ドル」以上に張り付いて、なかなか下がらない状況にが続いてい
ます。1年前はどうだったかというと「1バレル=50ドル」、
6年前は「1バレル=20ドル」程度だったのです。どうしてこ
んなに上がってしまったのでしょうか。
少し歴史を振り返ってみたいと思います。とくに原油価格が乱
高下した2005年8月までの原油相場の状況を振り返ってみま
しょう。2005年の年初は、2004年後半の相場の下落局面
が続いていたのです。
2004年9月にハリケーン「アイバン」が米国メキシコ湾岸
地区に上陸し、そこにある製油所や油田の設備を破壊してしまっ
たのです。米国メキシコ湾岸地区といえば、南部メキシコ湾に面
する州――とくにテキサス州、ルイジアナ州、ミシシッピー州に
は油田や製油所が結集していたのです。
ハリケーンがそれらの設備を破壊していったので、原油が足り
なくなるのではないかという懸念が広がって、原油の価格が上昇
したのです。
しかし、ハリケーンの被災から復旧が進むにつれて、原油価格
は落ち着きを取り戻します。2OO5年1月は「1バレル=42
ドル台」で推移したのです。
ところが、米国に寒波が襲来したのです。冬場に気温が下がる
と暖房油の需要が高まるので、原油価格の押し上げ要因になりま
す。それにイラクでのテロが激化して、これも原油価格を押し上
げる要因になったのです。
イラクはサウジアラビアに次いで世界第2位の原油埋蔵量のあ
る国であり、往時に比べると生産力は落ちてはいるものの、日産
200万バレル前後の原油生産を続けていたのです。テロはイラ
クの石油施設を対象としたものであったので、原油生産に影響が
出ることを懸念して原油相場は上昇したのです。こういう状況を
受けて1月半ばには原油相場は上昇――「1バレル=48ドル」
程度まで上がったのです。
それから、2月中旬にかけて、気温は上昇し、イラクでも選挙
が何とか行われたこともあって、原油相場は「1バレル=45ド
ル」程度まで下がったのです。
しかし、原油相場は再び上昇するのです。それは米国と中国の
経済が好調なことが原因となって需要が増大し、世界経済拡大の
兆しが見えたことから原油需要が増加し、4月はじめには「1バ
レル=57ドル」に達したのです。
そして、6月以降原油は50ドルを割ることはなくなったので
す。7月にはハリケーン「デニス」がメキシコ湾岸に接近して一
時的に原油は60ドルを突破したのですが、油田や製油施設には
大きな被害はなかったので、7月中旬には56ドル台まで下落し
たのです。
ところが、7月の下旬になって、米国で第3位の規模の製油所
で火災が発生し、操業が停止したのです。それに加えて、8月1
日は、サウジアラビアのファハド国王が逝去したのです。新国王
にはアブドラ皇太子が就くことが発表されましたが、新国王の就
任によって、石油政策が変更されることもあるのでその懸念から
原油相場は一時的ですが、上昇したのです。
8月下旬にはハリケーン「カトリーナ」が、メキシコ湾岸の石
油施設が集中している地域を直撃し、甚大な被害が発生したので
す。原油生産の停滞やガソリン・灯油の供給不足の懸念が広がっ
て、8月末には「1バレル=70.85ドル」という史上最高値
をつけたのです。
これに対して先進国はすぐ反応し、国際協調による国家石油備
蓄の放出をはじめたのです。その総量6000万バレル――これ
によって原油価格の騰勢は一服することになります。
2005年1月から8月までの原油相場を振り返ったのですが
さまざまな要因によって原油相場は敏感に反応することが把握で
きたと思います。そして、「1バレル=70ドル台」は当たり前
となっていくのです。
ところで、石油の問題にはわからないことが多くあります。専
門用語もたくさん出てきます。これを明らかにしないと、先に進
めないので、専門用語を覚えていきましょう。
このEJの冒頭に――WTI原油先物価格は「1バレル=10
0ドル」と書きましたが、「WTI」とはそもそも何を意味して
いるのでしょうか。
WTIというのは、「ウェスト・テキサス・インターミディエ
イト」の略です。米国テキサス州のミッドランドを中心とした油
田地帯で産出される原油の総称がWTIなのです。
当時WTIは潤沢な原油の生産量があったので、米国における
原油取引の指標的存在になったのです。しかし、今やWTIはピ
ークアウトしており、1日40万バレル程度の生産量しかないの
ですが、世界の原油価格の指標になっているのです。
それは、WTIがニューヨーク・マーカンタイル取引所(NY
MEX)に先物が上場されているためです。NYMEXは、誰も
が参加できる市場で、大量に取引されており、その取引量は1日
当り2億5000万バレルに達しています。その価格は、透明性
が高く洗練されているので、世界の石油取引の指標とするに相応
しいのです。
この米国のWTIの他に、欧州の「ブレント」と中東の「ドバ
イ」が有名な銘柄です。ブレントは北海油田で採れる銘柄で、欧
州の原油価格の指標となっており、ドバイは中東産の原油であり
アジアで取引される原油の指標的存在です。
原油は世界各国で取引されています。ブレントやドバイがある
のになぜWTIで石油の価格が決まってしまうかというと、石油
産業の起源が米国であるという歴史的背景があることと、原油が
ドル建てになっていることによります。ロシアや中東の原油が増
えても米国は石油産業の支配的・中心的な存在であり、そうあろ
うとしているのです。 ――[石油危機を読む/07]
≪画像および関連情報≫
●先物取引とは何か
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先物取引とは、いわゆるデリバティブ(金融派生商品)の一
つで、価格や数値が変動する各種商品・指数について、未来
の売買についてある価格での取引を約定するものを言う。本
来は、価格変動の影響を避けるための手段――リスクヘッジ
として利用されるが、価格変動を利用して利益を得るスペキ
ュレーション(投機)取引というものがある。
――ウィキペディア
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サウジアラビア/アブドラ国王