペルシャ湾の油田分布を見るとプレート境界に沿って線
   上に配列している
 8.石油中にはダイヤモンドの微粒子が含有――ダイヤンモ
   ンドは無機物由来
     http://www.bekkoame.ne.jp/~mineki/petroleum.htm
―――――――――――――――――――――――――――――
 「無機成因説」は、もともと地球深部に大量に存在する炭化水
素が、地殻の断裂を通じて地表に向けて上昇し、油田を形成した
ものと考える説です。
 地球の深部から地表に上昇してくるプロセスにおいて動物の屍
骸を巻き込んだとすれば、「無機成因説」で「生物由来説」の説
明もできてしまうことになります。
 実は、最近「無機成因説」を裏付ける数々の事実や現象が続出
しているので、その1つが「生物由来説」では探鉱対象になり得
ない地点――深さが5千メートル以上のところで、相次いで発見
された油ガス田の存在です。
 堆積盆地を掘り進んだ基盤岩の内部に垂直方向に広がる油田、
基盤岩が地表まで盛り上がった「楯状地」で発見された油田など
いわゆる「基盤岩油田」は世界で450以上も商業化されている
のです。
 米国科学アカデミーが2004年9月に発表した興味ある論文
があります。その論文は、人工ダイヤモンドで密閉した微少な空
間に方解石、ウスタイト、水という地殻に豊富に存在する物質を
入れ、上部のマントルに相当する高温高圧条件下に置いたところ
容易に油ガスが生成されたというのです。生物が関与せず、水と
岩石の反応だけで生成されることを実証したという内容です。
 最近になって新規発見油田に目を向けると、かつて探鉱が困難
であった大水深部――西アフリカ、ブラジル、メキシコ湾、東南
アジアにおける水深500〜2000メートルの大陸棚の斜面で
近年数億バレル規模の大油田が極めて高い成功率で次々と発見さ
れているほか、カザフスタンのカシャガン油田やイランのアザデ
ガン油田など、1980年代に発見されなかったような超巨大油
田も新たに発見されているのです。
 さらに、ベトナム沖では、これまで主な探鉱対象とみなされて
いなかった花崗岩質基盤岩を対象とする探鉱が近年活発化し、大
規模油ガス田の発見が相次いでいます。このように、探鉱最前線
では次々と新たな地質プレイ――従来試みられなかった、新しい
地質概念に基づく探鉱対象にチャレンジする姿が見られ、発見効
率が向上しているのです。
 これだけの根拠があるのに、「無機成因説」は科学的には一顧
だにされていないのです。AとBという2つの説があって、A、
すなわち「生物由来説」ですべてが説明できない状態にあるのに
もうひとつの説であるB、すなわち「無機成因説」をなぜ積極的
に解明しないのでしょうか。
 日本の学界にはこういうことがよくあるのです。まして日本は
資源が乏しい国といわれているのですから、騙されたと思って予
算を付けて、「無機成因説」を本気で研究してみるべきではない
でしょうか。案外日本列島の下からとんでもない油田が眠ってい
るかも知れないのです。     ―― [石油危機を読む/22]


≪画像および関連情報≫
 ●原油無機起源説に脚光か/電気新聞より
  ―――――――――――――――――――――――――――
  「石油・天然ガスは地球内部で無機的に生成され続ける」と
  する無機起源説を見直す動きが出始めている。従来の有機起
  源説では説明が難しい油ガス田の発見が世界各地で相次いだ
  ことに加え、米国科学アカデミーが上部マントルを再現した
  環境で無機的に油ガスを生成する実験に成功するなど、妥当
  性を裏付けるような事実が明らかになってきたためだ。仮に
  妥当ならば資源量は無限に近く、エネルギー情勢、世界経済
  は劇的に変わる。日本エネルギー経済研究所総合戦略ユニッ
  トの中島敬史・主任研究員は「資源開発の可能性が格段に広
  がる。常識にとらわれないオープンな議論を」と話す。
http://www.shimbun.denki.or.jp/backnum/news/20050715.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

製油所の風景.jpg
製油所の風景
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2010年10月26日

●『無機成因説』の信憑性/その2(EJ第2312号)

 「生物由来説」が正しいとして、石油はあとどのくらい残って
いるでしょうか。
 精密な根拠に基づくものではありませんが、地球に残されてい
る石油の埋蔵量は、およそ1兆1000億バレル――ちょうど琵
琶湖4杯分といわれます。この量を今までの消費のペースで使う
と、2040年にはなくなってしまう計算だそうです。
 しかし、これは基本的には液体としての原油の残量であり、そ
れに、オイルサンドやオイルシェールというオイルを含んだ砂や
岩からの精製する分を加えると、あと10兆バレルは残っている
計算になります。
 しかし、オイルサンドやオイルシェールからの石油の精製はコ
ストと時間がかかり、どうしても原油価格は高騰せざるを得ない
ことになるのです。いずれにせよ、「生物由来説」が正しいとす
る限り、即座に何らかの対策を講ずる必要があります。このまま
では原油価格は急ピッチで高騰していくことになるはずです。
 しかし、「無機成因説」が正しいとすると、基本的に発想を転
換する必要があります。この説に立つと、実質的に原油は無限に
存在することになり、枯渇を恐れる必要はなくなります。しかし
油田の発見・探索に関しては、今までとは違った考え方で臨む必
要があるのです。
 前回、「無機成因説」の一部の根拠を示しましたが、もうひと
つの説を示しておきます。それは次の本です。
―――――――――――――――――――――――――――――
                 トーマス・ゴールド著
  「未知なる地底高熱生物圏/生命起源説をぬりかえる」
          丸武志訳  2000年/大月書店刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 この内容は驚くべきものです。石油は化石が原料なのではなく
地下の炭化水素が変質して石油やメタンガスに変わるという説な
のです。実際に地球の内部には膨大な量の炭素が存在するのが自
然であり、一部分は炭化水素の形で存在しているのです。この本
について記述しているブログを参考にしてその内容を示しておく
ことにします。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ●トーマス・ゴールドによれば、石油・石炭・天然ガスは「化
  石燃料」ではない。しかも実質的に無尽蔵である。
 ●しかし、だからといって無制限に使って良いものではない。
  資源の枯渇の心配は要らないかもしれないが、環境は間違い
  なく悪化する。
 ●トーマス・ゴールドによれば、地底には地表を凌ぐ生物圏が
  存在する。地表の生命は地底の生命の分家である。まさに母
  なる大地である。
 ●トーマス・ゴールドによれば、他の惑星にも地底生物圏が存
  在する。地球だけが特別なのではない。生命はいたるところ
  にある。
 ●トーマス・ゴールドによれば、科学の定説はしばしば根拠が
  希薄である。科学者だって思ったほど優秀なわけではない。
  思い違い、早とちりも結構多い。
        http://club.pep.ne.jp/~tatematsu/book8.html
―――――――――――――――――――――――――――――
 こういう説に立つと、資源のない日本でも地底には石油や天然
ガスがある可能性があるということになります。まだ記憶に残っ
ている事例として、渋谷のクアハウスの爆発事故がありましたが
原因は天然ガスだといわれています。
 東京都北区の温泉掘削現場から突然大量の天然ガスが噴出して
昼夜燃え続け、大量の泥水の注入でやっと鎮火したという事例、
千葉県九十九里浜町の「いわし博物館」の文書収蔵庫で大爆発が
起き、職員2名が死傷するという事例――いずれも天然ガスに関
係があるのです。
 石油や天然ガスに関しては、いつの頃からなのか、化石燃料で
あるという前提に立って、油田の探索が行われてきています。化
石燃料であれば、石油や天然ガスは堆積岩の下にしかないと考え
るのは常識であり、実際の油田調査はそういうところしかやって
いないのが現状です。
 ところで、日本には、地球深部掘削船『ちきゅう』という特殊
な船があり、これによる調査プロジェクトがあることをご存知で
しょうか。これは地球の地下深くにもぐることによって、「地殻
内流体の解明」を行っているのです。しかし、これは建前であっ
て本当の目的は「地下生物圏の解明」をすることによって「石油
・石炭・天然ガス無機起源説」の解明を目指しているのです。
 石油無機起源説の日本での提唱者に日本エネルギー経済研究所
の中島敬史氏という人物がいます。中島氏が執筆した「無機起源
石油・天然ガスが日本を救う!?―地球深層ガス説」の一部を次
にご紹介しておきます。
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本は、2つの巨大な大陸地殻プレート――ユーラシアプレー
 トと北米プレートが接する境界線があり、サハリン西方から日
 本海を経由して新潟、長野、静岡まで縦断・横断していると推
 定されています。この大きな境界線沿いや、これに雁行して並
 走する断裂が存在すれば、将来の探鉱対象エリアとなるかも知
 れない。こうした新しい視点で日本列島を再評価することによ
 り、我が国に新たな石油・天然ガス資源の発見を導くのではな
 いか。これらの前では、"石油ピーク問題"は霧散する。しかし
 それら豊富な石油・天然ガス資源は決して地表付近に分布する
 ものではなく、深部探鉱に対する投資が不可欠である。石油資
 源量における悲観論が広がり、リスクを避けるべく探鉱への投
 資が滞れば、いずれ"石油ピーク"が訪れるであろう
                      ――中島敬史氏
―――――――――――――――――――――――――――――
               ―― [石油危機を読む/23]


≪画像および関連情報≫
 ●講演・座談会 石油の無機起源説について
  ―――――――――――――――――――――――――――
  誰も予想しなかった石油高価格が続き、世界経済への悪影響
  が懸念される情勢を背景に、石油資源のピーク説が有力視さ
  れる一方で、その対極的とも言える無機起源説が最近の多く
  の事例を元に注目を集めてきている。人類の未来を考える大
  前提となるエネルギーの将来を検討するには、こうした考え
  を無視することはできない。これまであまり紹介されていな
  い無機起源説を取り上げて、その内容の理解を深めることと
  した。    ――日本エネルギー経済研究所/主任研究員
                      中島 敬史 氏
http://www.engy-sqr.com/member_discusion/document/sekiyu-mukisetsu051001.htm
  ―――――――――――――――――――――――――――

「未知なる地底高熱生物圏」/ゴールド.jpg
「未知なる地底高熱生物圏」/ゴールド
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2010年10月27日

●ベトナム天然ガス事業とロシア(EJ第2313号)

 EJ第2311号で、ベトナム油田の開発について次のことを
書いたのですが、再現しておきます。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ベトナム沖では、これまで主な探鉱対象とみなされていなかっ
 た花崗岩質基盤岩を対象とする探鉱が近年活発化し、大規模油
 ガス田の発見が相次いでいます。このように、探鉱最前線では
 次々と新たな地質プレイ――従来試みられなかった、新しい地
 質概念に基づく探鉱対象にチャレンジする姿が見られ、発見効
 率が向上しているのです。      ――EJ第2311号
―――――――――――――――――――――――――――――
 つまり、ベトナム沖では石油が出ているのですが、この海底油
田はいわく付きであり、ロシアが支援をしていることはあまり知
られていないのです。
 実はロシアは、かなり前から密かに「無機成因説」に立って油
田の探索をやってきていると思われるのです。そのため「超深度
油井」の探索・掘削について高度な技術を持っているのです。
 1970年にロシアは、40230フィートの深度に達する実
験油井を掘ることに成功しています。地球のマントルという非常
に深いところに石油があるという理論なので、深く油井を掘る必
要があるのです。
 ベトナム南部沖の海底油田は、1970年代に米国のモービル
社が開発に着手したのですが、サイゴン陥落後はソ連が引き継い
で、1986年にバクホー油田で商業生産を開始したのです。
 ロシアは、ベトナムに対してある提案をしたのです。ベトナム
に、リスクのない共同石油事業を始めたいと主張したのです。石
油技術者をモスクワから派遣して、ロシアは装備と技術を無料で
提供し、実際に石油が見つかって、その事業が商業ベースに乗っ
た際にはその利益の数パーセントを手数料としてもらえればいい
という提案なのです。
 ロシアとしてはよほど自信がなければ、こういう不利な提案は
しないはずですが、既に超深度油井の掘削に自信を持っていたの
で、ベトナムに提案したのでしょう。一方、ベトナムには失う物
は何もなかったので、ロシアに即時に同意しています。このロシ
アの提案は成功し、ベトナムの石油事業は軌道に乗ったのです。
 結果として、ロシアはベトナムの自信を回復することに助力し
ベトナムは西側諸国の過大な食糧援助への依存を石油事業の成功
によって減らすことができたといわれます。
 ベトナムでの石油採掘は、1960年にハノイトラフで開始さ
れたのですが、当初は成功の可能性が低かったのです。しかし、
当時のソビエト連邦からの技術的・経済的援助のもとでハノイト
ラフにおける採掘は行われ、1969年には初めての試掘井戸が
開坑しています。それ以来多数の油田が掘り当てられ、その過程
で天然ガスも発見されています。このように徐々に石油資源・天
然ガス資源の開発が進められ、やがてベトナムの石油産業は国の
経済を支え、かつ国家歳入の大きな割合――25%近くを占める
基幹的産業となるに至っているのです。
 少し歴史を振り返ると、もともとロシアは1980年代には原
油生産量日量1000万バレルを誇る世界最大の産油国だったの
です。しかし、1980年代後半以降は、原油価格低迷期におい
て石油収入が激減して国家財政が危機に瀕し、ソビエト連邦の崩
壊の引き金になったのです。
 ソ連崩壊後は、社会主義経済から市場経済に移行し、フランス
の石油サービス会社シュランベルジェなどの外国資本の技術を受
け入れ、ロシアの石油産業は劇的に復活を遂げているのです。そ
の結果、ロシアは天然ガス生産第1位、原油生産量はサウジアラ
ビアに次いで第2位のエネルギー大国になっています。
 このようにロシアは、天然ガスに強いのです。実は天然ガスに
強いということは、ロシアが超深度油井の掘削に強いことを証明
しているのです。これは、今後のロシアの国家戦略と深く関って
くるのです。
 天然ガスの利用は、石炭、石油に次いで3番目であり、遅れて
登場してきたエネルギーなのです。なぜでしょうか。その理由に
は次の3つがあります。
―――――――――――――――――――――――――――――
   1.天然ガスは運搬が困難な気体であること
   2.天然ガスは石油より深い地層に存在する
―――――――――――――――――――――――――――――
 第1の理由は、固体の石炭、液体の石油と違って天然ガスは気
体であって、運搬が難しく、パイプラインの敷設などでコストが
かかる点が上げられます。
 したがって、当初天然ガスは、ガス田が消費地に近い場合や所
得水準の高い地域でしか利用できなかったのです。しかし、技術
の発達した現在は、まさに天然ガスの時代といえます。
 第2の理由は、天然ガスは石油よりもさらに深い地層に存在し
ていることです。要するに、深く掘る技術がないとガス田の発見
が困難なのです。
 したがって、ロシアが天然ガス生産第1位であることは、ロシ
アが深い油井を掘る技術に優れていることを意味しています。石
油会社はどちらかというと、なるべく深く掘るのは避ける傾向が
あるのですが、ロシアは、そういう技術に長けているのです。こ
れに関連して、藤和彦氏は次のように書いています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 特に地層が深くなればなるほど石油より天然ガスの方が多く存
 在することが確実なので、今後資源探査の対象がより深い層に
 なればなるほど、多くのガス田が発見されてくることになる。
               ――藤 和彦著『石油を読む』
      より。日本経済新聞社/日経文庫1128/A52
―――――――――――――――――――――――――――――
 繰り返しますが、これからは石油の時代というよりも天然ガス
の時代なのです。       ―― [石油危機を読む/24]


≪画像および関連情報≫
 ●天然ガスとは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  天然ガスとは、地下から噴出するガスのうちの、メタンガス
  などの可燃性天然ガスをいう。同じ化石燃料ではあるが、石
  油や石炭に比べて燃焼したときの二酸化炭素の排出量が少な
  いことから、環境負荷の少ないエネルギーとして注目され、
  利用されるようになったのである。天然ガス自動車、ビルや
  家庭の冷暖房を行うコジェネレーションなどへの活用も図ら
  れている。             ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●天然ガス自動車
  http://www.gas.or.jp/ngvj/text/ngv_str.html

天然ガス自動車.jpg
天然ガス自動車
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2010年10月28日

●エネルギーを外交手段として使うロシア(EJ第2314号)

 ロシアの石油・天然ガス戦略に話が及んできたので、いわゆる
「地政学リスク」といわれるものについて述べることにします。
なぜなら、これも原油価格高騰に大きな影響を与える要素である
からです。
 ところで、ロシアといえば最近プーチン大統領の再婚話が話題
となっています。これについて21日の日刊「ゲンダイ」紙に興
味ある記事が出ていましたのでご紹介します。
 記事の内容は、プーチン大統領の再婚騒動はクレムリンの権力
闘争だったというのです。このニュースを報道した日刊タブロイ
ド紙「モスコフスキー・コレスポンデント」が休刊したことにつ
いて、外務省元主任分析官佐藤優氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 コレスポンデント紙はクレムリンを巡る権力闘争に巻き込まれ
 たのではないか。次期大統領メドベージェフ周辺がプーチン大
 統領に対する世論の支持と国民の恐怖感がどれくらい残ってい
 るのかを政権交代前に探り、プーチンにダメージを与えようと
 仕組んだ可能性が高い。           ――佐藤優氏
        2008.4.21日付、日刊「ゲンダイ」より
―――――――――――――――――――――――――――――
 次期大統領メドベージェフ氏には「プーチンの傀儡」というイ
メージがあり、とてもそんなことができるイメージはないように
みえます。しかし、プーチン自身もエリツィンから大統領の指名
を受けて大統領になったにもかかわらず、プーチンはエリツィン
の力をそいで、絶対的な権力基盤を構築しており、メドベージェ
フも同じことをきっとやると思われているのです。
 それでは、メドベージェフ周辺が今回仕掛けた謀略の成果は、
どうだったのでしょうか。
 その判断は非常に難しいですが、ロシアでは過去に大統領の女
性スキャンダルが表沙汰になったことはないのです。エリツィン
もゴルバチョフにも女性問題があったのですが、表沙汰にはなら
なかったのです。しかし、今回はニュースが世界中に流される結
果となっており、これをどうみるかです。もとよりプーチン大統
領が悪いわけではないのですが、この騒動を権力闘争と考えると
ロシアがどういう国であるかがわかります。
 このニュースをなぜ取り上げたかですが、次期大統領のメドベ
ージェフが、2000年から2002年までロシアのガス企業で
ある「ガスプロム」社の取締役会議長(会長)を務めていたこと
があるからです。彼はエネルギーの問題については熟知している
のです。
 「地政学」というのは、もともと19世紀の欧州におけるパワ
ーポリティクス――権力政治の概念であり、ドイツの政治学者カ
ール・ハウスホーファーが学問として体系化したのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 地政学とは地理的な環境が国家に与える政治的、軍事的、経済
 的な影響を巨視的な視点で研究するものである。イギリスドイ
 ツ、アメリカ合衆国などで国家戦略に科学的根拠と正当性を与
 えることを目的とした。「地政学的」のように言葉として政治
 談議の中で聞かれることがある。    ――ウィキペディア
―――――――――――――――――――――――――――――
 現在、この地政学の概念は拡大され、石油や天然ガスなどの資
源保有国における政治的、宗教的、社会的リスクが国際関係に与
える影響までも含む幅広い問題を取り上げるようになってきてい
るのです。具体的には、イランの核開発問題、ナイジェリアにお
ける反政府運動、ベネズエラにおける反米社会主義的政策による
石油資源の国有化などが上げられますが、いずれも原油価格高騰
に関わる地政学リスクといえるのです。
 ロシアのプーチン大統領は、ロシアにとって石油と天然ガスは
国威発揚の有力な武器になるとの信念を持っているのです。20
05年以降において、彼は石油・天然ガスを次の3つの国家企業
によって独占させることによって、国家戦略として使おうとして
いるのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
   石油       ・・・・・ ロスネッチ
   天然ガス     ・・・・・ ガスプロム
   輸送パイプライン ・・・・・ トランススネフチ
―――――――――――――――――――――――――――――
 2006年になると、プーチン大統領はこれを実施に移してい
ます。2006年正月早々、ロシアはウクライナに対して天然ガ
スの供給を停止したのです。かねてからロシアとウクライナは天
然ガスを巡ってもめていたのです。
 このニュースは衝撃をもって全世界に伝えられたのです。遂に
ロシアはエネルギーを外交手段として使い出してきている――世
界はこう考えたのです。どうみても「ウクライナいじめ」としか
みえなかったので、ウクライナに国際的同情が集まったのです。
 なぜ、このようなことになったのでしょうか。なぜ、ロシアは
ウクライナに対し、天然ガスの供給を止めるという措置を取った
のでしょうか。
 その原因は、ロシアのガスプロム社が2005年11月に、旧
ソ連・東欧諸国に対して、天然ガスの輸出価格の大幅値上げを通
告したことに始まるのです。
 しかし、ウクライナに対しては、1000立方メートル当たり
50ドルであった料金を160ドルに引き上げたのです。これに
対してウクライナが反発すると、ガスプロム社はさらに230ド
ルに引き上げたのです。
 当然ウクライナは拒否したのですが、そうするとガスプロム社
は2006年1月から天然ガスの供給を停止したのです。なぜ、
ウクライナにだけはこういう結果になったのでしょうか。
 これについては、双方にいろいろな事情があり、一概にどちら
が悪いとはいえないのです。この問題については、来週のEJで
述べることにします。     ―― [石油危機を読む/25]


≪画像および関連情報≫
 ●地政学リスクとは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  地政学リスクとは、特定地域が抱える政治的・軍事的な緊張
  の高まりが世界経済全体の先行きを不透明にすること。米連
  邦準備理事会(FRB)が2002年9月に出した声明文で
  触れてから、多く用いられるようになった。主に中東情勢の
  緊迫を指すが、予測が極めて難しく、不確実性の増大が企業
  行動や消費者心理に悪影響を与え、外国為替相場が乱高下す
  るなど、経済活動の障害になる可能性がある。
  ―――――――――――――――――――――――――――

ドミトリー・メドベージェフ.jpg
 
ドミトリー・メドベージェフ
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2010年10月29日

●地政学か地経学か/ロシアの戦略(EJ第2315号)

 ロシアとウクライナの天然ガスを巡る紛争には歴史的に見てい
ろいろないきさつがあるのです。この紛争には直接関係はないも
のの、遠因ではないかとされているのは、ソ連崩壊後の混乱期に
ロシア側がウクライナに対して貿易代金の不払いをやった過去が
あったことです。
 資源が少なく、経済的にも苦しいウクライナとしては、これに
よって、ロシアに対して強い不信感を持つようになったと思われ
るのです。おそらくソ連崩壊後のロシアは、ウクライナへの貿易
代金が払えなかったものと思われます。
 ロシアはソ連時代に東欧から西欧にかけてパイプライン輸送網
を敷き、天然ガスを西欧諸国を含む関係各国に供給していたので
す。とくにウクライナを含む旧共産圏の国に対しては、他の西欧
諸国よりも格段に安い価格で天然ガスを供給していたのです。
 この場合、パイプラインは各国の領内を通るので、その部分は
「パイプライン利用料」として、ロシアがその国に利用料を支払
うことになっているのです。
 ウクライナはソ連邦時代から、再三にわたってロシアに無断で
ガスの抜き取りをしたり、天然ガスの料金を支払わなかったりし
ており、それに対抗してソ連はガスの供給を停止することが何度
も行われていたのです。
 そして、プーチン大統領統治下の2006年1月にロシアはウ
クライナに対して天然ガスの供給停止を行ったのです。ロシアと
しては、今までと同様の経済的なもめごとであり、ビジネス上の
出来事に過ぎないとしているのです。つまり、「地政学」ではな
く、「地経学」であるというわけです。
 しかし、この問題は今後のロシアのエネルギー戦略を読み取る
格好の事例であり、少し詳しく述べることにします。
 そもそも2005年のロシアとウクライナの天然ガスをめぐる
紛争が政治的であるとみられるのは、2004年12月のウクラ
イナ大統領選挙でビクトル・ユーシチェンコ大統領が誕生し、彼
が親欧米の立場を鮮明にしたことにあるのです。この選挙を巡っ
て、いわゆる「オレンジ革命」が発生しています。
 オレンジ革命というのは、米国が仕掛けたとみられる「色つき
革命」と呼ばれる民主化活動であり、ウクライナ大統領選挙のさ
い、巻き起こったのです。なぜ、オレンジ革命というのかという
と、オレンジをシンボルカラーとして、リボンやマフラーにオレ
ンジ色の物を使用したことからなのです。ロシアが応援したのは
ビクトル・ヤヌコビッチ候補であり、この選挙でプーチン大統領
はそれこそなりふりかまわずヤヌコビッチ候補に肩入れしたので
すが、ユーシチェンコ候補に敗れ去ったのです。
 勝利を勝ち取ったユーシチェンコ大統領は、EUへのウクライ
ナの加盟を希望し、ロシア離れの立場を公然と表明したのです。
加えてユーシチェンコ大統領は、ロシアが提唱する「CIS」に
よる「集団安全保障条約機構」と「ユーラシア経済共同体」にも
拒否反応を示したのです。
 CISというのは、旧ソ連邦の12ヶ国で形成された緩やかな
国家共同体であり、これを「独立国家共同体」と称するのです。
ウクライナから見ると、プーチン大統領は、旧ソ連邦の12ヶ国
を再びまとめようと画策しているように見えるのでしょう。
 この事態を見てロシアはウクライナに対して、欧米化路線を取
るなら、CISに対するガスの特別価格を廃して、西欧諸国並み
の料金である230〜40ドル(1000立方メートル当たり)
を支払えと通告したのです。
 それまでロシアはウクライナに対して、ソ連崩壊後、パイプラ
インのウクライナ通過料とバーター決済で、50〜80ドルで提
供していたのです。したがって、ロシアの値上げ通告は、3倍か
ら4倍の大幅値上げになるのです。
 当然ウクライナは猛反発し、ロシアの要求を拒否し続けたので
す。段階的な値上げならともかく、一挙に4倍なんか支払えるは
ずがないというわけです。
 ロシアの本音としては、何とかウクライナをロシアの勢力圏に
取り込みたかったのです。ウクライナは1991年にソ連から独
立しているのですが、ウクライナは、国内においてエネルギー資
源を産出できないので、エネルギーに関しては大きくロシアに依
存せざるを得ない立場です。
 ウクライナという国は、黒海に面しており、カスピ海で産出さ
れる石油・天然ガスの欧米に対しての積み出し港として重要なポ
ジションにあったのです。もちろんロシアはウクライナを地政学
的に重要な地域としてとらえています。
 ロシアとウクライナのガス価格交渉の経過について、ソ連・ロ
シア研究の第一人者である木村汎北海道大学名誉教授は次のよう
に述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 モスクワとキエフ(ウクライナ)の主張は平行線をたどり、決
 着する見通しが一向に立たなかった。業を煮やしたプーチン政
 権は、遂に05年末、キエフ宛に最後通牒を突きつけた。もし
 キエフが1000立方メートル当たり230〜40ドルへの値
 上げに応じなければ、モスクワは翌年1月1日を期して、ウク
 ライナ向けのガス供給を停止する、との通告である。その言葉
 どうりにロシアは、06年元旦の午前10時、ガスの元栓を締
 めた。    ――木村汎著、『プーチンのエネルギー戦略』
                         北星堂刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 これがロシアのプーチン政権がウクライナに対して取った強硬
措置です。ロシアは単なるビジネス上のもめごとであると主張し
ていますが、これはプーチン政権による「エネルギー外交戦略」
そのものです。それは単にウクライナだけではなく、EU諸国や
日本に対しても今後ロシアが取ってくる可能性のある戦略である
といえます。ロシアはエネルギーを外交の手段として使おうとし
ているのです。         ―― [石油危機を読む/26]


≪画像および関連情報≫
 ●オレンジ革命について
  ―――――――――――――――――――――――――――
  プーチンは2003年のイラク戦争には反対して米国と対立
  する。イラクのフセイン政権打倒を果たし、自信を付けたア
  メリカ政府は「世界民主化」と銘打って、西欧のNGOなど
  と共にCIS域内の民主化勢力の支援を行った。この結果、
  グルジア(バラ革命)、ウクライナ(オレンジ革命)、キル
  ギスで独裁政権が倒れて民主化された。しかし、米軍が駐留
  していたウズベキスタンでは、市民運動が革命に繋がらずに
  失敗、その結果アメリカは怒りを買い、同国から米軍を撤収
  させることとなった。また、プーチンはこの動きに対し、2
  006初頭にウクライナへの天然ガス輸出を停止、EU諸国
  にも影響を与え、欧米の民主化勢力を牽制した。
                    ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

木村汎教授の本.jpg
木村 汎教授の本
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2010年11月01日

●地理的に優位に立つウクライナ(EJ第2316号)

 ロシアとウクライナの天然ガスを巡る紛争は、次の2社の間の
紛争に置き換えることができます。しかし、両社はともに国営企
業であり、これは完全に2国間の紛争ということになります。
―――――――――――――――――――――――――――――
  ガス供給事業者 ・・・・       ガスプロム社
  ガス需要事業者 ・・・・ ナフトハス・ウクライナ社
―――――――――――――――――――――――――――――
 最初にロシアとウクライナの紛争の結果について述べておくこ
とにします。ロシアは、ウクライナにはガスの供給を止めました
が、ガスはウクライナの領土を通るパイプラインでEU諸国にも
供給されているので、これは止めることはできないわけです。
 寒さの厳しい正月にガスを止められたウクライナは、パイプラ
インの途中に設けられている複数の取り入れ口から、EU諸国向
けのガスを不法に抜き取ったのです。このガスの抜き取り行為に
ついて、ウクライナのユーリー・エハヌロフ首相はそれを認めて
いますが、ウクライナはガスの抜き取りを前にも何回もやってお
り、それほど珍しいことではなかったのです。
 しかし、ウクライナのガスの抜き取りによって、EU諸国への
供給量は3分の1程度減ったのです。こうなると、エネルギーの
安定供給源としてのロシアの信用は毀損することになり、ロシア
としても何らかの手を打たざるを得なかったといえます。
 こういうわけでロシアはガスの供給停止から24時間後にウク
ライナと交渉をはじめ、両国は1月4日に合意に達したのです。
ウクライナのナフトハス・ウクライナ社の交渉の相手になったの
は、ロシア国営ガスプロム社が50%を出資する仲介会社ロスウ
クルエネルゴ社だったのです。
 しかし、その合意の内容としては次の通りですが、ロシア側は
非常に巧妙な仕掛けをしているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.ロシア産のガスについては、1000立方メートル当たり
   230ドルの国際価格を支払う
 2.ロスウクルエネルゴ社は中央アジア産の安いガスを購入し
   てロシア産と混ぜ合わせて提供
 3.上記1と2の処置によって、ウクライナが実際に支払う値
   段は95ドルに減額されること
―――――――――――――――――――――――――――――
 この合意でロシア側が狙ったのは、あくまでウクライナに対し
て230ドルという国際価格を飲ませることにあったのですが、
これはクリアしています。これで、従来50ドルであったガス価
格を4倍〜5倍値上げすることに成功しているのです。
 しかし、価格の安い中央アジア産のガス――1000立方メー
トル当たり50ドルとロシア産を混ぜ合わせて95ドルで提供す
るというのですから、ウクライナは2倍程度の値上がりで済んだ
ことになります。
 しかし、ウクライナが勝ち得た95ドルという合意はきわめて
不安定なものです。なぜなら、この95ドルは、ロシア側が、安
い中央アジア産のガスを入手してロシア産の高いガスと混ぜ合わ
せるということが前提に立っているからです。したがって、もし
ウクライナが、ロシアがさらに嫌う政治的方向に進んだ場合は、
いつでもその前提を変える可能性がないとはいえないからです。
 その証拠にロシアは、天然ガスの価格を経済的要因というより
も自国にとって政治的にどのようなポジションを占めるかによっ
てガスの価格を決めているからです。次の表は天然ガス1000
立方メートル当たりの価格です。単位はドルです。
―――――――――――――――――――――――――――――
             2006  2007   備考
 ラトビア     145〜155   217   反ロ
 リトアニア    115〜155   210   反ロ
 エストニア        190   260   反ロ
 ウクライナ         95   130   親欧
 ベラルーシ      46.68   100   親ロ
 モルドバ     110〜160   170 反ロ共産
 グルジア         110   235 反ロ親欧
 アルメニア        110   110   親ロ
 アゼルバイジャン     110   235 
 ブルがニア    257〜258
 ルーマニア    270〜285
 欧州諸国     245〜285   293
     ――木村汎著、『プーチンのエネルギー戦略』より
                        北星堂刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 これを見ると、欧州諸国に提供するガスの標準価格は240ド
ル、これに対して親ロシアで有名なベラルーシは、約47ドルと
超優遇されています。ラトビア、リトアニア、エストニアなどの
CIS諸国の平均価格が115〜190ドルであることを考える
と、紛争を起こしてロシアともめて親欧のウクライナは95ドル
とかなり優遇されているように思います。それは、2007年の
数字を見ると歴然としています。
 それは、ウクライナがロシアに対して地理的優位性に立ってい
るからです。ウクライナはロシアの国境を接しており、欧州諸国
との間に存在するという優位性に立っているのです。
 EU加盟の27ヶ国が消費するガスの25%はロシアからの輸
入品であり、そのうちの80%はウクライナ経由で欧州諸国に届
くのです。そして、残りの20%はベラルーシ、ポーランド経由
なのです。
 つまり、ロシアが欧州諸国に送るガスに対して、ウクライナは
その地理的優位性がゆえにガスの通過料をロシアに対して請求で
きるポジションを占めています。ロシアがウクライナに本気で強
く出られないのはそういう理由があるからです。
                ―― [石油危機を読む/27]


≪画像および関連情報≫
 ●ヨーロッパの財閥と企業グループ52欧州財閥の系譜
  ―――――――――――――――――――――――――――
  政治・経済の両面でロシアの影響を大きく受けるウクライナ
  は、2005年に改革派で親米派のユシチェンコ政権の成立
  後、暗転し始めました。それまでの好調な経済は、ロシアか
  らの安価なエネルギー資源及び原料の供給、経済発展を続け
  るロシアや中国への輸出等によって支えられてきました。し
  かし、ユシチェンコ大統領は就任直後、ロシアとは距離を置
  き、EUやアメリカなどとの関係を強化する姿勢を示したの
  です。     http://fxthegate.com/2008/02/52_28.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

ロシアとウクライナ.jpg
ロシアとウクライナ
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2010年11月02日

●ガスプロムとはどういう企業か(EJ第2317号)

 2008年4月26日のことです。福田首相はロシアを訪問し
モスクワ郊外の大統領公邸において、プーチン大統領と会談して
います。プーチン・ロシア大統領最後の日ロ首脳会談となったわ
けです。
 問題は、福田首相がこの忙しい時期になぜロシアにだけは行っ
たかということです。道路特定財源の一般財源化や暫定税率の再
議決問題、後期高齢者医療問題など難問が山積しているにもかか
わらずです。おそらくそれは外交で少しでも得点を稼ぎ、支持率
低下に歯止めをかけたいという思いがあったものと思われます。
 日本サイドから考えると、ロシアとの間には北方領土という領
土問題はあるものの、それ以外に大きな懸案事項はとくにないと
いえます。しかも、ロシアは領土問題を交渉する窓口を閉じてい
るわけではないのです。したがって、日本としてはこれからもロ
シアと粘り強く交渉を重ねる必要があります。
 一方ロシア側としては、現在展開中のエネルギー戦略や環境の
問題において、日本の技術や資金などの協力を引き出したいと考
えています。したがって、北方領土問題という交渉材料を巧みに
使いながら、少しでもロシアに有利に目的を達したいと考えてい
るのです。つまり、両者が交渉のテーブルに着く十分な目的はあ
るといえます。
 4月27日の日本経済新聞は、今回の日ロ首脳会談について次
のように書いています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 プーチン政権は資源外交の一環としてアジア太平洋地域での影
 響力の拡大を図っており、日本との経済・技術協力への期待が
 高い。中国と日本で競り合っていた東シベリアのパイプライン
 建設を巡り、今回、日本向けのパイプライン建設に有利になる
 と見られる日ロの共同探鉱が実現したのもそのためだ。
      ――2008.4.27付、日本経済新聞朝刊より
―――――――――――――――――――――――――――――
 ロシアのエネルギー戦略について語るとき、知っておくべきこ
とがあります。それは「ガスプロム」についてです。
 ガスプロムというのは、ロシア政府系の天然ガス独占体のこと
です。設立は1989年で、旧ソ連邦のガス工業省が改組され、
ガスプロムが設立されたのです。初代社長は、旧ガス工業大臣の
ビクトル・チェルノムイルジンです。
 チェルノムイルジンは、1992年12月にエリツィン大統領
によって首相に任命され、レム・ヴャヒレフが二代目首相に任命
されたのです。
 しかし、チェルノムイルジンにしてもヴャヒレフにしても絵に
描いたようなソ連時代の典型的な官僚であり、腐敗や汚職にまみ
れる閨閥人事を行い、10億ドルを超える私的財産を築いたとい
うどうしようもない社長だったのです。
 プーチン大統領の時代になった2002年6月にレム・ヴャヒ
レフ社長は更迭され、アレクセイ・ミレルが三代目の社長になっ
たのです。アレクセイ・ミレルは、プーチンがサンクトペテルブ
ルグ市役所時代の部下であり、凡庸な人物ではあったものの、プ
ーチンとしては使いやすかったものと思われます。
 プーチン大統領は、ガスプロムに全面的なバックアップ体制を
取り、ガスプロムをして彼のエネルギー戦略の中核的存在を担わ
せたのです。その結果、ミレルが社長になってから2005年ま
での間にガスプロムの資本金は約10倍になったのです。これに
よって、ミレルは難なく社長に再選されたのです。
 現在、ガスプロムは、世界企業番付で、次のように第4位を占
める大企業になっています。エネルギー分野に絞ると、エクソン
モービルに次いで第2位であり、ガス分野では、世界一の存在に
なっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
        1.エクソンモービル
        2.ゼネラル・エレクトリック
        3.マイクロソフト
        4.ガスプロム
―――――――――――――――――――――――――――――
 ガスプロムは、現在ロシア政府がその株式の51%を保有して
おり、事実上の国営企業となっています。それだけではないので
す。その役員構成を見ると大臣がそのまま役員を兼務するという
驚くべきことがわかります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 会 長 ドミトリー・メドベージェフ第一副首相
 社 長 アレクセイ・ミレル
 取締役 ゲルマン・グレフ経済発展相(当時)
 取締役 ビクトル・フリスチェンコ産業エネルギー相
 取締役 イーゴリ・ユスコフ国際エネルギー担当大統領特使
―――――――――――――――――――――――――――――
 彼らはプーチン派の中心的メンバーであり、プーチンの意のま
まに動く人物ばかりです。したがって、今年プーチン大統領が辞
任すると、首相に就任したうえガスプロムの会長職を兼務するの
ではないかと見られているのです。既出の木村汎氏は、ガスプロ
ムについて次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ロシアの政治学者リリア・シェフツオーバはガスプロムを「国
 家核心」であり、「クレムリンの意思の体現者」であるとさえ
 名づけた。別の研究者はガスプロを「クレムリンの旗艦」と呼
 ぶ。(中略) 日本のエネルギー研究家、渥美正洋によれば、
 プーチン大統領の「資源外交の実働部隊」の役割をはたしてい
 る。   ――木村汎著、『プーチンのエネルギー戦略』より
                         北星堂刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 あのウクライナとの紛争でも指令を出していたのは、ガスプロ
ムであったのです。       ―― [石油危機を読む/28]


≪画像および関連情報≫
 ●ガスプロムについて言及しているサイト
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ガスプロム社は、天然ガス生産量世界最大を誇る、ロシアを
  代表する超巨大企業です。1989年設立で、前身はソビエ
  ト連邦ガス工業省。その天然ガスの生産量は、全世界の4分
  の1を占めるほどです。ロシア最大規模の財閥企業ですが、
  株式の過半数をロシア政府が握っており、準国営企業なので
  す。ロシアは「国内のエネルギー産業は国が統制する」と明
  言しており、ガスプロムはその典型といえます。
      http://www.brics-jp.com/russian/gas_purom.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

日ロ首脳会談/2008.4.26.jpg
日ロ首脳会談/2008.4.26
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2010年11月04日

●サハリン2の特色と誤算(EJ第2318号)

 2006年9月19日のことです。日本の新聞各紙の一面に次
の見出しが掲載されたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
        サハリン2、工事承認取り消し
―――――――――――――――――――――――――――――
 「サハリン2」というのは何でしょうか。
 「サハリン2」とは、ロシアのサハリン州で行なわれている石
油・天然ガスの開発事業のひとつです。開発をスタートさせた時
期によって、「サハリン1」とか「サハリン2」とか「サハリン
3」などと名称がつけられています。
 「サハリン2」には、他のプロジェクトと大きく異なる特色が
あります。既出の木村汎氏はその特色について次のように述べて
います。
―――――――――――――――――――――――――――――
 「サハリン2」は、次のような特徴をもつ。第1にそれには、
 「最大」「100%」「はじめての」などの形容詞がつけられ
 るプロジェクトであること。すなわち、「サハリン2」は、世
 界「最大」の液化天然ガス(LNG)プロジェクトである。第
 2に外資「100%」のプロジェクトであり、ロシア企業は一
 切関与していない。第3に、「生産分与協定」にもとづくプロ
 ジェクトである。
      ――木村汎著、『プーチンのエネルギー戦略』より
                         北星堂刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 ところで、外資100%のプロジェクトであり、ロシア企業は
一切関与していないのはどういうことでしょうか。
 サハリン2の事業主体は、サハリン・エナジー社といい、19
94年に、次の外国の3社が出資して作ったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
    ロイヤル・ダッチ・シェル ・・・ 55%
    三井物産 ・・・・・・・・・・・ 25%
    三菱商事 ・・・・・・・・・・・ 20%
    ――――――――――――――――――――
                    100%
―――――――――――――――――――――――――――――
 こういう事態になったのは、ソ連が解体した1991年代当時
のロシア経済がきわめて脆弱であったことが上げられます。この
時代において、ロシアが自国のエネルギーを独力で開発すること
などできるはずがなかったのです。
 資本や技術力を持たない産油国が外国資本を取り入れる方法は
次の4つしかないのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
           1.コンセッション
           2.請負い
           3.合弁
           4.生産分与協定
―――――――――――――――――――――――――――――
 「コンセッション」とは、民間事業者に付与される事業運営や
開発にかかわる権利のことであり、2と3については文字通りの
意味です。ロシアの場合は、4の「生産分与協定(PSA)」を
採用したのです。
 PSAとは、あくまで産油国が事業主体として事業運営の責任
は持つのですが、実際の事業管理は外国企業が行い、産油国は口
を出せないのです。そして、外国企業が投入するコストは生産物
の一部によって回収されることになります。
 そのようにして投資を生産物から回収したあとに残った余剰利
益は、産油国と外国企業の間で生産物のかたちで分配されること
になるのです。
 サハリン2のPSAについて具体的に述べると、次のようにな
ります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.外国企業3社が開発費用の全額――120億ドルを負担し
   て開発を進めることとする
 2.事業主体のサハリン・エナジー社は総事業費を回収するま
   で生産物の所有権を有する
 3.事業主体のサハリン・エナジー社は開発全期間を通じて利
   益の6%をロシアに支払う
―――――――――――――――――――――――――――――
 1993年にエリツィン大統領は、PSAに関する大統領令を
発して翌年からサハリン2は動き出したのです。
 しかし、サハリン2では、次の3つの大きな誤算が生ずること
になったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.事業費が当初の120億ドルより増えて200億ドルにな
   ったこと
 2.LNGの出荷時期が大幅遅延し、2008年以降にずれ込
   んだこと
 3.サハリン2に関して、環境保護団体からのクレームが増大
   したこと
―――――――――――――――――――――――――――――
 実はサハリン2にとって最大の誤算は、2000年5月に大統
領に就任したプーチン大統領がこのPSAの仕組みに疑問を持っ
たことであったと思われます。
 プーチン大統領にとってラッキーだったことは、彼が就任した
頃から原油の国際価格が高騰をはじめたことです。ロシアが19
98年に金融危機に見舞われたときの原油国際価格は1バレル当
たりわずか11.80ドルと底値を記録しているのに対し、20
00年9月には、1バレル当たり33ドルに高騰しはじめたから
です。             ―― [石油危機を読む/29]


≪画像および関連情報≫
 ●「サハリン2」の鉱区について
  ―――――――――――――――――――――――――――
  鉱区は樺太東北部沖のオホーツク海海底に存在する。原油は
  約11億バーレル、天然ガスは約18兆立方フィートの推定
  可採埋蔵量が推定されている。鉱区は主にピルトン・アスト
  フスコエ鉱区とルンスコエ鉱区に分かれる。前者は主に石油
  が、後者は天然ガスが埋蔵されていると見られる。
                    ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

サハリン2のパイプライン.jpg
サハリン2のパイプライン
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2010年11月05日

●なぜ、事業費倍増になったのか(EJ第2319号)

 プーチン大統領は考えたのです。サハリン・エナジー社による
「サハリン2」は、自分のエネルギー戦略の基本原理をやがて侵
犯する――と。しかし、そうかといって、サハリン・エナジー社
を構成する外資系3社のロイヤル・ダッチシェル、三井物産、三
菱商事を直ちに締め出すのは得策ではないと考えたのです。
 なぜなら、当時のロシアには、サハリン2のプロジェクトを単
独で継続運営していくのは困難だったからです。世界一流の技術
に経営ノウハウ、販売ルートの開拓など、ロシアのガス独占企業
体ガスプロムが単独でやっていくのは容易ではなく、そんな力は
なかったのです。とくに液化天然ガス――LNGについてはガス
プロムは知識とノウハウを完全に欠いていたのです。
 ここは時間を稼ぐ必要がある――その間にガスプロムが力をつ
けることが得策であるとプーチン大統領は考えたのです。最終目
的はサハリン2の株主としてガスプロムが入ることであり、しか
も英蘭日3社の株式の合計を1株でもいいからガスプロムが上回
ることである――これがプーチン大統領の狙いだったのです。問
題はどのタイミングでそれをやるかです。
 クレムリンにとってその絶好の機会が訪れたのです。それは、
サハリン・エナジー社が計画の変更を理由として事業費倍増をロ
シア側に申し入れしてきたことです。実はサハリン・エナジー社
がそうせざるを得ないように仕向けたのは、プーチンサイドの仕
掛けだったのです。
 なぜサハリン・エナジー社が、計画の変更をしなければならな
かったかというと、ロシア環境保護団体が「サハリン2プロジェ
クトは環境破壊を冒している」として抗議の申し入れをしてきた
からです。
 具体的には、次の2つの環境破壊が深刻であるというのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.沖合い油田・天然ガス田からサハリン陸上に輸送する海底
   パイプラインがコクジラの餌場を通過していること
 2.河川にも影響がある。サケが産卵期に遡上してくるため、
   パイプラインの建設はサケの遡上通行の妨げになる
―――――――――――――――――――――――――――――
 最大の問題は、こうした環境保護団体の抗議に対してロシア政
府が後押ししたことです。ロシア政府のその措置がいかに突然の
変身であったかについて、既出の木村汎氏は自著において次のよ
うに述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 「モスクワ・ニューズ」(2006年11月3日)紙上のナタリ
 ア・アリヤクリンスカヤ女史の記事は、まさにロシアにおける
 環境保護団体たちのこのような反応を伝えている。環境問題に
 対するロシア政府の関心の増大それ自体は結構で大歓迎する。
 だがその一方、その背後事由にかんして何か胡散臭いものを感
 じる。(中略)というのも、ロシア政府は、次のような実績の持
 ち主だからである。「長年のあいだ環境論者たちの助けを求め
 る叫びを無視して、サハリンの環境に対して致命的な損害を与
 えるパイプライン建設者にフリーハンドをあたえてきた」。と
 ころが今や、ロシア政府は「突如として」「コクジラについて
 語り」、サハリンの「環境保護が第一」と声高に主張しはじめ
 た、と。 ――木村汎著、『プーチンのエネルギー戦略』より
                         北星堂刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 結局のところサハリン・エナジー社としては、コクジラの餌場
を避けてパイプラインのルートを変更したり、サケの産卵期には
工事を中止することなどのコスト上昇に加えて、中国などの急激
な経済成長に伴い、原油や鋼材をはじめ世界的に資源や資材の価
格が高騰したことによって、事業費の倍増をロシア側に伝えざる
を得なかったのです。
 サハリン・エナジー社がロシア側に対して事業費倍増の申し入
れを行ったのは2005年9月のことですが、そのときシェルと
ガスプロムの間ではある取引の話が進行しており、その話がほと
んどまとまりかけていたのです。シェルとしてはガスプロムをサ
ハリン・エナジー社に何らかのかたちで参加させざるを得ないと
感じていたものと思われます。
 その取引の話とは、ガスプロムに対してサハリン・エナジー社
の一部株式を交換するスワッピング取引のことです。シェルはサ
ハリン・エナジー社の株式を25プラス1%提供する代わりに、
ガスプロムが西シベリアのガス田「ザポリアルノエ・ネオコム」
プロジェクトの権益の半分を取得するというものです。この交換
契約は、2005年7月にその覚え書きの調印まで行われている
のです。
 ところが、2005年9月にサハリン・エナジー社が事業費倍
増を申し入れると、ガスプロムはまるでトリックにかけられ、騙
されたように激怒し、交換取引のキャンセルを表明したのです。
今後の交渉においてロシア側を有利にするための一連の陰謀とも
とれる行為であったといえます。
 ところで、これに関して、サハリン・エナジー社における日本
側の立場はどうなっていたのでしょうか。既に述べたように、日
本側としては、三井物産と三菱商事で45%の株式を握っている
のに常日頃から世界第2位のメジャーとしてのロイヤル・ダッチ
シェルの発言権に振り回され、何ら主導的立場が取れているとは
いえなかったのです。
 2006年9月に入ると、突如クレムリンによるサハリン・エ
ナジー社への攻撃は一段と激しさを増してきます。サハリン・エ
ナジー社が事業費倍増をロシア側に提案してからちょうど一年後
です。なぜ、あのしぶといロシアが一年待ったかですが、それは
2006年7月にロシアがはじめて主宰した主要国――G8――
首脳会議があったからではないかと思われます。
 それまでは、サハリン2はほとんど機能停止状態に陥っていた
のです。           ―― [石油危機を読む/30]


≪画像および関連情報≫
 ●佐藤優氏によるロシア事情
  ―――――――――――――――――――――――――――
  プーチン政権が立て続けに日本に対してシグナルを送ってい
  るが、アンテナが鈍くなった外務官僚にはそれがきちんと読
  み取れていないようである。情報収集を強化し、日本政府か
  らきちんとシグナルを打ち返さないと、近未来に政治、経済
  の両面で日本の国益を毀損する事態が生じると筆者は危惧す
  る。           http://web.chokugen.jp/sato/
  ―――――――――――――――――――――――――――

佐藤優氏.jpg
佐藤 優氏
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2010年11月08日

●サハリン2に対するプーチンの策略(EJ第2320号)

 2006年7月――ロシアのサンクトペテルブルグで開催され
たサミット――主要国首脳会談が終わると、プーチン大統領はサ
ハリン・エナジー社に対する攻勢を一段と強めたのです。
 一連の批判キャンぺーンの先陣を切ったのは、オレグ・ミトポ
リ天然資源監督局副局長です。ミトポリ副局長は批判キャンペー
ンの露払い役という役柄です。ロシアという国はこのように下の
クラスから徐々に格上げしていくのが常套手段なのです。
 続いてユーリ・トルトネフ天然資源相がサハリン2について、
次のように発言したのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 エナジー社はロシアの森林保護の規定を侵犯し、不法伐採をお
 こなっている。したがって、「サハリン2」のプロジェクトの
 続行はロシアの刑法と国益に反しており、停止されるべきであ
 る。   ――2006年11月1日/トルトネフ天然資源相
      ――木村汎著、『プーチンのエネルギー戦略』より
                         北星堂刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 この発言に対して西側のメディアは、発言者たちは政権トップ
が指示する命令にしたがう忠実な官僚であり、そういう意味にお
いて己自身の信念に従う確信犯ではなく、単なる風見鶏に過ぎな
いとして、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 クレムリンは、サハリン・エナジー社に圧力をかけて、モスク
 ワとのあいだで「己の」協定の内容を再交渉させる目的のため
 に、天然資源監督局を利用しているにすぎない。
    ――「ビジネスス・ウィーク誌」/木村汎著前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、ロシアは発言者を次々と格上げして、サハリン・エナ
ジー社を批判したのです。ユーリー・チャイカ検事総長はサハリ
ン・エナジー社は、ロシアの環境保護法を侵犯していると非難し
続いてゲルマン・グレフ経済発展相――当時、セルゲイ・ラブロ
フ外相まで批判を口にするようになったのです。
 これらの閣僚クラスの批判発言は積み上げられて「サハリン2
計画」の取り消し要求におよび、次いでそれはエナジー社の事業
免許の停止要求に発展したのです。さらにエナジー社を環境破壊
の罪で訴追し、損害賠償金を請求する動きにつながったのです。
 2006年12月8日――遂に追い詰められたサハリン・エナ
ジー社は、ガスプロムとの折衝に入ったのです。交渉はロイヤル
・ダッチ・シェルのファンデルフェールCEOとガスプロムのア
レクセイ・ミレル社長のトップ会談で行われたのです。
 会談はシェル側が譲歩に譲歩を重ねて、遂に12月19日に経
営主導権がガスプロムに事実上移されることによって決着したの
です。何しろガスプロムの条件を飲まないときは事業停止を突き
付けてくるのですから、サハリン・エナジー社の全面降伏という
ことになったのです。
 これによって、ロイヤル・ダッチ・シェル、三井物産、三菱商
事は、それぞれが保有している株の半分をガスプロムに移譲させ
られることになったのです。その結果、サハリン・エナジー社の
株の配分は次のようになります。ガスプロムは50%プラス1で
筆頭株主になったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
   ガスプロム ・・・・・・・・・  50.0%
   ロイヤル・ダッチ・シェル ・・  27.5%
   三井物産 ・・・・・・・・・・  12.5%
   三菱商事 ・・・・・・・・・・  10.0%
―――――――――――――――――――――――――――――
2006年12月21日――ガスプロムとサハリン・エナジー
社との調印式が行われ、シェルのファンデルフェールCEO、三
井物産の槍田松榮社長、三菱商事の小島順彦社長がモスクワ入り
したのです。
 そのときプーチン大統領は、3人の社長をわざわざクレムリン
内に招じ入れ、大歓迎したのです。同席したのは、ビクトル・フ
リスチェンコ産業エネルギー相、当時ガスプロムの会長を兼務し
ていたドミトリー・メドベーチェフ第一副首相です。そのパーテ
ィーで、プーチン大統領は挨拶として次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
これは、ガスプロムが「サハリン2」の共同作業に参加すると
いう決定である。集団的決定である。ロシア政府はこの決定の
通告を受けた。そして、その決定にたいして、われわれは何ら
異論もない。われわれはこれを歓迎する。
       ―プーチン大統領/――木村汎著、前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 それでは、あれほど大騒ぎをした環境問題は一体どうなったの
でしょうか。
 プーチン大統領は、12月21日のクレムリンでの会合で環境
問題について次のように述べているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
さて環境問題にかんして、ロシアの環境当局ならびに監督官た
ちが、この問題を解決するための手続きに合意したことを私は
嬉しく思う。・・・問題は原則として解決されたとみなしうる
との報告を私は受けている。      ――プーチン大統領
                ――木村汎著、前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 ロシアではプーチン大統領の発言が最高にして最終の発言なの
です。彼がこのように述べた瞬間にロシアの環境問題は雲散霧消
してしまったことになるのです。何とも勝手な理屈というしかな
いと思います。
 ちなみに、その後のサハリン・エナジー社の環境破壊は以前よ
りもずっとひどくなったそうですが、ロシア側は一切何もいって
こないということです。    ―― [石油危機を読む/31]


≪画像および関連情報≫
 ●問われるロシアの異質性とサミットの意味
 ―――――――――――――――――――――――――――
  旧ソ連諜報機関のKGB及びその後継組織であるFSB出身
  のリトビネンコ元中佐の不審死事件が注目を集めている。ロ
  シアをめぐっては最近同様の事件が相次いで発生しており、
  10月にはジャーナリストのアンナ・ポリトコフスカヤ氏が
  暗殺されている。いずれもプーチン政権に批判的であった人
  物が殺害されたこれらの事件にプーチン政権がどこまで関与
  しているのか真相は分からないが、ロシアで発生しているこ
  うした事態をほとんど報道してこなかった我が国のマスコミ
  も遅ればせながらリトビネンコ事件については大々的に報じ
  ている。被害者がスパイであったことが関心を引いているの
  かもしれないが、この問題は決して単なる興味本位から論じ
  るべきではない。
http://www.gfj.jp/cgi/m-bbs/contribution_history.php?form%5Bno%5D=271
 ―――――――――――――――――――――――――――

主要国首脳会議/2006/サンクトペテルブルグ.jpg
主要国首脳会議/2006/サンクトペテルブルグ
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2010年11月09日

●外資系3社はなぜ主導権を奪われたか(EJ第2321号)

―――――――――――――――――――――――――――――
 この「環境保護」キャンペーンはあまりにも透明で分かりきっ
 たものだった。まるで喜劇のようにさえ思える。ほとんど無名
 に近い環境監督官が「エナジー社が」樹を一本切るごとに罰金
 をとると威した。そのキャンペーンが、野火のように拡がって
 いった。そして結局、クレムリンは己が狙ったものを手に入れ
 た。アジアへのガス市場を拓くという有利なプロジェクトの管
 理権を。 ――木村汎著、『プーチンのエネルギー戦略』より
                         北星堂刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 これは、サハリン2問題が解決した直後の「ニューヨーク・タ
イムズ」紙の論評です。しかし、これは後の祭りです。なぜ、こ
のような結果になったのでしょうか。
 それは外資系3社がエリツィンに次いで大統領になったプーチ
ンという男を甘く見た結果です。プーチン大統領としては、何が
何でもエリツィンの負の遺産を清算するという強い意思があった
のです。そのように目標を決めると、プーチン大統領はその達成
のためには手段を選ばない人物なのです。
 これに対して、ちゃんとエリツィン大統領時代の契約書がある
からと、外資系3社は安心していたものと思われます。しかし、
エリツィン時代のロシアとプーチン政権になってからのロシアは
すべての点において様変わりしているのです。
 木村汎教授によると、とくにひどかったのはロイヤル・ダッチ
・シェルの対応のまずさなのです。シェルは、三井物産と三菱商
事の日本勢と違って、株式のシェアの面で圧倒的に有利なポジシ
ョンを持ちながらそれを何も生かしておらず、プーチン政権に完
全に振り回されてしまったからです。
 それ以外の要因もあります。シェルは、ユジノサハリンスク郊
外の広大な敷地に豪奢な社員用の住宅を建設し、地元サハリンの
ロシア人を立ち入り禁止にして顰蹙を買ったのです。それに毎週
函館――ユジノサハリンスク間にチャーター便を飛ばす贅沢三昧
をしているのです。このチャーター便は、機材の運搬や乗客がい
るときだけ飛ばすのではなく、定期的に飛ばしたのです。
 それならば、やはり当事者である三井物産、三菱商事と日本国
の対応はどうだったでしょうか。
 このことをはっきりさせるために、実際にガスプロムとサハリ
ン・エナジー社の間にどのぐらいの金額がやり取りされたのかを
知る必要があります。問題は、外資系3社からガスプロムへのサ
ハリン・エナジー社の株式譲渡価格なのです。
 外資系3社としては、ガスプロムから最低でも70億ドル(約
8400億円)は支払ってもらわないと大損失になってしまうと
いうことで、交渉に臨んだのです。
 この70億ドルという数字は、交渉の時点で3社は既に130
億ドル(約1兆5600億円)以上の資金をつぎ込んでいるので
その半分は払ってもらわなければという考え方です。
 しかし、ロシアという国は、これまでの外交戦略においても現
金を支払うということにかけては実に渋い国なのです。この株式
譲渡交渉においてガスプロムが提示してきた金額はたったの26
億ドル(約3120億円)だったのです。
 この金額の根拠は、サハリン2の当初コストである100億ド
ルの半分の50億ドル――ガスプロムとしては最終的にはこの金
額で決着させたいので、その第1回提示金額として、さらにその
半分の金額の26億ドルを提示したのです。
 もし、こんな金額で株を譲渡すると、シェル、三井物産、三菱
商事は株主から代表訴訟を起こされることは確実であったので、
粘り強く交渉したのです。そして決着した株式譲渡金額は次の金
額であったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
    74億5000万ドル(約8940億円)
―――――――――――――――――――――――――――――
 この金額であれば、当初事業費100億ドルの半分の50億ド
ルに、交渉の時点で既に増加していた30億ドルの半分の15億
ドルを加え、さらに10億ドル上積みさせたということで、外資
系3社としては、一応説明のできる金額になったといえます。
 この決着に関する日本側のコメントを次にまとめておくことに
します。
―――――――――――――――――――――――――――――
 <甘利明経済産業相>
 ・今回の合意は、LNGが安定的に日本に供給されることが約
  束された有意義なものである。
 <三井物産>
  ・環境問題も含めてサハリン2が直面している諸問題はすべ
   て解決への道筋がついた。
 <三菱商事>
  ・今後のLNG需要家への安定的な供給への道筋ができ、さ
   らにサハリン周辺の新たなロシアプロジェクトに参画でき
   る可能性も開けた。
―――――――――――――――――――――――――――――
 いずれも楽観的な見通しといわざるを得ないと思います。とく
にこの問題の主務官庁である経済産業省は、完全に腰が引けてい
ると思います。
 これは、ロシア国営独占企業体ガスプロムによるサハリン・エ
ナジー社の乗っ取り行為です。これに対して日本政府はロシアに
対して何ら抗議を行わず、「民間の交渉を見守るしかない」――
経済産業省北畑隆生事務次官はこういって、何も行動を起こさな
かったのです。
 「官民一体となってエネルギー安保に邁進する」といっている
いつもの姿勢はどこに行ったのでしょうか。日本の外交戦略はど
うしてこう軟弱なのでしょうか。サハリン2については、来週も
継続してコメントします。    ―― [石油危機を読む/32]


≪画像および関連情報≫
 ●ユジノサハリンスク(旧豊原)とは
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ユジノサハリンスクは、人口約17万人とサハリン最大の都
  市。外国人向けのホテルやレストラン、デパートなどが複数
  あり(それでも複数程度ではありますが)、サハリン州の経
  済の中心でもあります。食料品店を訪れても、他の町と比べ
  て比較的豊富にものが揃っているようです。
    http://www.linkclub.or.jp/~kiki/sakhalin/yuz1.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

ユジノサハリンスクとその市街風景.jpg
ユジノサハリンスクとその市街風景
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2010年11月10日

●LNGの安定供給は確保できるのか(EJ第2322号)

 サハリン・エナジー社の筆頭株主がロイヤル・ダッチ・シェル
からガスプロムになる――このことは何を意味しているのかわれ
われはよく考える必要があります。
 これについて、三井物産の檜田松榮社長は、プーチン大統領に
招かれたパーティーで次のように述べているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ホスト国「ロシア」が関与することになり、意思疎通の面でも
 状況ははるかに良くなった。ガスプロムがこのプロジェクトに
 参加するとの合意は、サハリン2の一里塚である。それはプロ
 ジェクトをいちじるしく強化すると、三井「物産」は考える。
                 ――檜田松榮三井物産社長
   木村汎著、『プーチンのエネルギー戦略』より/北星堂刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 この発言を聞いていると、ロシアに対する外交辞令もあるが、
三井物産としてはガスプロムがこのプロジェクトに参加し、主導
権を握ることによって、かえって事態は良くなると本気で考えて
いるようです。
 しかし、本当にそういえるのでしょうか。三井物産、三菱商事
の日本勢としては、今まで世界第2位のメジャーとしてのシェル
の圧倒的な発言権によって、おそらく思うような事業運営ができ
なかったと思うのです。したがって、ガスプロムの参加をむしろ
歓迎したのではないかと思われます。もし、そうであるとしたら
日本はあまりにも甘いといわざるを得ないと考えます。
 ガスプロムがサハリン・エナジー社の筆頭株主になったことに
よって、欧州復興開発銀行(EBRD)は、直ちにサハリン2の
プロジェクトに対する資金供与を中止しています。国際ビジネス
はこのくらいの危機感を持ってもいいのです。おそらくEBRD
はロシアという国は外国資本が参加するには政治的リスクの多い
国との判断をして資金供与から手を引いたと思われるからです。
 もちろんサハリン2の結末だけによる判断ではないのです。そ
の前にロシアのウクライナに対する仕打ちを見ているからです。
2006年1月にロシアはウクライナに対し、ガスの供給を停止
しています。そして、同じ年の12月にロシアによるサハリン2
の乗っ取りの顛末があったのです。
 それに加えて「サハリン1」に対するロシアの外資追い出しの
動きが2006年に起こっているのです。サハリン1は、サハリ
ン2と同様に、サハリン州北部東岸の大陸棚の原油・天然ガスの
開発プロジェクトなのですが、サハリン2よりも先に着手したの
で、サハリン1と呼ばれているのです。
 サハリン1は、やはりエリツィン大統領の時代の1995年に
PSA(生産分与協定)を締結しているのですが、サハリン2と
違ってこちらには「ロスネフチ」というロシアの石油企業が入っ
ているのです。株主構成は次の通りです。
―――――――――――――――――――――――――――――
  エクソンモービル ・・・・・・・・・・・ 30%
  サハリン石油ガス開発(SODECO) ・ 30%
  ロスネフチ ・・・・・・・・・・・・・・ 20%
  インド国営石油企業(ONGC) ・・・・ 20%
―――――――――――――――――――――――――――――
 サハリン石油ガス開発(SODECO)というのは、日本石油
公団、伊藤忠商事、丸紅が共同出資する企業です。このサハリン
1の特色は、エクソンにガスを好きなところに売る権利を与えて
いることです。
 プーチンは大統領になると、このサハリン1に関してもPSA
を見直す必要があると考えて行動を起こしているのです。プーチ
ン政権のサハリン1に対する行動は、サハリン2とは違う方法を
とっています。
 繰り返しますが、サハリン1は筆頭株主のエクソンにガスを自
由に売る権利を与えています。そこで、エクソンは2006年に
中国にガスを売る契約を結んだのです。販売先は中国石油天然ガ
ス集団公司(CNPC)――当然の権利です。
 ロシア側の出資比率はロスネフチの20%しかなく、反対のし
ようがなかったのです。しかし、プーチン政権はこれを潰しにか
かったのです。中国は日本や欧州諸国と違ってガスを安く買おう
とするので、中国には売りたくないのです。
 そこでロシア側が主張したのは、「ロシア産のエネルギーはロ
シア国内の消費者の需要を満たす必要がある」という理屈なので
す。ここでいう「ロシア国内」というのは、ハバロフスク州、沿
海州、サハリン州を指しているのです。これらの州の実態はどう
かというと、エネルギーは地元の石炭や水力発電所で対応する方
がサハリンから輸入するよりもずっと安くつくのにです。
 要するに、サハリン1で産出するガスはロシア国内の需要を満
たすため、ロシアで買い取るという意思表明です。これに関して
当時ガスプロムの副社長をしていたアレクサンドル・メドベージ
ェフ(現ロシア大統領)は次のようにいっているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 君(エクソン)はパイプラインをもたない。それにもかかわら
 ず、中国にガスを売りたいという。それはいったいどういう意
 味なのか。では果たしてどのようなやり方で輸出するつもりな
 のか。
   木村汎著、『プーチンのエネルギー戦略』より/北星堂刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 ロシア側のいう理屈は西側諸国では絶対に通用しない屁理屈な
のです。契約ではどこにでも売れるようになっているかもしれな
いが、君が売ろうとしているガスはわれわれロシアのガスなのだ
ということを忘れてもらっては困るというわけです。
 それでいて、このときガスプロムは、中国との間でガス・パイ
プライン建設の交渉をやっているのです。こういう手ごわい相手
と腰が引けている日本の外務省――北方領土はそう簡単には帰っ
てはこないと感じます。    ―― [石油危機を読む/33]


≪画像および関連情報≫
 ●プーチン前大統領の発言
  ―――――――――――――――――――――――――――
  「アサヒ・コム」によると、ロシアのプーチン大統領は20
  06年9月25日、サハリンで開発が進んでいる進んでいる
  石油・天然ガス採掘プロジェクトのうち、パイプラインでロ
  シア本土に運ばれる天然ガス「サハリン1」について「ロシ
  ア国内消費向けであり、国外には輸出しない」と発言した。
  今プロジェクトの筆頭出資者エクソンモービルではこのルー
  トで中国に天然ガスを輸出する交渉を進めているが、今回の
  プーチン大統領の発言はこれを認めない方針を明らかにした
  もので、今後の動向に注目が集まっている。
   http://www.gamenews.ne.jp/archives/2006/09/1_15.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

メドベージェフロシア大統領.jpg
メドベージェフロシア大統領
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2010年11月11日

●エクソンと同じ仕打ちを受けたBP(EJ第2323号)

 5月9日――この日はロシアの第2次世界大戦の対独戦勝記念
日に当たるのですが、モスクワの「赤の広場」でロシア軍による
大規模軍事パレードが行われたのです。
 就任直後のメドベージェフ大統領がプーチン首相とともに観閲
し、新たに発足した「二頭体制」下のロシアの威容を誇示したか
たちになったのです。どうやら、プーチン首相はメドベージェフ
大統領とともにロシアを「ソ連」に戻そうとしているようにすら
見えます。昨今の天然ガスを中心とするプーチンのエネルギー戦
略−−外国資本の追い出しを見ていると、そう考えても不思議は
ないと思います。
 実はロシア経済は、原油1バレル当たり27ドルを基準価格と
しています。この基準価格から国際価格が1ドル上昇するごとに
そのうちの90セントがロシアの国庫収入になるのです。国際原
油価格が現在のように100ドルを大幅に超えれば超えるほど、
ロシア経済にはまるで濡れ手に粟のように余剰収入が転げ込む計
算になるのです。
 ロシアはこれによって、ソ連時代以来の西側先進諸国の金融機
関に負っていた膨大な対外債務を前倒しで完済するという奇跡を
成し遂げているのです。それどころか、ロシアの外貨準備高であ
る4451憶ドルは、台湾を抜いて中国、日本に次いで世界第3
位になっているのです。
 このままで行くと、ロシアは2020年までに国内総生産GD
Pにおいて、米、日、中、印と並ぶ世界5大経済大国の地位を占
めるようになるのは確実の情勢です。
 結局のところ、エクソンはサハリン1のガスをガスプロムと競
合してまで、中国に輸出できなくなったのです。それはパイプラ
イン建設をロシア側に封じられてしまったからです。ロシア側の
主張は、次の2つに集約されます。
―――――――――――――――――――――――――――――
  1.サハリン1が産出する天然ガスをすべてガスプロムに譲
    渡する
  2.サハリン1のガスをサハリン2と協力しLNG化して輸
    出する
―――――――――――――――――――――――――――――
 この場合、「サハリン2と協力し」の意味は、サハリン2は既
にロシアの傘下に入っているので、サハリン2との連携に関して
は許容しているというわけです。
 要するに「どこに」輸出するのかは問題ではないのです。「だ
れが」輸出するかが問題なのです。ガスプロムがそれを行うのは
いいが、外資系会社がそれをやるのは許さない――たとえ過去の
契約にそれを可とする条項があっても許さないというのがロシア
の意思なのです。
 プーチン政権のロシアの意思によって被害を受けたのは、サハ
リン2、サハリン1だけではないのです。英系メジャーであるB
P――ブリティッシュ・ペトロリアムもその例外ではなかったの
です。BPのケースについても述べておくことにします。
 2003年のことです。BPはロシアのTNK――チュメニ石
油会社との間で50%ずつ出資し、合弁企業TNK−BPを設立
したのです。ガス田の開発は成功して、TNK−BPはロシアで
はロスネフチ、ルークオイルに次ぐ石油業界第3位の大企業とな
っているのです。そしてTNK−BPは、コビクタ天然ガス田の
開発を行うコンソーシアムであるロシア石油の62.89%の株
主になったのです。
 コビクタ天然ガス田は1987年に東シベリアのイルクーツク
州で発見されたロシア最大級のガス田なのです。このようなTN
K−BPをロシアがそのままにしておくわけはないのです。当然
強い圧力をかけてきたのです。
 TNK−BPに対してロシアは、今までとは逆に契約内容不履
行によって揺さぶってきたのです。というのは、TNK−BPは
契約によって、年間約90憶立方メートルのガスを産出すること
を義務づけられていたのですが、実際の産出量は年間わずか33
00立方メートル未満のガスしか生産していなかったのです。
 しかし、これには理由があったのです。TNK−BPの言い分
としては、ロシア側がガスを輸出するためのパイプラインの建設
を妨害しているというのです。
 既に述べたようにロシアでは、ガス輸出の権利、すなわち、パ
イプライン建設はガスプロムが握っているのです。TNK−BP
としては、対中国、韓国、アジア諸国へ輸出するためにパイプラ
インの建設をしようとしたのですが、ガスプロムは嫌がらせをし
てそれを認めなかったのです。
 そのため、TNK−BPは生産量を絞って近郊のイルクーツク
州周辺に向けて低価格で売るしかなかったのです。しかし、ロシ
アはそんなTNK−BPの言い分を認めるはずがないのです。
 パイプラインの建設を封じておいて、その一方で生産額をクリ
アしていないことを問題にする――西側では常識的には考えられ
ないことですが、ロシアではその常識は通用しないのです。
 結局のところ、2007年6月にTNK−BPはロシアの圧力
に屈したのです。ロシア石油の62.89%の権益すべてをガス
プロムに譲渡することにしたからです。価格は公表されていませ
んが、7〜9憶ドルといわれています。なんという安さでしょう
か。これはたたき売りに等しい金額です。
 コビクタ天然ガス田プロジェクトの事業価値は完成時で200
憶ドルといわれているのです。この取引が決定後、当時ガスプロ
ムのメドベージェフ副社長は次のようにコメントしたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 コビクタ天然ガス田で産出される天然ガスの潜在的な買い手の
 なかに、中国と韓国は入っている。両国との交渉は進行中。
   木村汎著、『プーチンのエネルギー戦略』より/北星堂刊
―――――――――――――――――――――――――――――
               ―― [石油危機を読む/34]


≪画像および関連情報≫
 ●ロシア復活軍事パレード/2008.5.9
  ―――――――――――――――――――――――――――
  モスクワ=常盤伸――モスクワの赤の広場で九日、第二次大
  戦での対独戦勝を記念するソ連崩壊後、初の大規模軍事パレ
  ードが行われ、就任間もないメドベージェフ大統領とプーチ
  ン首相らが並んで観閲した。双頭政権が発足直後に軍事パレ
  ードを再開した背景には、大国復活を誇示し、米国による東
  欧でのミサイル防衛(MD)配備計画などで対立する欧米を
  けん制する狙いがあるとみられる。メドベージェフ新大統領
  は「戦勝記念日は国民統一の永遠のシンボルである」と強調
  した。                  ――東京新聞
http://www.tokyo-np.co.jp/article/world/news/CK2008051002010080.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

ロシアの軍事パレード復活.jpg
ロシアの軍事パレード復活
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2010年11月12日

●ロシアはなぜ外国資本を閉め出したか(EJ第2324号)

 考えてみると、プーチン政権は2006年から石油の外国資本
に対して攻撃を強めています。同年1月に行ったウクライナへの
ガスの供給停止はそのスタートの号砲であるかのようでした。
 このことはロシアという国は、いざとなると命綱であるガスの
元栓を平気で閉める国であることを世界に知らしめたのです。そ
して最初に着手したのはサハリン2であり、それは同年7月から
12月までに決着をみたのです。ガスプロムは、サハリン・エナ
ジー社の筆頭株主になり、同社の乗っ取りに成功しています。
 同じ2006年の中間ではロシアはサハリン1のガスを中国に
輸出する動きを止めています。これによってエクソンはガスの輸
出計画を断念せざるを得なくなったのです。
 そして、2007年6月になってTNK−BPがガスプロムに
屈伏してしまいます。これで、シェル、エクソンモービル、BP
の「スリー・シスターズ」は、すべてロシアによって主導権を奪
われてしまったことになります。
 しかし、もともとロシアがプーチン時代に明らかに自国にとっ
て不利なPSAを締結した理由は、資金が不足していたことに加
えて、石油やガスの生産や輸送の技術において、ロシアが未熟で
あったからです。つまり、資源はあるが、それを取り出して製品
化できなかったからこそ、そういう不利な契約を結んだのです。
 それなら、現在はどうなのでしょうか。既にロシアは石油やガ
ス価格の高騰によって資金には不足はしないでしょうが、技術の
面はどうなのでしょうか。
 実はロシアは、石油・天然ガスの生産技術については、まだ十
分ではないのです。とくに、シェル、エクソンモービル、BPの
3大メジャーの石油・ガスに関する生産技術は高度であって、ロ
シアとしては3大メジャーを敵に回すことは得策とはいえないと
いわれるのです。
 このことに関して、露営商工会議所所長であるステファン・ダ
ンジェル氏は、次のようにいっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ロシア側がサハリンやコビクタ天然ガス田のプロジェクトから
 外国専門家を閉め出すことは「近視眼的」で「愚かな」行為で
 ある。ロシア側はこれらのプロジェクトをみずから「実行に移
 すノウハウも設備ももっていない」ので、欧米企業の「助けを
 必要とする」からである。
   木村汎著、『プーチンのエネルギー戦略』より/北星堂刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 それならば、なぜ、プーチン政権は石油専門家である外国資本
を閉め出したのでしょうか。そこに、何か別の意図があったので
しょうか。
 クレムリンウォッチャーによると、閉め出された英蘭系のシェ
ル、米系のエクソンモービル、英系のBP――最近ロシアとオラ
ンダ、米国、英国とロシアの関係は必ずしも芳しいものではなく
そういうことに関係があるのではないかというのです。
 もともとBPがロシアに進出できたのは、トニー・ブレア前英
国首相とBPのCEOのジョン・ブロウニーとプーチンの関係が
良好であったからといわれていますが、すでに2人とも引退して
おり、関係は切れています。
 また、外国資本だからといってすべて閉め出されるわけではな
く、フランス系のトタル、イタリー系のENI、ドイツ系のエー
・オンは残っているし、ドイツの前首相であるゲハルト・シュレ
ーダーが常務取締役を務める「北欧天然ガスパイプライン」は、
目下前途洋々なのです。
 どうやらプーチンには敵と味方がはっきりしているのです。と
くに米国は敵なのです。しかし、エネルギーの需給に関して密接
な関係にあるEU諸国に対してロシアはそれなりの配慮をしてい
ることが読み取れるのです。
 しかし、EU諸国としてはロシアに対して強い警戒感を抱いて
います。とくに2006年冒頭のウクライナに対するガスの供給
停止には震え上がったといいます。なぜなら、EU諸国は平均す
ると約25%のガスをロシアに依存しているからです。
 EUのエネルギー担当委員であるアンドリ・ピエバルグスは次
のようにいっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ロシアが独自のエネルギー戦略をもつことは当然で、われわれ
 側にはそれを止める権利はないかもしれない。もし、そうだと
 するならば、われわれ「ロシアからエネルギーの供給を受けて
 いるヨーロッパ諸国」の側もまた、それに対抗する戦略を形成
 せねばならない。これは、当然の防衛措置であろう。
   木村汎著、『プーチンのエネルギー戦略』より/北星堂刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 それでは、EUとしてどのような防衛措置が考えられるでしょ
うか。エネルギーを武器として利用しようという国に対しては消
費者サイドのEUも結束・連携して対抗するしかないのです。
 そのひとつの方法として検討されているのが、既存の「オデッ
サ・ブロディ」原油パイプラインをヨーロッパまで延長するプラ
ンです。
 「オデッサ」というのは、ウクライナの西部の黒海沿岸にあり
ます。アゼルバイジャン産の原油をグルジアを経由して黒海のピ
ブデン港に運び、黒海をタンカーでオデッサまで運ぶのです。オ
デッサからブロディまでは、2001年にウクライナが作ったパ
イプラインがあるので、それでプロディまで運ぶのです。
 ポーランド国内のプロックを経てバルト海沿岸のグダンスク港
まで新設のパイプラインで運び、同港からバルト3国まで運搬す
るという計画なのです。もし、これが成功すれば、ウクライナ、
ポーランド、バルト3国は、ロシア原油に対する依存度をある程
度減少させることは可能になります。このようにロシアのエネル
ギー政策が加速するにつれて、それに防衛線を張る動きも加速し
つつあるのです。       ―― [石油危機を読む/35]


≪画像および関連情報≫
 ●オデッサと映画『戦艦ポチョムキン』について
  ―――――――――――――――――――――――――――
  第一次ロシア革命前夜。戦艦ポチョムキンでは、水兵が士官
  にウジの湧いた食事を与えられていた。ワクリンチュクを中
  心に水兵らは立ち上がり、反乱は成功するが、ワクリンチュ
  クは殺されてしまう。ポチョムキンはオデッサ港へと入り、
  ワクリンチュクの死体に人々が群がり、やがて一般の人々の
  反乱心をも掻き立てる。政府軍の一斉射撃が始まり、オデッ
  サの階段で右往左往する人々。凄絶な惨劇が繰り広げられ、
  その後ポチョムキン内では、再び襲ってくるであろう政府軍
  に少々怯えながら朝を迎える。水平線を見渡すと、そこには
  政府軍の艦隊が。遭遇により緊張は頂点に達するが、しかし
  政府軍が攻撃することはなく、ポチョムキンはその間を進ん
  でゆく。
  http://www6.plala.or.jp/khx52b/movie/file_s/se0001.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

オデッサ・ブロディパイプライン.jpg
オデッサ・ブロディパイプライン
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2010年11月15日

●危機的状況にあるロシア経済(EJ第2325号)

 原油価格が高騰を続けて高止まりしつつあるように見えます。
このような状況において、ロシアはかなり強引な手法で石油・天
然ガス資源の国有化を進めています。
 プーチンが大統領になったのは2000年9月のことです。そ
のときの原油の国際価格はそれまでの低迷から脱し、1バレル当
たり33ドルに回復していたのです。それ以来原油価格は一貫し
て上がり続けているのですから、そういう意味でプーチン政権は
幸運な政権といえます。
 ロシアはこの天然資源の国際価格が上昇したことによって、プ
ーチン政権の8年間のGDP成長率は平均7.5%になり、国際
通貨基金(IMF)、債権国会議(パリクラブ)などに対する積年の
借入金を完済しています。
 しかし、ロシアの経済は順調そのものかというと、けっしてそ
うではないのです。そこが経済運営の難しいところなのです。ロ
シア経済には問題点が多々あるのですが、原油がもたらす黒字が
大き過ぎて経済政策の欠陥を隠しているのです。
 7〜8%のGDP成長率というと高い成長率といえますが、本
来であればロシアはその倍以上成長しても少しも不思議ではない
のです。なぜなら、その程度の成長率であれば、ウクライナやト
ルコも上げているからです。
 ウクライナやトルコは、ロシアのように原油や天然ガスなどの
特筆すべき鉱業がなく、むしろエネルギー価格の高騰によって経
済に打撃を受けているにもかかわらず、ロシア並みの経済成長率
を上げているのです。そうなると、膨大な原油収入のあるロシア
経済の非効率さが見えてきます。
 最近発表された調査によると、ロシアには約10万人のミリオ
ネア――資産100万ドル以上――と、55人のビリオネア――
資産10憶ドル以上――がいるといわれます。これは、米国に次
いで世界第2位のポジションを占めています。
 しかし、あるところにはお金が腐るほどあるが、国民の生活は
豊かではなく、深刻な格差社会になっているのです。明らかにロ
シアの経済は伸び悩んでいるのです。インフレや住宅価格の高騰
に加えて労働コストの増加、官僚の汚職の蔓延、高金利などが一
体となって、ロシア経済の足を引っ張っているのです。
 ロシア経済にとって深刻なのは、ガスプロムやロスネフチなど
の国営企業が優遇される一方で、中小企業がないがしろにされて
いることです。
 ロシアでは従業員100人未満の企業がGDPに占める割合は
15%止まりになっています。ちなみに米国の中小企業の割合は
GDPの半分以上を占めています。
 なぜ、中小企業が増えないのでしょうか。
 中小企業が増えないということは、事業家になろうという人が
少ないことを意味します。なぜかというと、事業家よりも官僚の
方が儲かるからです。プーチン政権下の8年間で、官僚の数は実
に50%も増加しているのです。すなわち、52万2000人が
82万8000人になっているのです。
 昨年実施された世論調査によると、「将来どういう職業に就き
たいか」の設問に対し、回答者の70%近くの人が起業家よりも
国家公務員になることを望んでいるのです。このように、エネル
ギー価格の高騰によって国の台所が潤っているはずのロシアの経
済は深刻な問題を抱えているのです。
 米国の非営利団体「平和基金会」が決定している「破綻国家指
数」によると、ロシアは62位になっています。順位が若いほど
破綻の危険が高いことになります。
 この「破綻国家指数」は、社会的・経済的・政治的指標をもと
にして決定されます。2007年は177ヶ国が指定されている
のです。しかし、「財政が危機的状況で破綻直前」と財務省が喧
伝する日本は入っていないのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
    1位.スーダン      74位.ベネズエラ
    2位.イラク       83位.サウジアラビア
    3位.ソマリア     106位.ウクライナ
   22位.ウズベキスタン  110位.インド
   57位.イラン      117位.ブラジル
   62位.ロシア      160位.アメリカ
   62位.中国       177位.ノルウェー
                     ――平和基金会
          「ニューズウィーク日本版」5.14号
―――――――――――――――――――――――――――――
 ロシア政府の2007年度の調査によると、ロシア企業の平均
生産性は米国やEUと比べると、30分の1に過ぎないのです。
航空宇宙産業の従業員1人当たりの平均生産能力をEUと比較す
ると次のようになります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 EUの 1人当たりの平均生産能力 → 12万6800ドル
 ロシアの1人当たりの平均生産能力 →  1万4800ドル
―――――――――――――――――――――――――――――
 社会主義国家から自由主義国家になったはずのロシアですが、
プーチン政権になってからは、逆行しているようにみえます。ロ
シアのGDPに占める民間部門の比率を2004年と2007年
と比較するとそれが顕著になっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
      2004年 ・・・・・ 70%
      2007年 ・・・・・ 61%
―――――――――――――――――――――――――――――
 これはプーチン政権のなりふりかまわぬ基幹産業の再国有化の
結果ですが、それにしても急ピッチです。今年の5月7日に大統
領に就任したメドベージェフはロシア経済の実態はプーチンより
もよく把握しているといわれますが、プーチンの強権の下で経済
を強化できるでしょうか。   ―― [石油危機を読む/36]


≪画像および関連情報≫
 ●平和財団の「破綻国家指数」について
  ―――――――――――――――――――――――――――
  【ワシントンIPS=ジム・ローブ、5月2日】
  合計で月80億ドル以上の軍事・経済援助をもらっていなが
  ら、イラクとアフガニスタンの両国は破綻状態にあると「破
  綻国家指数2006」が明らかにした。指数を作成したのは
  ワシントンにある「平和財団」と雑誌『外交政策』である。
  全148カ国を調査した。
   http://www.news.janjan.jp/world/0605/0605074028/1.php
  ―――――――――――――――――――――――――――

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「ニューズウィーク誌」のロシア特集
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2010年11月16日

●プーチンはレントの総支配人である(EJ第2326号)

 「オランダ病」という病気(?)をご存知でしょうか。
 これはれっきとした経済用語なのです。1970年代のことで
す。北海で天然ガス田が発見され、それが大量に輸出されたこと
によって、オランダに莫大な為替収入をもたらしたのです。しか
し、資源価格の高騰が終息すると、オランダの国際競争力はすっ
かり低下し、深刻な経済不況がオランダを襲ったのです。
 こういう歴史的事実から、産出する天然資源などの価格の高騰
によって莫大な不労所得を得た国が、財政支出を膨張させるなど
して経済政策の運営を誤ったことによりもたらされる経済危機を
「オランダ病」というのです。
 ロシアの場合は、ソ連時代から豊富なエネルギー資源があるこ
とはわかっており、突然発見されたオランダのケースとは異なる
ことは確かです。
 しかし、当時はエネルギー資源の価格はきわめて低く、国際的
な需要も少なく、西側諸国への輸出もきわめて限定的であったこ
とが、ロシアがオランダ病にかかることを未然に防止していたと
いえます。
 しかし、プーチン政権になって原油価格は急激に高騰し、高値
安定していることから、ロシアがオランダ病にかかる可能性はき
わめて高くなったといえます。このことは、ロシアの有識者たち
も気がついており、いろいろな機会をとらえてその危険性を警告
しているのです。
 世界経済国際関係研究所に付属する国際安全保障センター長で
あるアレクセイ・アルバートフ氏は、プーチン前大統領が外交政
策について語るとき、エネルギー問題がその70%を占めること
を指摘し、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 原材料の輸出にもとづく経済が、真に強力かつ近代的な経済で
 あることはありえない。歴史上そのような例はこれまで一度も
 なかったし、今後もおそらくないだろう。
   木村汎著、『プーチンのエネルギー戦略』より/北星堂刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 プーチン政権の経済を担当するプーチン前大統領の側近であっ
たアレクセイ・クドリン財務相でさえも、エネルギー至上主義に
ついて、次のようにその危険性を訴えています。クドリン財務相
はプーチン氏も一目置いている人物です。
―――――――――――――――――――――――――――――
 過去数年間、原油価格の上昇によってユーフォリア(陶酔感)
 が生まれた。しかし、このユーフォリアはロシアが8年前に苦
 しんだ恐ろしい危機――1998年からの金融危機に比べてさ
 え、より一層危険な現象なのである。  ――クドリン財務相
   2006年12月「ブレーミヤ・ノーボスチェイ」紙より
―――――――――――――――――――――――――――――
 確かにロシアの場合、多角的な貿易を行って急速な経済発展を
遂げているBRICs諸国と比べると、原油や天然ガスなどに過
度に依存しています。2006年におけるBRICs諸国の輸出
額に占めるエネルギー資源の割合は次の通りです。
―――――――――――――――――――――――――――――
             輸出総額   鉱物燃料
     ロシア  2884億ドル  65.7%
     ブラジル 1375億ドル   5.0%
     中国   9691億ドル   1.8%
     インド  1262億ドル     0%
   ――「ニューズウィーク日本版」5月14日号
―――――――――――――――――――――――――――――
 エネルギー資源の割合はロシアが突出しているのに対し、ブラ
ジルと中国は、機械・輸送設備がそれぞれ52.4%、47.1
%、インドについては石油製品の輸出が14.7%になっており
ロシアのいびつな産業構造がよくわかります。
 ロシアのような豊富な資源を有する国はともすると「レント」
に安住するといわれます。木村汎教授によると、「レント」とは
通常の競争市場で受けとる水準を超える所得のことです。独占利
潤とかマフィアなどの法外の収入のようなものを「レント」とい
うのです。そういう意味では、天然資源の国際価格が高騰すると
きに入手する超過利益もレントといってよいと思われます。
 この「レント」という言葉を使ってプーチン前大統領のやって
きたことをまとめるとこうなります。彼が大統領に就任すると同
時に上昇に転じた原油価格――これによって膨大なレントが生じ
ます。まず、この資金を国家や自分の派閥が確保する必要がある
とプ―チン前大統領は考えたのです。
 そしてレントを独占するためにやったのが、サハリン2、サハ
リン1、TNK−BPなどの乗っ取りです。このようにして膨大
なレントを手にしたプーチン政権は、その資金をテコにして自身
に都合のよい内外政策を推し進めると同時に自分の政権基盤を固
めるため、ガスプロムやロスネフチ、トランスネフチなどのトッ
プのポストを自分の側近たちに分配し支配下に置く――木村教授
はこれを「レント・シェアリング」と呼び、その頂点にいるプー
チン前大統領を「レント・マネジャー」、いや「レント・シェア
リング」システム全体の総支配人(ガディ)であるとしています。
 そして側近中の側近といわれるメドベージェフを大統領にし、
自分は首相に収まり院政をひく――こんなことをやっていたので
は、経済がうまくいくはずがないのです。
 また、ロシアでは金融システムの整備も遅れているのです。そ
のため中小企業は、高金利や融資者探しに苦労しているのが現状
です。さらにロシアでは株主の権利も軽視されています。国営石
油ロスチフチの経営に株主として不満を表明したファンドのCE
Oが国外追放処分を受けているのです。こんなことは自由主義国
ではとても考えられないことです。ロシアはソ連に先祖返りしよ
うとしています。       ―― [石油危機を読む/37]


≪画像および関連情報≫
 ●エルミタージュ・キャピタルCEOを脱税で起訴
  ―――――――――――――――――――――――――――
  エルミタージュ・キャピタルは40億ドルの運用資産を持つ
  アクティビスト投資ファンドで、ロシア企業を対象とする世
  界最大のファンドを運用している。ブラウダー氏は1996
  年にロシアでエルミタージュ・ファンドの運用を開始したが
  約2年前にロシア当局から国家の治安にとって脅威になる人
  物と宣言され、ビザを取り消された。
  http://jp.reuters.com/article/idJPJAPAN-26907820070717
  ―――――――――――――――――――――――――――

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プーチン前大統領
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2010年11月17日

●ロシアのエネルギー戦略と博士論文(EJ第2327号)

 ロシアのプーチン首相が「経済科学準博士」の称号を持ってい
ることをご存知でしょうか。
 ロシアにおける旧「準博士」は、社会主義国では博士として扱
われるそうです。少年時代のプーチンの家庭環境はあまり裕福で
はなく、共同アパートで過ごしたと自伝で述べています。
 子供の頃からKGBに憧れており、そのために国立レニングラ
ード大学(現国立サンクトペテルブルグ大学)法学部に入り、大
学卒業後にKGBに就職したのです。
 プーチンはKGBの一員として1985年から1990年まで
東ドイツのドレスデンに派遣され、在ドレスデンソ連領事館のナ
ンバー2として勤務していたのです。しかし、1989年にベル
リンの壁が崩壊し、東ドイツの体制が変わったので、故郷のサン
クトペテルブルグに戻ってきたのです。そしてサンクトペテルブ
ルグ市役所で働き始めたのです。
 といっても、これからプーチン首相の出世物語を述べるわけで
はないのです。彼がサンクトペテルブルグ鉱山大学に提出した博
士論文について述べたいからです。その論文のタイトルは、次の
通りです。論文提出は1997年6月のことです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 市場関係形成の条件下における地域の鉱物・原料資源的基礎
 の再生産の戦略的計画/218ページ ――1997年6月
―――――――――――――――――――――――――――――
 この論文の骨子は、修正・書き換えが行われて、1999年に
「ロシア経済の発展戦略における鉱物資源」というタイトルで出
版されています。
 問題はこの論文の内容です。木村汎教授によるとこの論文では
次の3つのことが強調されているといいます。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.ロシアは巨大な天然・原料資源に恵まれた国である。なか
   でもその鉱物資源は豊富で世界一である
 2.ロシアがこのエネルギー資源の力を国家のために利用する
   ためには同資源を国家管理下におくこと
 3.天然資源を国家管理下おくことはロシアの地政学的利益の
   促進やロシアの内外政策の遂行に役立つ
   木村汎著、『プーチンのエネルギー戦略』より/北星堂刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 この論文の内容を見てすぐわかることは、その内容がプーチン
前大統領が実際にやったこと、そのものであるということです。
つまり、この論文の骨子は、プーチン前大統領のエネルギー戦略
の基本線をあらわしているのです。
 また、木村汎教授は、このプーチン論文は「盗作」ではないか
として次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 「盗作」との結論を下したのは、クリフォード・ガディとイー
 ゴリ・ダンチェンコの2人。ともにブルッキング研究所(ワシ
 ントンDC)に席をおくロシア研究者である。(一部略) ガ
 ディとダンチェンコの2人は、2006年3月25日付の「ワ
 シントン・タイムズ」紙上で、プーチン準博士論文の重要部分
 が2人の米国人経済学者の著書を盗用したものであると発表し
 た。2人の米国人学者とはウィリアム・R・キングとデービッ
 ト・I・クリーランド。ともにピッツバーグ大学教授(当時)
 である。彼らの著作『戦略的計画と政策』(現在、絶版中)は
 ロシア語に翻訳され、ソ連邦でプログレス出版所から1982
 年に刊行された。
   木村汎著、『プーチンのエネルギー戦略』より/北星堂刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 問題はなぜプーチン前大統領は、大統領になる前にこのような
論文をまとめる必要があったのでしょうか。これによって博士号
を取得して、自らの政策が正しくて権威のあるものであることを
強調したかったのでしょうか。
 ところで、このプーチン論文は代作ではないかといわれている
のです。というのは、この論文が提出された1997年6月時点
においてプーチンは大統領府監督局長、論文が本として出版され
た1999年には連邦保安庁長官と安全保障会議書記を兼任する
という最も忙しいときなのです。とても論文なんか書いていられ
るときではないからです。1999年12月にはプーチンは大統
領代行になっているのです。
 論文を書いたのがプーチンではないとしたら、一体誰が論文を
書いたのでしょうか。
 木村教授によると、代作説を唱えているのは、ジョージタウン
准教授のハーレイ・バルザー氏であるというのです。バルザー氏
によると、論文はプーチン自身が書いたものではなく、プーチン
の考え方を受けて、「クドリン・チーム」が代筆したものである
としています。
 このクドリン――アレクセイ・クドリンはプーチン前大統領に
近い人物で、サンクトペテルブルグ市役所でプーチンと一緒に仕
事をし、プーチン政権では財務相を務めている人物です。
 木村教授によると、プーチン政権を支える派閥には2つがある
そうです。ひとつは旧KGB、軍部、検察庁、内務省などのいわ
ゆる「権力省庁」に勤務する「シラヴィキー」と、アレクセイ・
クドリンによって代表されるリベラル・エコノミストたちのグル
ープです。いずれもサンクトペテルブルグ出身者です。
 前者は「武闘派」といわれ「武力」を重視し、後者は「経済」
を重視するのです。しかし、ロシアのエネルギー資源を最大限に
国益に生かすという点では両派とも一致しているのです。
 プーチン前大統領の公式な伝記といわれる『一人称で語る』と
いうものがあるのですが、その中では彼の「経済科学準博士」の
学位については一切ふれられていないというのです。盗作である
という説がウワサになったので、ふれなかったのでしょうか。名
誉なことではないからです。  ―― [石油危機を読む/38]


≪画像および関連情報≫
 ●プーチン露大統領、博士論文ねつ造発覚
  ―――――――――――――――――――――――――――
  自分が優位に立つためにはどんなことでもすると言われる男
  ロシアのウラディミール・プーチン大統領の博士論文が盗作
  ・剽窃だったことが発覚し、プーチンは赤っ恥をかいた自分
  の顔色を隠すためにウォッカを鯨飲しているという報道が入
  った。問題となったのは、プーチンが90年代半ばに博士号
  を取った論文で、その大半が米国の論文の引き写しであると
  米国の研究者らが発表した。この告発を行ったのはワシント
  ンにあるシンクタンク、ブルッキングス研究所の2人の研究
  者で、78年にピッツバーグ大の研究者2人が書いた論文を
  ロシア語に逐語訳したものを元にしているという。
  http://0000000000.net/p-navi/info/news/200604012136.htm
  ―――――――――――――――――――――――――――

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サンクトペテルブルグ市役所
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2010年11月18日

●重質油をサルファーフリーにする技術(EJ第2328号)

 今回のテーマ「石油危機を読む」も今回で39回――そろそろ
最終章に入ります。ロシアのエネルギー戦略の話はこのぐらいに
して、最後に日本の取るべきエネルギー戦略について考えてみる
ことにします。
 この連載を続けている間も原油価格は最高値を次々と更新し、
米大手投資銀行のゴールドマンサックスは、原油価格は今後2年
以内に1バレル=200ドルまで上昇するという予測を発表して
います。実はゴールドマンサックスは、3年前に原油が100ド
ルまで上昇することを正確に予測していたことがあって、今回の
発表は世界の経済界に衝撃をもたらしたのです。
 この油価高騰に米国やヨーロッパでは悲鳴が上がっています。
もちろん日本でも油価高騰はあらゆる物価上昇に影響を与えるの
で歓迎されざる事態ですが、日本経済のコア部分からの悲鳴は、
あまり聞こえてきてはいないのです。これほどの油価高騰である
にもかかわらず、けっして良くはないものの、日本経済全般は意
外に堅調なのです。
 もともと日本という国は、油価高騰に一番脆弱であるといわれ
ていた国です。しかし、1970年代の2度にわたる石油危機に
よって日本人は石油危機――「油断」の恐ろしさを知り、きちん
と学習してきているからです。
 今回の油価高騰の背景には、世界的な石油製品需要の構造変化
があることを読み取る必要があります。一口に原油といっても、
その性格によって次の3つの種類があります。
―――――――――――――――――――――――――――――
   1.軽質油 ・・・ ガソリン、ジェット燃料
   2.重質油 ・・・ 重油/中小型船舶の燃料
   3.硫黄油 ・・・ 高硫黄油/低硫黄油など
―――――――――――――――――――――――――――――
 これは原油の性格による分類ですが、原油の産出国によって分
類すると次のようになります。日本が一番多く輸入している原油
は、中東産原油であるドバイ原油なのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
   1.WTI原油 ・・・・ 軽質・低硫黄原油
   2.ドバイ原油 ・・・・ 重質・高硫黄原油
―――――――――――――――――――――――――――――
 はっきりしていることは、軽質油の消費量が急増する一方で、
重油の消費が減る現象が起こっていることです。つまり、石油の
需要は、自動車、航空機などの輸送用燃料と家庭の暖房用に中心
が移っており、産業用、発電用の消費は天然ガスに奪われて減少
しているのです。これは明らかに石油製品需要の構造変化である
といえます。
 その結果、軽質原油のWTIは、重油原油であるドバイよりも
1バレル当たり20ドル以上も価格差がついているのです。これ
は、同じ量の原油から採取できるガソリンの比率が、WTIはド
バイよりも6ポイント程度高いからなのです。
 さらに石油需要について、米国と日本とでは石油需要に占める
ガソリンの割合は次のように異なるのです。軽質油の価格が高騰
しているので、その面で日本は有利といえます。
―――――――――――――――――――――――――――――
        米国 ・・・・・ 50%
        日本 ・・・・・ 15%
―――――――――――――――――――――――――――――
 ところで、日本が主として輸入しているのはUAE産のドバイ
原油です。重質で高硫黄であることが難点の原油ですが、日本の
石油会社は脱硫などの二次装置などに対して既に十分な投資を行
っており、重質油を輸入しても製品の品質を十分に補うことがで
きる技術とノウハウを持っているのです。
 これは、国産原油の代表格であるアラビア石油が採掘するサウ
ジアラビアのカフジ油田(重質油)に対して取り組んできた努力
がいま実っているといえるのです。アラビア石油は、「アラビア
太郎」と呼ばれた山下太郎氏が設立した石油や天然ガスの開発事
業を行う会社です。
 アラビア石油は、日本の自主開発油田――日の丸油田をサウジ
アラビアやクウェートなどから獲得し、日本の自主開発油田の約
50%を占める採掘を行い、石油の安定供給に貢献してきのです
が、2000年にサウジアラビア、2003年にクウェートの採
掘権を失い、以降は中東を中心に米国、メキシコなどでオペレー
ターを務める企業などに技術者を派遣するなど共同操業という形
で事業の継続を行っているのです。
 現在日本は、「サルファーフリー/低硫黄化」に関して世界を
リードする存在になっています。サルファーフリーとは、ガソリ
ン、軽油に含まれる硫黄分を10ppm以下まで低減することを
意味しています。もともと硫黄分の多い原油を使って、どこより
も硫黄分の少ないガソリンに精製するのですから、大変高度な技
術であるということができます。
 さらに日本は1970年以降にくる石油危機に備えるため、次
の2つの政策を推進してきているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
         1.エネルギー源の多様化
         2.省エネルギー政策推進
―――――――――――――――――――――――――――――
 「エネルギー源の多様化」については、主として原子力発電の
大幅導入によって、1973年には77%であった石油依存度を
2001年には49%までにダウンさせています。原子力には、
いろいろ問題はあるものの、石油依存度の低下には有効です。
 「省エネルギー政策推進」については、1979年に「エネル
ギーの使用の合理化に関する法律」ができています。省エネなん
てといいますが、1980年代末までに産業部門を中心に大幅な
省エネが進んだのです。1973年を100とすると1990年
は53になったからです。   ―― [石油危機を読む/39]


≪画像および関連情報≫
 ●サルファーフリーについて
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ガソリン、軽油をサルファーフリーにすることによって、自
  動車排ガスのクリーン化と燃費の向上につながります。サル
  ファーフリーガソリンやサルファーフリー軽油は、現在ガソ
  リン車やディーゼル車に取り付けられている排ガス処理装置
  の性能を充分に発揮させることができるため、より一層排ガ
  ス中の有害物質を削減することが出来ます。また、サルファ
  ーフリーの特性を活用した新型の排ガス処理装置を装備すれ
  ば、有害物質のさらなる削減に加え、新型エンジンの燃費性
  能を最大限引き出すことが可能となり、燃費の向上を通じて
  CO2排出量を削減して、地球温暖化対策にも役立ちます。
     http://www.paj.gr.jp/eco/sulphur_free/index.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

カフジ油田/アラビア石油.jpg
カフジ油田/アラビア石油 
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2010年11月19日

●なぜ山下太郎は石油に手を出したか(EJ第2329号)

 ドバイ産の重質油から良質のガソリンを精製する技術において
日本が優れているのは事実です。しかし、それはこれまでの日本
の石油戦略の失敗によってもたらされたものなのです。
 吉川元忠氏のベストセラーに『マネー敗戦』(文春新書)とい
う本があります。世界最大の債権国(日本)が経済危機に陥り、
その債権国に膨大な債務を負う世界最大の債務国(米国)が長期
にわたる好景気を持続する――これは明らかに日本の米国に対す
るマネー戦略の失敗であり、「第2の敗戦」である――吉川氏は
このように主張したのです。
 しかし、敗戦はマネーだけではないのです。戦後の日本は石油
戦略に関してもことごとく失敗し、「石油敗戦」というべき大失
敗をやっているのです。
 前回、アラビア石油による日の丸油田について述べましたが、
これは国策でも何でもなく、山下太郎という希代の事業家による
渾身の挑戦だったのです。
 戦後の日本には石油やエネルギーにおいて、戦略らしきものは
何もなかったのです。和光大学経済経営学部教授の岩間剛一氏に
よると、強いて戦略というべきものを上げるなら「徹底したアメ
リカ追従」だけだったというのです。
 しかし、この「徹底したアメリカ追従」はそれなりの効果を日
本にもたらしたのです。それは1バレル当たり3ドルに固定され
た安価な石油の安定供給が確保されたからです。
 三井物産や三菱商事などの日本の大手商社は、進んで欧米系メ
ジャーの下請けとして働くことに注力し、メジャーを敵に回すこ
とになるリスクの多い石油の自主開発などには手を出さなかった
のです。これが「徹底したアメリカ追従」です。
 こういう時期に石油の自主開発に着目したのが山下太郎氏なの
です。しかし、山下氏は石油に関しては知識もノウハウもなく、
まさに徒手空拳で石油の自主開発にチャレンジしたのです。それ
では山下氏はなぜ石油の開発に手を出したのでしょうか。
 それについて答えるには、当時の中東の情勢について知る必要
があります。当時中東はスエズ運河の国有化の問題をめぐって、
エジプトと英国が対立していたのです。さらにそれに加えて、イ
スラエル問題などによって、中東諸国と欧米の関係は険悪なもの
になりつつあったのです。
 山下太郎氏はこういう状況を見逃さなかったのです。というの
は、それまで中東諸国は油田の権益を欧米系のメジャーにしか与
えていなかったのですが、欧米との関係が険悪化するにつれて、
もし、希望するところがあればメジャー以外にも油田の権益を与
えてもいいと考えはじめていたからです。
 1957年〜58年にかけて山下氏は、サウジアラビアとクゥ
ェート両国の分割地帯から油田の採掘権を取得して、アラビア石
油を設立したのです。これは国策ではなく、まさしく山下氏が事
業としてこれを行ったのです。
 1960年にアラビア石油はカフジ油田を発見し、政財界から
資金を集めて油田の開発をはじめたのです。このようにして、戦
後初めての日の丸油田が誕生したのです。
 しかし、日本政府はアラビア石油の成功を一事業家によるビジ
ネスとしか考えなかったのです。そして、あくまで米国追従のメ
ジャー頼りのエネルギー戦略を続けていたのです。
 しかし、1970年代に入って、2度の石油危機が起きると、
政府の態度は一変します。日本は石油の99.7%を輸入し、そ
のうち、77.5%を中東に依存していたのですが、通常在庫の
20日分しか備蓄していなかったので、国内的に大パニックが起
こったのです。その結果、エネルギー政策に関する政府の無策が
明らかになり、国民の怒りを買ったのです。
 これに懲りて旧通産省は石油公団を設立します。そして、油田
開発プロジェクトに対して必要な資金の70%を融資し、なおか
つ返済は、開発に成功して生産に移行してからという好条件を付
けて、民間企業に石油開発を促したのです。
 その結果、日の丸油田開発は活性化し、1985年には原油輸
入量に占める自主開発原油の割合は、10.7%とはじめて10
%を突破したのです。
 しかし、OPECによる価格支配が始まり、世界的な石油の需
要が縮小したことや、世界各地で有望な油田が次々と発見された
ことなどによって、石油の価格は暴落したのです。
 さらに、1983年からニューヨーク・マーカンタイル取引所
で原油先物市場が設立され、石油は市場で価格が決まる市況商品
になっていくのですが、そういう動きに、日本はついていくこと
ができなかったのです。
 マーケットが価格を決めるようになると、当然のことながら、
需要と供給が価格に反映することになります。1980年代後半
に原油は供給過剰になっており、市場では1バレル当たり10ド
ルという値しかつかなかったのです。そして、この安値が、以後
20年も続くことになるのです。
 皮肉なことにこの価格なら、日本のような石油輸入国にとって
は願ってもない状況になったのです。しかし、そのとき日本は自
主開発油田に戦略の舵を切っていたのです。石油が安値であると
いうことはドル安ということであり、ドル安は円高を意味するの
です。したがって、高値で買った油田採掘権の借金は円高で4倍
に膨れ上がり、一方の原油は4分の1にダウンしたのです。
 こうなると、日の丸油田の価値は円高でみると20分の1に大
暴落し、石油開発会社がどんなに経営努力をしても採算割れは必
至になったのです。また、石油公団は、カナダ北極沖の「北海石
油」にも1217憶円もの資金を注ぎ込み、開発に失敗するなど
不良債権は雪だるまのように増えていったのです。
 出資・融資総額約2兆円――一方で原油価格は安値安定して輸
入には絶好のチャンス――こういう状況において日本は大きな間
違った判断を下すことになります。これについては、明日のEJ
で述べます。         ―― [石油危機を読む/40]

≪画像および関連情報≫
 ●石坂泰三と山下太郎の逸話
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ある時、山下は「財界総理」といわれた経団連の石坂泰三会
  長会長を訪れ、この開発の重要性を切々と訴え、理解はして
  もらったものの、資金協力については「俺にはそんな金はな
  い」と拒否され、しばらく両者に沈黙の時間が経過した。粘
  る山下に、石坂は重い口を開いて、「ところで一体どのくら
  いの金が必要なのかね」。「100億円の保証です」と山下
  が答えると、石坂は表情を変えて「100億円?そんな金額
  は俺には縁がないから・・・夢物語には協力するよ」。「本
  当に100億円の保証をお願いできるのですか?有難うござ
  います」。ここから山下太郎の獅子奮迅の働きが始まる。
  http://blog.canpan.info/sasakawa/archive/1200
  ―――――――――――――――――――――――――――

山下太郎氏.jpg
山下 太郎氏
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2010年11月22日

●ドロナワの日本のエネルギー政策(EJ第2330号)

 石油公団による日の丸油田開発プロジェクト――目標は原油輸
入量の30%を目指していたのです。しかし、1985年に10
%を超えたものの、その後の原油の暴落と円高によって日の丸油
田の価値は暴落し、窮地に追い込まれたのです。
 1998年、当時の堀内光雄旧通産大臣は、次のように石油公
団見直しを宣言しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 30%の自主開発油田に切り換えるという数値目標達成のため
 に経済合理性を度外視し、巨額の不良債権を生み出している。
                  ――堀内光雄旧通産大臣
           「SAPIO/2008年4月9日号」
―――――――――――――――――――――――――――――
 そして、いわゆる小泉構造改革の一環として、2002年に石
油公団の廃止が決まったのです。これは、自主開発油田政策の転
換を意味しています。
 結局日本は、石油公団を廃止することによって、石油を市況商
品として位置づけて対処することにしたのです。すなわち、石油
を安いときにできるだけ多く買っておき、備蓄を増やすという市
場万能主義に転換したわけです。
 この政策転換の犠牲になったのが、山下太郎氏による日の丸油
田「カフジ」だったのです。というのは、カフジ油田はちょうど
その時期に油田の権益の契約更改が重なったからです。このとき
サウジアラビアとクウェート側がアラビア石油に求めていたのは
「鉱山鉄道の建設」だったのです。その必要資金は2000億円
だったのです。
 アラビア石油は石油公団に融資を求めたが、拒否され、せっか
くのカフジ油田を失ってしまいます。ちょうど当時の日本は、小
泉構造改革の渦の中にあり、税金を投入して民間企業を救うなど
とんでもないという風潮に満ちていたのです。
 確かにカフジ油田は民間企業の手によるものですが、本来は国
家事業としてやるべきものを国が無策のために動かなかったので
民間企業がやったのです。構造改革の名の下にその重要性を十分
に調査もせず、開発途上の貴重な油田を放棄したのです。
 それだけではないのです。カフジ油田の放棄がキッカケとなり
開発中の油田は次々とバーゲンセールよろしく投売りされて日の
丸油田は壊滅してしまったのです。
 ところが、まるでそれを待っていたかのように、原油が一気に
高騰しはじめたのです。しかし、その原油の値上がりは、専門家
であれば――いや素人であっても、十分読めるはずのものであっ
たといえます。なぜなら、アラビア石油がカフジ油田を諦めたの
が2000年〜2003年ですが、2003年3月にはイラク戦
争が勃発しているからです。
 もちろん原油の値上がりはイラク戦争だけが原因ではないので
す。いわゆるBRICs――ブラジル、ロシア、インド、中国の
4ヶ国の経済発展に伴う石油の需要拡大があります。それに中東
情勢などの地政学的リスクが重なったのです。
 2003年からはじまった原油価格の高騰は、まさに天井知ら
ずで上昇し、遂に100ドルを大きく超えているのです。お粗末
なのは、この原油の高騰に慌てた日本政府が再び自主開発油田を
口にしはじめたことです。そして、2006年5月に「新国家エ
ネルギー戦略」を公表したのです。
 これは日本という国が石油という戦略物質に対する基本的な考
え方が何もないことを意味します。いったん諦めた自主開発油田
を情勢の変化を理由に3年後に再び再現させる――普通の国なら
考えられない無策です。
 しかも、その内容たるやかつての石油公団のときとほとんど変
わらないのです。自主開発原油の目標を以前の30%から40%
に引き上げることを前提に、かつての石油公団に変わる独立行政
法人/JOGMEC――石油・天然ガス・金属鉱物物質資源機構
が出資金額を以前の70%を上回る75%にする――これだけの
ことであり、以前と何も変わっていないのです。
 そんなに早く以前の状態に戻すなら、なぜ石油公団を廃止して
貴重な油田を投売りしたのか――これこそ究極の税金の無駄使い
以外のなにものでもにいと考えます。
 しかし、このようにして自主開発原油に方針を切り換えたにも
かかわらず、イランのアザデガン油田の日本側権益が75%から
10%に削減されているのです。
 アザデガン油田は、1999年にイラン国営石油会社によって
発見された油田で、推定260億バレルに及ぶ世界屈指の埋蔵量
を誇る油田なのです。戦争などで開発が遅れていたが、2004
年に採掘に日本の企業体とイラン国営企業で共同開発する契約が
できており、日本の自主開発油田の目玉になっていたのです。こ
れにブッシュ政権が待ったをかけてきたのです。
 ブッシュ政権は、イランがウラン濃縮を継続する限り、イラン
の原油開発に関して、2000万ドル以上の投資を行った外国企
業を制裁するというものです。日本は簡単にこれに屈してしまい
権益を大幅に削減したのです。
 そして、ほぼ同時期の2006年12月に例の「サハリン2」
もプーチン政権の強権に屈し、シェアを引き下げたことは既に述
べた通りであり、日本の外交政策のまずさが浮き彫りにされてい
るのです。
 石油はメジャーから買えばよいといっていた日本政府は、石油
危機が起こると自主開発原油に切り換え、原油暴落と円高になる
と、石油公団を廃止してもとの政策に逆戻り・・。しかし、原油
が高騰すると、またしても自主開発原油に戻り、イランやロシア
ではさしたる抵抗もせず、莫大な税金を投入した権益を手放して
しまう――一体日本は何をやっているのでしょうか。
 しかし、日本経済は、昨今の原油高騰に耐えられる強靭な体質
になっており、じたばたすることはないのです。もっと腰をすえ
た戦略を持つべきです。    ―― [石油危機を読む/41]


≪画像および関連情報≫
 ●「新・国家エネルギー戦略」について
  ―――――――――――――――――――――――――――
  経済産業省・資源エネルギー庁はエネルギー安全保障を中核
  とする「新・国家エネルギー戦略」を去る5月末に公表しま
  した。これは中長期にわたる日本のエネルギー戦略について
  まとめたものです。この背景には、原油価格の高騰は中長期
  的に継続する可能性が高いことや、少子高齢化の流れの中で
  エネルギー購買力が低下する懸念などがあり、これまでは市
  場原理にまかせていたエネルギー資源について、国として安
  全保障と地球環境問題を同時に克服する新たな戦略をたてた
  ものです。   http://www.mhi.co.jp/atom/senryaku.htm
  ―――――――――――――――――――――――――――

アザデガン油田.jpg
アザデガン油田
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2010年11月24日

●ガソリン価格の内部構造(EJ第2331号)

 道路特定財源の議論が国会で続いているとき、自民・公明両党
の議員の何人かは、次のようにいっていたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本のガソリン税は、暫定税率分を含めても国際社会の中では
 かなり低い方である。   ――自民・公明両党議員の言い分
―――――――――――――――――――――――――――――
 このこと自体は間違っていないのです。最もガソリン価格の高
い国を4つ上げると次のようになります。
―――――――――――――――――――――――――――――
        ガソリン価格       税  金
   英  国   233円       150円
   ド イ ツ   229円       143円
   フランス   216円       134円
   韓  国   193円       111円
―――――――――――――――――――――――――――――
 ガソリン価格については、それぞれの国によって事情は違って
きます。例えば、1リッター当たり150円を取っている英国で
は、高速道路は無料であるためそういう高い税になっているので
す。与党議員は日本でも150円も税を取れば高速道路を無料に
できるといっています。
 このほか、環境税という性格の税をガソリン税に含めている国
もあります。車を走らせればCO2を排出し、環境を害するので
ガソリン税に環境税を含めるのは合理的であるといえます。
 しかし、与党議員のウェブサイトには、日本よりもガソリン価
格が高い国のケースしか出ていませんが、日本よりガソリン価格
の安い国もたくさんあるのです。主要国だけを上げても、米国、
カナダ、メキシコ、ニュージーランドなどがそうです。
 ところで、あれほど国会でガソリン税について議論が行われな
がら、日本のガソリン価格の内訳について正確な提示がなかった
と思います。そこで、EJではガソリン価格の構造を示しておき
たいと思います。
 現在は、レギュラーガソリンが1リットル当たり160円を超
えていますが、ここでは、便宜上1リットル=129円として、
その内訳について詳しく考えてみることにします。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.原材料費/原油費 ・・・・・・・・・・ 25.80円
 2.ガソリン精製費 ・・・・・・・・・・・ 25.80円
 3.輸送費/ガソリンスタンドのマージン ・ 15.50円
 4.ガソリン税 ・・・・・・・・・・・・・ 53.80円
    ・揮発油税  ・・・ 48.6円
    ・地方道路税 ・・・  5.2円
 5.消費税(1+2+3+4)×0.05 ・・  6.05円
 6.石油石炭税 ・・・・・・・・・・・・・  2.04円
   ――――――――――――――――――――――――――
                         129円
           ――岩間剛一著/アスキー新書/025
『「ガソリン」本当の値段/石油高騰から始まる「食の危機」』
―――――――――――――――――――――――――――――
 これでわかるように、本当のガソリンの価格は約67円≪1〜
3の合計≫であり、あとの約62円はすべて税金なのです。それ
におかしいのは、1〜4までの金額(ガソリン価格+ガソリン税)
に対して、5%の消費税をとっていることです。つまり、税金に
さらに税金をかけているわけです。これはタックス・オン・タッ
クスといって二重課税であり、石油業界は猛反発しているのです
が、そのままになっています。
 野党議員の追及のなかに、このタックス・オン・タックスを問
題にした議員はいなかったはずです。これだけでも6円違ってく
るのです。なぜ、問題にしないのでしょうか。
 揮発油税は1949年に創設されたのですが、1954年には
道路特定財源に定められています。そして1955年には地方道
路税が創設されています。当初揮発油税と地方道路税は次の通り
だったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
  ガソリン1リットル当たり
          揮発油税 ・・・ 24.3円
         地方道路税 ・・・  4.4円
         ―――――――――――――――
                   28.7円
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、1973年に第一次石油危機が起こったのです。第4
次中東戦争のあおりを受けて石油価格が急騰し、狂乱物価など激
しいインフレーションを生んだ石油危機に対して、日本は国家を
あげて「省エネ化」をめざしたのです。深夜放送が自粛され、ネ
オンサインが消えるなど、その努力は相当真剣だったのです。
 そして、省エネのため石油資源を節約し、石油の消費を抑制す
ることを狙いとして、揮発油税などの税率を上乗せする暫定税率
が課せられることになったのです。暫定税率はガソリン税だけで
なく、同じ年に自動車取得税、自動車重量税に、1976年には
軽油取引税にも創設され、これらはすべて現在に至るまで続いて
いるのです。ガソリン税(揮発油税と地方道路税)についてだけ暫
定税率を示すと次のようになります。
―――――――――――――――――――――――――――――
            ガソリン1リットル当たり/暫定税率
  揮発油税  24.3円 + 24.3円 = 48.6円
 地方道路税   4.4円 +  0.8円 =  5.2円
 ――――――――――――――――――――――――――――
        28.7円 + 25.1円 = 53.8円
―――――――――――――――――――――――――――――
 道路特定財源が廃止され、一般財源化されることは一歩前進で
あることは確かです。     ―― [石油危機を読む/42]


≪画像および関連情報≫
 ●タックス・オン・タックスについて
  ―――――――――――――――――――――――――――
  少し前、(社)日本自動車工業会、(社)石油連盟、自動車総連
  などが「ガソリン税は二重課税」とか「消費税と自動車取得
  税との二重課税」という内容で広告をしたり、税制建議をし
  たりしていました。国会でも揮発油税と消費税はタックス・
  オン・タックスになっており改めるべき、などという議論も
  なされました。二重課税はあってはいけない。これらの主張
  の中では「二重課税」が併課と重複課税との両方の意味に使
  われています。税金に対して税金を重複して直接課すること
  を「二重課税」といいます。関税等を除き原則的にありえな
  いことになっています。
   http://ikenokoi.at.webry.info/200610/article_16.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

タックス・オン・タックス.jpg
タックス・オン・タックス
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2010年11月25日

●原油高騰は投機筋と産油国の結託か(EJ第2332号)

 原油価格の上昇に歯止めがかからなくなっています。2008
年5月22日には次のニュースが伝えられています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 【ニューヨーク21日共同】21日のニューヨーク・マーカン
 タイル取引所の原油先物相場は、需給関係悪化への警戒感から
 急伸し、指標となる米国産標準油種(WTI)7月渡しが通常
 取引終了後の時間外取引で一時1バレル=134・10ドルを
 つけ、前日の最高値(129・60ドル)を大幅に更新した。
 134ドル台となったのは初めてのことである。終値は前日比
 4・19ドル高の1バレル=133・17ドル。終値の最高値
 更新は4営業日連続。需要が膨らむ米国の行楽シーズン入りな
 どで供給不足への懸念が強く、上昇に歯止めがかからない展開
 になっている。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ところが、こういう状況にもかかわらず、産油国は増産を見送
る方針です。原油価格高騰の原因を産油国としては供給側の要因
ではなく、投機とみているからです。
 しかし、専門家の見方によると、今回の原油価格高騰を資源の
国家管理による原油増産の停滞と製油所の能力不足という供給側
の要因にあるとみているのです。中国の大地震の影響で石油製品
需要が増えるという見通しもあり、需給逼迫が長期化するのでは
ないかという懸念が原油価格の高騰を招いていると分析している
のです。そして、この原油の先高感がマネーの流入に拍車をかけ
ている――このようにみているのです。
 国際原油価格はWTIの原油先物価格によって決まりますが、
WTIの原油先物はニューヨークの商品取引所――NYMEXに
上場しています。ここでの先物取引は、米政府の商品先物取引委
員会によって監視されており、投機的な行為は取り締りの対象と
なっているのです。
 ところが、同じ先物商品はロンドンにあるICEという企業が
運営するネット上の先物取引市場でも取引されているのです。し
かし、ICEは外国の民間企業による相対取引の市場であって、
米政府の商品先物取引委員会の監視の枠外なのです。
 このことを利用して、ヘッジファンドや投資銀行などの投機筋
は原油価格をつりあげる目的で、NYMEXだけでなく、米政府
の監視の枠外のICEを通じて先物を売買しているという説があ
るのです。ちなみに「相対取引」とは株式用語で、公開株式の売
買に関して、市場を介さずに売買当事者間で売買方法、取引価格
取引量を決定して売買する取引のことです。
 この問題に関して米上院では報告書を出して、次の指摘を行っ
ているのですが、ブッシュ政権はこの報告書を無視し、何の対策
も取っていないのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 投機資金は、2000年から原油先物相場をつり上げている。
 WTIの先物取引の30%はロンドンICEで取り引きされて
 いる。 ――田中宇の国際ニュース解説/2008.5.14
―――――――――――――――――――――――――――――
 ウィリアム・エングダールという石油・地政学専門家は「現在
の国際原油価格のうち最大で60%が、投機筋によるつりあげ効
果の産物である」といっています。もし、このエングダールの分
析が正しいとすると、投機分を除外すれば原油価格は1バレル=
50ドル程度まで下がる計算になるのです。
 こういう情勢を受けて、米連邦上院議会では、原油市場におけ
る投機資金の規制を強化する「石油取引透明化法」を2人の民主
党議員が提案していますが、商品先物取引委員会は「原油高騰の
原因は投機ではない」として規制強化に反対しています。
 どうやらブッシュ政権は、意図的に原油価格を高騰させようと
しているフシがあります。そのウラには、モルガン、ロックフェ
ラー、ゴールドマンサックスというニューヨークの大資本家たち
がいるのです。米国の連邦準備制度(FRB)の設立のシナリオ
を描いたのも彼らなのです。
 彼らは、ウラ側で米政権を操る糸を握っており、今回の原油高
騰は彼らとブッシュ政権の共同作業ではないか――こういう見方
もあるのです。国際ジャーナリストの田中宇氏は次のように述べ
ています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ブッシュ政権がICEという原油投機の「抜け穴」を開け、ニ
 ューヨークの大資本家たちが石油価格をつり上げるという作業
 の結果、ロシアやサウジアラビア、イラン、ベネズエラなどの
 産油国の国庫が潤い、これらの国々はアメリカの覇権に対抗で
 きうるネットワーク(非米同盟)を強化している。
     ――田中宇の国際ニュース解説/2008.5.14
―――――――――――――――――――――――――――――
 田中宇氏のいう「非米同盟」――実は新セブンシスターズとい
われているのです。かつてのエクソン、シェル、BPなどのかつ
てのセブンシスターズが持つ油田の総埋蔵量は、世界の全埋蔵量
の10%を既に切っているのです。残りは、次の諸国の石油会社
が持っているのです。これら7社を「新セブンシスターズ」と呼
んでいます。
―――――――――――――――――――――――――――――
    1.ロシア        5.マレーシア
    2.イラン        6.ブラジル
    3.サウジアラビア    7.ベネズエラ
    4.中国
―――――――――――――――――――――――――――――
 これら米国に好意を持っていない新セブンシスターズと市場関
係者の思惑が一致すれば、需給バランスを崩すことなく、価格の
高騰を演出できるのです。つまり、現在起こっている原油の高騰
は、投機筋と新セブンシスターズが演出している――そういう見
方もあるのです。       ―― [石油危機を読む/43]


≪画像および関連情報≫
 ●新セブンシスターズ/田中宇氏のコラム
  ―――――――――――――――――――――――――――
  フィナンシャル・タイムスの「新しいセブンシスターズ」と
  いう記事は私から見ると、まるで「アメリカの中枢に陣取る
  多極主義の勢力が書かせた記事広告」である。「セブンシス
  ターズ」は7社で世界の石油利権を支配しているといわれる
  米英の石油会社でエクソン、シェブロン、モービル、ガルフ
  石油、テキサコというアメリカの5社とブリティッシュ・ペ
  トロ−リアムス(BP)ロイヤル・ダッチ・シェルというイ
  ギリス系の2社を指していた。1980−90年代の国際石
  油業界の再編によって、エクソンとモービルが合併し、テキ
  サコがシェブロンに吸収され、ガルフ石油は分割されてBP
  とシェブロンに吸収されたことで、セブン・シスターズは4
  社に減った。この4社が世界の「石油利権」を握り「石油は
  アングロ・サクソン(米英)が支配する」というのが、これ
  までの常識である。 http://tanakanews.com/070320oil.htm
  ―――――――――――――――――――――――――――

ガソリン高騰.jpg
ガソリン高騰
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2010年11月26日

●なぜ、高値安定になるのか(EJ第2333号)

 原油価格は毎日のように最高値を更新し、日本経済への逆風は
一段と強まってきています。2008年4月〜6月期以降に原油
価格が次のように推移した場合、2008年度の経常利益は大幅
に押し下げられることになります。なお、この数値は原油価格が
100ドルで推移した場合との比較です。
―――――――――――――――――――――――――――――
  130ドルで推移した場合 ・・・ 2.8%ダウン
  140ドルで推移した場合 ・・・ 3.7%ダウン
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、5月22日時点で1バレル当たり135.09ドルの
最高値を既に更新しており、平均しても130〜140ドルより
も高くなることは確実視されています。
 原油価格が高値で安定しているのは、ヘッジファンドなどの短
期マネーに加えて、年金基金などの長期に運用するマネーの流入
があることが影響しているものと思われます。年金基金などのマ
ネーの運用は「買いっ放し戦略」といって、買い続けるだけで基
本的に売り戻さないのです。したがって、高値が長期に安定して
しまうことになるのです。
 なぜ、年金などの長期マネーが流入してくるのかには次の2つ
の理由があります。
―――――――――――――――――――――――――――――
   1.原油価格は今後も上昇続ける可能性が高い
   2.世界的な低金利傾向がその背景にあること
―――――――――――――――――――――――――――――
 とくに米国では、サブプライム問題があって金利を下げている
のですが、その影響が大きいのです。5月22日付の日本経済新
聞は次のように書いています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 世界的な低金利を背景に、余剰マネーが決済期限の近い期近物
 からあふれ出して、超長期先物に流れ込み、8年先に決済期限
 を迎える2016年物まで140ドル台に上昇。これが相場全
 体の急騰を主導している。 
       ――2008年5月22日付の日本経済新聞より
―――――――――――――――――――――――――――――
 ヘッジファンドの短期マネーは満期の近い期近物に投資して短
期で収益を得ようとするので、通常は「期近高・期先安」になる
のですが、年金などの膨大な長期マネーが満期の遠い期先物に流
れ込んだので、5月の後半には「期近安・期先高」に構図が変化
しています。
 この「期近高・期先安」のことをバックワーデーション――逆
ざやといい、「期近安・期先高」をコンタンゴ――順ざやと称す
ることは、4月18日のEJ第2309号で述べています。EJ
第2309号もあわせて参照願います。
―――――――――――――――――――――――――――――
 http://electronic-journal.seesaa.net/archives/20080418-1.html
―――――――――――――――――――――――――――――
 このまま原油価格が高騰し続けると、日本経済はどうなってし
まうのでしょうか。
 三菱UFJリサーチ&コンサルティング主任研究員の芥田知至
氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 三菱UFJリサーチ&コンサルティングの試算では、仮に07
 年の経済構造を前提として、原油の輸入が1バレル=160ド
 ルで行われたと仮定すると、貿易黒字(通関ベース)はゼロに
 なってしまう。そこまでいかなくても、原油価格と連動して他
 の国際市況商品の価格も上昇するとすれば、1バレル=125
 ドルの水準で日本の貿易収支は均衡する。今後、原油高が一段
 と進んでも日本経済はそれに対応していくだろうが、日本の所
 得水準が押し下げられるのは間違いない。  ――芥田知至氏
           ――週刊「エコノミスト」4/8特大号
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本のエネルギー自給率はわずか4%です。これは石油、天然
ガス、石炭など日本が消費しているエネルギーのうち、国内生産
でまかなっている割合です。準国産と位置づけられている原子力
発電を含めても約18%なのです。他国は次の通りです。
―――――――――――――――――――――――――――――
  米 国 ・・・ 71%  ロシア ・・・ 181%
  中 国 ・・・ 95%  英 国 ・・・  96%
  インド ・・・ 82%  ドイツ ・・・  50%
―――――――――――――――――――――――――――――
 これを見ると、日本のエネルギー自給率の低さが際立ってしま
いますが、資源のあるなしについてはそれぞれの国の事情に基づ
くものであり、仕方がないことです。しかし、そのような国では
他国で自主開発油田を獲得するなどすることができます。
 しかし、既に見てきたように、日本のエネルギー確保に関する
戦略はあまりにも場当たりであり、長期的な戦略というものがな
いのです。既出の岩間剛一氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 (日本は)原油価格が上下するたびに一喜一憂し、原油価格が
 安い時に石油開発を怠り、原油価格が高値を付け石油資源の権
 益価格が高くなると慌てて資源獲得に駈けずり回る。その結果
 油田権益の高値つかみを繰り返し、原油価格下落時に損失を被
 るのである。    ――岩間剛一著/アスキー新書/025
『「ガソリン」本当の値段/石油高騰から始まる「食の危機」』
―――――――――――――――――――――――――――――
 岩間剛一氏は、こうなってしまう原因を日本の官僚組織――キ
ャリアシステムにあるとみているのです。このシステムの下では
本当の意味の石油の専門家は育たないのです。したがって、エネ
ルギーの長期戦略を立てられないのです。
               ―― [石油危機を読む/44]


≪画像および関連情報≫
 ●コンタンゴ化する原油先物価格
  ―――――――――――――――――――――――――――
  2008年6月の期近物から、2016年12月の一番期先
  物にいたるまでが、フラット化しました。中期部分が3ドル
  程度垂れ下がっているだけで、両端が同じ、というのも特徴
  的です。以前は一番の期近物に比べて中期部分はドル以上、
  16年12月物も10ドル近く低い値となっていましたがそ
  れらが均等に上昇したと言えるかと思います。見直してみる
  と、5月はじめから徐々にに期先物側が上がりだしていたよ
  うですね。いわゆるバックワーデーション状態ではなくなり
  また先高でもない状況がこのまま継続するのなら、新たな特
  徴的な要素といえるでしょう。
        http://oguogu.iza.ne.jp/blog/entry/582854/
  ―――――――――――――――――――――――――――

コンタンゴ化する先物価格.jpg
コンタンゴ化する先物価格
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2010年11月29日

●日本は技術という資源を活用せよ(EJ第2334号)

 2006年5月に策定された「新・国家エネルギー戦略」――
自主開発原油の割合を2030年までに40%にすることを目指
しています。現在の自主開発原油の割合は約15%です。
 2006年時点において日本が権益を有する石油・ガス事業は
117件であり、そのうち68件が原油・ガスを生産しているの
ですが、それらの原油と天然ガスの生産量は、「日量74万バレ
ル」に過ぎないのです。
 40%を達成しようとすると、「日量160万バレル」は必要
なのです。しかし、現在は「日量74万バレル」しかないので、
さらに「日量86万バレル」の原油生産を確保することが必要に
なりますが、それは果たして可能なのでしょうか。
 これに対して政府は、カスピ海、サハリン、オーストラリアな
どの権益確保によって40%は十分可能であると考えていますが
ここまで見てきたように資源ナショナリズムが高まるなかで、と
うてい計画通りにことは運ばないと考えられます。少なくともこ
れまでは失敗の連続といってよいからです。資源はもはやお金を
出せばいつでも買えるコモディティ(市況商品)ではなくなって
いるのです。
 このように、エネルギー供給の不安定化が進むなかで、日本の
エネルギー安全保障政策の基本は、日本の持つ高度な「技術」と
いう資源に頼るしかないということになります。
 エネルギー問題に詳しい東洋大学経済学部の小川芳樹教授は、
これについて次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 これまでは石油なら石油、石炭なら石炭を外国からいかに確保
 するかという政策に力を注いできた。しかし、供給サイドにば
 かりに目を向けていると、いつまでたっても相手国の事情に左
 右されることになる。それよりも、自国のエネルギー消費構造
 を工夫していかにひとつの資源だけに頼らないようにするかが
 重要です。               ――小川芳樹教授
            ――「SAPIO」/4月9日号より
―――――――――――――――――――――――――――――
 要するに、石油・天然ガス以外の代替エネルギーをいかに確保
するかにかかっているというのです。日本で一番進んでいるのは
原子力です。現在、日本のエネルギー消費量の12〜14%は原
子力が担っているのですが、日本はこれをさらに飛躍させる高度
な技術を持っているのです。
 現在世界で一番注目されているのは、現在の原子炉を進化させ
た「スーパー軽水炉(超極臨界圧軽水冷却炉)」です。「スーパ
ー軽水炉」とは一体何でしょうか。
 「スーパー軽水炉」を研究している東京大学の岡芳明教授は、
次のように説明しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 2030年の実用化を目標にしているスーパー軽水炉は、蒸気
 の力を限界まで引き出す新しい発想の原子炉で、米国原子力エ
 ネルギー省から第4世代原子炉に認定されました。このスーパ
 ー軽水炉ならば、建築費用は従来の約3分の2まで圧縮できま
 す。設置面積も小さくて済みますから、新たな原子炉を建設す
 る追い風になってくれるはずです。     ――岡芳明教授
            ――「SAPIO」/4月9日号より
―――――――――――――――――――――――――――――
 既にあるスーパー軽水炉型発電所の改良や新たな炉の増設が順
調に進めば、日本全体のエネルギーの50%を担うことも可能に
なるといわれています。
 もともと日本人は原子力にはアレルギーが強く、反対の声が多
いのですが、日本の場合は原子力を核として進めざるを得ないの
です。世界で唯一原子爆弾を落とされた国が世界で一番その原子
力を平和的に利用する――こういうかたちになることが、一番望
ましいのです。
 しかし、世界を見ると、化石燃料に代わるエネルギー確保に邁
進している国は多いのです。この面で日本は大きく遅れていると
いえるのです。
 アイスランドでは、エネルギーの55%を「地熱発電」、16
%を水力発電で確保しています。自動車などの燃料に関しては、
水素エネルギーを活用して、できる限り化石燃料を抑えよう努力
しているのです。
 水素は化石燃料やバイオマス、水など様々な原料から製造でき
燃料電池自動車や家庭用、業務用のエネルギーとして利用が期待
されているのです。水素は燃やしてもほとんど有害ガスが出ない
クリーンなエネルギーです。
 燃料電池自動車では、水素を燃料として化学反応を利用して電
気を作り、その電気によるモータで走るクリーンな自動車です。
燃料電池自動車が水素エネルギー社会の牽引役を担うものとして
大いに期待されているのです。
 アイスランドの国内では、既に公共バスの一部には水素ガスが
取り入れられており、レイキャビク市内では、水素ガス・スタン
ドまで設置されています。アイスランド政府は、今後もこうした
取り組みを強化し、2050年までに再生可能エネルギー100
%を達成する方針であるというのです。
 アイスランドだけではないのです。ドイツでは2000年に再
生可能エネルギー法が施行され、太陽電池の普及が一段と拡大し
ているのです。
 なぜかというと、この法律は民間が太陽光などで発電した自然
エネルギーを電力会社が割高な固定価格で買い取るよう義務づけ
ているのです。その価格は、化石燃料で供給される電力の3〜4
倍に当たるため、太陽光発電が家庭や企業に拡大したのです。
 もともと日本は太陽光発電は導入量世界一を誇っていたはずで
すが、なぜドイツに負けてしまったのでしょうか。国家がサポー
トしなかったからなのです。明らかに国策の失敗であるといえる
のです。           ―― [石油危機を読む/45]


≪画像および関連情報≫
 ●東京大学の岡芳明教授のウェブサイトより
  ―――――――――――――――――――――――――――
  1989年に私たちの研究室で生まれた新しい原子炉の概念
  は、現在では米国・欧州・韓国・カナダをはじめ、私たちを
  中心に世界中で研究されています。また、2001年7月に
  は、米国を中心とする世界10カ国で、第4世代国際フォー
  ラム(GIF)が結成され、2030年までの実用化を目指
  し、他の5つの概念と並び、特に有望とされる第4世代原子
  炉に選ばれました。私たちは国内だけでなく、世界を相手に
  研究しているのです。          ――岡芳明教授
  ―――――――――――――――――――――――――――

岡芳明東京大学教授.jpg
岡 芳明東京大学教授
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2010年11月30日

●バイオガソリンと日本の対応(EJ第2335号)

 「バイオマス・エネルギー」という言葉があります。バイオ燃
料を総称していう言葉であり、次のような幅広い概念を有してい
るのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 バイオマス・エネルギーとは、エネルギーに変換できる生物の
 量、主として植物体、農産廃棄物、畜産廃棄物、さらには産業
 廃棄物、都市廃棄物を含む概念である。
―――――――――――――――――――――――――――――
 バイオマス・エネルギーがなぜ注目されるのかというと、次の
4つの意義があることです。
―――――――――――――――――――――――――――――
      1.再生可能なエネルギーである
      2.世界中どこにも存在している
      3.その資源量が膨大であること
      4.CO2など環境適合性が高い
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、良いことばかりではないのです。エネルギーとしての
利用技術が確立されていないことや、製造コストが高いという問
題点があります。日本でバイオエタノールを製造すると、ガソリ
ン製造コストよりも2倍〜3倍もコストがかかるからです。
 しかし、日本の石油業界は、2007年4月27日から、首都
圏一都三県――東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県で、「バイオ
ガソリン」の試験販売をスタートさせているのです。この試験販
売は、経済産業省の補助金を得て実施する流通実証事業(バイオ
マス由来燃料導入実証事業)となっています。
 ところで、「バイオガソリン」とは一体何でしょうか。
 日本でいう「バイオガソリン」とは、ガソリンに7%の「ET
BE」――バイオエタノールと石油系ガスのガス・イソブテンの
合成物質です。
 ちなみに、バイオエタノールとは、サトウキビやトウモロコシ
などのバイオマスを発酵させ、蒸留して生産されるエタノールの
ことです。エタノールという物質は、石油や天然ガスからも合成
することができ、そうして生産されるエタノールを合成エタノー
ルと呼ぶのです。
 2007年は、50ヵ所の給油所において、一斉にバイオET
BEを配合したレギュラーガソリン(バイオガソリン)を販売し
2008年春からはその数を順次100ヵ所に増やし、本格導入
に向けた取組みを進めているのです。
 しかし、日本の石油会社はバイオガソリンに関してはなかなか
慎重なのです。2007年1月に、新日本石油をはじめとする製
油元売り10社は「バイオマス燃料供給有限事業責任事業組合」
――JBSLを設立し、その事業組合を通してバイオガソリンを
売るという体制なのです。
 日本における試験販売では、フランスからETBEを7800
キロリットル輸入し、新日本石油の根岸製油所において、バイオ
ガソリンを製造しています。JBSLの計画では、ETBEの原
料になるバイオエタノールの国内製造に関しては対応する計画は
なく、あくまでも海外からの調達を基本とするとのことです。
 ガソリン以外の物質からエネルギーを製造するということは別
に新しいことではないのです。第2次世界大戦において米国から
石油の輸出を止められ、戦車や軍艦、戦闘機のための燃料調達に
困った日本は、松の切り株を乾燥させて作った「松根油」をゼロ
戦の燃料として使ったという話は有名です。
 しかし、これはあくまで窮余の一策なのであって、あくまでメ
インにするものではないのです。というのは、バイオガソリンに
は3つの問題点があるからです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.バイオエタノールが製造から消費される過程で、必ずしも
   CO2を排出していないとはいい切れないこと
 2.バイオエタノールの原料であるサトウキビやトウモロコシ
   の資源量は有限で、あくまで人間の食糧である
 3.バイオエタノールの製造コストはガソリンの精製よりも割
   高であり、その経済合理性には疑問があること
―――――――――――――――――――――――――――――
 何よりも本来人間の食糧であるサトウキビやトウモロコシを燃
料にするという考え方は、これから深刻化する人類の食糧問題を
考えると大きな問題であるといえます。
 既出の岩間剛一氏は、この問題に関して自著において次のよう
に述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 米国やブラジルでは、バイオエタノールを生産するために、サ
 トウキビ畑やトウモロコシ畑の作付面積が拡大している。その
 一方で、オレンジ畑が次々とつぶされている。その結果、オレ
 ンジの不作とともにオレンジジュースの値段が上がるという思
 わぬ余波も発生しており、安易なバイオエタノール依存に警鐘
 を鳴らす食糧専門家も多い。
           ――岩間剛一著/アスキー新書/025
『「ガソリン」本当の値段/石油高騰から始まる「食の危機」』
―――――――――――――――――――――――――――――
 ブラジルにおいて、バイオエタノールの利用開始時点では、地
球温暖化防止という視点よりも、農家保護という面が強かったと
いわれます。つまり、農家に新しいビジネスチャンスを与えると
いう面が強かったのです。
 バイオエタノールが地球温暖化に寄与するというのは、後から
付けた理屈であるといえます。なぜなら、バイオエタノールを製
造するプロセスでも石油や天然ガスによるエネルギーが大量に消
費され、CO2を排出するからです。したがって、バイオエタノ
−ルが環境にやさしいということは、一概には言い切れないので
す。             ―― [石油危機を読む/46]


≪画像および関連情報≫
 ●ETBEとは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ETBE――エチルターシャリーブチルエーテルとは、エタ
  ノールとイソブテンから合成される化学物質である。自動車
  燃料に混合してに混合して使用されている。ETBE混合ガ
  ソリンは、水分が混入しても、ETBEが水と混和して分離
  することがなく、水分を除去することも可能であり、ガソリ
  ンの性状は変化しない。このため、金属の腐食やゴムの劣化
  などが生じず、自動車の安全性や走行性能に問題を生じるこ
  とはない。             ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

バイオETBE.jpg
バイオETBE
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2010年12月01日

●原油高騰とサブプライムローン問題(EJ第2336号)

 2008年5月27日付の日本経済新聞によると、7月の主要
国首脳会議――洞爺湖サミットの前哨戦とされる主要8ヶ国(G
8)環境相会合は5月26日に閉幕したのですが、その会合にお
いて、バイオ燃料を巡って米国とフランスが激しく対立したこと
が報道されています。
 フランスのコシュスコモリゼエコロジー担当相は、次のように
述べて米国のバイオ燃料の生産奨励を批判したのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 先進国の燃料と途上国の食料が競合するのは絶対に受け入れら
 れない。     ――コシュスコモリゼ仏エコロジー担当相
―――――――――――――――――――――――――――――
 さらに、フランスほどはっきりはいわないものの、国連気候変
動枠組み条約のデブア事務局長は、次のように述べて食料である
トウモロコシを使う米国を暗に批判したのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 バイオ燃料の原料にサトウキビを使う場合、トウモロコシより
 生産効率は高い。バイオ燃料には『良い』ものと『悪い』もの
 がある。            ――国連・デブア事務局長
―――――――――――――――――――――――――――――
 これに対して米国務省で環境を担当するハーニッシュ大使は次
のように反論し、聞く耳を持たないという態度です。
―――――――――――――――――――――――――――――
 バイオ燃料用のトウモロコシは世界の食料の中でわずかな割合
 でしかない。           ――ハーニッシュ米大使
―――――――――――――――――――――――――――――
 ところで国連は、この6月の上旬にローマで「食糧サミット」
を開催しますが、その宣言案の骨子は次のようになるとみられて
います。G8の環境相会合のやりとりを反映しているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 「食糧安全保障への考慮」を強調し、稲わらなど食糧以外の材
 料を使ったバイオ燃料の開発・普及に向け、国際社会の協力を
 呼びかける。    ――2008.5.28/日本経済新聞
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本は当初より、穀物価格に影響を与えない食糧以外の材料を
使ったバイオ燃料を推進する方針であり、EUも食糧を原料にし
たバイオ燃料を見直す動きが出てきています。しかし、米国やブ
ラジルは見直しには慎重の構えをとっています。
 ところで、そうしている間にも原油価格は高騰を続けており、
このまま上がり続ける可能性があります。そうなると、世界中で
さまざまな問題が起きる恐れがあります。
 一番重要なことは、例のサブプライムローン問題によって、米
国の金利が下がっていることです。米国の金利が下がるというこ
とは、ドルを持つことの魅力が失われることを意味します。
 したがって、ドル離れ――ドル売りが起こり、ドル安になりま
す。ドル安になると、銀行や市中にドルが供給過剰になって、モ
ノの値段が上がり、インフレが誘発されやすくなります。現在は
まさにそういう状況にあるわけです。
 このような状況になると、今までドルを持っていた人は、他の
通貨に乗り換えたり、または株式などの金融商品、不動産、商品
市場などの他の運用先にマネーの振り替えを行おうとします。こ
の商品市場のなかに原油先物商品があるのです。
 この状況で一番怖いのはインフレですが、原油はインフレに強
い商品なのです。したがって、ドル建て資産の目減りを避けよう
として巨額のマネーが原油先物商品に向かうことは避けられない
動きなのです。
 本来であれば、株式などの金融商品にマネーが流れ込んで、株
式市場が盛り上がってもおかしくないのですが、肝心のお膝元で
ある米国でサブプライムローン問題が起こり、経営に行き詰る企
業が大量に出て、株式市場に混乱を起こしているのです。
 時系列で考えると分かりやすいと思います。まず、金利が下が
り、金融市場が低金利になります。そうすると、マネーはいった
んは株式市場に向かうのです。しかし、市場の混乱によって株安
になり、大損をする可能性が高くなったので、マネーは株式市場
から原油や穀物や資源へ行き先を変更したというわけなのです。
 一方、おりからの原油高でオイルマネーを溜め込んだ中東やロ
シアのファンドは、株価が低迷しているため、その運用先として
米国債の購入に向かっています。資金力のある中東や新興国が米
国債を大量に購入したことによって、米国の長期金利――10年
物国債利回りは自ずと下がることになります。
 ちなみに外貨準備高の世界一は長期的に日本が占めていたので
すが、2007年4月に中国に世界一を奪われて第2位となって
います。外貨準備高で1兆ドルを超えているのは、1位の中国と
2位の日本だけです。
 今までは高金利と原油高は同じ方向に動いていたのですが、最
近では金利の引き下げの一方で、原油高が進むという現象があら
われているのです。
 既に原油価格は生産と供給(需要)というシンプルな関係から
決まる時代は過ぎ去っており、原油価格の形成には明らかに投機
マネーの参入が影響を与えつつあります。すなわち、原油は投機
対象の「市況商品」化しているのです。
 原油価格は今後どうなっていくのでしょうか。
 米国の個人消費は、原油価格の高騰に加えてサブプライムロー
ン問題によって収縮しつつあります。これが影響して米国の景気
は2007年半ば頃から鈍化しているようです。このまま不況に
突入すると、景気低迷の中で物価が上昇する「スタグフレーショ
ン」が起きる恐れもあります。それは日本を含め世界経済に深刻
な影響を与える恐れがあります。
 しかし、米国の景気が減速すると、当然米国の原油の需要は減
ることになるのですが、それによって果たして原油価格が下がる
かどうかは不透明です。    ―― [石油危機を読む/47]


≪画像および関連情報≫
 ●スタグフレーションとは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  通常は物価上昇(インフレーション)と景気後退とはトレー
  ドオフの関係にあると理解されており、フィリップス曲線に
  みられる実証研究によりその有意性には一定の評価がある。
  しかしスタグフレーションでは、景気が悪化するとともにイ
  ンフレーションが進行する。インフレーションは景気回復局
  面で発生すれば雇用や賃金の増加もともなう。デフレーショ
  ンは景気後退局面で発生すれば雇用・賃金は減少するが物価
  は安くなる。しかしスタグフレーションは雇用や賃金が減少
  する中で物価上昇が発生し、貨幣や預貯金の価値が低下する
  ため生活が苦しくなる。       ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

G8環境相.jpg
G8環境相
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2010年12月02日

●メタンハイグレードの期待(EJ第2337号)

 5月29日現在、このところ上がる一方であった原油価格は少
し下げに転じているようです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 29日のNYMEXで原油先物相場は大幅反落。WTI原油は
 期近の7月物は前日比4.41ドル安の1バレル126.62
 ドル取引を終えた。2008.54.30日付/日本経済新聞
―――――――――――――――――――――――――――――
 原油先物相場の反落――大変良い傾向であり、株価もそれを好
感して上昇しています。このテーマは今週で終了しますが、最後
に、日本にとってエネルギーに関する少し明るいニュースをお伝
えしたいと思います。
 石油に代わる代替エネルギーの確保において、日本にとって最
も可能性があるものといえば、原子力発電と太陽光発電であると
思います。このうち、原子力の平和利用の技術において日本はと
くに進んでいますが、マイナス面も多々あるのは事実です。
 太陽光発電については、もともと日本が世界の先陣を切った技
術であり、日本のお家芸ともいうべきものです。当時の国策の失
敗によって現在はドイツの後塵を拝していますが、現在でもシャ
ープ(株)は、太陽電池の世界シェアの約25%を占めるトップ
企業なのです。
 現在太陽光発電で使われている電池は「結晶シリコン型」と呼
ばれるものですが、最近結晶型に比べて材料を100倍節約でき
きる「薄膜シリコン型」と呼ばれる電池が一部で使われるように
なっています。
 日本ではこの「薄膜シリコン型」をさらに進化させた「薄膜型
CIS太陽電池」の実用化に成功しており、順調に発達すれば、
2030年までには国内エネルギー消費量の10%程度を太陽光
発電で賄えるようになるはずです。しかも、これまで普及のネッ
クになっていた発電コストを化石燃料並みの7円/1キロワット
に改善できるというので有望です。
 ところが、太陽光発電は天候によって発電量が左右されるとい
うマイナス面があります。これをカバーするためには現在の技術
を上回る蓄電技術が必要になります。
 しかし、この面においても解決の光は見えています。独立行政
法人・新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)では、
「レドックスフロー」といわれる新型蓄電池の実証実験を開始し
ており、世界的に注目を集める成果が上がっているからです。
 もうひとつ「メタンハイドレート」といわれるエネルギーが日
本を資源立国に変える可能性を秘めています。このことがいわれ
出したのは1990年代の後半からです。
 「メタンハイドレート」とは何でしょうか。
 メタンハイドレートとは、数百万年以上の時間をかけて、プラ
ンクトンなどの有機物が堆積し、高圧と低温状態において天然ガ
スの主成分であるメタンCH4が生成され、氷の結晶に閉じ込め
られてシャーベット状になっているものをいうのです。
 1996年に旧通産省(経済産業省)作成の論文により、日本
周辺の近海の海洋において、国内の天然ガス消費量の100年分
に相当するメタンハイドレートの存在の可能性が指摘されたので
す。これによって日本のエネルギー業界は色めき立ったのです。
 通産省の委託を受けた当時の石油公団は、日本近海において試
掘調査を開始し、2000年には御前崎沖合の海底で実際にメタ
ンハイグレードを発見するという成果を上げているのです。
 在来型の天然ガスは、1立方メートル当たり10立方メートル
から20立方メートルの含有量があるが、メタンハイドレートは
1立方メートルの貯留岩に50立方メートルのメタンが存在する
ことが立証されており、経済的な回収率はきわめて高いのです。
 しかし、実際の果実を手にするには、まだ大きな壁が存在する
のです。というのは、メタンハイドレートは潜水士が作業できな
い深海に存在し、また地層中や海底で氷のような状態で存在する
ため、石油やガスのように穴を掘って簡単に汲み上げることも、
石炭のように掘ることもできない。ゆえに低コストでかつ大量に
採取することは技術的に困難であるからです。したがって、現在
のところ採掘にかかるコストが販売による利益を上回ってしまう
のです。そのため商用としての採掘は成立できず、研究用以外の
目的では採掘されていないのです。
 これまで行われた科学的調査によると、メタンハイドレートは
東海沖合いから熊野灘の東部南海トラフにおいて、日本における
天然ガス国内消費の14年分の埋蔵量が確認されています。それ
に加えて、さらに日本近海全体で100年分にも及ぶメタンハイ
ドレードが存在しているといわれているのです。
 商用としての採掘が成功していないのは、日本政府が南海トラ
フでのメタンハイドレート採取に固執しているからです。なぜな
ら、南海トラフのメタンハイドレートは、海底の泥の中に埋まっ
ており、探索・採取が困難を極めているからです。
 しかし、南海トラフに対して日本海沿岸には、魚群探知機でも
発見できるほど海底面に露出しているのです。したがって、採取
には大幅なコストダウンが可能になります。しかし、政府はこれ
までにかけた500億円を超えるコストが足かせとなって、行政
責任の問題からいまだに日本海沿岸での調査・採取を行っていな
いのです。
 いずれにせよ、政府は2016年までに環境対策をクリアした
うえで、メタンハイドレートの商用生産技術を確立させようとし
ているのです。
 このほかに日本のエネルギー開発の研究に変わったものがあり
ます。それは、歩行や話し声による空気振動をエネルギーに変換
するという音力・振動力発電です。このような研究をしている国
はないそうです。この技術では、昼間に車が通った時の振動・騒
音エネルギーを貯めておき、それを夜間に電灯で利用しようとい
うのです。エネルギー資源を持たない日本では、こういう技術力
が資源になるのです。     ―― [石油危機を読む/48]


≪画像および関連情報≫
 ●メタンハイドレートへの期待と不安/BPスペシャル
  ―――――――――――――――――――――――――――
  「独立行政法人の石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOG
  MEC)は、次世代エネルギーと期待されるメタンハイドレ
  ートを地中から連続して産出する実験に世界で初めて成功し
  た」との記事を2008年4月8日の日本経済新聞夕刊が掲
  載した。さらに、2008年4月18日の日経産業新聞は、
  このJOGMECの実験について触れ、「メタンハイドレー
  ト開発では日本が世界のトップランナーであり、日本のメタ
  ンハイドレート開発に刺激を受けて、中国や韓国などアジア
  の周辺諸国も研究を加速しつつある」と解説した。2008
  年4月28日の朝日新聞朝刊は、メタンハイドレート関連の
  特許出願動向を報じた。この記事によると、全出願件数に対
  する日本のシェアは64%と世界のトップだという。
      http://www.nikkeibp.co.jp/news/eco08q2/572423/
  ―――――――――――――――――――――――――――

燃えているメタンハイグレード.jpg
燃えているメタンハイグレード
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2010年12月03日

●国際石油市場はインサイダー的取引の舞台(EJ第2338号)

 今回の異常な原油高騰――どうも何かウラがありそうです。原
油高騰のウラで巨額の利益を手にしている人がいるのです。ある
本で読んだのですが、今から10年以上前のことですが、原油の
値上げに失敗したOPECの首脳と石油メジャーの重鎮が地中海
をのぞむ豪邸に集まって密談をしたというのです。
 それから十数年が経過してた2004年の春、突如として原油
の暴騰が始まったのです。しかし、それはこれから始まる空前の
原油高騰の序奏でしかなかったのです。
 2004年春の原油の暴騰は、米国のガソリン不足と中国の原
油の輸入増加がきっかけになったといわれていますが、その結果
大儲けをしたのは、産油国の王族と欧米の石油メジャーだったの
です。ですから、産油国側と石油メジャーとの間に何らかの密約
があったのではないかといわれているのです。
 次のデータは、世界で最も稼ぐ企業のトップ10です。10社
中9社が石油メジャー並びに国営系の石油企業です。石油企業が
いかに儲けているかがよくわかります。
―――――――――――――――――――――――――――――
  順位             企業名    営業利益
   1.エクソンモービル(米) ・・・・・ 56939
   2.ゼネラル・エレクトリック(米) ・ 42277
   3.ロイヤル・ダッチ・シェル(蘭) ・ 37678
   4.トタル(仏) ・・・・・・・・・・ 29771
   5.シェブロン(米) ・・・・・・・・ 27571
   6.BP(英) ・・・・・・・・・・・ 26689
   7.CNPC(中国) ・・・・・・・・ 24739
   8.ENI(伊) ・・・・・・・・・・ 24656
   9.コノコフィリップス(米) ・・・・ 24599
  10.ガスプロム(露) ・・・・・・・・ 24275
              単位/営業利益/100万ドル
―――――――――――――――――――――――――――――
 原油価格の吊り上げは、石油メジャーと産油国のOPECが組
めばできることなのです。今回の原油の高騰でもそうですが、O
PECは何度要請されても「世界への原油の供給は十分」として
原油の増産には応じていません。それどころか「減産」を口にす
ることさえあるのです。
 一方石油メジャーは、製油所の能力がいかに落ちていてもそれ
を修復して稼働率を上げることに消極的です。稼働率は90%以
上必要なのに80%台しかないのです。しかし、環境問題がある
などの理屈をつけて、一向に修復しようとしないのです。
 OPECが増産を拒否し、石油メジャーが製油所の能力増強に
消極的になれば何が起きるでしょうか。原油の価格は上がり、ガ
ソリン価格は厭でも高騰することになるのです。
 石油問題に詳しい萩田穣氏は「国際石油市場にはインサイダー
的取引の舞台が出来上がっている」として、次のように自著で述
べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 国際石油市場に、インサイダー的取引の舞台ができあがってい
 ます。ニューヨーク・マーカンタイル取引所に原油と石油製品
 の先物が上場され、OPEC情報を誰よりも先んじて知り得る
 立場にある投機筋が参加し、金余りで膨らんだ巨大マネーが利
 益を求めて動く。そこに国際インサイダー的取引があったとし
 ても不思議ではありません。しかも、そこで決まった原油価格
 は世界の原油価格を左右します。そこは原油高を望む産油国な
 どにとって、価格操作を行う格好の場所になっているのです。
    ――萩田穣著、『変貌する石油市場』より/中経出版刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 原油価格にはもっと不可解なことがあります。国際ジャーナリ
ストの田中宇氏によると、国際石油市場は二重価格制になってい
るというのです。
 アラブの産油国は昔からイスラム諸国や非同盟の開発途上国に
対し、安値で石油を売っているらしいのです。実はOPECの設
立の目的のひとつは、発展途上国に対して特別に安く石油を売る
ことがあったそうです。
 先般米上院で問題にされたことなのですが、サウジアラビアが
イランに1バレル20ドルという国際価格の6分の1の価格で原
油を売っていたことが発覚したのです。国際政治の常識から考え
ると、スンニ派で親米のサウジと、シーア派で反米のイランとは
犬猿の仲であり、サウジがイランに超安値で石油を売ることなど
考えられない話ですが、実際はそういうことが起こっているので
す。同じことはロシアでも行われているのです。
 いうまでもないことですが、石油はドル建てになっています。
したがって、原油高は「ドル安」を意味しています。仮にドルで
はなく、金で原油を買ったらどうでしょうか。
 ニクソンショックの年から現在まで、金の地金で石油を買った
とすると、次のように原油価格は対して上昇していないのです。
要するに金を基準に考えた場合、石油価格の高騰は「ドル下落」
のことなのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1971年/1バレルの原油 ・・・ 0.08オンスの金
  → 1オンス 35ドル/1バレル  3ドル
 1980年/1バレルの原油 ・・・ 0.05オンスの金
  → 1オンス800ドル/1バレル 40ドル
 1990年/1バレルの原油 ・・・ 0.05オンスの金
  → 1オンス400ドル/1バトル 40ドル
 2000年/1バレルの原油 ・・・ 0.10オンスの金
  → 1オンス300ドル/1バレル 30ドル
 2008年/1バレルの原油 ・・・ 0.13オンスの金
  → 1オンス900ドル/1バレル120ドル
―――――――――――――――――――――――――――――
               ―― [石油危機を読む/49]


≪画像および関連情報≫
 ●揺らぐ価格決定力/OPEC
  ―――――――――――――――――――――――――――
  世界の原油価格に影響力を及ぼしてきた石油輸出国機構(O
  PEC)の地位が揺らいでいる。最近の原油価格はOPEC
  に代わって投機マネーが決定権を握り、年明け早々に1バレ
  ル=100ドルを突破するなど高止まりの状態が続く。OP
  ECは2月1日、ウィーンで臨時総会を開いて今後の生産量
  などを協議する。相場の安定にどれだけ力を発揮できるかが
  試されそうだ。         (ロンドン 中村宏之)
http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/special/47/naruhodo285.htm
  ―――――――――――――――――――――――――――

OPEC結成時からの原油価格.jpg
OPEC結成時からの原油価格
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2010年12月06日

●ある元石油マンの提案/石油半製品(EJ第2339号)

 今回のテーマは8日で終わりますが、その最後に、ある元石油
マンによるひとつの提案をご紹介することにします。その提案は
2008年4月に出版された次の本にまととめられています。
―――――――――――――――――――――――――――――
                  萩田穣著/中経出版
  『変貌する石油市場/石油半製品の時代がやってきた』
―――――――――――――――――――――――――――――
 萩田氏の提案を理解するには、その前提となるいくつかの知識
が必要になります。まず、もう一度「原油価格」と「製品価格」
の違いを明確に認識することからはじめましょう。
―――――――――――――――――――――――――――――
  「原油価格」+「コスト」(製造、輸送、販売、税金)
  +利益=「製品価格」
―――――――――――――――――――――――――――――
 「原油価格」は原油の需給関係などによってで先に決まり、そ
のうえで製品価格が決まります。これが普通のパターンです。当
然のことですが、「原油価格」よりも「製品価格」の方が高くな
ります。
 しかし、製品の需給バランスが崩れると、製品価格が原油価格
に関係なく決まってしまいます。このとき利益だけが大きく変動
することになります。
 しかし、その後、原油価格は製油所の利益が一定になるように
動くのです。どうしてかというと、市場関係者は原油と製品の価
格差に注目して、割安になった方を買うので、結局利益は一定に
なるのです。具体的には、製品高によって割安になった原油を買
うので原油高になるのです。石油メジャーとしては、原油で儲け
るか製品で儲けるかはどちらでも良いのですが、どちらかという
と、原油で儲けた方が好都合であるといいます。
 製品高は季節要因でも起こります。ガソリンは夏場の需要期に
値上がりし、灯油は冬場の需給逼迫から値上がりします。既に述
べたように、米国の製油所能力には余裕がないので、製品高はた
びたび起こります。そうすると、玉突き現象で原油も値上がりす
ることになるのです。
 たびたび起こる製品高が原油高を導く――これを防ぐためには
原油と石油製品の間にバッファーを設けるべきである――萩田氏
はそのように提案しているのです。
 それでは「原油と石油製品の間のバッファーを設ける」とは何
でしょうか。萩田氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 「石油半製品」というバッファーを設け、石油半製品の貿易に
 よって製品の需給が逼迫しないようにすればよいと考えられま
 す。半製品貿易が盛んに行なわれることによって、製品の需給
 が緩和され、「製品高」からもたらされる原油高部分は縮小さ
 れることになります。(中略)見方を変えると、今回の一連の
 原油高は、半製品貿易という大きなビジネスチャンスが到来し
 たことを示唆しているといえます。   萩田穣著/中経出版
    『変貌する石油市場/石油半製品の時代がやってきた』
―――――――――――――――――――――――――――――
 ところで、「石油半製品」とは何でしょうか。
 簡単にいうと、石油半製品とは、製油所で石油製品になる前に
中間製品としてタンクに保管されているものをいいます。つまり
製品は半製品から製品化されるので、半製品がストックされてい
れば、石油製品の製造には事欠かないのです。石油製品は次のス
テップで製造されるのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
    「原油」 → 「半製品」 → 「石油製品」
―――――――――――――――――――――――――――――
 今まで石油の備蓄というと、ここでいう石油製品の備蓄だった
のですが、萩田氏は石油半製品の備蓄を勧めています。石油半製
品の特徴は次の4つにまとめることができます。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.石油製品に比べて用途が広いので大量に扱うこと可能
 2.石油製品に比べて大量であるので製造・輸送コスト小
 3.石油製品に比べてどこの国の製油所でも製品化が可能
 4.石油製品に比べて用途が広く大量に備蓄すること可能
―――――――――――――――――――――――――――――
 重要なことは、石油半製品は原油よりは価格が高いですが、石
油製品よりも安いということです。石油半製品から石油製品を作
るには、性状調整と添加剤注入などのブレンド作業が入るので、
人件費と材料費がかかるのです。
 身近な食材にしても、工業製品にしても原産地から最終加工場
まで、中間加工地を設けて物流するケースが多くなっています。
つまり、半製品の状態で物流され、下流の工場で最終製品にする
ケースが多いのです。
 ファミリーレストランを例にとってみましょう。大型レストラ
ンの食材は、原材料が直接営業店舗に持ち込まれるのではなく、
途中で半分加工されたものが入ってくるのです。そして、営業店
舗で最終商品になるのです。これは、携帯電話の生産にしても薄
型テレビの生産にしても、分業・専業化されているのです。
 考えてみると、石油の分野だけが、原産地から直接消費地の製
油所へ原油のまま運ばれ、製品化されているのです。萩田氏は、
原油中継基地において原油を石油半製品化し、それを消費地製油
所に運び込むようにするべきであるというのです。
 石油半製品の主なものは具体的には次の6つです。
―――――――――――――――――――――――――――――
  1.脱硫ナフサ       4.脱硫軽油
  2.改質ガソリン      5.脱硫減圧軽油
  3.脱硫灯油        6.重油基材
―――――――――――――――――――――――――――――
               ―― [石油危機を読む/50]


≪画像および関連情報≫
 ●萩田穣著『変貌する石油市場』の紹介
  ―――――――――――――――――――――――――――
  本書の目的は二つ。一つは政治家・官僚、石油業界に対する
  提言と、もう一つは石油に興味のある方への情報提供。キー
  ワードは「石油半製品」。石油半製品を中心に、物流、生産
  備蓄の三分野にわたって野心的ともいえる日本の石油戦略を
  提案し、一石を投じる。
  ―――――――――――――――――――――――――――

萩田穣氏の本.jpg
萩田 穣氏の本
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2010年12月07日

●日本は半製品物流拠点として最適(EJ第2340号)

 萩田穣氏の提案をテーマにして書き始めた2008年6月1日
付の日本経済新聞のトップに次の記事が掲載されたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
   「石油製品アジアに輸出/海外比率1割突破へ」
        ――2008.6.1/日本経済新聞
―――――――――――――――――――――――――――――
 記事の内容は、石油元売り大手がアジア向けを中心に専用設備
を増強して、石油製品の輸出を増加させるというニュースです。
これによって、日本の燃料油販売に占める輸出の比率は10%以
上になる見込みであるというのです。
 現在日本の国内市場は縮小気味であるのに対し、経済成長を続
けるアジア各国では軽油や重油の需給が逼迫しているので、国内
の石油元売り各社が石油製品を輸出すれば、アジア各国の需給緩
和にも貢献できるといえます。しかし、この計画で輸出しようと
しているのは「石油製品」であるのに対し、萩田穣氏は「石油半
製品」の輸出を提案しているのです。
 現在石油製油所の能力は世界的に不足していますが、とくに新
興アジア諸国においてはそれが顕著になっています。製油所の能
力を向上するには、新しく製油所の建設が必要になりますが、萩
田氏は、日本はそれに対応して、新しい発想による製油所を建設
するべきであると主張しています。
 新しい発想による製油所とはどういう製油所でしょうか。それ
には次の2つのポイントがあります。
―――――――――――――――――――――――――――――
  1.消費地製油所ではなく、輸送中継地に製油所を置く
  2.石油製品製油所ではなく、石油半製品製油所である
―――――――――――――――――――――――――――――
 石油半製品製油所の建設について萩田氏は、九州と沖縄にある
石油備蓄基地が利用できるとして、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 九州や沖縄には大規模な石油備蓄基地があり、そこには原油受
 払い用の桟橋設備や大型原油タンクが存在し、それらはほとん
 どそっくりそのまま半製品生産用として、利用することができ
 ます。                萩田穣著/中経出版
    『変貌する石油市場/石油半製品の時代がやってきた』
―――――――――――――――――――――――――――――
 それでは、石油半製品製油所ができると、既存の消費地製油所
では何をするのでしょうか。
 既存の製油所は、製油所はコストの安い半製品を受け入れ、付
加価値の高い油種を生産することになります。例えば、値段の安
い「重油基材」(石油半製品)を受け入れて、それを分解し、値段
の高いガソリンや軽油を増産することなどが考えられます。
 具体的な石油半製品については昨日のEJで6種を示しました
が、もちろんもっと多くの半製品を作ることは可能です。しかし
生産油種はできる限り少なくし、大量に扱うようにした方がよい
と萩田氏はいいます。半製品6種を再現します。
―――――――――――――――――――――――――――――
  1.脱硫ナフサ       4.脱硫軽油
  2.改質ガソリン      5.脱硫減圧軽油
  3.脱硫灯油        6.重油基材
―――――――――――――――――――――――――――――
 これらの6種であれば、次の4つの装置があれば、半製品の生
産はできるのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
        1.  常圧蒸留装置
        2.ガソリン改質装置
        3.灯・軽油脱硫装置
        4.減圧軽油脱硫装置
―――――――――――――――――――――――――――――
 石油精製の専門家である萩田氏は、半製品生産の効率的なプロ
セスについてまで、次のように明かにしています。内容が専門的
ですが、引用しておきます。
―――――――――――――――――――――――――――――
 技術的な観点からいうと、原油は最初に約350℃に加熱しな
 ければならないので、その熱を有効に使うためにヒート・イン
 テグレーションして脱硫までやってしまうほうが経済的である
 こと。また、改質ガソリンを製造する場合、大量の水素が発生
 するので、その水素を有効に活用するために、減圧軽油までを
 脱硫してしまうほうが合理的です。   萩田穣著/中経出版
    『変貌する石油市場/石油半製品の時代がやってきた』
―――――――――――――――――――――――――――――
 萩田氏は半製品製油所の規模についても言及しています。東ア
ジア全体――日本、中国、韓国、台湾の原油処理量は「1200
万バレル/日」であり、その5%の「60万バレル/日」程度が
半製品製油所の規模であるというのです。なお、輸出先は、中国
韓国、台湾に加えて、インドネシア、ベトナム、タイ、フィリピ
ン、マレーシアなどに拡大する余地があると述べています。
 もうひとつ日本が半製品製油所を持つメリットとして、その地
理的条件がよいことが上げられます。石油半製品を扱う物流拠点
は、海上輸送の便利なところである必要があります。日本は四方
を海で囲まれ、背後に東アジアの石油大消費地を持つ――地理的
には非常に恵まれているといえます。それに日本は、半製品を輸
送するための大型タンカーを保有しており、輸送は万全です。
 既に述べたように、日本が有する原油備蓄基地を半製品物流拠
点として使えば、大型陸上タンク群、半製品をタンカーに積み込
む大型出荷桟橋設備、それに設備の整っている製油所があるので
それはそのまま石油半製品物流拠点として利用できるのです。こ
れほど、条件の整っている国は恐らく日本しかない――萩田氏は
このように述べています。半製品製油所の提案――これは明日の
EJまで続きます。      ―― [石油危機を読む/51]


≪画像および関連情報≫
 ●日本の石油備蓄について
  ―――――――――――――――――――――――――――
  日本では、民間備蓄と国家備蓄の両方式で石油備蓄が行われ
  ている。前者は民間企業が石油流通の施設に在庫を多めに持
  つ方法で、原油と石油製品を石油タンクなどに備蓄し、随時
  入れ替えを行っている。後者は国が備蓄基地を建設し原油の
  形で封印保管するもので経済産業大臣の指示のあるときのみ
  出し入れを行う。2007年2月末現在の備蓄量は民間が国
  内消費量の83日分、国が94日分を備蓄している。国の備
  蓄基地は独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構が管
  理している。            ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

沖縄製油基地.jpg
沖縄製油基地
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2010年12月08日

●日本版石油メジャーを目指せ(EJ第2341号)

 日本は2度の石油危機を経験しているので、それに懲りて石油
の備蓄は万全だといわれています。しかし、それがそうでもない
らしいのです。というのは、石油備蓄がお役所仕事になっており
いざというときすぐには役に立たないからです。
 日本の石油備蓄は、次の2つの方法で行われているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
           1.民間備蓄
           2.国家備蓄
―――――――――――――――――――――――――――――
 民間備蓄は、民間企業が石油流通の施設に在庫を多めに持つ方
法であり、原油と石油製品を石油タンクなどに備蓄し、随時入れ
替えを行っています。国は石油業者に販売量の70日分を原油、
もしくは石油製品で備蓄する義務を負わせているのです。
 国家備蓄というのは、備蓄基地を建設し、原油の形で封印保管
するものであり、経済産業大臣の指示のあるときのみ出し入れを
行うことになっています。ここで重要なのは「原油で備蓄」して
いる点です。
 原油で備蓄されていると、いざというときすぐには役に立たな
いのです。原油を製品にはするにはどんなに急いでも2〜3週間
はかかるからです。
 それに国は原油を貯蔵するタンクは持っていますが、原油の精
製設備も原油タンカーも持っておらず、そのすべてを民間に依存
しているのです。過去の対応を調べてみましょう。
 第1次石油危機でパニックになった日本は原油備蓄をはじめた
のですが、第2次石油危機のときは民間備蓄の積み上げを一時停
止させて対応したのです。国家備蓄は役に立たなかったのです。
 続いて湾岸危機のときの対応です。このときも民間備蓄を4日
分取り崩しています。やはり民間備蓄依存なのです。米ハリケー
ン被害のときも、民間備蓄のうちの製品備蓄を2日分取り崩した
のです。つまり、緊急時は民間備蓄で対応し、それが尽きると国
家備蓄を使うというスタイルです。このように、国の備蓄原油は
過去に一度も使われたことはないのです。
 民間石油会社にいわせると、販売量の70日分を持つには、か
なりのコストがかかりますが、そのコストは石油価格に上乗せさ
れており、結局消費者の負担になるのです。
 萩田穣氏は、この石油備蓄を原油や製品ではなく、半製品で持
つことを提案していまいす。そうすると、次の3つのメリットが
あるというのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
      1.原油備蓄よりも備蓄量が増える
      2.民間備蓄をする必要がなくなる
      3.どんな緊急事態に即時対応可能
―――――――――――――――――――――――――――――
 半製品の改質ガソリンは、原油から20%ぐらいしか生産され
ないのです。したがって、同じ大きさのタンクであれば、実質的
な備蓄量が増えることになります。これが第1のメリットです。
 それから、原油を半製品にして備蓄しておけば、素早く出荷で
きるので、緊急時に対応できます。したがって、民間備蓄をやめ
ることができるのです。そうすれば実質的に製品価格は安くなり
ます。これが第2のメリットです。
 即座に製品にできる半製品を多く備蓄しておくと、石油製品の
高騰時にそれを放出し、いわゆる「冷やし玉」として役立てるこ
とができます。もし、日本だけでなく、アジア諸国が協力して半
製品備蓄基地を持つと、それがあるだけで投機筋にとっては大き
な脅威になり、価格の安定化が維持できるのです。これが第3の
メリットです。
 ちなみに石油半製品の品質ですが、備蓄中に空気や日光にふれ
ることがないので、変質することはないのです。もし、何らかの
原因で備蓄半製品が変質してしまったとしても、十分再生可能で
あって、長くストックしておくことができます。
 石油半製品の備蓄は、優先度の高いものから備蓄しておくべき
です。萩田氏の6種類を優先度で並べると次のようになります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 優先度1.改質ガソリン
      自動車ガソリンの主成分であり、代替できるものが
      ないので、最優先で備蓄すべきもの
 優先度2.脱硫灯油
      暖房用石油ストーブの燃料であり、また、ジェット
      燃料の混合基油として不可欠なもの
 優先度3.脱硫軽油
      ディーゼルエンジンの燃料として、また、ビルや工
      場の暖房用燃料として生活に不可欠
 優先度4.脱硫ナフサ
      もっぱら石油化学用原料として用いられますが、天
      然ガスなどでも代替は可能な半製品
 優先度5.脱硫減圧軽油
      製油所の分解用原料であり、重油の混合材源。生活
      に直接結びついているものではない
 優先度6.重油/原油
      発電所などの大型ボイラーの燃料であるが、原子力
      発電や水力発電などでも代替できる
―――――――――――――――――――――――――――――
 萩田穣氏は、官民一体となって、日本にふさわしい日本版石油
メジャーを実現し、石油半製品貿易で主導権を取るべきであると
訴えています。
 日本版石油メジャー――実に壮大な提案であると思います。萩
田氏の提案は、とてもEJ3回では書ききれません。詳細はぜひ
萩田氏の著書を読んでいただきたいと思います。
 52回にわたって書いてきた原油問題は今回をもって終了しま
す。明日からは新テーマ「カラヤンの謎」です。   
          ―― [石油危機を読む(最終回)/52]


≪画像および関連情報≫
 ●萩田 穣(はぎた ゆたか)氏紹介
  ―――――――――――――――――――――――――――
  1938年樺太生まれ。1961年北海道大学工学部卒業後
  三菱石油株式会社に入社。新製油所建設プロジェクト担当と
  して東北石油への出向等を経て、1973年三菱石油本社の
  技術部課長。1994年沖縄石油基地株式会社常務取締役所
  長。1998年(株)沖縄石油総研設立。2001年同社廃止
  後、無職。趣味は囲碁。著書に、『石油の経済学』(アート
  デイズ)、『原油高騰は回避できる!』『このままでいいの
  か! 日本の石油備蓄』(樂書舘)がある。
  ―――――――――――――――――――――――――――

萩田氏の著作.jpg
萩田氏の著作
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