2009年10月05日

●アナログにこだわるヴァネヴァー・ブッシュ(EJ第1667号)

 ここまで、ヴァネヴァー・ブッシュという一人の優れた科学者
が、いかに最高の政治的権力を持つにいたったかについて述べて
きましたが、彼にも大きな問題点があったのです。
 フォン・ノイマンは、かねてからコンピュータの開発が国家に
とっていかに重要であるかということを考えていたのです。彼の
考えているコンピュータは、単なる計算機ではなく、人間の機能
を拡張させるものだったのです。
 そのためには、コンピュータは可能な限り最新の機能を備えた
ものである必要があり、その観点からそれはデジタル技術のもの
である必要があったのです。当時はアナログ・コンピュータの時
代であり、デジタル・コンピュータの必要性はまるで理解されて
いなかったのです。
 しかし、コンピュータ――それもデジタル・コンピュータの開
発は途方もなくお金のかかるものであり、国家として開発すべき
ものである――そう考えたフォン・ノイマンは、太平洋大戦終了
後に、ヴァネヴァー・ブッシュに相談を持ちかけたのです。コン
ピュータについて理解できる頭を持ち、巨額な資金を動かせる政
治力のある人物は、ブッシュしかいなかったからです。
 ところが、ブッシュは、コンピュータはデジタルで開発しなけ
ればならないとするフォン・ノイマンの主張に真っ向から反対を
唱えたのです。ブッシュはアナログにこだわっていたのです。
 実はデジタル・コンピュータの必要性をブッシュに説いたのは
ノーバート・ウィナーの方が早かったのです。ウィナーは、19
40年9月に、デジタル・コンピュータのアイデアを書いた12
ページのメモをブッシュに送っているのです。
 しかし、ブッシュはこのウィナーの提案を拒否し、一顧だにし
なかったのです。彼は自らアナログ・コンピュータを制作してお
り、アナログに相当の思い入れがあったからです。
 このようにあくまでアナログにこだわるブッシュについてウィ
ナーは、次の言葉でそれとなく批判しています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
  ヴァネヴァー・ブッシュは、頭で考えるのと同じ程度に
  手でも考える男である   ――ノーバート・ウィナー
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 これはどういう意味かわかるでしょうか。
 ちょっと考えると褒めているようですが、これは批判している
のです。ウィナーは、ブッシュの、機械のかたちでしか物事を理
解できない想像力の欠如というか限界について、精一杯の皮肉を
込めて「手でも考える男」といったのです。
 PCを例に上げると、今の世の中でも、PCというものを「ひ
とつの機械」としてしか認識できない人はたくさんいます。PC
はハードウェアとソフトウェア(OS+アプリケーション)から
成るマシンですが、ソフトウェアというものがどうしても認識で
きない人がいるのです。したがって、そういう人は、OSの不具
合もアプリケーションのバクも、すべてPCという機械の故障と
しかとらえられないのです。PC全体をハードウェアとして認識
しているからです。
 しかし、そうだからといって、ブッシュという科学者の能力が
低いということにはならないのです。なぜなら、その当時は世の
中すべてがアナログの時代であり、むしろ、そういう時代にデジ
タルの必要性を説くフォン・ノイマンやノーバート・ウィナーの
能力が人並み外れて高かったと考えるべきです。
 ブッシュは、「メメックス(MEMEX)」という機械のアイ
デアを発表しています。これは、太平洋戦争終結直前の1945
年7月の「アトランティック・マンスリー」誌に次のタイトルで
掲載された論文に出ているのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
   『われわれが思考するごとく――As we may think』
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 この論文は、戦争終結後、科学者は次に何をするべきかについ
て論じたものです。それでは、メメックスとはどういう機械なの
でしょうか。論文には次のように書かれています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
  それは机でできている。そして多分遠方からも操作できるが
 原則的には人が仕事をする家具である。上部には傾斜した透明
 なスクリーンがあって、その上に楽に読めるように資料が投影
 される。キーボード、ボタンのセット、レバーもある。それら
 がなければ、それは普通の机のように見える。
  一方の端には保存された資料がある。大部分は改良マイクロ
 フィルムに処理されている。メメックス内部のわずかな部分だ
 けが記憶装置になっていて、残りは機構装置である。それでも
 ユーザーが一日に5000ページ分の資料を挿入したとしても
 その貯蔵所を満杯にするには何百年もかかるので、ユーザーは
 浪費が許されて、資料を自由に入れることができる。
  メメックスのコンテンツの大部分は、すぐにも機械に挿入で
 きるマイクロフィルムで買うことができる。  ――脇英世著
      『インターネットを創った人たち』より。青土社刊
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 メメックスは、一種のマイクロフィルム検索装置と考えられま
す。仕事の資料はマイクロフィルムに映しとって、保存スペース
におさめて、検索してスクリーンに映し出して利用します。再生
するだけではなく、自分のコメントを書き込むこともできます。
何となく現在のPCのような使い方です。
 当時としては驚くべきアイデアといえますが、装置としては、
1930年代のアナログ装置そのものです。ブッシュは、テキス
ト(文字)だけでなく、画像や音声までをメメックスの情報とし
て扱うことを考えており、そういう意味でメメックスはマルチメ
ディア・マシンと呼ぶことができます。しかし、このマシン、ア
ナログではありますが、現代に通じるアイデアも豊富に含まれて
いたのです。明日のEJで述べます。
        ・・・[インターネットの歴史 Part1/07]


≪画像および関連情報≫
 ・MEMEX――ブッシュがメメックスのアイデアを得た時期
  は「われわれが思考するごとく」発表の10年以上前のこと
  である。

MEMEX.jpg
MEMEX


posted by 管理者 at 03:00| Comment(0) | TrackBack(0) | インターネットの歴史 Part1 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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