28日までEJとして公開した映画評論です。最近は、宮崎作品
をテレビでもやるようになっており、DVDなどでも観る機会は
多くなっておりますので、再録することにしました。
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2004年の暮れに話題のアニメーション映画『ハウルの動く
城』を観ました。『千と千尋の神隠し』に続く最新の宮崎駿監督
作品です。EJで映画をテーマに取り上げることは今まで何回も
ありますが、そのときいつも思うことは次のことです。
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1.既にこの映画を観た人を対象にして書くのか
2.まだ映画を未鑑賞の人を対象にして書くのか
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宮崎駿監督作品には多くの謎が散りばめられています。ですか
ら、それらについてああでもないこうでもないといろいろ論評す
ることができます。しかし、こういう論評が面白いのは、映画を
観た人に限られます。映画を観ていなければ、何のことだか全然
わからないからです。
それでは、映画を観ていない人に対して上映中の映画について
あまり書くと「ネタバレ」といって、映画の面白さを奪ってしま
う恐れがあります。しかし、宮崎作品については、「ネタバレ」
についてあまり心配しなくてもいいと思います。むしろ作品に関
してある程度知識を持っている方が楽しめると思うからです。
そこで、しばらく『ハウルの動く城』をテーマに書いてみたい
と思います。この映画を観た人も観ていない人も楽しめる内容に
することを目指し、これからこの映画を観ようと考える人のガイ
ドになればよいと考えています。
しかし、かくいう私は『ハウルの動く城』を何の予備知識なし
に観たのです。その直後の感想は次の2つです。
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1.2時間の作品であるのに飽きずに楽しく最後まで観ること
ができたこと。
2.『千と千尋の神隠し』に比べ宮崎作品にしては迫力不足の
感があること。
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上記の2に関しては理由があります。それは、『千と千尋の神
隠し』はオリジナルであるのに対して、『ハウルの動く城』には
次の原作があるということです。「迫力がない」と考える原因の
一端はそのあたりにある考えられます。
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ダイアナ・ウィン・ジョーンズ作/西村醇子訳
『魔法使いハウルと火の悪魔』
徳間書店刊
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この本は現代英国を代表するファンタジー作家ダイアナ・ウィ
ン・ジョーンズが1986年に出版した作品です。英国にはファ
ンタジー文学の長い歴史がありますが、何といっても、ファンタ
ジー文学に熱い注目が集まるようになったのは、J・K・ローリ
ングの『ハリー・ポッターと賢者の石』(1997年)からであ
ると思います。そして、先輩格のダイアナ・ウィン・ジョーンズ
も注目されるようになったのです。
原作は300ページを超える大作ですが、映画を観たあと、購
入して読んでみたのです。原作がどのような話であるかをごく簡
単にまとめると次のようになります。
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物語は魔法が実際に存在している国の話。そこに住む強い力を
持つ魔法使い「荒地の魔女」によって90歳の老婆に変身させ
られた18歳の帽子職人ソフィーは、子供なのか大人なのかわ
からない青年魔法使いハウルの動く城に入り込み、勝手にお手
伝いとして居候をはじめ、その中でハウルを支えながら最後に
「荒地の魔女」をやっつけるという話である。
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注意していただきたいのは、これは原作の話であるということ
であり、映画の方は原作のように必ずしもわかりやすくはないと
いうことです。というのは、映画は、前半については原作にほぼ
忠実ですが、後半はかなり違っているからです。
それにしても宮崎監督は、どういう理由でこの原作を選んだの
でしょうか。これについては、スタジオジブリ・プロデューサー
鈴木敏夫氏が社会思想史の稲葉振一郎氏の対談で次のように述べ
ています。
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それはもう端的に「動く城」という言葉です。その原題を見
つけた時に彼は興奮したのですね。彼は児童書を本当に丹念に
読む人ですが、たとえば、タイトルに「庭」とついている本、
全部に感動するんです。
どういうことかといえば、そこに登場する庭というものが自
分の中で膨らむわけです。どのくらいの広さで、どういう建物
があって、木々はどんなのが生えていて、今の季節はいつごろ
である。と、その庭が読んでいくうちに完成して、素晴らしい
話になっていくわけです。 ――鈴木敏夫氏
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つまり、宮崎氏は原作を読んでいくうちにいろいろなイメージ
が頭の中に自分のイメージとして膨らんできて、作品の骨格がで
きてしまうのです。したがって「動く城」の一語で、半分くらい
はできてしまうのです。
そして、残りの半分は18歳のソフィーが90歳の老婆にされ
てしまうという部分を描くことになります。宮崎監督作品には必
ず少女が登場しますが、『ハウルの動く城』では90歳の老婆が
最初から最後まで登場する――宮崎監督にとっては、原作のこの
2つだけあれば、十分それで作品ができてしまうのです。ですか
ら結果として、原作とは内容的に大きく違ってくることはあり得
る話なのです。
しかし、宮崎監督は、90歳の老婆が終始画面に登場すること
には相当頭を痛めたようです。そこで、映画では、宮崎流のテク
ニックでこれを見事に克服しているのです。
−− [ハウルの動く城/01]
≪画像および関連情報≫
・原作者/ダイアナ・ウィン・ジョーンズ
1934年イギリス生まれ。オックスフォード大学セントア
ンズ校ではトールキンに師事。大学卒業と同時に結婚。3人
の子供に読み聞かせをするうちに、自分でもファンタジーを
を書き始める。英国では「現代の英国児童文学界で最も独創
性と意外性に富んだ作家」として評価が高い。