2010年12月06日

●ある元石油マンの提案/石油半製品(EJ第2339号)

 今回のテーマは8日で終わりますが、その最後に、ある元石油
マンによるひとつの提案をご紹介することにします。その提案は
2008年4月に出版された次の本にまととめられています。
―――――――――――――――――――――――――――――
                  萩田穣著/中経出版
  『変貌する石油市場/石油半製品の時代がやってきた』
―――――――――――――――――――――――――――――
 萩田氏の提案を理解するには、その前提となるいくつかの知識
が必要になります。まず、もう一度「原油価格」と「製品価格」
の違いを明確に認識することからはじめましょう。
―――――――――――――――――――――――――――――
  「原油価格」+「コスト」(製造、輸送、販売、税金)
  +利益=「製品価格」
―――――――――――――――――――――――――――――
 「原油価格」は原油の需給関係などによってで先に決まり、そ
のうえで製品価格が決まります。これが普通のパターンです。当
然のことですが、「原油価格」よりも「製品価格」の方が高くな
ります。
 しかし、製品の需給バランスが崩れると、製品価格が原油価格
に関係なく決まってしまいます。このとき利益だけが大きく変動
することになります。
 しかし、その後、原油価格は製油所の利益が一定になるように
動くのです。どうしてかというと、市場関係者は原油と製品の価
格差に注目して、割安になった方を買うので、結局利益は一定に
なるのです。具体的には、製品高によって割安になった原油を買
うので原油高になるのです。石油メジャーとしては、原油で儲け
るか製品で儲けるかはどちらでも良いのですが、どちらかという
と、原油で儲けた方が好都合であるといいます。
 製品高は季節要因でも起こります。ガソリンは夏場の需要期に
値上がりし、灯油は冬場の需給逼迫から値上がりします。既に述
べたように、米国の製油所能力には余裕がないので、製品高はた
びたび起こります。そうすると、玉突き現象で原油も値上がりす
ることになるのです。
 たびたび起こる製品高が原油高を導く――これを防ぐためには
原油と石油製品の間にバッファーを設けるべきである――萩田氏
はそのように提案しているのです。
 それでは「原油と石油製品の間のバッファーを設ける」とは何
でしょうか。萩田氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 「石油半製品」というバッファーを設け、石油半製品の貿易に
 よって製品の需給が逼迫しないようにすればよいと考えられま
 す。半製品貿易が盛んに行なわれることによって、製品の需給
 が緩和され、「製品高」からもたらされる原油高部分は縮小さ
 れることになります。(中略)見方を変えると、今回の一連の
 原油高は、半製品貿易という大きなビジネスチャンスが到来し
 たことを示唆しているといえます。   萩田穣著/中経出版
    『変貌する石油市場/石油半製品の時代がやってきた』
―――――――――――――――――――――――――――――
 ところで、「石油半製品」とは何でしょうか。
 簡単にいうと、石油半製品とは、製油所で石油製品になる前に
中間製品としてタンクに保管されているものをいいます。つまり
製品は半製品から製品化されるので、半製品がストックされてい
れば、石油製品の製造には事欠かないのです。石油製品は次のス
テップで製造されるのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
    「原油」 → 「半製品」 → 「石油製品」
―――――――――――――――――――――――――――――
 今まで石油の備蓄というと、ここでいう石油製品の備蓄だった
のですが、萩田氏は石油半製品の備蓄を勧めています。石油半製
品の特徴は次の4つにまとめることができます。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.石油製品に比べて用途が広いので大量に扱うこと可能
 2.石油製品に比べて大量であるので製造・輸送コスト小
 3.石油製品に比べてどこの国の製油所でも製品化が可能
 4.石油製品に比べて用途が広く大量に備蓄すること可能
―――――――――――――――――――――――――――――
 重要なことは、石油半製品は原油よりは価格が高いですが、石
油製品よりも安いということです。石油半製品から石油製品を作
るには、性状調整と添加剤注入などのブレンド作業が入るので、
人件費と材料費がかかるのです。
 身近な食材にしても、工業製品にしても原産地から最終加工場
まで、中間加工地を設けて物流するケースが多くなっています。
つまり、半製品の状態で物流され、下流の工場で最終製品にする
ケースが多いのです。
 ファミリーレストランを例にとってみましょう。大型レストラ
ンの食材は、原材料が直接営業店舗に持ち込まれるのではなく、
途中で半分加工されたものが入ってくるのです。そして、営業店
舗で最終商品になるのです。これは、携帯電話の生産にしても薄
型テレビの生産にしても、分業・専業化されているのです。
 考えてみると、石油の分野だけが、原産地から直接消費地の製
油所へ原油のまま運ばれ、製品化されているのです。萩田氏は、
原油中継基地において原油を石油半製品化し、それを消費地製油
所に運び込むようにするべきであるというのです。
 石油半製品の主なものは具体的には次の6つです。
―――――――――――――――――――――――――――――
  1.脱硫ナフサ       4.脱硫軽油
  2.改質ガソリン      5.脱硫減圧軽油
  3.脱硫灯油        6.重油基材
―――――――――――――――――――――――――――――
               ―― [石油危機を読む/50]


≪画像および関連情報≫
 ●萩田穣著『変貌する石油市場』の紹介
  ―――――――――――――――――――――――――――
  本書の目的は二つ。一つは政治家・官僚、石油業界に対する
  提言と、もう一つは石油に興味のある方への情報提供。キー
  ワードは「石油半製品」。石油半製品を中心に、物流、生産
  備蓄の三分野にわたって野心的ともいえる日本の石油戦略を
  提案し、一石を投じる。
  ―――――――――――――――――――――――――――

萩田穣氏の本.jpg
萩田 穣氏の本
posted by 管理者 at 03:07| Comment(0) | TrackBack(0) | 石油危機を読む | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス: [必須入力]

コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。

この記事へのトラックバック
×

この広告は90日以上新しい記事の投稿がない ブログに表示されております。