それは、1990年に起こったバブルの崩壊による資産価格の暴落が直接の原因なのです。日本の企業は、70年代から80年代にかけて、莫大なお金を借り入れて、事業に投資してきています。その借金が残っているのにその借金に見合うはずの資産の価値が暴落してしまったのですから大変です。
その結果、企業のバランスシートはひどい状況になってしまったのです。株価はピーク時の数分の一になり、資産価値の中心を占めていた土地の価格が暴落してしまいます。都市の商業地で実に86%のダウン――ピーク時の価格の14%になってしまうという土地の大暴落です。これによって、債務の額が資産の額を上回る債務超過の企業が続出したわけです。
債務の額が資産の額を上回る債務超過になっても、本業さえ健全であれば、企業は倒産するわけではないのです。しかし、昨今は、こういう状態で倒産状態ということになるのです。バランスシートが傷んだ結果の倒産です。銀行や生保会社などの金融機関では、監督官庁である金融庁が決算時点においてバランスシートが債務超過と認定されると、そこで倒産ということになります。
現在の日本では、本業が健全であるのに、資産価格が暴落した結果、バランスシートが債務超過になってしまった企業が多いのです。実際問題として、ある企業のバランスシートが債務超過の状態になると、銀行はその企業に対する債権を「要管理債権」か「破綻懸念先債権」として、一定の貸倒引当金を積むことになるのです。つまり、不良債権として扱われるわけです。
こういう状態に追い込まれた企業は何をするでしょうか。
それは本業で上げた利益で借金返済を急ぐはずです。そして、何とか、バランスシートを健全化しようと考えるはずです。それは企業経営者として当然の行動であると思います。
多くの企業が一斉にそういう借金返済に走ると、それが経済にどのような影響を与えることになるのでしょうか。
それが現在日本で起こっている長期にわたる不況の原因なのです。リチャード・クー氏は、その不況を「バランスシート不況」と呼んでいます。多くのエコノミストは、日本の不況の原因は、企業がリストラを含む改革を先送りしてきた結果であるとしていますが、クー氏によると、その考え方は完全に間違っているといっているのです。
仮に企業経営者たちが、バブルで資産価値が下落したとき、地価も株価もいずれ元に戻ると考えて、バランスシートへの対応を先送りしていたら、日本経済は不況になどなっていないとクー氏はいうのです。しかし、あまりにも多くの企業が借金返済に走った結果、バランスシート不況に陥り、小泉政権が不況の原因を完全に間違ってとらえているために、いまだに不況から脱却できないでいる――これがクー氏の主張です。
日本の上場企業は約3500社あります。その中でどのくらいの企業が借金返済をやっているかを数字で示します。
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借金の返済を行っている企業 2000社 57.1%
借り入れを増やしている企業 1000社 28.6%
借金額が変化していない企業 500社 14.3%
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3500社 100.0%
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これによると、上場企業の実に57%が、現在でも借金返済に走っているのです。国の経済というものは、家計部門が貯蓄した資金を企業部門が借りて使うことで、お金が回っているのです。景気というのは、お金の回りの状態が良いことをいうのですが、家計部門が貯蓄したお金を企業部門が借りて使えば、お金は順調に回っていき、景気は良くなるのです。
しかし、企業が借入れをやめて借金返済に回ると、家計部門が貯蓄した資金は使われず、銀行に滞留することになります。それに、企業が借金返済に走った結果、そのお金も銀行に滞留することになり、銀行には使われない大量のお金――家計部門の貯蓄の総額+企業部門の借金返済額――がストックされることになります。これが経済全体のデフレギャップとなっているのです。
そして、この状態が続くと、毎年、家計の貯蓄と企業の借金返済分だけの総需要が失われて、経済がどんどん縮んでいくことになります。これこそがデフレであり、このデフレ克服のためには国として手を打つことが必要になります。
しかし、政府は金融機関に問題があると考えています。銀行の資金が将来性のない産業の中で焦げついているため、こうした産業への貸付金が、銀行の自己資本比率を悪化させている。そのため、これから成長が見込まれる有望な企業に銀行がお金を貸すことができなくなっている――このように考えているのです。
しかも、銀行に対して不良債権処理を迫れば迫るほど、銀行は企業にお金を貸せなくなるばかりか、企業に借金返済をあおる結果になって、デフレの状態は一層深刻化します。つまり、逆のことをやっているのです。
日本は、現在ゼロ金利の状態にあります。それにもかかわらず多くの企業が借金の返済に走っているという状態は、資本主義経済では異常なことです。
従来の経済学は、企業は常に利益の最大化を目的として行動するという前提の下に確立されており、企業が債務の最小化を最優先して行動することを想定していないのです。したがって、現在日本で起こっていることを正確に理解するには、今までとは違う発想で臨む必要があるとクー氏はいっています。
このバランスシート不況――日本だけでなく、米国、台湾、タイなど多くの国で生じつつあります。とくに米国では、サーベンス・オックスレー法が成立して、米国の経営者は今まで以上に、バランスシートに関心を払わざるを得なくなっています。
−−[バランスシート不況/02]
最近の、大震災、水害の状況をみれば、公共工事の重要性は、よりはっきりしてきたと思います。日本は、他国に比較すれば、自然災害の多い国です。他国より、公共工事が多いくらいであって、当たり前です。
まずは、大規模公共工事を復活させることが大前提であり、国家プロジェクトなどはその後からでも十分間に合います。