−−単行本の重要性を説いていますが、その本にも大きな変化が起こりつつあります。
EJでは、2004年4月20日から5月10日までの11回にわたって、『電子図
書』をテーマにしてレポートしています。それを今回改めて取り上げることにします。
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Eメールが普及して、ディスプレイで文章を読むことが当たり前になっています。E
Jの読者もPCの画面で読む人、印刷して紙にして読む人、PDAにダウンロードして
読んでいる人、ケータイの画面で見る人など、いろいろです。しかし、圧倒的に多いの
は、印刷して読んでいる人です。普通のメールでも少し長いものは印刷している人が多
いと聞きます。
やはり、レポートなどの文書は、紙で読むことが長い年月の間に習慣化されてきてい
るので、それを「ディスブレイで読む」ことにそう簡単には切り換わらないと思うのです。
文章を書くことについてはどうでしょうか。
文書は紙に筆記具で書くというのが長い間にわたって習慣化してきたのです。企業に
PCが入ってきたのは1984年頃のことであり、それから20年が経過しています。
その20年の間に企業の文書はほとんどPCで、デジタル文書として作られるようにな
っています。このように、20年の年月は今まで長く続いてきた習慣を一変させてしま
うのです。
ところで、本はどうでしょうか。電子書籍という言葉が登場して久しいですが、あな
たは本をPCやiPod、そのための専用端末にダウンロードして読みたいと思います
か。
少し年配の方であればほとんどの人は「ノー」でしょう。本はやはり紙でなければな
らないし、重要な部分には赤線を引いたり何ページか前に戻って参照したりするために
は、やはり紙ベースのものである必要がある――そう考える人が多いと思います。
誤解のないように、ここで付け加えることがあります。それは現在のEメールやメー
ルマガジンなどの文字の読みにくさのことです。確かに現在のEメールやメルマガの文
字は字と字の間隔が詰まっていて非常に読みにくいのです。
この文字で本一冊読むのは嫌だという気持はよくわかります。しかし、電子書籍の端
末では、活字と何ら変わらないきれいな文字が表示されるようになっているのです。も
ちろん挿絵も入っていますし、とても読みやすいのです。それなら、ただ読むだけの小
説などは電子書籍で読んでもいいか――とは思いませんか。
重要なことは、電子書籍の時代はこれから到来するのではなく既にはじまっていると
いうことです。主要出版社のほとんどは電子書籍版を用意していますし、それが少しず
つ拡大しつつあります。電子書籍は、もはや実験的試みの段階はとっくに過ぎて、実用
化の時代に入っているのです。
今年の芥川賞受賞作家である「綿矢りさ」さんの作品『インストール』は、彼女が1
7歳の高校生のときに書いて文芸賞を受賞した作品ですが、これは電子書籍版と単行本
が同時出版され、次のような売れ行きになっています。
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河出書房新社刊――電子版670円/単行本1000円
『インストール』電子書籍版 ・・・ 2500部
『インストール』単行本 版 ・・・ 300000部
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綿矢さんの芥川賞受賞作品『蹴りたい背中』も電子版と単行本の同時出版が行われて
いるのです。
「立ち読み無料」の電子書籍サイトもあります。『青空文庫』というのですが、ここ
には著作権の切れた文芸作品を有志の手によって、デジタル化して無料で配付している
サイトです。アドレスは次の通りです。
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http://aozora.gr.jp/
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これを見ると、かなり大量の作品が無料で公開されていることがわかります。『青空
文庫』は1997年8月にスタートしていますが、これはかなり早い時期であるといえ
ます。
2002年2月になって新潮社は、「新潮ケータイ文庫」を立ち上げます。若者の活
字離れを何とかしたいと考えて、若者全員が持っているケータイで小説を読んでもらお
うという企画です。アドレスは次の通りです。
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http://www.shinchosha.co.jp/keitaibunko/
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若者向きを考慮して、会員制で月100円というかなり低い価格を設定しています。
当初は、若者がケータイで本当に小説を読んでくれるかどうか心配しながらのスタート
だったのですが、新潮ケータイ文庫の会員数は順調に伸び、スタートから1年間で、1
万人に達しています。
2003年4月に新潮社はiモード・ユーザに対してもサービスを開始したところ、
会員増加のペースが月に1000人以上になり、8月には2万人を超えています。当然
のことですが、ほとんど全員が20代であるといいます。中には10代の若年層の会員
もいるといいます。
新潮社は文芸路線が中心であり、どちらかというと40代以上の読者が多く、このと
ころ、読者の平均年齢が上がってきており赤字路線が続いていたのです。そこに新潮ケ
ータイ文庫によってどうしても欲しい若い読者層が確保できたことになります。
この新潮社の動きを見て慎重に計画を立ててケータイ文庫に参入したのは角川書店
です。2003年8月に角川書店は、「文庫読み放題」というサイトを立ち上げます。
会費は月に300円と高めに設定したのですが、スタート以来6ヶ月で会員は、15
000人に達しています。アドレスは次の通りです。
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http://www.kadokawa.co.jp/sp/200308-06/
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角川書店の品揃えは、文芸物からホラー、スリラー、ノンフィクション、古典ものま
で幅広くなっています。今まさに電子書籍が急速に伸びようとしているのです。 ・・・[電子図書/01]