労働組合がバチスタ政権を打倒したとき、米国の世論は、双手をあげてそれを歓迎し、
『ニューズ・ウィーク』誌などは、カストロを英雄と呼んだほどです。
しかし、その後急速にキューバと米国の関係は悪化します。カストロが米国からの経
済支配、軍事支配を嫌ったからです。そこでカストロ政権は、ヨーロッパ諸国とソ連と
の連携を深める政策を推し進めようとします。
英国とジェット戦闘機購入計画を締結したり、ソ連人の記者を国内に受け入れたりす
るなど、米国を挑発するような行動をとるようになったのです。このソ連人の記者は、
タス通信のアレクセーエフと名乗っていたのですが、CIAはアレクセーエフがKGB
幹部であることを掴んでいたのです。
ソ連に対しては、弟のラウルをモスクワへ訪問させ、1960年2月には、「ソ連産
業貿易展」を開催――その開会式にソ連の第一副首相のミコヤンを招き入れるという、
かなり米国を刺激させることを連発します。
カストロとしては、こうすることによって米国の妥協を引き出そうとしていたのです
が、これはキューバにとって、極めて危険なカケであったといえます。
米国はこれに対抗して英国に圧力をかけて契約を破棄させるなどの妨害し、さらに砂
糖の輸入をストップし、経済制裁を強化します。そうすると、キューバは国内の米企業
を接収するなどの報復を行い、その関係はドロ沼化していったのです。これにより、キ
ューバからの避難民は続々とフロリダ州のマイアミに集結し、その数は実に10万人
に達しつつあったのです。
こういうキューバとの状況の中で、米国ではケネディとニクソンの間で激しい選挙戦
が行われていたのです。両陣営のキューバに対する公約では、「必要とあればキューバ
を侵攻する」という点では一致していたのです。
時の政権であるアイゼンハワー政府内では、キューバをめぐって次の2つの意見があ
ったのです。
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1.平和的解決 ・・・ アイク大統領を中心とする国務省
2.軍事的解決 ・・・ 副大統領ニクソンとCIAの主張
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アイゼンハワー大統領は、万一の場合に備えて、亡命キューバ人をグァテマラにある
CIAの秘密基地においてゲリラ戦に対応する訓練を受けさせ、解放軍を結成しつつあ
ったのです。これを主張したのは、もちろん副大統領ニクソンとCIAです。
しかし、既にアイクはキューバ問題に関しては、この時点で手を引き、すべては彼の
任命したスペシャルグループ――CIA、国防省、国務省に委ねられていたのです。こ
のグループの最高責任者は副大統領のニクソンだったのですが、この時点ではCIA関
係者はニクソンが負けるとは考えていなかったのです。
その時点での亡命キューバ人の軍団は、1000人程度であるのに対して、カストロ
の正規軍はそのサイズにおいて、前バチスタ政権時の10倍以上に達しており、軍事
物資も東欧やソ連から2万8000トンも流れ込んでいたのです。
このように強力なカストロの正規軍に対して、1000人規模のにわか仕立ての軍隊
では常識的には対抗できるはずがないのです。キューバ侵攻を成功させるには、何ら
かのかたちで米軍が介入するしかないですが、正面きって下手に米国が介入すると、ソ
連を巻き込むことになってしまいます。
しかし、CIAは、何らかのかたちで米空軍の援護が受けられれば、キューバ侵攻は
成功すると考えていたのです。しかし、そのことの前提は、あくまでニクソンが当選し
て大統領になるということだったのです。
しかし、当選したのはケネディ大統領だったのです。1961年1月、就任式が終わ
るとCIAは直ちにJFKを説得にかかったのです。実は、ケネディは就任前にパーム
ビーチの別荘でCIAからキューバの件は聞いていたのですが、彼はことの重大さと作
戦の大胆さに言葉を失ったといわれています。
CIAの大統領説得のポイントは次の2点です。
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1.カストロ正規軍はソ連の支援を受けて強化されつつあり、カストロを倒すなら、
今しかチャンスがないこと。
2.CIAの基地には1500人の亡命キューバ人による武装集団がおり、空軍の
支援によって侵攻は成功する。
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CIAによる具体的な作戦は次のようなものだったのです。
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1.1961年4月17日の真夜中に1500人の武装した亡命キューバ人グルー
プが、海からカストロ軍が少ないとされているキューバのピッグス湾に侵攻す
る。
2.亡命軍がピッグス湾に上陸した時点でキューバ革命協議会が武装亡命政府樹立
を宣言し、キューバ国内にいる反カストロ派キューバ人民の一斉蜂起を促すこ
と。
3.侵略前と侵略時の2回、亡命軍空軍はカストロの空軍基地を爆撃してカストロ
空軍を無力化する。もし、失敗の場合近くの山に逃げ込み、ゲリラ戦を展開す
る。
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この作戦が成功するかどうかは、亡命軍空軍の2波にわたる爆撃で、カストロ空軍を
完全に破壊し、制空権が握れるかどうかにかかっています。カストロの空軍には経験豊
富なパイロットもおらず、まったく組織化されていないので、勝算は十分にあるという
CIAの説明だったのです。
この説明に対して、JFKはとくに反対はしなかったのですが「どのような状況でも
米軍は決して投入してはならない」という条件を出したのです。CIAもこれを了承し
たのです。・・・・・ [JFK15]