2010年12月07日

●日本は半製品物流拠点として最適(EJ第2340号)

 萩田穣氏の提案をテーマにして書き始めた2008年6月1日
付の日本経済新聞のトップに次の記事が掲載されたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
   「石油製品アジアに輸出/海外比率1割突破へ」
        ――2008.6.1/日本経済新聞
―――――――――――――――――――――――――――――
 記事の内容は、石油元売り大手がアジア向けを中心に専用設備
を増強して、石油製品の輸出を増加させるというニュースです。
これによって、日本の燃料油販売に占める輸出の比率は10%以
上になる見込みであるというのです。
 現在日本の国内市場は縮小気味であるのに対し、経済成長を続
けるアジア各国では軽油や重油の需給が逼迫しているので、国内
の石油元売り各社が石油製品を輸出すれば、アジア各国の需給緩
和にも貢献できるといえます。しかし、この計画で輸出しようと
しているのは「石油製品」であるのに対し、萩田穣氏は「石油半
製品」の輸出を提案しているのです。
 現在石油製油所の能力は世界的に不足していますが、とくに新
興アジア諸国においてはそれが顕著になっています。製油所の能
力を向上するには、新しく製油所の建設が必要になりますが、萩
田氏は、日本はそれに対応して、新しい発想による製油所を建設
するべきであると主張しています。
 新しい発想による製油所とはどういう製油所でしょうか。それ
には次の2つのポイントがあります。
―――――――――――――――――――――――――――――
  1.消費地製油所ではなく、輸送中継地に製油所を置く
  2.石油製品製油所ではなく、石油半製品製油所である
―――――――――――――――――――――――――――――
 石油半製品製油所の建設について萩田氏は、九州と沖縄にある
石油備蓄基地が利用できるとして、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 九州や沖縄には大規模な石油備蓄基地があり、そこには原油受
 払い用の桟橋設備や大型原油タンクが存在し、それらはほとん
 どそっくりそのまま半製品生産用として、利用することができ
 ます。                萩田穣著/中経出版
    『変貌する石油市場/石油半製品の時代がやってきた』
―――――――――――――――――――――――――――――
 それでは、石油半製品製油所ができると、既存の消費地製油所
では何をするのでしょうか。
 既存の製油所は、製油所はコストの安い半製品を受け入れ、付
加価値の高い油種を生産することになります。例えば、値段の安
い「重油基材」(石油半製品)を受け入れて、それを分解し、値段
の高いガソリンや軽油を増産することなどが考えられます。
 具体的な石油半製品については昨日のEJで6種を示しました
が、もちろんもっと多くの半製品を作ることは可能です。しかし
生産油種はできる限り少なくし、大量に扱うようにした方がよい
と萩田氏はいいます。半製品6種を再現します。
―――――――――――――――――――――――――――――
  1.脱硫ナフサ       4.脱硫軽油
  2.改質ガソリン      5.脱硫減圧軽油
  3.脱硫灯油        6.重油基材
―――――――――――――――――――――――――――――
 これらの6種であれば、次の4つの装置があれば、半製品の生
産はできるのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
        1.  常圧蒸留装置
        2.ガソリン改質装置
        3.灯・軽油脱硫装置
        4.減圧軽油脱硫装置
―――――――――――――――――――――――――――――
 石油精製の専門家である萩田氏は、半製品生産の効率的なプロ
セスについてまで、次のように明かにしています。内容が専門的
ですが、引用しておきます。
―――――――――――――――――――――――――――――
 技術的な観点からいうと、原油は最初に約350℃に加熱しな
 ければならないので、その熱を有効に使うためにヒート・イン
 テグレーションして脱硫までやってしまうほうが経済的である
 こと。また、改質ガソリンを製造する場合、大量の水素が発生
 するので、その水素を有効に活用するために、減圧軽油までを
 脱硫してしまうほうが合理的です。   萩田穣著/中経出版
    『変貌する石油市場/石油半製品の時代がやってきた』
―――――――――――――――――――――――――――――
 萩田氏は半製品製油所の規模についても言及しています。東ア
ジア全体――日本、中国、韓国、台湾の原油処理量は「1200
万バレル/日」であり、その5%の「60万バレル/日」程度が
半製品製油所の規模であるというのです。なお、輸出先は、中国
韓国、台湾に加えて、インドネシア、ベトナム、タイ、フィリピ
ン、マレーシアなどに拡大する余地があると述べています。
 もうひとつ日本が半製品製油所を持つメリットとして、その地
理的条件がよいことが上げられます。石油半製品を扱う物流拠点
は、海上輸送の便利なところである必要があります。日本は四方
を海で囲まれ、背後に東アジアの石油大消費地を持つ――地理的
には非常に恵まれているといえます。それに日本は、半製品を輸
送するための大型タンカーを保有しており、輸送は万全です。
 既に述べたように、日本が有する原油備蓄基地を半製品物流拠
点として使えば、大型陸上タンク群、半製品をタンカーに積み込
む大型出荷桟橋設備、それに設備の整っている製油所があるので
それはそのまま石油半製品物流拠点として利用できるのです。こ
れほど、条件の整っている国は恐らく日本しかない――萩田氏は
このように述べています。半製品製油所の提案――これは明日の
EJまで続きます。      ―― [石油危機を読む/51]


≪画像および関連情報≫
 ●日本の石油備蓄について
  ―――――――――――――――――――――――――――
  日本では、民間備蓄と国家備蓄の両方式で石油備蓄が行われ
  ている。前者は民間企業が石油流通の施設に在庫を多めに持
  つ方法で、原油と石油製品を石油タンクなどに備蓄し、随時
  入れ替えを行っている。後者は国が備蓄基地を建設し原油の
  形で封印保管するもので経済産業大臣の指示のあるときのみ
  出し入れを行う。2007年2月末現在の備蓄量は民間が国
  内消費量の83日分、国が94日分を備蓄している。国の備
  蓄基地は独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構が管
  理している。            ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

沖縄製油基地.jpg
沖縄製油基地
posted by 管理者 at 03:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 石油危機を読む | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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