の備蓄は万全だといわれています。しかし、それがそうでもない
らしいのです。というのは、石油備蓄がお役所仕事になっており
いざというときすぐには役に立たないからです。
日本の石油備蓄は、次の2つの方法で行われているのです。
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1.民間備蓄
2.国家備蓄
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民間備蓄は、民間企業が石油流通の施設に在庫を多めに持つ方
法であり、原油と石油製品を石油タンクなどに備蓄し、随時入れ
替えを行っています。国は石油業者に販売量の70日分を原油、
もしくは石油製品で備蓄する義務を負わせているのです。
国家備蓄というのは、備蓄基地を建設し、原油の形で封印保管
するものであり、経済産業大臣の指示のあるときのみ出し入れを
行うことになっています。ここで重要なのは「原油で備蓄」して
いる点です。
原油で備蓄されていると、いざというときすぐには役に立たな
いのです。原油を製品にはするにはどんなに急いでも2〜3週間
はかかるからです。
それに国は原油を貯蔵するタンクは持っていますが、原油の精
製設備も原油タンカーも持っておらず、そのすべてを民間に依存
しているのです。過去の対応を調べてみましょう。
第1次石油危機でパニックになった日本は原油備蓄をはじめた
のですが、第2次石油危機のときは民間備蓄の積み上げを一時停
止させて対応したのです。国家備蓄は役に立たなかったのです。
続いて湾岸危機のときの対応です。このときも民間備蓄を4日
分取り崩しています。やはり民間備蓄依存なのです。米ハリケー
ン被害のときも、民間備蓄のうちの製品備蓄を2日分取り崩した
のです。つまり、緊急時は民間備蓄で対応し、それが尽きると国
家備蓄を使うというスタイルです。このように、国の備蓄原油は
過去に一度も使われたことはないのです。
民間石油会社にいわせると、販売量の70日分を持つには、か
なりのコストがかかりますが、そのコストは石油価格に上乗せさ
れており、結局消費者の負担になるのです。
萩田穣氏は、この石油備蓄を原油や製品ではなく、半製品で持
つことを提案していまいす。そうすると、次の3つのメリットが
あるというのです。
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1.原油備蓄よりも備蓄量が増える
2.民間備蓄をする必要がなくなる
3.どんな緊急事態に即時対応可能
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半製品の改質ガソリンは、原油から20%ぐらいしか生産され
ないのです。したがって、同じ大きさのタンクであれば、実質的
な備蓄量が増えることになります。これが第1のメリットです。
それから、原油を半製品にして備蓄しておけば、素早く出荷で
きるので、緊急時に対応できます。したがって、民間備蓄をやめ
ることができるのです。そうすれば実質的に製品価格は安くなり
ます。これが第2のメリットです。
即座に製品にできる半製品を多く備蓄しておくと、石油製品の
高騰時にそれを放出し、いわゆる「冷やし玉」として役立てるこ
とができます。もし、日本だけでなく、アジア諸国が協力して半
製品備蓄基地を持つと、それがあるだけで投機筋にとっては大き
な脅威になり、価格の安定化が維持できるのです。これが第3の
メリットです。
ちなみに石油半製品の品質ですが、備蓄中に空気や日光にふれ
ることがないので、変質することはないのです。もし、何らかの
原因で備蓄半製品が変質してしまったとしても、十分再生可能で
あって、長くストックしておくことができます。
石油半製品の備蓄は、優先度の高いものから備蓄しておくべき
です。萩田氏の6種類を優先度で並べると次のようになります。
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優先度1.改質ガソリン
自動車ガソリンの主成分であり、代替できるものが
ないので、最優先で備蓄すべきもの
優先度2.脱硫灯油
暖房用石油ストーブの燃料であり、また、ジェット
燃料の混合基油として不可欠なもの
優先度3.脱硫軽油
ディーゼルエンジンの燃料として、また、ビルや工
場の暖房用燃料として生活に不可欠
優先度4.脱硫ナフサ
もっぱら石油化学用原料として用いられますが、天
然ガスなどでも代替は可能な半製品
優先度5.脱硫減圧軽油
製油所の分解用原料であり、重油の混合材源。生活
に直接結びついているものではない
優先度6.重油/原油
発電所などの大型ボイラーの燃料であるが、原子力
発電や水力発電などでも代替できる
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萩田穣氏は、官民一体となって、日本にふさわしい日本版石油
メジャーを実現し、石油半製品貿易で主導権を取るべきであると
訴えています。
日本版石油メジャー――実に壮大な提案であると思います。萩
田氏の提案は、とてもEJ3回では書ききれません。詳細はぜひ
萩田氏の著書を読んでいただきたいと思います。
52回にわたって書いてきた原油問題は今回をもって終了しま
す。明日からは新テーマ「カラヤンの謎」です。
―― [石油危機を読む(最終回)/52]
≪画像および関連情報≫
●萩田 穣(はぎた ゆたか)氏紹介
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1938年樺太生まれ。1961年北海道大学工学部卒業後
三菱石油株式会社に入社。新製油所建設プロジェクト担当と
して東北石油への出向等を経て、1973年三菱石油本社の
技術部課長。1994年沖縄石油基地株式会社常務取締役所
長。1998年(株)沖縄石油総研設立。2001年同社廃止
後、無職。趣味は囲碁。著書に、『石油の経済学』(アート
デイズ)、『原油高騰は回避できる!』『このままでいいの
か! 日本の石油備蓄』(樂書舘)がある。
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萩田氏の著作