2008年04月22日

●電子書籍は果たして普及するか(EJ第1335号)

 話題の公認会計士/勝間和代氏の知的生産活動が話題となっています。勝間氏は、本
−−単行本の重要性を説いていますが、その本にも大きな変化が起こりつつあります。
 EJでは、2004年4月20日から5月10日までの11回にわたって、『電子図
書』をテーマにしてレポートしています。それを今回改めて取り上げることにします。
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 Eメールが普及して、ディスプレイで文章を読むことが当たり前になっています。E
Jの読者もPCの画面で読む人、印刷して紙にして読む人、PDAにダウンロードして
読んでいる人、ケータイの画面で見る人など、いろいろです。しかし、圧倒的に多いの
は、印刷して読んでいる人です。普通のメールでも少し長いものは印刷している人が多
いと聞きます。
 やはり、レポートなどの文書は、紙で読むことが長い年月の間に習慣化されてきてい
るので、それを「ディスブレイで読む」ことにそう簡単には切り換わらないと思うのです。
 文章を書くことについてはどうでしょうか。
 文書は紙に筆記具で書くというのが長い間にわたって習慣化してきたのです。企業に
PCが入ってきたのは1984年頃のことであり、それから20年が経過しています。
その20年の間に企業の文書はほとんどPCで、デジタル文書として作られるようにな
っています。このように、20年の年月は今まで長く続いてきた習慣を一変させてしま
うのです。
 ところで、本はどうでしょうか。電子書籍という言葉が登場して久しいですが、あな
たは本をPCやiPod、そのための専用端末にダウンロードして読みたいと思います
か。
 少し年配の方であればほとんどの人は「ノー」でしょう。本はやはり紙でなければな
らないし、重要な部分には赤線を引いたり何ページか前に戻って参照したりするために
は、やはり紙ベースのものである必要がある――そう考える人が多いと思います。
 誤解のないように、ここで付け加えることがあります。それは現在のEメールやメー
ルマガジンなどの文字の読みにくさのことです。確かに現在のEメールやメルマガの文
字は字と字の間隔が詰まっていて非常に読みにくいのです。
 この文字で本一冊読むのは嫌だという気持はよくわかります。しかし、電子書籍の端
末では、活字と何ら変わらないきれいな文字が表示されるようになっているのです。も
ちろん挿絵も入っていますし、とても読みやすいのです。それなら、ただ読むだけの小
説などは電子書籍で読んでもいいか――とは思いませんか。
 重要なことは、電子書籍の時代はこれから到来するのではなく既にはじまっていると
いうことです。主要出版社のほとんどは電子書籍版を用意していますし、それが少しず
つ拡大しつつあります。電子書籍は、もはや実験的試みの段階はとっくに過ぎて、実用
化の時代に入っているのです。
 今年の芥川賞受賞作家である「綿矢りさ」さんの作品『インストール』は、彼女が1
7歳の高校生のときに書いて文芸賞を受賞した作品ですが、これは電子書籍版と単行本
が同時出版され、次のような売れ行きになっています。    
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       河出書房新社刊――電子版670円/単行本1000円
       『インストール』電子書籍版 ・・・   2500部
       『インストール』単行本 版 ・・・ 300000部
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 綿矢さんの芥川賞受賞作品『蹴りたい背中』も電子版と単行本の同時出版が行われて
いるのです。
 「立ち読み無料」の電子書籍サイトもあります。『青空文庫』というのですが、ここ
には著作権の切れた文芸作品を有志の手によって、デジタル化して無料で配付している
サイトです。アドレスは次の通りです。
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              http://aozora.gr.jp/
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 これを見ると、かなり大量の作品が無料で公開されていることがわかります。『青空
文庫』は1997年8月にスタートしていますが、これはかなり早い時期であるといえ
ます。
 2002年2月になって新潮社は、「新潮ケータイ文庫」を立ち上げます。若者の活
字離れを何とかしたいと考えて、若者全員が持っているケータイで小説を読んでもらお
うという企画です。アドレスは次の通りです。
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         http://www.shinchosha.co.jp/keitaibunko/
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 若者向きを考慮して、会員制で月100円というかなり低い価格を設定しています。
当初は、若者がケータイで本当に小説を読んでくれるかどうか心配しながらのスタート
だったのですが、新潮ケータイ文庫の会員数は順調に伸び、スタートから1年間で、1
万人に達しています。
 2003年4月に新潮社はiモード・ユーザに対してもサービスを開始したところ、
会員増加のペースが月に1000人以上になり、8月には2万人を超えています。当然
のことですが、ほとんど全員が20代であるといいます。中には10代の若年層の会員
もいるといいます。
 新潮社は文芸路線が中心であり、どちらかというと40代以上の読者が多く、このと
ころ、読者の平均年齢が上がってきており赤字路線が続いていたのです。そこに新潮ケ
ータイ文庫によってどうしても欲しい若い読者層が確保できたことになります。
 この新潮社の動きを見て慎重に計画を立ててケータイ文庫に参入したのは角川書店
です。2003年8月に角川書店は、「文庫読み放題」というサイトを立ち上げます。
会費は月に300円と高めに設定したのですが、スタート以来6ヶ月で会員は、15
000人に達しています。アドレスは次の通りです。
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         http://www.kadokawa.co.jp/sp/200308-06/
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 角川書店の品揃えは、文芸物からホラー、スリラー、ノンフィクション、古典ものま
で幅広くなっています。今まさに電子書籍が急速に伸びようとしているのです。  ・・・[電子図書/01]

4.22読書端末.jpg
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2008年04月23日

●紙の辞書を圧倒した電子辞書(EJ第1336号)

 電子書籍がこれから急成長する――こういう予測が信憑性を持つ出版の分野がありま
す。それは「辞書出版」の分野です。紙の辞書は、今まで平均して年間1000〜12
00万冊は売れていたそうですが、このところ販売部数は年間800万冊台に減少して
いるというのです。その減少の原因は、電子辞書の急成長にあるというのです。
 現在でも売れているのは紙の辞書の方ですが、2002年度について見ると、売上高
では次のように電子辞書に逆転されているのです。電子辞書の価格が紙の辞書よりも高
いためです。ちなみに2002年度の電子辞書の販売台数は390万台です。
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         ≪2002年度≫
          紙の辞書の売上高 ・・・・・ 250億円
          電子辞書 ・・・・・・・・・ 420億円
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 電子辞書のためにコンテンツを提供しているのは、もちろん出版社ですが、電子辞書
会社から支払われるロイヤリテイは、最も高価な7000円程度の辞書でも1台当たり
100円程度、英語辞典にいたっては50〜30円であるというのです。
 しかし、注文が繰り返し、数万台単位で来ることと、電子辞書に載ったことで知名度
が上がり、紙の辞書も売れるという相乗効果があることから、大手出版社でも断れない
のです。
 電子辞書の価格は平均して1〜4万円ですが3万円以上の高級品になると、30種類
以上の辞書がすべて入っている製品もあるのです。高級品の例をひとつご紹介すると、
CASIOの次の製品があります。
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      CASIO XD−V8800/英語重視タイプの電子辞書
                    希望小売価格 44000円
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 これは、CASIOの「エクスワード・シリーズ」のひとつで次のような32種の辞
書が入っています。
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      国語系 ・・・ 広辞苑など7冊
      英語系 ・・・ ロングマン現代アメリカ英英辞典など7冊
      百科事典 ・・ マイペディア約65000項目
      用語辞典 ・・ 人名・地名集など2冊
      ビジネス系 ・ 手紙文例集など4冊
      トラベル系 ・ 英会話、イタリア、スペインなど11冊
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 これを見ると、英語系のかなりの専門家でも役立つ辞書になっており、これが約20
0グラムの小型パネルに収まってしまうのです。実際にはこれだけの辞書を持ち歩くこ
とは不可能であり、そこに電子辞書の強みがあります。
 電子辞書は、それが電子書籍のひとつと考えるなら、日本で一番成功し、継続的に発
展している電子書籍の分野です。実は日本における電子辞書ブームに火をつけたのは、
津田塾大学だったのです。新しいものには背を向ける傾向の強い教育界にあって、津田
塾大学の果たした役割は大きなものがあります。
 津田塾大学は英語に強い学生が多く、当然なことながら、英和、和英、英英辞典くら
いはつねにかばんに入れて持ち歩いているのです。それが専門課程になると、中辞典や
大辞典まで持ち歩く学生もいるのです。しかし、いくら若い人でもこれだけの辞書を持
ち歩くのはしんどいものです。
 例えば、先にご紹介したCASIOのXD−V8800であれば、英語系としては次
の7冊が収められていて、津田塾大の学生でも十分です。しかも、その重量はわずかに
200グラムです。
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      1.ロングマン現代アメリカ英英辞典 ・・・ 84000語
      2.ロングマン・ロジェ・シソーラス ・・ 250000語
      3.ロングマン英語アクティベータ ・・・ 45000表現
      4.ジーニアス英和辞典 ・・・・・・・・・ 95000語
      5.ジーニアス和英辞典 ・・・・・・・・・ 80000語
      6.英語類語辞典 ・・・・・・・・・・・・ 21000語
      7.英文手紙用例辞典 ・・・・・・・・・・・ 200例文
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 これに津田塾大の学生は飛びつき、授業で使うことを学校側で認めたというのです。
売り込んだのはCASIOです。学校のおお墨付きをもらったCASIOの営業は、こ
れを全国の高校、中学へと売り込み、市場のシェアを50%獲得しています。
 ところで、辞書はまだいい方なのです。百科事典については、早々と電子版に敗北し
てしまっているのです。かつて世界で、約700万セットを売り上げたという百科事典
の老舗ブリタニカはマイクロソフト社のCD−ROM版電子百科事典「エンカルタ」な
どのために売れなくなり、遂に販売をあきらめて無料公開しているのです。アドレスを
示しておきます。
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            http://www.britannica.com/
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 日本でも平凡社の「マイペディア」と「世界大百科事典」については、紙での重版を
断念し、小学館の「日本大百科全書」も同様の措置をとっています。
 平凡社は、日立製作所と合弁会社、日立デジタル平凡社を設立し、「マイペディア」
のCD−ROM1枚、「世界大百科事典」をCD−ROM2枚およびDVD1枚にまと
めて販売しているのです。また、電子辞書などにも提供されているのです。
 このように、かつての紙ベースの辞書や百科事典のほとんどは電子書籍化され、ユー
ザ数も増えています。これらのユーザはそのまま電子書籍のユーザになるのは間違いな
く、近未来に電子書籍時代が到来することは間違いないと思われます。
・・・[電子図書/02]

4.23CASIOの電子辞書.jpg

                  
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2008年04月24日

●シグマブックとリブリエの登場(EJ第1337号)

 EJ第1336号で電子辞書の話をしましたが、昨日私が出講している大学に行った
ところ、講師控え室にCASIOの辞書勧誘のチラシが置いてありました。添付ファイ
ルでご紹介します。このように、昨今の学生にとって、辞書といったら紙の辞書ではな
く、電子辞書のことなのです。
 電子書籍が伸びるかどうかの鍵を握るのは、読書端末にかかっているといっても過言
ではないと思います。その読書端末が今年に入ってから、松下電器産業とソニーから出
荷されています。次の2製品です。2004年は電子書籍の飛躍の年といわれているの
を裏付ける出荷といえます。
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      松下電器産業 ・・ シグマBook/2004.1.29
      ソニー ・・・・・ LIBRLe /2004.3.24
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 これら2つの読書端末は、次の3つの点で共通しています。
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      1.どちらも「紙」の表示に近づく工夫を施していること
      2.表示した画面を電力を使わず長時間保持していること
      3.バックライトを使わず外光を反射して表示する反射型
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 しかし、表示原理と使っている素材、設計思想はそれぞれ異なるのです。
 松下電器産業がシグマBookで採用したのはコレステリック液晶であり、表示は白
と青のモノクロ表示になっています。これに対してソニーのLIBRLe(リブリエ)
では、米E−INK社の開発によるマイクロカプセル型電気泳動方式の電子ペーパーを
採用しています。両者の白の反射率とコントラスト比は、次の通りです。
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      シグマBook → 白反射率30%コントラスト比 4:1
      LIBRLe  → 白反射率35%コントラスト比10:1
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 松下のシグマBooKは、白の反射率もコントラスト比も低いですが、文字は精細で
す。しかし、白と青なので、画面が少し暗い感じになります。これに対してソニーのL
IBRLeは、白の反射率もコントラスト比も高く、白と黒なので視認性が高く、見や
すいといえます。ちょうど新聞紙程度の読みやすさです。表示が紙のように鮮明なので
「電子ペーパー」と呼ばれます。
 しかし、読みやすい液晶の条件としては、精細度とともにコントラストがはっきりし
ていることであり、白と黒の比率が反射率で「18:1」といわれていますから、LI
BRLeはそのレベルには達していないことになります。
 はっきり異なるのは、シグマBooKとLIBRLeの設計思想なのです。それは形
状にあらわれています。
 シグマBooKは、従来の本の持つ特徴を再現するような設計方針で、ボタンを少な
くし、中央から見開きにできるようにするなど、本と同じような形状にこだわっていま
す。コンテンツ保存用のメモリは持たず、SDメモリカードにデータを保存するように
なっています。重量は電池部分を含まないで520グラムです。
 それに対してLIBRLeは、本ではできないことを追求しているようです。検索機
能や本の持っているレイアウトを崩さずに、漫画のコマを拡大するといったようなこと
ができるのです。それに、電子辞書を標準で搭載し、検索機能と連動させるようにした
り、文字入力のためのボタンも多く、ジョグダイヤルも備えているのです。重量は、電
池を含まず190グラムという軽量です。
 LIBRLeについては、ここまで機能を持つと、読書端末というよりもPDAに近
く、その差がはっきりしなくなります。両製品に共通する課題としては、表示切り替え
速度が遅いこと――これは大きな問題点であると思います。
 この松下とソニーの電子書籍端末の先行に対して、時期尚早と見て端末の開発を見合
わせているメーカもあります。シャープはPCやPDAでもっと電子書籍が認知されて
からでも遅くはないと考えているようです。
 それでいてシャープは、電子書籍端末に備えて、印刷に負けない高精細な液晶を既に
開発しています。何しろ「180dpi」といいますから、1インチに180の点が入
る精細度を誇る液晶なのです。これを使って電子書籍端末を作れば、印刷よりも視認性
の高い高精細の画面で本を読むことができます。
 電子書籍端末の理想的条件とは何でしょうか。
 株式会社イーブック・イニシアティブ・ジャパンの代表取締役鈴木雄介氏の上げる条
件をご紹介しておきます。
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            1.見開きタイプである
            2.紙なみに軽量である
            3.反射型・記憶保持型
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 第1の条件は「見開きタイプである」ことです。
 これについては、明日のEJで詳しく述べますが、鈴木氏はあくまで本の特性をその
まま取り入れるべきであり、そのため本と同じように見開きタイプにすべきであるとい
うのです。
 第2の条件は「紙なみに軽量である」ことです。
 もともと本はモバイルであって、好きな時間と場所で楽しめるものです。5分でも1
0分でもちょっとした時間でも読める――それが本です。そのため少なくとも平均的な
本と同等か、それよりも軽量であることが理想としています。
 第3の条件は「反射型・記憶保持型」であることです。
 本は長時間読み続けるものであり、目が疲れない配慮をする必要があるのです。その
ためそれ自体が発光せず、天井の光太陽の光で読める反射型である必要があります。そ
れに電池切れを気にせずに、使える記憶保持型の液晶が必要す。
・・・[電子図書/03]


4.24電子辞書の勧誘チラシ.jpg
                  
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2008年04月25日

●電子書籍端末はどうあるべきか(EJ第1338号)

 松下のシグマブックとソニーのリブリエ――この2つの電子書籍端末の設計思想の違
いは興味深いものがあります。松下の見開き方式に対してソニーの片面方式――この違
いは設計思想が根底から違うことをあらわしています。
 ソニーの考え方はこうです。IT技術を取り入れて電子書籍端末を作る以上、本には
できない機能を何とか取り入れたい――そのため、イラストや図表を拡大できるように
したり、電子辞書を標準搭載して検索機能と連動させたりしているのです。
 しかし、この考え方はいささか疑問なのです。それなら、PDAとあまり変わらない
からです。確かに検索機能は便利ですが、本の内容によりけりでしょう。小説などは別
に検索機能なんかなくたってかまわない。そうは思いませんか。
 もちろん小説にも読み返しということはあります。本の場合はだいたいの見当でこの
へんだったかなとページを戻ることができるのですが、電子書籍端末ではページ数を入
れる必要がある――本の方が便利なことはたくさんあるのです。
 それに本は見開きができるけれども、リブリエは1ページしかなく、見開きにはでき
ない――これは致命的です。そもそも本は、見開きを1つの単位としてデザインされて
いるのです。見開きを前提として、いかに読みやすく、文字や挿絵や図表を配置するか
――そのデザインこそ出版社の重要な仕事なのです。
 現在一部の書籍では、単行本と電子版が同時出版されているそうです。そうであると
したら、単行本のための電子ファイルをそのまま電子版として使えるようにする必要が
あります。単行本とは別に電子版のデザインをするのでは、余計なコストがかかってし
まうからです。
 この場合、電子書籍端末はどうしても見開きにする必要があるのです。なぜなら、電
子書籍端末がリブリエのように1ページしかないとしたら、例えば、「左図のように」
という言葉は機能しなくなってしまうからです。
 もうひとつ決定的なことがあるのです。昨日のEJでご紹介した株式会社イーブック
・イニシアティブ・ジャパンの鈴木雄介氏は、その著書『「電子の本」が変える読書革
命/eBook時代はじまる!』(中経出版刊)の中で、見開きの必要性について非常
に興味深いことを述べておられるので、要約してご紹介したいと思います。
 鈴木氏がPDAで電子書籍を読んでいてあることに気がついたそうです。電子書籍で
も一応すらすら読めるのですが、なぜか、内容が頭に残らないというのです。当然面白
くないし、読み終わった後で物語の中身が何一つ頭に入っていないことに気がついたと
いうのです。
 また、鈴木氏はあるとき、4コママンガをPDAの画面上に大きく1コマずつ出てく
るように、コンテンツを作ってみたことがあるそうです。PDAの画面は小さいですか
ら、4コマ全部を出せないので、ボタンを押すと1コマずつ表示されるようにしたのだ
というのです。
 ところがこうすると少しも面白くないということがわかったそうです。いろいろな人
に見てもらったのですが、みんな同じ意見です。どうして、このようなことが起こるの
でしょうか。鈴木氏はいろいろ研究してみたところ、立花隆氏の著作の中にその答えら
しきものを見つけたというのです。
 立花隆氏は、参考文献として、いくつかの本を上げているのですが、その中の池田光
男氏の説をご紹介します。
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       有効視野はかなり重複しながら移動している。つまり同じ文
      字を二回、多いときは三回も読んでいる勘定になる。たとえば
      この本を読んでいて、視野が上のほうにきたとき、視野の下の
      ほうの文字もすでに目に入っていて、その情報を取り入れてい
      る。そして次の跳躍でもっと下のほうの文字に移ったときも、
      もう一度、今度は視野の上端のほうでこの文字を見て、最後の
      情報収集をするというわけである。眼の動きから推測すると、
      わたしたちの大脳は文章を読むとき、前処理、本処理、後処理
      の三段階の処理をするという、かなり冗長的な読み方をしてい
      るのではないかと思えるのである。
           ――池田光男著、『眼は何を見ているか』(平凡社刊)
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 要するに人間の目は中枢視野と周辺視野にわかれており、中枢視野が文字を読んでい
るとき、周辺視野がそのまわりの情報を収集して脳に情報を送っているというのです。
 こういう冗長的な繰り返し読みをしてわれわれは内容を理解しているのです。本を見
開きにして読んでいる場合、中枢視野は右から左へ文字を読んでいますが、同時に見開
きのページ全体もとらえており、中枢視野と周辺視野の同時読みをやっていることにな
ります。
 4コママンガでも同じことで、これについて鈴木雄介氏は次のように述べています。
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       4コママンガを笑えるのは、読み出したとき、すでに眼の端
      で4コマ目のオチをとらえているからだ。オチをとらえながら
      その直前のコマからの展開を視野に入れて、最初から心が「笑
      おう」と準備しているのである。―――鈴木雄介著、『「電子の
      本」が変える読書革命/eBook時代はじまる!』(中経出
      版刊)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 どうでしょうか。したがって、ボタンを押すと必要なページが1ページずつあらわれ
るのではダメなのです。同じことがケータイで小説を読んでも本の場合と比べると面白
くないのです。「葦の髄から天井を覗く」ようになってしまうからです。だから、電子
書籍端末はあくまで本を意識して、本と同じことができるように作るべきなの
です。                       ・・・[電子図書/04]

4.25鈴木雄介氏の本.jpg
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2008年04月28日

●紙の本と電子書籍版との関係(EJ第1339号)

 電子書籍については大きな誤解が存在すると思うのです。それは、ある本の電子書籍
版が、最初から電子書籍として編集されるようなイメージがあるという点です。もし、
紙の本と電子書籍版の編集作業が別々に行われるとしたら、とても出版社はペイしない
と思うのです。あくまで、紙の本の編集がそのまま電子書籍版に生かされる必要がある
のです。
 先週のEJ第1335号で、今年の芥川賞受賞者、「綿矢りさ」さんの作品『インス
トール』と『蹴りたい背中』が通常の紙の本と電子書籍版の両方で出版されていると書
きましたが、これは紙の本用として編集したものを、テキストベースの電子データとし
て置き直し、電子書籍版にしているのです。
 しかも、現時点では肝心の電子書籍端末の仕様が標準化されていませんから、ほとん
どの人は電子書籍版をPCにダウンロードして読んでいるのです。そうであるとすると
PC上で読むその電子書籍版は、少なくとも紙の本に比べて相当読みにくいものになっ
ているはずです。
 現在求められているのは、紙の本として編集されたものを画像としてそのままスキャ
ニングして電子書籍端末なり、PCに取り込んで映し出すという技術です。したがって
電子書籍端末は、それに対応している必要があり、その形状も紙の本と同じように見開
きにできるスタイルになる必要があるのです。
 これについて、作家の立花隆氏は、2003年9月10日に全日空ホテルで行われた
「電子書籍ビジネスコンソーシアム」の設立総会の席上放映されたビデオメッセージで
次のように述べています。
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       紙の本の世界で培われた全財産をそのまま受け継ぎ、かつそ
      れをリレーしながら、紙の本と電子の本が分業するような形で
      出版の世界全体がより大きく広がっていく。そういう分岐点に
      今、われわれは立っているのだと思います。(中略)
       画像で取り込むということは、現在流通している本だけでな
      く、この世にある全出版物、時間的には何千年も昔の本も、す
      べて生き返らせるということです。人類の全遺産を、すべて新
      しい本の中に入れることが可能になったのです。
                 ――立花隆氏のビデオメッセージより
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 まさに立花隆氏のいう通りなのです。電子書籍化は、これから発売される新しい本だ
けでなく、過去に出版されている本についても行われる必要があります。そうすれば、人
々は電子書籍の便利さに気が付くと思うのです。
 もうひとつ、この同じ「電子書籍ビジネスコンソーシアム」の設立総会の席で、漫画
家の里中満智子氏は次のようにスピーチしています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
       本来、本は物体としての値打ちがあるわけではありません。
      値打ちがあるのは、中に込められている情報であり、それだけ
      が本当に大切なわけです。ところが、いつの間にか、生活の中
      で本は物体扱いされるようになりました。人々は本棚がいっぱ
      いになったり、部屋がせまくなったりすると、少しでも暮らし
      よくするために本を捨てたり、売ったりします。これは大変悲
      しいことですが、だれもが、自分の家の中に大きな図書館を持
      つことはできません。
                   ――里中満智子氏のスピーチより
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 EJを毎日書き続けるには、膨大な書籍が必要になります。方針として、EJに取り
上げるテーマに関する本はほとんどすべて購入することにしているので、本は増える一
方です。したがって私がEJを執筆している部屋は本で溢れています。それは、本棚に
並べるという状況ではなく、本棚は二重に本が入っていて満杯――あとは床に積み上げ
ているのです。
 それをきちんと整理する時間など、どこにもないので、目的の本を探すときは床に積
んである本を全部崩して探すという能率の悪いことをしなければならないのです。した
がって、とても時間がかかります。
 つまり、里中氏がいうように、本という物体が、私の部屋のスペースを奪っており、
これを整理しないと次の本が買えなくなるという事態に陥っているのです。ただ、床に
積み上げられている本は情報ではなく、物体に過ぎないのです。
 しかし、電子書籍になったら、こういう悩みは解消されます。もちろん紙の本がなく
なっては困りますが、電子書籍が普及すると、私の所有する紙の本は大幅に減ることに
なります。しかも、電子書籍は検索ができますから、床に積み上げた本を崩して探すと
いうようなことはやらなくて済みます。
 それに電子書籍ならどんどん本を増やしていっても部屋が狭くなったりはしないの
です。つまり、われわれは家の中に書店や図書館を持つことができるのです。
 今後電子書籍端末の機能が充実すると、相当量の本がその中に収められ、いつでも、
どこでも読めるようになります。私は外に出かけるとき、5〜6冊の本をかばんに入れ
て出かけます。そんなに多く読めるはずはないのにどうしても持っていくことになりま
す。そうしないと必ず後悔するからです。しかし、5〜6冊というと相当の重量であり
身にこたえます。
 電子書籍端末の重量は、松下のシグマブックの場合、520グラムですが、これから
もっと軽くなり、おそらく200〜300グラム程度になると思います。それでいて、
10冊以上の本を収めることができるのです。そうすると、ちょっと外に出かけたり海
外旅行に行くとき、大変便利です。
 現在、日本は電子書籍化の分野では世界をリードしています。しかし、電子書籍が大
きく普及するには、まだ多くの壁が存在します。明日からそういう問題について考えて
いきます。                      ・・・ [電子図書/05]

4.28立花隆&里中満智子.jpg
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2008年04月30日

●電子書籍が読まれる条件(EJ第1340号)

 イーブック・イニシアティブ・ジャパンの鈴木雄介氏が興味深いことをいっています。
鈴木氏は、かつて『週刊ポスト』の編集長をされていたのですが、彼によると、週刊誌
の記事のポイントは次の3つであるといっているのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
       1.おや ・・・・・ おや、そんな話ははじめてだ
       2.まあ ・・・・・ まあ!素敵なことじゃない!
       3.へえ ・・・・・ へえ、そうなんだ。なるほど
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 これは、何をいっているのかというと、週刊誌はコンテンツが一番重要であるという
ことです。これは、週刊誌に限らず、本についても、EJのようなメールマガジンにつ
いてもいえることです。EJでも、さまざまな分野についての知識を「おや、まあ、へ
え」で取り入れているつもりです。
 とかく電子書籍について議論すると、その検索機能であるとか重いとか軽いかとか、
ネットワークの便利さとかが話題になってしまいますが、そんなことは枝葉末節であっ
て、一番重要なものはコンテンツなのです。
 電子書籍が読まれるためには、次の3つのことが必要になるといわれます。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
       1.コンテンツ  ・・・ 内容が充実した作品
       2.ハードウェア ・・・ 読みやすく軽い端末
       3.ネットワーク ・・・ ダウンロードが容易
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 考えてみると、通常の紙の本でもこれらはすべて該当するのです。コンテンツは当然
のこととして、「ハードウェア」とは何のことでしょうか。
 通常の紙の本においては、本自体の大きさや文字の大きさ、文字の配列や間隔、1ペ
ージに入れる文字の数、縦書きか横書きかそれらが長い間にわたって大変な工夫が重ね
られ、読みやすくするための工夫が練られているのです。また、どのような紙を使い表
紙をどうするかなど――こういった要素が適切に判断されて、一冊の本が出来あがるわ
けです。これは、まさにハードウェアそ
のものといえないでしょうか。
 1445年にドイツのヨハン・グーテンベルグが活版印刷技術を発明してから560
年になるのです。したがって、本は500年以上の歴史を持つ成熟商品といえます。し
たがって、これを先端技術で、あれこれいじり回す必要はないし、変に手を加えるとか
えって読みにくくなります。したがって、紙の本をそのままのかたちで、電子書籍化に
する――このことについては既に述べた通りです。
 それでは「ネットワーク」とは何でしょうか。
 ここでいうネットワークとはその本を手に入れる場所のことです。電子書籍でネット
ワークとは、ダウンロードする場所を意味しますが、紙の本では、書店ということにな
ります。
 買いたい本は、書店に行けば必ず買えるというわけではありません。大きな書店に行
けば、たいていの本は手に入りますが、探す手間もかかります。そういう場合、電子書
籍は、自宅のPCからでもダウンロードできるケースが多いので、書店に行くよりは便
利といえば便利です。
 私は、アマゾンドットコムのようなインターネット書店は利用しないことにしていま
す。なぜかというと、私の場合、最初から買いたい本が決まっていることはほとんどま
れだからです。新聞などで、興味ある本の広告を読んでも、書店に行って実際にその本
を手にして、パラパラとめくって見る――そうしたうえでないと購入しないのです。
 最初から買いたい本があるわけではなく、何か面白い本はないか、自分が追求してい
るテーマや興味のある内容について書いている本はないか――といった探し方をするか
らです。したがって毎日2〜3軒の書店に行くことにしています。この書店訪問で、貴
重な本や情報が見つかるのです。
 インターネット書店の場合、内容のパラパラ読みができない点は大きな問題点である
と思います。小説などは著者と書名、それに若干の簡単なあらすじがわかれば、インタ
ーネット書店で購入してもいいでしょうが、EJのように何かのテーマを追求したい場
合は、著者と書名とあらすじだけでは買えないのです。
 もし、電子書籍が電子書籍単独で販売される場合、当然パラパラ読みはできないでし
ょうから、小説は別として、目次を示すなどある程度の内容の開示をしない限り、少な
くとも私には興味のない世界であるといえます。
 しかし、紙の本は現在のペースで行くと、確実に減少する恐れがあるのです。それは
現在の中国の紙事情を知れば愕然とするはずです。季刊『本とコンピュータ』(大日本
印刷刊)において林浩氏は次のように書いています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
       「紙の神・蔡倫も悲観する中国『紙事情』」によると、人民
      日報も紙不足のために十分な部数を発行することができない。
      また、中国政府はときどき新聞や雑誌の発行を禁止することが
      ある。これが実は紙不足を緩和して価格の暴騰を抑えるためだ
      というから、世の中、聞いてみないと分からないことはあるも
      のである。        ――季刊『本とコンピュータ』より
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 中国の人口は13億人で、日本の10倍です。これらの人口が豊かな生活を求めて活
発な経済活動をはじめている――こうなると紙はいくらあっても足りないのです。
 日本の紙の消費量は、人口が中国の10分の1であるのに中国と同量なのです。19
60年ごろと比べると、7倍も増えています。かつては、紙の消費量は文化のバロメー
ターなどといっていましたが、そんなことはいっていられなくなります。それに、紙の
本も販売が減少しているのです。            ・・・[電子図書/06]
posted by 管理者 at 04:27| Comment(0) | TrackBack(0) | 電子図書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年05月01日

●電子書籍化が進む本当の理由(EJ第1341号)

 紙の本と電子書籍とを比べてみると、かえって紙の本の便利さがわかってきます。紙
の本はどこにでも持って行けて、ちょっとした時間でも読める――こんな便利なものは
ないと思います。電子書籍ではこうはいかないでしょう。本来なら紙の本という成熟商
品に何かを加える必要はないと思われます。誰も紙の本に不満を感じている人はいない
のですから・・・。
 しかし、電子書籍への動きは加速しています。どうしてなのでしょうか。
 それは、本の素材である紙が不足しつつあるからなのです。紙は、パルプから成り、
パルプは木から取り出されるのです。紙1トンを作るのに、森の大木20本が必要なの
です。その森林資源が不足してきているのです。
 現在、紙の原料である森林資源が大きく減っています。中国の緑は国土の12%しか
ないのです。これは、アフリカの18%を下回っています。これに比べると、日本はも
ともと山が多い地形のため67%が森林に覆われていますが、それでも森林資源は減り
続けているのです。
 ジャーナリストの横山三四郎氏は、人口の多い中国こそ電子書籍を使うようになると
予測して、次のように述べています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
       人口13億人だから、小学生の1学年だけでも全国で一千万
      人ほどもいる。就学していない子どもたちもいるから概算で小
      中学生は1億2千万人とされ、日本の総人口に匹敵する。これ
      らの小中学生に教科書を、各教科ごとに与えていたら、またそ
      れより高学年の学生生徒に紙の教科書を配っていたら、それだ
      けでも紙資源が枯渇する。
       安価な読書端末ができて、それひとつで、全教科の教科書に
      使えるような便利なものが開発されたならば、中国政府は飛び
      ついてくるに違いない。  ――横山三四郎著、『ブック革命/
      電子書籍が紙の本を超える日』より。(日経BP社刊)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 しかし、読書端末も教科書のデータを入れるメモリカードも非常に高価です。しかし
数が数ですから、相当コストダウンできる可能性があります。既に松下では、シグマブ
ックを北京大学に提供して今年の春には10万台が納品されています。北京大学への進
学を考えて勉強している小中学生に配付するためです。
 北京大学としては、この導入を3年から5年くらいは続ける予定であるといいます。
価格は、約1000元――約15000円ということです。それにしてもどうやってデ
ジタル教材を流通させるのでしょうか。
 北京の小中学校にダウンロードボックスを置き、人工衛星でデジタル教材を配信する
のです。中国では既に人工衛星を利用した通信教育がはじまっており、その人工衛星で
デジタル教材を配信するのです。このような状況を考えると、横山氏のいう通り、電子
書籍は中国で急拡大する可能性があります。
 紙不足と並んで出版業界は、もうひとつ大きな問題を抱えています。それは、紙の本
が売れていないということです。2003年の出版業界の販売金額――書籍と雑誌の合
計は、2兆2278億円で、対前年比はマイナス3.6%なのです。
 しかも、この対前年割れは、次のように、7年間連続で続いているのです。そのため
か、この10年間で1万店近い書店が廃業したというのです。これは本好きの人間にと
って大変悲しいことです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
       1997年 ▲0.7%   2001年 ▲3.0%
       1998年 ▲3.6%   2002年 ▲0.6%
       1999年 ▲3.2%   2003年 ▲3.6%
       2000年 ▲2.6%
            ――鈴木雄介著、『eBook時代はじまる!』
                           (中経出版)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 7年間連続減少はかなり深刻な数字です。しかし、1999年から新刊の発行点数は
急上昇しているのです。添付しているグラフを参照していただきたいと思います。
 2003年については、新刊発行点数は7万2608点であり2000年に比べて、
点数にして5000点、比率にして7.4%も増加しています。これはどういうことな
のでしょうか。
 グラフをよく見ていただくと、新刊発行点数は急増していますが、新刊発行部数は減
少しています。つまり、点数としては増えているが、初版の部数は減少しているという
ことです。それに、書籍の返品率が、1997年以来40%前後を推移しているという
ことです。つまり、書店に並んだ本の平均40%は、売れずに出版社に戻ってくるとい
うことになります。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
       1997年 39.3%   2001年 39.1%
       1998年 41.0%   2002年 37.7%
       1999年 39.9%   2003年 38.8%
       2000年 39.4%
            ――鈴木雄介著、『eBook時代はじまる!』
                           (中経出版)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 40%の返本率といっても、必ずしも60%が売れたとはいえないのです。それは、
売れずにそのままどこかの書店の棚に並んでいるかも知れないからです。これを流通在
庫というのです。しかし、出版社としては、当然それは売れたものとして処理すること
になります。
 それでは返された本はどうなるのでしょうか。そもそもなぜ、返本することができる
のでしょうか。これについて、理解するには、日本における本の製作と販売の制度につ
いて知る必要があります。これについては、明日のEJで取り上げます。
・・・[電子図書/07]

5.1新刊発行部数と発刊点数の推移.jpg
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2008年05月02日

●新刊発行点数がなぜ多いのか(EJ第1342号)

 日本における本の製作と販売については、次の2つの制度が深くかかわっています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
      1.再販売価格維持制度 ・・ 定価販売制度のことなり
      2.販売委託制度 ・・・・・ 売れなかったら返品OK
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 本の製作と販売の裏側については、一般の人にとっては知られざる話なのですが、鈴
木雄介氏は、その著書、『eBook時代はじまる!』(中経出版刊)において、その
からくりを明かしていますので、その内情についてお話しすることにします。
 再販売価格維持制度というのは、商品の乱売――大幅に価格を下げて売るなど――を
防ぐため、流通業者が生産者の決めた価格を守って商品を販売するよう定めた制度のこ
とであり、出版物の他に医薬品や化粧品やCDなどに適用されていたのです。
 しかし、現在では、その多くは廃止されているのですが、出版物については「文化を
守る」ということで、この制度が現在も適用されています。要するに、書店は出版社の
指定した価格でしか本を売れないのです。
 出版を文化と考える――これがこの再販売価格維持制度の趣旨なのです。確かにこの
制度は、良質な本を作る弱小な出版社を守ることにはつながると思います。しかし、社
会の急激な変化にともなって、この制度が逆に出版社を苦しめるようにもなってきてい
るのです。
 この再販売価格維持制度は、もうひとつの販売委託制度と結びつけて考える必要があ
ります。販売委託制度とは、簡単にいうと書店が「売れない本は出版社に返していい」
という制度です。
 出版社は「取次」という雑誌・書籍の専門流通業者を通して書籍を販売するのです。
取次は、現在数十社ありますが、トーハンと日販が取次業界の売り上げの大半を占めて
いるのです。
 具体的な例で考えましょう。ある出版社がAという書籍を製作し、5000冊印刷し
たとします。出版社はこれを取次に納品するのです。取次は、その本の内容を検討し、
その種の本が売れる書店を選択して、Aという本を送付する書店とそれぞれの冊数を決
定するのです。取次には書店ごとの販売実績データの統計がコンピュータでわかるよう
になっており、書店の決定はこれらのデータに基づいて行われます。
 さらに取次は、出版社に対して書店に配付する本の代金を支払います。この時点で本
は一冊も売れていないのですが、代金は支払われるのです。もっとも出版社の信用状態
によって、支払うパーセンテージは違ってきますが、大手出版社については100%支
払われるのです。つまり、出版社としては、この時点で売れていない本の売り上げが立
つことになります。
 さて、取次は、そのAという本を全国の書店に発送します。書店は、取次と書店との
間で決められた割合に応じて、本の代金を取次に支払います。書店はその本を店の書棚
に並べて販売するのですが、一定の期間(3〜6ヶ月程度といわれる)を過ぎても本が
あまり売れない場合、書店はその本を取次に返品できるようになっているのです。本は
取次の判断によって書店に届けられていますから、売れなければ返せるのです。
 逆に本が売れた場合、書店の判断で出版社に注文を出すことになります。例えば、取
次から本が10冊届いて、店に並べたところ一週間で5冊ほど売れたとします。このま
まいくとすぐ本はなくなると書店が判断すれば、注文を出してくるわけです。
 この場合重要なのは、書店の意思で注文を出して送られてきた本は書店が買い取った
ことになり、たとえ売れなくても返品できないことです。売れる本かそうでない本かの
見極めが書店としては勝負どころとなります。
 さて、本が売れない場合、本は書店から取次に返品されます。5000冊印刷して、
仮に2500冊返品されたとすると、出版社は、既に受け取っている本の代金から25
00冊分の代金を取次に返還しなければならなくなるのです。これが、本を取次に納品
してから、3〜6ヶ月ごとにめぐってくることになります。
 しかし、出版業界は不振であり、一度受け取った代金の半分を取次に返還することが
苦しい出版社もあります。そういうとき、どうするかというと、出版社は取次に返品分
のお金を渡す前に新しい本Bを製作して取次に納品するのです。そうすると、その代金
が出版社に入りますから、その代金でAの返品分のお金を支払うのです。出版業界が不
振で、本が売れていないにもかかわらず新刊書の出版点数が急増しているのは、こうい
う事情がウラにあるからと考えられます。
 こんな悲劇もあります。取次は、返品されてきた本を出版社に戻さず、新規にオープ
ンする書店に回すことがあるのです。仮に取次に戻された2500冊のAという書籍を
そのままそういう新規書店に回したとします。
 しかし、その新規書店の数が多く大型店の場合、そういう返品分だけでは書架は埋ま
らないので、取次は出版社に対して増刷を要求することがあります。出版社としては、
返品されず、増刷要請があれば、売れたと判断して増刷して納品します。
 ところがです。本がそういう新規書店でも売れなくて、増刷分も含めて一挙に取次に
返品されてきたとします。そうなると、最悪の場合、出版社は倒産しかねないのです。
 最近は取次の方も大量の返品を警戒して、配本する部数を絞る傾向があるそうです。
つまり、今までは5000冊引き取ってくれたのに半分しか引き取らない――そういう
ことが起こっているそうです。そうすると、出版社としては、売り上げを上げるために
さらに新刊点数を増やすわけです。イタチごっこです。
 返品された本は、多くの場合、市場には戻らずに断裁されて、この世から消える運命
にあります。なぜなら、そのままにしておくと、倉庫代がかかるだけでなく、再販売価
格維持制度により定価のまま出版社の資産として計上され、莫大な税金がかかってくる
からです。売れない本はまさに不良債権なのです。    ・・・[電子図書/08]
posted by 管理者 at 03:37| Comment(1) | TrackBack(0) | 電子図書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年05月07日

●電子書籍で何が変わるか(EJ第1343号)

 ここまで電子書籍について電子書籍を定義することになしにご紹介してきましたが、
このあたりで、電子書籍を定義しておくことにします。電子書籍には次の5種類があり
ます。鈴木雄介氏は次の5つに分類しています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
            1.パッケージ型電子出版
            2.ロイヤリティ・ビジネス
            3.ダウンロード型電子書籍
            4.サーバ型電子書籍
            5.携帯文庫
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 第1の「パッケージ型電子出版」というのは、CD−ROMなどの記録メディアに書
籍や地図などのコンテンツが入っており、ひとつのパッケージとして、書店や量販店な
どで販売されているものをいいます。
 第2の「ロイヤリティ・ビジネス」とは、主として辞書などの書籍データをPCメー
カや電子辞書メーカに提供し、ハードウェアの売り上げに応じたロイヤリティを出版社
や著者が受け取るビジネスを意味しています。
 第3の「ダウンロード型電子書籍」は、ネット上の販売サイトから自分のPCや読書
端末に書籍データをダウンロードして読むものをいいます。
 第4の「サーバ型電子書籍」は、サーバーにあるコンテンツをユーザが「見に行く」
もので、自分のPCにはダウンロードできないものをいいます。
 第5の「携帯文庫」は、携帯電話にコンテンツが配信されて読む形式のことで、主と
して小説などの文字主体のコンテンツが主流です。
 これら5つの中で、従来の紙の本に代替されるものとして検討すべきなのは、第3の
「ダウンロード型電子書籍」です。これが紙の本と対抗する電子書籍ということになり
ます。
 何度もいうように、紙の本に問題があるわけではないのです。紙の書籍は500年以
上の歴史を持つ成熟商品です。これを超えるということは困難です。しかし、世界的な
紙不足という環境条件とIT技術の発展によって、これからは紙の本と電子の本との共
存関係が続くことになります。
 電子書籍には、本を読む人よりもむしろ、本を出す人と本の作る人に対して大きな変
化をもたらします。そのポイントは次の6つに整理できます。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
            1.在庫・返品の問題がない
            2.絶版や品切れがないこと
            3.いつまでも継続展示可能
            4.印刷・製本のコスト不要
            5.本が古びたり、汚れない
            6.買いたいときすぐ買える
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 第1は、「在庫・返品の問題がない」ということです。
 現在は、出版物の平均40%は返品され、返品本はすべて断裁・廃棄処分にされます
が、電子書籍はこれがないということです。電子書籍には、もともと在庫の概念はない
のです。
 第2は、「絶版や品切れがないこと」です。
現在、約50万種の本が出回っているといわれますが、その中には、かなり多くの絶版
や品切れの書籍があります。しかし、電子書籍は、書籍としての物体がなく、電子ファ
イルとしても、その保存に大きなコストはかからないので、長く残しておくことができ
るのです。
 第3は、「いつまでも継続展示可能」ということです。
 書籍の配本を受けた書店は、売れ行きの悪い本は書棚からすぐ引っ込めてしまいます
し、出版社も在庫を恐れて売れ行きの悪い本は、すぐに絶版にしてしまいます。中には
1回も梱包を解かれないまま、断裁・廃棄される本すらあるのです。
 しかし、電子書籍であればいつまでも電子の書棚に置いておくことができるのです。
これは、著者にとって大変ありがたいことであると思います。
 第4は、「印刷・製本のコスト不要」ということです。
 紙の本の製作コストは、2分の1から3分の2は印刷費、製本費、紙代です。とくに
カラー印刷にはモノクロの3倍の印刷コストがかかるといわれています。
 電子書籍の制作費は、コンテンツをスキャナで取り込み、データの圧縮を行い、セキ
ュリティ処理する作業費は配信システムのメンテナンス費だけです。一番コストのかか
る印刷費、製本費、紙代がないことに加え、カラーもモノクロもコストはほとんど変わ
らないのです。
 第5は、「本が古びたり、汚れない」ということです。
 紙の本は長く置いておくと、どうしても黄ばんだり、日に焼けたりします。しかし、
電子書籍は、品質に変化が起こることはないのです。フォーマットの変化やPCやソフ
トのバージョン・アップには対応しなければなりませんが、コンテンツはつねに新品な
のです。
 第6は、「買いたいときすぐ買える」ということです。
 これは、ユーザにとってのメリットです。書店に行かなくても本が買えるというメリ
ットです。インターネットで紙の本を買うのと違い、電子書籍は夜中でも即必要な本が
手に入るのです。何かの研究で本を探していたり、原稿を書いている人にとっては、電
子書籍は大変便利です。
 以上の6つが電子書籍のメリットです。このように考えると、電子書籍は、現在、出
版業界が抱えている問題の多くが解決されてしまうのです。出版社にとって、紙の本よ
りリスクが低く、安全な出版物なのです。電子書籍なら、あまり売れないが、必要な本
でも出版可能なのです。        ・・・[電子図書/09]
posted by 管理者 at 03:22| Comment(0) | TrackBack(0) | 電子図書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年05月08日

●電子書籍コンソーシアム設立の経緯(EJ第1344号)

 現在、電子書籍に携わる団体は、次の4つがあります。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
         1.電子文庫パブリ
         2.シャープスペースタウン
         3.デジブックジャパン
         4.イーブックイニシアティブジャパン
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 これら4つの団体ができる前に、「電子書籍コンソーシアム」というのがあったので
す。1998年10月の結成です。結局、このコンソーシアムは、失敗に終わるのです
が、今朝はこの話をすることにします。
 1998年は日本経済があらゆる面で裏目に出ていたのです。出版業界も売り上げが
ダウンして、CD−ROMの電子書籍も不景気で売れなくなっていました。書籍の返品
率が平均40%に達したのもこの年なのです。
 何とかしなければ――出版社は当時相当な危機感を持っていたのです。そのような危
機感から電子書籍への期待が高まったといえます。既に米国では電子書籍ビジネスが始
まったというニュースにも刺激されたのです。
 液晶による専用読書端末を作る――これが普段はそれぞれの路線を振りかざしてまと
まりの悪い出版社がひとつにまとまるキーワードとなったのです。それが「電子書籍コ
ンソーシアム」というものにまとまったのです。
 このとき中心になって動いたのは、現在、イーブックイニシアティブジャパン社長の
鈴木雄介氏です。彼は『週刊ポスト』の元編集長をしていただけあって顔が広く、人を
介して政府に働きかけ、総額100億円規模の補助金を勝ち取るというふれ込みで、出
版社の参加を競ったのです。
 何しろ100億円規模の予算が出るという話です。何か良いことがあるのではと期待
した出版社も多かったと思います。結局のところ、156社が「電子書籍コンソーシア
ム」に結集したのです。この中には、日立、シャープなどの総合電気機器メーカ、NT
Tなどの通信業者も含まれていたのです。
 主要課題には、次の4つがあったのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
         1.電子書籍をどんな手段で配信するか
         2.どのようなコンテンツを用意するか
         3.ファイル形式として何を選ぶべきか
         4.どのような端末で読んでもらうのか
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 電子書籍を配信するためには人工衛星が使われることが決定されたのです。当時はイ
ンターネットが現在のようにブロードバンド化されておらず、本のデータは10〜20
MBと重いので、通信回線で送ると、4〜5時間もかかってしまう状態でした。
 そこで、実験には書店に「メディアスタンド」を置いて、利用者はそこからダウンロ
ードしてもらうことにして、そのメディアスタンドにデータを送る手段として人工衛星
を利用することに決めたのです。
 読書端末については、シャープがリードしていました。当時、シャープの開発してい
た液晶は、高精細液晶で180ppiの精度――1インチに180の点が入るという精
度で、漢字のルビまではっきりと見える高精細さだったのです。
 結局コンソーシアムでは、シャープの液晶が採用されることになり、直ちに実験用の
読書端末の実験機500台が制作され、モニター実験に提供されたのです。1999年
11月のことです。
 このあたりまでは、コンソーシアムはうまく機能していたのです。しかし、電子書籍
が具体的な形を取り始めるこの頃から出版社は少しずつ腰が引けてくるのです。それは
紙の本が売れなくなるのではないかという心配からです。
 出版社は、当然ですが、紙の本を売ることによって利益が出るようになっています。
紙の本を売れば、まるまる自分の利益になるのに、電子書籍は売り上げの大半を読書端
末を制作するメーカに持っていかれると考えたのです。
 それに電子書籍は、書籍の価格の維持を定めた再販価格維持制度はその対象にならな
いのです。したがって、インターネットに乗ったとたん自由価格になってしまいます。
出版社は、これが再販価格維持制度の見直しにつながることを恐れたのです。
 もうひとつ大きな火種があったのです。それは、「ファイル形式として何を選ぶべき
か」の争いです。これは、このコンソーシアムに参加した読書端末メーカ間の争いだっ
たのです。フォーマットは、大別すると次の2つがあります。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
            1.画像として取り込む形式
            2.テキストを取り込む形式
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 第1の「画像として取り込む形式」とは、紙面をそのままスキャンして画像として取
り込む形式です。これは取り込みの手間はかからないが、画像なのでデータが重くなる
欠陥があります。
 第2の「テキストを取り込む形式」とは、テキストデータを取り込む形式ですが、フ
ァイルデータが軽い特色はあるものの、入力する手間とコストがかかるというマイナス
点があります。
 どちらも一長一短なのです。しかし、コンソーシアムとしては画像として取り込む形
式が選ばれたのです。それは、従来の本にこだわる鈴木雄介氏の意見が強かったからで
す。しかし、実験では、やはりデータが重く、衛星での配信は円滑には進まず、かなり
の渋滞が発生したのです。              ・・・[電子図書/10]
posted by 管理者 at 03:51| Comment(0) | TrackBack(0) | 電子図書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年05月09日

●フォーマット競争はどうなるか(EJ第1345号)

 電子書籍のフォーマット論争は、非常に激しいものがあったのです。画像派とテキス
ト派の争いです。当時コンソーシアムの総務会長を務めていた鈴木雄介氏(画像派)と
それに反対する出版社(テキスト派)との対立です。
 困ったのは、読書端末を担当していたシャープです。コンソーシアムの結論としては
画像形式を採用したことに伴い、妥協の産物であるテキストと画像の混在フォーマット
であるBVFという方式を開発して提供したのです。
 BVFは画像も文字もドットという点であらわす方式で、コードに変換しないため、
応用が利かず、使い勝手も良くないのです。案の定というべきか容量が重くなり、コン
ソーシアムの実験ではさまざまな問題が生じたのです。
 しかし、これはシャープにとって貴重な経験であったといえます。というのは、この
経験を踏まえてXMDFというフォーマットが開発されたからです。
 XMDFは、デジタル世界の主流になっている記述言語XMLを基本にしたフォーマ
ットで、これはシャープの推進するPDA「ザウルス」に搭載するために制作したもの
です。
 もう少し詳しくいうと、XMDFというのは、シャープがザウルス用に公募して最優
秀賞を獲得した縦組みのリーダー「ブンコ・ビューア)とBVFとを組み合わせ、文字
と画像が扱えてセキュリティにも対応したフォーマットなのです。
 フォーマット形式はいわば電子書籍を読むためのOSのようなものです。PCのOS
は現在ではウインドウズがデファクト・スタンダードになっていますが、電子書籍用の
フォーマットとしては、いろいろな形式があって、デファクト・スタンダードが登場し
ているとはいえないのです。
 例えば、鈴木雄介氏のイーブック・イニシアティブ・ジャパンが採用している画像形
式のebi−jブックリーダー」はPCと松下のシグマブックにしか使えないのです。
つまり、PCでは読めても、あとはシグマブックにしか使えず、パームなどのPDAで
は使えないのです。
 ところが、シャープはXMDFフォーマット技術を他社にオープンで提供しています
XMDFフォーマットを有名にしたのは、NTTドコモがそれを配信用標準フォーマッ
トとして採用したことにあります。
 私は今までの仕事の関係上、シャープやカシオとは付き合いがあって、その企業体質
をよく知っていますが、両社とも独自の技術の殻に閉じこもるところがあるのです。
 しかし、シャープがXMDFフォーマットをオープンにしたことの意義は大きいと思
います。中でも利用者の多いNTTドコモが採用したことは、XMDFフォーマットが
デファクト・スタンダードへの一歩を大きく踏み出したといっても過言ではないと考え
ます。これには、現在デジブックジャパン社長の林陸奥広氏の尽力がシャープを動かし
たといわれています。
 ここで、EJ第1344号でご紹介した電子書籍の4団体の名前を再現して、簡単に
ご紹介しておきます。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
         1.電子文庫パブリ
         2.シャープスペースタウン
         3.デジブックジャパン
         4.イーブックイニシアティブジャパン
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 第1番目の「電子文庫パブリ」は、習研究社、角川書店、講談社、光文社、集英社、
祥伝社、新潮社、筑摩書房、中央公論新社、徳間書店、双葉社、文芸春秋の12社が参
加して、2000年9月に開設されています。それぞれの刊行物をデジタル化し、ダウ
ンロード用に提供しており、コンテンツは豊富です。
 第2番目の「シャープスペースタウン」は、シャープが自社のPDA「ザウルス」で
読む「ザウルス文庫」と音楽/ゲームなどを総合的に扱うサイトですが、その中に「シ
ャープ・タウンブックス」という電子書店があります。シャープは電子書籍の分野でリ
ーダーしている存在であるといえます。
 第3番目の「デジブックジャパン」は、林陸奥広氏が率いる企業です。林氏はコンソ
ーシアムでは、事務局として参加しておりそのときコンソーシアム用に借りていた事務
所と電子化を担当していたスタッフをそのまま継承して起業したものです。シャープの
XMDFをはじめ、すべてのフォーマットに対応した書籍のデジタル化、電子書籍の編
集・サーバ運営などの事業を展開しているのです。
 第4番目の「イーブックイニシアティブジャパン」は、既に何度もご紹介している鈴
木雄介氏の興した企業です。鈴木氏は、電子書籍は紙の本と同じスタイルにすべきであ
るという信念の下にコンテンツの取り込みには、ドット形式の画像方式「ebi−jフ
ォーマット形式」を使用し「テン・デイズ・ブック」を運営しています。鈴木氏のサイ
トをご紹介しておきましょう。
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            http://bb.10daysbook.com/shop/
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 電子書籍について、現在入手できる情報から、その歴史と現状について述べてきまし
た。現在、電子書籍によるブック革命は着実に進んでおり、日本は世界をリードしてい
るようです。
 「話された言葉は飛び去り、書かれた文字は残る」というラテン語の教えがあるそう
です。人間は忘れやすいので、まず、書きとめなさいという意味です。
 しかし、それは紙に限ったことでなく、電子の文字であってもかまわないのです。こ
れからは紙の本と電子の本が共存をする時代であると思います。そういう意味で電子の
本も体験しておく必要があると思います。電子書籍のテーマはこれで終わり、来週から
は別のテーマです。              ・・・[電子図書/11/最終回]

5.9横山三四郎氏の本.jpg
posted by 管理者 at 04:05| Comment(0) | TrackBack(0) | 電子図書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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