2010年09月24日

●円高が加速する要因を探る(EJ第2291号)

 円が1ドル=100円を割ったのは、2008年3月13日の
ことです。円が100円割れを起こしたのは、1995年10月
以来、12年5ヶ月ぶりのことなのです。
 しかし、今回の円高は12年前の円高と比べるとかなり違って
います。これに関して、財務省幹部は「円高ではない」といい、
日本経団連の御手洗富士夫会長は、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 円高というよりドル安。日本の産業も過去10年の不況で鍛え
 られ、筋肉体質になり、抵抗力が強くなっている。
             ――日本経団連の御手洗富士夫会長
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、今回の円高は2週間で8円も上がるなど、急速な円高
となっています。どうして、円高は加速したのでしょうか。これ
を理解するには、背景的な事実を知る必要があります。
 「円キャリートレード」というものがあります。これが、20
05年から2007年前半まで主として海外の投資家を中心に盛
んに行われ、円安を加速してきたといわれています。
 「円キャリートレード」とは、低利の円を調達して高金利通貨
で運用して金利差を稼ぐ運用方法のことです。いま多くの個人投
資家が行っている外国為替証拠金取引(FX)も円キャリートレ
ードの一種といえます。
 なぜ、これが流行したかというと、2002年〜2005年に
かけて各国中央銀行による超金利緩和政策によってお金が豊富に
出回り、市場が大きく上下動しなくなったからです。市場のこう
いう状態を「ボラティリティが低い」というのです。
 こういう時期は、トレーダーや投資家は、為替や債券、株式を
売って値ざやを稼ぐことが難しいので、持っているだけで利益が
出せるキャリー取引を活発化させようとするのです。その結果、
本来は経常収支の黒字によって円高が進行するはずの日本で、円
売りが多いために、逆に円安が進行していたのです。
 ところが、2007年の夏以降のサブプライムローン問題を契
機にして、市場が「ボラティリティが高い」という状態になって
しまったのです。この状態になると、円キャリートレードを新た
に行うメリットは消滅します。
 この円安を後押ししていた円キャリートレードの魅力がなくな
ることによって、円高になりやすい状態になったのですが、金利
が低く、先行きの経済成長も望めない日本の通貨をどういう人が
果たして買うのでしょうか。
 今回の円高加速要因について、JPモルガン・チェース銀行の
佐々木融氏は、こういう状況において市場が円を買う理由として
次の3つを上げています。
―――――――――――――――――――――――――――――
   1.日本は多額の貿易黒字を抱えていること
   2.日本は世界最大対外純資産国であること
   3.円キャリトレードの巻き戻しがあること
―――――――――――――――――――――――――――――
 第1の要因から考えることにします。
 日本は多額の貿易黒字を抱えている国です。貿易黒字は輸出か
ら輸入を引いた数がプラスになることをいうのです。日本で作っ
たものを日本人が買わないと貿易黒字は増えます。
―――――――――――――――――――――――――――――
     貿易黒字額 = 輸出額 − 輸入額
―――――――――――――――――――――――――――――
 それでは、なぜこれまで日本は円安だったのかというと、日本
の投資家と企業による対外投資額が貿易黒字額よりも多かったか
らであるといえます。
 具体的にいうと、2005年と2006年の対外投資額は、年
間14兆〜15兆円であるのに対し、貿易黒字額は年間10兆円
前後だったのです。そうすると、対外投資には円売りを伴うので
差額の4〜5兆円分が円安になります。
 しかし、2007年の対外投資額は12兆円程度に減る一方、
貿易黒字の方は12兆円程度と増えて、円売りと円買いの額が拮
抗したのです。日本は貿易黒字から生ずる円買いが常に存在する
ので、対外投資が貿易黒字以下になると円高になるのです。
 続いて第2の要因について考えます。
 日本は世界最大の対外純資産国であり、その額は、2006年
末現在で、215兆円もあるのです。その多くは対外証券投資で
すが、それらを国内に持ってくるとき円買いを行うので、結局は
円高になります。
 これだけドル・円相場が下がっているので、為替リスクを嫌う
日本の投資家が、外貨建て証券を手仕舞いして、円を買い戻すこ
とも十分起こりうるのです。このように、円を買う理由はいくら
でも出てくることになります。
 最後に第3の要因について考えます。
 実は円キャリトレードはさまざまな形で広範に行われているの
です。例えば、専門的になりますが、海外における円建て住宅ロ
ーン、輸出企業におけるヘッジの遅れ、輸入企業による長期の為
替予約、外国人投資家の保有する日本株の為替ヘッジなどです。
 これらのキャリートレードが積み上がっている状態は、いずれ
急激な円高を引き起こす要因となるのです。いずれにせよ、これ
らは今後、円買い戻しの中心になり、円高を加速するのです。
 ここまで輸出立国をはかってきた日本では「円安は景気にプラ
ス」というのが常識でしたが、この常識に対して異論が出ている
のです。それは、「円高が進むと、GDPを0.4 %〜0.5 %
押し上げる効果がある」という説がそうです。
 実際に2005年頃から、輸出物価が上昇基調なのに、輸出数
量が増えているのです。これは高機能の薄型テレビや工作機械と
いった海外メーカーが真似ができない輸出品の割合が増えている
ためなのです。また、円高になると、高騰している原油の輸入価
格が下がるメリットもあります。 ――[石油危機を読む/02]


≪画像および関連情報≫
 ●円キャリートレードの巻き戻しについて
  ―――――――――――――――――――――――――――
  [東京 2007年6月8日 ロイター] 渡辺博史財務官
  は8日、都内での講演で、円キャリートレードについて、巻
  き戻しがあっても大きなものにはならないとの認識を示した
  うえで、現時点で大きなリスクはないと述べた。渡辺財務官
  は、世界経済について安定しているとの認識を示すとともに
  日本経済に関しても「企業部門の利益が上がっており、個人
  消費も高まっている。ますます労働市場は引き締まると考え
  ている」とし、良好な状態にあるとした。
  http://jp.reuters.com/article/businessNews/idJPJAPAN-26345120070608
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佐々木融氏.jpg
佐々木 融氏



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posted by 管理者 at 03:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 石油危機を読む | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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