2010年12月08日

●日本版石油メジャーを目指せ(EJ第2341号)

 日本は2度の石油危機を経験しているので、それに懲りて石油
の備蓄は万全だといわれています。しかし、それがそうでもない
らしいのです。というのは、石油備蓄がお役所仕事になっており
いざというときすぐには役に立たないからです。
 日本の石油備蓄は、次の2つの方法で行われているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
           1.民間備蓄
           2.国家備蓄
―――――――――――――――――――――――――――――
 民間備蓄は、民間企業が石油流通の施設に在庫を多めに持つ方
法であり、原油と石油製品を石油タンクなどに備蓄し、随時入れ
替えを行っています。国は石油業者に販売量の70日分を原油、
もしくは石油製品で備蓄する義務を負わせているのです。
 国家備蓄というのは、備蓄基地を建設し、原油の形で封印保管
するものであり、経済産業大臣の指示のあるときのみ出し入れを
行うことになっています。ここで重要なのは「原油で備蓄」して
いる点です。
 原油で備蓄されていると、いざというときすぐには役に立たな
いのです。原油を製品にはするにはどんなに急いでも2〜3週間
はかかるからです。
 それに国は原油を貯蔵するタンクは持っていますが、原油の精
製設備も原油タンカーも持っておらず、そのすべてを民間に依存
しているのです。過去の対応を調べてみましょう。
 第1次石油危機でパニックになった日本は原油備蓄をはじめた
のですが、第2次石油危機のときは民間備蓄の積み上げを一時停
止させて対応したのです。国家備蓄は役に立たなかったのです。
 続いて湾岸危機のときの対応です。このときも民間備蓄を4日
分取り崩しています。やはり民間備蓄依存なのです。米ハリケー
ン被害のときも、民間備蓄のうちの製品備蓄を2日分取り崩した
のです。つまり、緊急時は民間備蓄で対応し、それが尽きると国
家備蓄を使うというスタイルです。このように、国の備蓄原油は
過去に一度も使われたことはないのです。
 民間石油会社にいわせると、販売量の70日分を持つには、か
なりのコストがかかりますが、そのコストは石油価格に上乗せさ
れており、結局消費者の負担になるのです。
 萩田穣氏は、この石油備蓄を原油や製品ではなく、半製品で持
つことを提案していまいす。そうすると、次の3つのメリットが
あるというのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
      1.原油備蓄よりも備蓄量が増える
      2.民間備蓄をする必要がなくなる
      3.どんな緊急事態に即時対応可能
―――――――――――――――――――――――――――――
 半製品の改質ガソリンは、原油から20%ぐらいしか生産され
ないのです。したがって、同じ大きさのタンクであれば、実質的
な備蓄量が増えることになります。これが第1のメリットです。
 それから、原油を半製品にして備蓄しておけば、素早く出荷で
きるので、緊急時に対応できます。したがって、民間備蓄をやめ
ることができるのです。そうすれば実質的に製品価格は安くなり
ます。これが第2のメリットです。
 即座に製品にできる半製品を多く備蓄しておくと、石油製品の
高騰時にそれを放出し、いわゆる「冷やし玉」として役立てるこ
とができます。もし、日本だけでなく、アジア諸国が協力して半
製品備蓄基地を持つと、それがあるだけで投機筋にとっては大き
な脅威になり、価格の安定化が維持できるのです。これが第3の
メリットです。
 ちなみに石油半製品の品質ですが、備蓄中に空気や日光にふれ
ることがないので、変質することはないのです。もし、何らかの
原因で備蓄半製品が変質してしまったとしても、十分再生可能で
あって、長くストックしておくことができます。
 石油半製品の備蓄は、優先度の高いものから備蓄しておくべき
です。萩田氏の6種類を優先度で並べると次のようになります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 優先度1.改質ガソリン
      自動車ガソリンの主成分であり、代替できるものが
      ないので、最優先で備蓄すべきもの
 優先度2.脱硫灯油
      暖房用石油ストーブの燃料であり、また、ジェット
      燃料の混合基油として不可欠なもの
 優先度3.脱硫軽油
      ディーゼルエンジンの燃料として、また、ビルや工
      場の暖房用燃料として生活に不可欠
 優先度4.脱硫ナフサ
      もっぱら石油化学用原料として用いられますが、天
      然ガスなどでも代替は可能な半製品
 優先度5.脱硫減圧軽油
      製油所の分解用原料であり、重油の混合材源。生活
      に直接結びついているものではない
 優先度6.重油/原油
      発電所などの大型ボイラーの燃料であるが、原子力
      発電や水力発電などでも代替できる
―――――――――――――――――――――――――――――
 萩田穣氏は、官民一体となって、日本にふさわしい日本版石油
メジャーを実現し、石油半製品貿易で主導権を取るべきであると
訴えています。
 日本版石油メジャー――実に壮大な提案であると思います。萩
田氏の提案は、とてもEJ3回では書ききれません。詳細はぜひ
萩田氏の著書を読んでいただきたいと思います。
 52回にわたって書いてきた原油問題は今回をもって終了しま
す。明日からは新テーマ「カラヤンの謎」です。   
          ―― [石油危機を読む(最終回)/52]


≪画像および関連情報≫
 ●萩田 穣(はぎた ゆたか)氏紹介
  ―――――――――――――――――――――――――――
  1938年樺太生まれ。1961年北海道大学工学部卒業後
  三菱石油株式会社に入社。新製油所建設プロジェクト担当と
  して東北石油への出向等を経て、1973年三菱石油本社の
  技術部課長。1994年沖縄石油基地株式会社常務取締役所
  長。1998年(株)沖縄石油総研設立。2001年同社廃止
  後、無職。趣味は囲碁。著書に、『石油の経済学』(アート
  デイズ)、『原油高騰は回避できる!』『このままでいいの
  か! 日本の石油備蓄』(樂書舘)がある。
  ―――――――――――――――――――――――――――

萩田氏の著作.jpg
萩田氏の著作
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2010年12月07日

●日本は半製品物流拠点として最適(EJ第2340号)

 萩田穣氏の提案をテーマにして書き始めた2008年6月1日
付の日本経済新聞のトップに次の記事が掲載されたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
   「石油製品アジアに輸出/海外比率1割突破へ」
        ――2008.6.1/日本経済新聞
―――――――――――――――――――――――――――――
 記事の内容は、石油元売り大手がアジア向けを中心に専用設備
を増強して、石油製品の輸出を増加させるというニュースです。
これによって、日本の燃料油販売に占める輸出の比率は10%以
上になる見込みであるというのです。
 現在日本の国内市場は縮小気味であるのに対し、経済成長を続
けるアジア各国では軽油や重油の需給が逼迫しているので、国内
の石油元売り各社が石油製品を輸出すれば、アジア各国の需給緩
和にも貢献できるといえます。しかし、この計画で輸出しようと
しているのは「石油製品」であるのに対し、萩田穣氏は「石油半
製品」の輸出を提案しているのです。
 現在石油製油所の能力は世界的に不足していますが、とくに新
興アジア諸国においてはそれが顕著になっています。製油所の能
力を向上するには、新しく製油所の建設が必要になりますが、萩
田氏は、日本はそれに対応して、新しい発想による製油所を建設
するべきであると主張しています。
 新しい発想による製油所とはどういう製油所でしょうか。それ
には次の2つのポイントがあります。
―――――――――――――――――――――――――――――
  1.消費地製油所ではなく、輸送中継地に製油所を置く
  2.石油製品製油所ではなく、石油半製品製油所である
―――――――――――――――――――――――――――――
 石油半製品製油所の建設について萩田氏は、九州と沖縄にある
石油備蓄基地が利用できるとして、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 九州や沖縄には大規模な石油備蓄基地があり、そこには原油受
 払い用の桟橋設備や大型原油タンクが存在し、それらはほとん
 どそっくりそのまま半製品生産用として、利用することができ
 ます。                萩田穣著/中経出版
    『変貌する石油市場/石油半製品の時代がやってきた』
―――――――――――――――――――――――――――――
 それでは、石油半製品製油所ができると、既存の消費地製油所
では何をするのでしょうか。
 既存の製油所は、製油所はコストの安い半製品を受け入れ、付
加価値の高い油種を生産することになります。例えば、値段の安
い「重油基材」(石油半製品)を受け入れて、それを分解し、値段
の高いガソリンや軽油を増産することなどが考えられます。
 具体的な石油半製品については昨日のEJで6種を示しました
が、もちろんもっと多くの半製品を作ることは可能です。しかし
生産油種はできる限り少なくし、大量に扱うようにした方がよい
と萩田氏はいいます。半製品6種を再現します。
―――――――――――――――――――――――――――――
  1.脱硫ナフサ       4.脱硫軽油
  2.改質ガソリン      5.脱硫減圧軽油
  3.脱硫灯油        6.重油基材
―――――――――――――――――――――――――――――
 これらの6種であれば、次の4つの装置があれば、半製品の生
産はできるのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
        1.  常圧蒸留装置
        2.ガソリン改質装置
        3.灯・軽油脱硫装置
        4.減圧軽油脱硫装置
―――――――――――――――――――――――――――――
 石油精製の専門家である萩田氏は、半製品生産の効率的なプロ
セスについてまで、次のように明かにしています。内容が専門的
ですが、引用しておきます。
―――――――――――――――――――――――――――――
 技術的な観点からいうと、原油は最初に約350℃に加熱しな
 ければならないので、その熱を有効に使うためにヒート・イン
 テグレーションして脱硫までやってしまうほうが経済的である
 こと。また、改質ガソリンを製造する場合、大量の水素が発生
 するので、その水素を有効に活用するために、減圧軽油までを
 脱硫してしまうほうが合理的です。   萩田穣著/中経出版
    『変貌する石油市場/石油半製品の時代がやってきた』
―――――――――――――――――――――――――――――
 萩田氏は半製品製油所の規模についても言及しています。東ア
ジア全体――日本、中国、韓国、台湾の原油処理量は「1200
万バレル/日」であり、その5%の「60万バレル/日」程度が
半製品製油所の規模であるというのです。なお、輸出先は、中国
韓国、台湾に加えて、インドネシア、ベトナム、タイ、フィリピ
ン、マレーシアなどに拡大する余地があると述べています。
 もうひとつ日本が半製品製油所を持つメリットとして、その地
理的条件がよいことが上げられます。石油半製品を扱う物流拠点
は、海上輸送の便利なところである必要があります。日本は四方
を海で囲まれ、背後に東アジアの石油大消費地を持つ――地理的
には非常に恵まれているといえます。それに日本は、半製品を輸
送するための大型タンカーを保有しており、輸送は万全です。
 既に述べたように、日本が有する原油備蓄基地を半製品物流拠
点として使えば、大型陸上タンク群、半製品をタンカーに積み込
む大型出荷桟橋設備、それに設備の整っている製油所があるので
それはそのまま石油半製品物流拠点として利用できるのです。こ
れほど、条件の整っている国は恐らく日本しかない――萩田氏は
このように述べています。半製品製油所の提案――これは明日の
EJまで続きます。      ―― [石油危機を読む/51]


≪画像および関連情報≫
 ●日本の石油備蓄について
  ―――――――――――――――――――――――――――
  日本では、民間備蓄と国家備蓄の両方式で石油備蓄が行われ
  ている。前者は民間企業が石油流通の施設に在庫を多めに持
  つ方法で、原油と石油製品を石油タンクなどに備蓄し、随時
  入れ替えを行っている。後者は国が備蓄基地を建設し原油の
  形で封印保管するもので経済産業大臣の指示のあるときのみ
  出し入れを行う。2007年2月末現在の備蓄量は民間が国
  内消費量の83日分、国が94日分を備蓄している。国の備
  蓄基地は独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構が管
  理している。            ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

沖縄製油基地.jpg
沖縄製油基地
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2010年12月06日

●ある元石油マンの提案/石油半製品(EJ第2339号)

 今回のテーマは8日で終わりますが、その最後に、ある元石油
マンによるひとつの提案をご紹介することにします。その提案は
2008年4月に出版された次の本にまととめられています。
―――――――――――――――――――――――――――――
                  萩田穣著/中経出版
  『変貌する石油市場/石油半製品の時代がやってきた』
―――――――――――――――――――――――――――――
 萩田氏の提案を理解するには、その前提となるいくつかの知識
が必要になります。まず、もう一度「原油価格」と「製品価格」
の違いを明確に認識することからはじめましょう。
―――――――――――――――――――――――――――――
  「原油価格」+「コスト」(製造、輸送、販売、税金)
  +利益=「製品価格」
―――――――――――――――――――――――――――――
 「原油価格」は原油の需給関係などによってで先に決まり、そ
のうえで製品価格が決まります。これが普通のパターンです。当
然のことですが、「原油価格」よりも「製品価格」の方が高くな
ります。
 しかし、製品の需給バランスが崩れると、製品価格が原油価格
に関係なく決まってしまいます。このとき利益だけが大きく変動
することになります。
 しかし、その後、原油価格は製油所の利益が一定になるように
動くのです。どうしてかというと、市場関係者は原油と製品の価
格差に注目して、割安になった方を買うので、結局利益は一定に
なるのです。具体的には、製品高によって割安になった原油を買
うので原油高になるのです。石油メジャーとしては、原油で儲け
るか製品で儲けるかはどちらでも良いのですが、どちらかという
と、原油で儲けた方が好都合であるといいます。
 製品高は季節要因でも起こります。ガソリンは夏場の需要期に
値上がりし、灯油は冬場の需給逼迫から値上がりします。既に述
べたように、米国の製油所能力には余裕がないので、製品高はた
びたび起こります。そうすると、玉突き現象で原油も値上がりす
ることになるのです。
 たびたび起こる製品高が原油高を導く――これを防ぐためには
原油と石油製品の間にバッファーを設けるべきである――萩田氏
はそのように提案しているのです。
 それでは「原油と石油製品の間のバッファーを設ける」とは何
でしょうか。萩田氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 「石油半製品」というバッファーを設け、石油半製品の貿易に
 よって製品の需給が逼迫しないようにすればよいと考えられま
 す。半製品貿易が盛んに行なわれることによって、製品の需給
 が緩和され、「製品高」からもたらされる原油高部分は縮小さ
 れることになります。(中略)見方を変えると、今回の一連の
 原油高は、半製品貿易という大きなビジネスチャンスが到来し
 たことを示唆しているといえます。   萩田穣著/中経出版
    『変貌する石油市場/石油半製品の時代がやってきた』
―――――――――――――――――――――――――――――
 ところで、「石油半製品」とは何でしょうか。
 簡単にいうと、石油半製品とは、製油所で石油製品になる前に
中間製品としてタンクに保管されているものをいいます。つまり
製品は半製品から製品化されるので、半製品がストックされてい
れば、石油製品の製造には事欠かないのです。石油製品は次のス
テップで製造されるのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
    「原油」 → 「半製品」 → 「石油製品」
―――――――――――――――――――――――――――――
 今まで石油の備蓄というと、ここでいう石油製品の備蓄だった
のですが、萩田氏は石油半製品の備蓄を勧めています。石油半製
品の特徴は次の4つにまとめることができます。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.石油製品に比べて用途が広いので大量に扱うこと可能
 2.石油製品に比べて大量であるので製造・輸送コスト小
 3.石油製品に比べてどこの国の製油所でも製品化が可能
 4.石油製品に比べて用途が広く大量に備蓄すること可能
―――――――――――――――――――――――――――――
 重要なことは、石油半製品は原油よりは価格が高いですが、石
油製品よりも安いということです。石油半製品から石油製品を作
るには、性状調整と添加剤注入などのブレンド作業が入るので、
人件費と材料費がかかるのです。
 身近な食材にしても、工業製品にしても原産地から最終加工場
まで、中間加工地を設けて物流するケースが多くなっています。
つまり、半製品の状態で物流され、下流の工場で最終製品にする
ケースが多いのです。
 ファミリーレストランを例にとってみましょう。大型レストラ
ンの食材は、原材料が直接営業店舗に持ち込まれるのではなく、
途中で半分加工されたものが入ってくるのです。そして、営業店
舗で最終商品になるのです。これは、携帯電話の生産にしても薄
型テレビの生産にしても、分業・専業化されているのです。
 考えてみると、石油の分野だけが、原産地から直接消費地の製
油所へ原油のまま運ばれ、製品化されているのです。萩田氏は、
原油中継基地において原油を石油半製品化し、それを消費地製油
所に運び込むようにするべきであるというのです。
 石油半製品の主なものは具体的には次の6つです。
―――――――――――――――――――――――――――――
  1.脱硫ナフサ       4.脱硫軽油
  2.改質ガソリン      5.脱硫減圧軽油
  3.脱硫灯油        6.重油基材
―――――――――――――――――――――――――――――
               ―― [石油危機を読む/50]


≪画像および関連情報≫
 ●萩田穣著『変貌する石油市場』の紹介
  ―――――――――――――――――――――――――――
  本書の目的は二つ。一つは政治家・官僚、石油業界に対する
  提言と、もう一つは石油に興味のある方への情報提供。キー
  ワードは「石油半製品」。石油半製品を中心に、物流、生産
  備蓄の三分野にわたって野心的ともいえる日本の石油戦略を
  提案し、一石を投じる。
  ―――――――――――――――――――――――――――

萩田穣氏の本.jpg
萩田 穣氏の本
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2010年12月03日

●国際石油市場はインサイダー的取引の舞台(EJ第2338号)

 今回の異常な原油高騰――どうも何かウラがありそうです。原
油高騰のウラで巨額の利益を手にしている人がいるのです。ある
本で読んだのですが、今から10年以上前のことですが、原油の
値上げに失敗したOPECの首脳と石油メジャーの重鎮が地中海
をのぞむ豪邸に集まって密談をしたというのです。
 それから十数年が経過してた2004年の春、突如として原油
の暴騰が始まったのです。しかし、それはこれから始まる空前の
原油高騰の序奏でしかなかったのです。
 2004年春の原油の暴騰は、米国のガソリン不足と中国の原
油の輸入増加がきっかけになったといわれていますが、その結果
大儲けをしたのは、産油国の王族と欧米の石油メジャーだったの
です。ですから、産油国側と石油メジャーとの間に何らかの密約
があったのではないかといわれているのです。
 次のデータは、世界で最も稼ぐ企業のトップ10です。10社
中9社が石油メジャー並びに国営系の石油企業です。石油企業が
いかに儲けているかがよくわかります。
―――――――――――――――――――――――――――――
  順位             企業名    営業利益
   1.エクソンモービル(米) ・・・・・ 56939
   2.ゼネラル・エレクトリック(米) ・ 42277
   3.ロイヤル・ダッチ・シェル(蘭) ・ 37678
   4.トタル(仏) ・・・・・・・・・・ 29771
   5.シェブロン(米) ・・・・・・・・ 27571
   6.BP(英) ・・・・・・・・・・・ 26689
   7.CNPC(中国) ・・・・・・・・ 24739
   8.ENI(伊) ・・・・・・・・・・ 24656
   9.コノコフィリップス(米) ・・・・ 24599
  10.ガスプロム(露) ・・・・・・・・ 24275
              単位/営業利益/100万ドル
―――――――――――――――――――――――――――――
 原油価格の吊り上げは、石油メジャーと産油国のOPECが組
めばできることなのです。今回の原油の高騰でもそうですが、O
PECは何度要請されても「世界への原油の供給は十分」として
原油の増産には応じていません。それどころか「減産」を口にす
ることさえあるのです。
 一方石油メジャーは、製油所の能力がいかに落ちていてもそれ
を修復して稼働率を上げることに消極的です。稼働率は90%以
上必要なのに80%台しかないのです。しかし、環境問題がある
などの理屈をつけて、一向に修復しようとしないのです。
 OPECが増産を拒否し、石油メジャーが製油所の能力増強に
消極的になれば何が起きるでしょうか。原油の価格は上がり、ガ
ソリン価格は厭でも高騰することになるのです。
 石油問題に詳しい萩田穣氏は「国際石油市場にはインサイダー
的取引の舞台が出来上がっている」として、次のように自著で述
べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 国際石油市場に、インサイダー的取引の舞台ができあがってい
 ます。ニューヨーク・マーカンタイル取引所に原油と石油製品
 の先物が上場され、OPEC情報を誰よりも先んじて知り得る
 立場にある投機筋が参加し、金余りで膨らんだ巨大マネーが利
 益を求めて動く。そこに国際インサイダー的取引があったとし
 ても不思議ではありません。しかも、そこで決まった原油価格
 は世界の原油価格を左右します。そこは原油高を望む産油国な
 どにとって、価格操作を行う格好の場所になっているのです。
    ――萩田穣著、『変貌する石油市場』より/中経出版刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 原油価格にはもっと不可解なことがあります。国際ジャーナリ
ストの田中宇氏によると、国際石油市場は二重価格制になってい
るというのです。
 アラブの産油国は昔からイスラム諸国や非同盟の開発途上国に
対し、安値で石油を売っているらしいのです。実はOPECの設
立の目的のひとつは、発展途上国に対して特別に安く石油を売る
ことがあったそうです。
 先般米上院で問題にされたことなのですが、サウジアラビアが
イランに1バレル20ドルという国際価格の6分の1の価格で原
油を売っていたことが発覚したのです。国際政治の常識から考え
ると、スンニ派で親米のサウジと、シーア派で反米のイランとは
犬猿の仲であり、サウジがイランに超安値で石油を売ることなど
考えられない話ですが、実際はそういうことが起こっているので
す。同じことはロシアでも行われているのです。
 いうまでもないことですが、石油はドル建てになっています。
したがって、原油高は「ドル安」を意味しています。仮にドルで
はなく、金で原油を買ったらどうでしょうか。
 ニクソンショックの年から現在まで、金の地金で石油を買った
とすると、次のように原油価格は対して上昇していないのです。
要するに金を基準に考えた場合、石油価格の高騰は「ドル下落」
のことなのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1971年/1バレルの原油 ・・・ 0.08オンスの金
  → 1オンス 35ドル/1バレル  3ドル
 1980年/1バレルの原油 ・・・ 0.05オンスの金
  → 1オンス800ドル/1バレル 40ドル
 1990年/1バレルの原油 ・・・ 0.05オンスの金
  → 1オンス400ドル/1バトル 40ドル
 2000年/1バレルの原油 ・・・ 0.10オンスの金
  → 1オンス300ドル/1バレル 30ドル
 2008年/1バレルの原油 ・・・ 0.13オンスの金
  → 1オンス900ドル/1バレル120ドル
―――――――――――――――――――――――――――――
               ―― [石油危機を読む/49]


≪画像および関連情報≫
 ●揺らぐ価格決定力/OPEC
  ―――――――――――――――――――――――――――
  世界の原油価格に影響力を及ぼしてきた石油輸出国機構(O
  PEC)の地位が揺らいでいる。最近の原油価格はOPEC
  に代わって投機マネーが決定権を握り、年明け早々に1バレ
  ル=100ドルを突破するなど高止まりの状態が続く。OP
  ECは2月1日、ウィーンで臨時総会を開いて今後の生産量
  などを協議する。相場の安定にどれだけ力を発揮できるかが
  試されそうだ。         (ロンドン 中村宏之)
http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/special/47/naruhodo285.htm
  ―――――――――――――――――――――――――――

OPEC結成時からの原油価格.jpg
OPEC結成時からの原油価格
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2010年12月02日

●メタンハイグレードの期待(EJ第2337号)

 5月29日現在、このところ上がる一方であった原油価格は少
し下げに転じているようです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 29日のNYMEXで原油先物相場は大幅反落。WTI原油は
 期近の7月物は前日比4.41ドル安の1バレル126.62
 ドル取引を終えた。2008.54.30日付/日本経済新聞
―――――――――――――――――――――――――――――
 原油先物相場の反落――大変良い傾向であり、株価もそれを好
感して上昇しています。このテーマは今週で終了しますが、最後
に、日本にとってエネルギーに関する少し明るいニュースをお伝
えしたいと思います。
 石油に代わる代替エネルギーの確保において、日本にとって最
も可能性があるものといえば、原子力発電と太陽光発電であると
思います。このうち、原子力の平和利用の技術において日本はと
くに進んでいますが、マイナス面も多々あるのは事実です。
 太陽光発電については、もともと日本が世界の先陣を切った技
術であり、日本のお家芸ともいうべきものです。当時の国策の失
敗によって現在はドイツの後塵を拝していますが、現在でもシャ
ープ(株)は、太陽電池の世界シェアの約25%を占めるトップ
企業なのです。
 現在太陽光発電で使われている電池は「結晶シリコン型」と呼
ばれるものですが、最近結晶型に比べて材料を100倍節約でき
きる「薄膜シリコン型」と呼ばれる電池が一部で使われるように
なっています。
 日本ではこの「薄膜シリコン型」をさらに進化させた「薄膜型
CIS太陽電池」の実用化に成功しており、順調に発達すれば、
2030年までには国内エネルギー消費量の10%程度を太陽光
発電で賄えるようになるはずです。しかも、これまで普及のネッ
クになっていた発電コストを化石燃料並みの7円/1キロワット
に改善できるというので有望です。
 ところが、太陽光発電は天候によって発電量が左右されるとい
うマイナス面があります。これをカバーするためには現在の技術
を上回る蓄電技術が必要になります。
 しかし、この面においても解決の光は見えています。独立行政
法人・新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)では、
「レドックスフロー」といわれる新型蓄電池の実証実験を開始し
ており、世界的に注目を集める成果が上がっているからです。
 もうひとつ「メタンハイドレート」といわれるエネルギーが日
本を資源立国に変える可能性を秘めています。このことがいわれ
出したのは1990年代の後半からです。
 「メタンハイドレート」とは何でしょうか。
 メタンハイドレートとは、数百万年以上の時間をかけて、プラ
ンクトンなどの有機物が堆積し、高圧と低温状態において天然ガ
スの主成分であるメタンCH4が生成され、氷の結晶に閉じ込め
られてシャーベット状になっているものをいうのです。
 1996年に旧通産省(経済産業省)作成の論文により、日本
周辺の近海の海洋において、国内の天然ガス消費量の100年分
に相当するメタンハイドレートの存在の可能性が指摘されたので
す。これによって日本のエネルギー業界は色めき立ったのです。
 通産省の委託を受けた当時の石油公団は、日本近海において試
掘調査を開始し、2000年には御前崎沖合の海底で実際にメタ
ンハイグレードを発見するという成果を上げているのです。
 在来型の天然ガスは、1立方メートル当たり10立方メートル
から20立方メートルの含有量があるが、メタンハイドレートは
1立方メートルの貯留岩に50立方メートルのメタンが存在する
ことが立証されており、経済的な回収率はきわめて高いのです。
 しかし、実際の果実を手にするには、まだ大きな壁が存在する
のです。というのは、メタンハイドレートは潜水士が作業できな
い深海に存在し、また地層中や海底で氷のような状態で存在する
ため、石油やガスのように穴を掘って簡単に汲み上げることも、
石炭のように掘ることもできない。ゆえに低コストでかつ大量に
採取することは技術的に困難であるからです。したがって、現在
のところ採掘にかかるコストが販売による利益を上回ってしまう
のです。そのため商用としての採掘は成立できず、研究用以外の
目的では採掘されていないのです。
 これまで行われた科学的調査によると、メタンハイドレートは
東海沖合いから熊野灘の東部南海トラフにおいて、日本における
天然ガス国内消費の14年分の埋蔵量が確認されています。それ
に加えて、さらに日本近海全体で100年分にも及ぶメタンハイ
ドレードが存在しているといわれているのです。
 商用としての採掘が成功していないのは、日本政府が南海トラ
フでのメタンハイドレート採取に固執しているからです。なぜな
ら、南海トラフのメタンハイドレートは、海底の泥の中に埋まっ
ており、探索・採取が困難を極めているからです。
 しかし、南海トラフに対して日本海沿岸には、魚群探知機でも
発見できるほど海底面に露出しているのです。したがって、採取
には大幅なコストダウンが可能になります。しかし、政府はこれ
までにかけた500億円を超えるコストが足かせとなって、行政
責任の問題からいまだに日本海沿岸での調査・採取を行っていな
いのです。
 いずれにせよ、政府は2016年までに環境対策をクリアした
うえで、メタンハイドレートの商用生産技術を確立させようとし
ているのです。
 このほかに日本のエネルギー開発の研究に変わったものがあり
ます。それは、歩行や話し声による空気振動をエネルギーに変換
するという音力・振動力発電です。このような研究をしている国
はないそうです。この技術では、昼間に車が通った時の振動・騒
音エネルギーを貯めておき、それを夜間に電灯で利用しようとい
うのです。エネルギー資源を持たない日本では、こういう技術力
が資源になるのです。     ―― [石油危機を読む/48]


≪画像および関連情報≫
 ●メタンハイドレートへの期待と不安/BPスペシャル
  ―――――――――――――――――――――――――――
  「独立行政法人の石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOG
  MEC)は、次世代エネルギーと期待されるメタンハイドレ
  ートを地中から連続して産出する実験に世界で初めて成功し
  た」との記事を2008年4月8日の日本経済新聞夕刊が掲
  載した。さらに、2008年4月18日の日経産業新聞は、
  このJOGMECの実験について触れ、「メタンハイドレー
  ト開発では日本が世界のトップランナーであり、日本のメタ
  ンハイドレート開発に刺激を受けて、中国や韓国などアジア
  の周辺諸国も研究を加速しつつある」と解説した。2008
  年4月28日の朝日新聞朝刊は、メタンハイドレート関連の
  特許出願動向を報じた。この記事によると、全出願件数に対
  する日本のシェアは64%と世界のトップだという。
      http://www.nikkeibp.co.jp/news/eco08q2/572423/
  ―――――――――――――――――――――――――――

燃えているメタンハイグレード.jpg
燃えているメタンハイグレード
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2010年12月01日

●原油高騰とサブプライムローン問題(EJ第2336号)

 2008年5月27日付の日本経済新聞によると、7月の主要
国首脳会議――洞爺湖サミットの前哨戦とされる主要8ヶ国(G
8)環境相会合は5月26日に閉幕したのですが、その会合にお
いて、バイオ燃料を巡って米国とフランスが激しく対立したこと
が報道されています。
 フランスのコシュスコモリゼエコロジー担当相は、次のように
述べて米国のバイオ燃料の生産奨励を批判したのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 先進国の燃料と途上国の食料が競合するのは絶対に受け入れら
 れない。     ――コシュスコモリゼ仏エコロジー担当相
―――――――――――――――――――――――――――――
 さらに、フランスほどはっきりはいわないものの、国連気候変
動枠組み条約のデブア事務局長は、次のように述べて食料である
トウモロコシを使う米国を暗に批判したのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 バイオ燃料の原料にサトウキビを使う場合、トウモロコシより
 生産効率は高い。バイオ燃料には『良い』ものと『悪い』もの
 がある。            ――国連・デブア事務局長
―――――――――――――――――――――――――――――
 これに対して米国務省で環境を担当するハーニッシュ大使は次
のように反論し、聞く耳を持たないという態度です。
―――――――――――――――――――――――――――――
 バイオ燃料用のトウモロコシは世界の食料の中でわずかな割合
 でしかない。           ――ハーニッシュ米大使
―――――――――――――――――――――――――――――
 ところで国連は、この6月の上旬にローマで「食糧サミット」
を開催しますが、その宣言案の骨子は次のようになるとみられて
います。G8の環境相会合のやりとりを反映しているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 「食糧安全保障への考慮」を強調し、稲わらなど食糧以外の材
 料を使ったバイオ燃料の開発・普及に向け、国際社会の協力を
 呼びかける。    ――2008.5.28/日本経済新聞
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本は当初より、穀物価格に影響を与えない食糧以外の材料を
使ったバイオ燃料を推進する方針であり、EUも食糧を原料にし
たバイオ燃料を見直す動きが出てきています。しかし、米国やブ
ラジルは見直しには慎重の構えをとっています。
 ところで、そうしている間にも原油価格は高騰を続けており、
このまま上がり続ける可能性があります。そうなると、世界中で
さまざまな問題が起きる恐れがあります。
 一番重要なことは、例のサブプライムローン問題によって、米
国の金利が下がっていることです。米国の金利が下がるというこ
とは、ドルを持つことの魅力が失われることを意味します。
 したがって、ドル離れ――ドル売りが起こり、ドル安になりま
す。ドル安になると、銀行や市中にドルが供給過剰になって、モ
ノの値段が上がり、インフレが誘発されやすくなります。現在は
まさにそういう状況にあるわけです。
 このような状況になると、今までドルを持っていた人は、他の
通貨に乗り換えたり、または株式などの金融商品、不動産、商品
市場などの他の運用先にマネーの振り替えを行おうとします。こ
の商品市場のなかに原油先物商品があるのです。
 この状況で一番怖いのはインフレですが、原油はインフレに強
い商品なのです。したがって、ドル建て資産の目減りを避けよう
として巨額のマネーが原油先物商品に向かうことは避けられない
動きなのです。
 本来であれば、株式などの金融商品にマネーが流れ込んで、株
式市場が盛り上がってもおかしくないのですが、肝心のお膝元で
ある米国でサブプライムローン問題が起こり、経営に行き詰る企
業が大量に出て、株式市場に混乱を起こしているのです。
 時系列で考えると分かりやすいと思います。まず、金利が下が
り、金融市場が低金利になります。そうすると、マネーはいった
んは株式市場に向かうのです。しかし、市場の混乱によって株安
になり、大損をする可能性が高くなったので、マネーは株式市場
から原油や穀物や資源へ行き先を変更したというわけなのです。
 一方、おりからの原油高でオイルマネーを溜め込んだ中東やロ
シアのファンドは、株価が低迷しているため、その運用先として
米国債の購入に向かっています。資金力のある中東や新興国が米
国債を大量に購入したことによって、米国の長期金利――10年
物国債利回りは自ずと下がることになります。
 ちなみに外貨準備高の世界一は長期的に日本が占めていたので
すが、2007年4月に中国に世界一を奪われて第2位となって
います。外貨準備高で1兆ドルを超えているのは、1位の中国と
2位の日本だけです。
 今までは高金利と原油高は同じ方向に動いていたのですが、最
近では金利の引き下げの一方で、原油高が進むという現象があら
われているのです。
 既に原油価格は生産と供給(需要)というシンプルな関係から
決まる時代は過ぎ去っており、原油価格の形成には明らかに投機
マネーの参入が影響を与えつつあります。すなわち、原油は投機
対象の「市況商品」化しているのです。
 原油価格は今後どうなっていくのでしょうか。
 米国の個人消費は、原油価格の高騰に加えてサブプライムロー
ン問題によって収縮しつつあります。これが影響して米国の景気
は2007年半ば頃から鈍化しているようです。このまま不況に
突入すると、景気低迷の中で物価が上昇する「スタグフレーショ
ン」が起きる恐れもあります。それは日本を含め世界経済に深刻
な影響を与える恐れがあります。
 しかし、米国の景気が減速すると、当然米国の原油の需要は減
ることになるのですが、それによって果たして原油価格が下がる
かどうかは不透明です。    ―― [石油危機を読む/47]


≪画像および関連情報≫
 ●スタグフレーションとは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  通常は物価上昇(インフレーション)と景気後退とはトレー
  ドオフの関係にあると理解されており、フィリップス曲線に
  みられる実証研究によりその有意性には一定の評価がある。
  しかしスタグフレーションでは、景気が悪化するとともにイ
  ンフレーションが進行する。インフレーションは景気回復局
  面で発生すれば雇用や賃金の増加もともなう。デフレーショ
  ンは景気後退局面で発生すれば雇用・賃金は減少するが物価
  は安くなる。しかしスタグフレーションは雇用や賃金が減少
  する中で物価上昇が発生し、貨幣や預貯金の価値が低下する
  ため生活が苦しくなる。       ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

G8環境相.jpg
G8環境相
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2010年11月30日

●バイオガソリンと日本の対応(EJ第2335号)

 「バイオマス・エネルギー」という言葉があります。バイオ燃
料を総称していう言葉であり、次のような幅広い概念を有してい
るのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 バイオマス・エネルギーとは、エネルギーに変換できる生物の
 量、主として植物体、農産廃棄物、畜産廃棄物、さらには産業
 廃棄物、都市廃棄物を含む概念である。
―――――――――――――――――――――――――――――
 バイオマス・エネルギーがなぜ注目されるのかというと、次の
4つの意義があることです。
―――――――――――――――――――――――――――――
      1.再生可能なエネルギーである
      2.世界中どこにも存在している
      3.その資源量が膨大であること
      4.CO2など環境適合性が高い
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、良いことばかりではないのです。エネルギーとしての
利用技術が確立されていないことや、製造コストが高いという問
題点があります。日本でバイオエタノールを製造すると、ガソリ
ン製造コストよりも2倍〜3倍もコストがかかるからです。
 しかし、日本の石油業界は、2007年4月27日から、首都
圏一都三県――東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県で、「バイオ
ガソリン」の試験販売をスタートさせているのです。この試験販
売は、経済産業省の補助金を得て実施する流通実証事業(バイオ
マス由来燃料導入実証事業)となっています。
 ところで、「バイオガソリン」とは一体何でしょうか。
 日本でいう「バイオガソリン」とは、ガソリンに7%の「ET
BE」――バイオエタノールと石油系ガスのガス・イソブテンの
合成物質です。
 ちなみに、バイオエタノールとは、サトウキビやトウモロコシ
などのバイオマスを発酵させ、蒸留して生産されるエタノールの
ことです。エタノールという物質は、石油や天然ガスからも合成
することができ、そうして生産されるエタノールを合成エタノー
ルと呼ぶのです。
 2007年は、50ヵ所の給油所において、一斉にバイオET
BEを配合したレギュラーガソリン(バイオガソリン)を販売し
2008年春からはその数を順次100ヵ所に増やし、本格導入
に向けた取組みを進めているのです。
 しかし、日本の石油会社はバイオガソリンに関してはなかなか
慎重なのです。2007年1月に、新日本石油をはじめとする製
油元売り10社は「バイオマス燃料供給有限事業責任事業組合」
――JBSLを設立し、その事業組合を通してバイオガソリンを
売るという体制なのです。
 日本における試験販売では、フランスからETBEを7800
キロリットル輸入し、新日本石油の根岸製油所において、バイオ
ガソリンを製造しています。JBSLの計画では、ETBEの原
料になるバイオエタノールの国内製造に関しては対応する計画は
なく、あくまでも海外からの調達を基本とするとのことです。
 ガソリン以外の物質からエネルギーを製造するということは別
に新しいことではないのです。第2次世界大戦において米国から
石油の輸出を止められ、戦車や軍艦、戦闘機のための燃料調達に
困った日本は、松の切り株を乾燥させて作った「松根油」をゼロ
戦の燃料として使ったという話は有名です。
 しかし、これはあくまで窮余の一策なのであって、あくまでメ
インにするものではないのです。というのは、バイオガソリンに
は3つの問題点があるからです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.バイオエタノールが製造から消費される過程で、必ずしも
   CO2を排出していないとはいい切れないこと
 2.バイオエタノールの原料であるサトウキビやトウモロコシ
   の資源量は有限で、あくまで人間の食糧である
 3.バイオエタノールの製造コストはガソリンの精製よりも割
   高であり、その経済合理性には疑問があること
―――――――――――――――――――――――――――――
 何よりも本来人間の食糧であるサトウキビやトウモロコシを燃
料にするという考え方は、これから深刻化する人類の食糧問題を
考えると大きな問題であるといえます。
 既出の岩間剛一氏は、この問題に関して自著において次のよう
に述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 米国やブラジルでは、バイオエタノールを生産するために、サ
 トウキビ畑やトウモロコシ畑の作付面積が拡大している。その
 一方で、オレンジ畑が次々とつぶされている。その結果、オレ
 ンジの不作とともにオレンジジュースの値段が上がるという思
 わぬ余波も発生しており、安易なバイオエタノール依存に警鐘
 を鳴らす食糧専門家も多い。
           ――岩間剛一著/アスキー新書/025
『「ガソリン」本当の値段/石油高騰から始まる「食の危機」』
―――――――――――――――――――――――――――――
 ブラジルにおいて、バイオエタノールの利用開始時点では、地
球温暖化防止という視点よりも、農家保護という面が強かったと
いわれます。つまり、農家に新しいビジネスチャンスを与えると
いう面が強かったのです。
 バイオエタノールが地球温暖化に寄与するというのは、後から
付けた理屈であるといえます。なぜなら、バイオエタノールを製
造するプロセスでも石油や天然ガスによるエネルギーが大量に消
費され、CO2を排出するからです。したがって、バイオエタノ
−ルが環境にやさしいということは、一概には言い切れないので
す。             ―― [石油危機を読む/46]


≪画像および関連情報≫
 ●ETBEとは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ETBE――エチルターシャリーブチルエーテルとは、エタ
  ノールとイソブテンから合成される化学物質である。自動車
  燃料に混合してに混合して使用されている。ETBE混合ガ
  ソリンは、水分が混入しても、ETBEが水と混和して分離
  することがなく、水分を除去することも可能であり、ガソリ
  ンの性状は変化しない。このため、金属の腐食やゴムの劣化
  などが生じず、自動車の安全性や走行性能に問題を生じるこ
  とはない。             ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

バイオETBE.jpg
バイオETBE
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2010年11月29日

●日本は技術という資源を活用せよ(EJ第2334号)

 2006年5月に策定された「新・国家エネルギー戦略」――
自主開発原油の割合を2030年までに40%にすることを目指
しています。現在の自主開発原油の割合は約15%です。
 2006年時点において日本が権益を有する石油・ガス事業は
117件であり、そのうち68件が原油・ガスを生産しているの
ですが、それらの原油と天然ガスの生産量は、「日量74万バレ
ル」に過ぎないのです。
 40%を達成しようとすると、「日量160万バレル」は必要
なのです。しかし、現在は「日量74万バレル」しかないので、
さらに「日量86万バレル」の原油生産を確保することが必要に
なりますが、それは果たして可能なのでしょうか。
 これに対して政府は、カスピ海、サハリン、オーストラリアな
どの権益確保によって40%は十分可能であると考えていますが
ここまで見てきたように資源ナショナリズムが高まるなかで、と
うてい計画通りにことは運ばないと考えられます。少なくともこ
れまでは失敗の連続といってよいからです。資源はもはやお金を
出せばいつでも買えるコモディティ(市況商品)ではなくなって
いるのです。
 このように、エネルギー供給の不安定化が進むなかで、日本の
エネルギー安全保障政策の基本は、日本の持つ高度な「技術」と
いう資源に頼るしかないということになります。
 エネルギー問題に詳しい東洋大学経済学部の小川芳樹教授は、
これについて次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 これまでは石油なら石油、石炭なら石炭を外国からいかに確保
 するかという政策に力を注いできた。しかし、供給サイドにば
 かりに目を向けていると、いつまでたっても相手国の事情に左
 右されることになる。それよりも、自国のエネルギー消費構造
 を工夫していかにひとつの資源だけに頼らないようにするかが
 重要です。               ――小川芳樹教授
            ――「SAPIO」/4月9日号より
―――――――――――――――――――――――――――――
 要するに、石油・天然ガス以外の代替エネルギーをいかに確保
するかにかかっているというのです。日本で一番進んでいるのは
原子力です。現在、日本のエネルギー消費量の12〜14%は原
子力が担っているのですが、日本はこれをさらに飛躍させる高度
な技術を持っているのです。
 現在世界で一番注目されているのは、現在の原子炉を進化させ
た「スーパー軽水炉(超極臨界圧軽水冷却炉)」です。「スーパ
ー軽水炉」とは一体何でしょうか。
 「スーパー軽水炉」を研究している東京大学の岡芳明教授は、
次のように説明しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 2030年の実用化を目標にしているスーパー軽水炉は、蒸気
 の力を限界まで引き出す新しい発想の原子炉で、米国原子力エ
 ネルギー省から第4世代原子炉に認定されました。このスーパ
 ー軽水炉ならば、建築費用は従来の約3分の2まで圧縮できま
 す。設置面積も小さくて済みますから、新たな原子炉を建設す
 る追い風になってくれるはずです。     ――岡芳明教授
            ――「SAPIO」/4月9日号より
―――――――――――――――――――――――――――――
 既にあるスーパー軽水炉型発電所の改良や新たな炉の増設が順
調に進めば、日本全体のエネルギーの50%を担うことも可能に
なるといわれています。
 もともと日本人は原子力にはアレルギーが強く、反対の声が多
いのですが、日本の場合は原子力を核として進めざるを得ないの
です。世界で唯一原子爆弾を落とされた国が世界で一番その原子
力を平和的に利用する――こういうかたちになることが、一番望
ましいのです。
 しかし、世界を見ると、化石燃料に代わるエネルギー確保に邁
進している国は多いのです。この面で日本は大きく遅れていると
いえるのです。
 アイスランドでは、エネルギーの55%を「地熱発電」、16
%を水力発電で確保しています。自動車などの燃料に関しては、
水素エネルギーを活用して、できる限り化石燃料を抑えよう努力
しているのです。
 水素は化石燃料やバイオマス、水など様々な原料から製造でき
燃料電池自動車や家庭用、業務用のエネルギーとして利用が期待
されているのです。水素は燃やしてもほとんど有害ガスが出ない
クリーンなエネルギーです。
 燃料電池自動車では、水素を燃料として化学反応を利用して電
気を作り、その電気によるモータで走るクリーンな自動車です。
燃料電池自動車が水素エネルギー社会の牽引役を担うものとして
大いに期待されているのです。
 アイスランドの国内では、既に公共バスの一部には水素ガスが
取り入れられており、レイキャビク市内では、水素ガス・スタン
ドまで設置されています。アイスランド政府は、今後もこうした
取り組みを強化し、2050年までに再生可能エネルギー100
%を達成する方針であるというのです。
 アイスランドだけではないのです。ドイツでは2000年に再
生可能エネルギー法が施行され、太陽電池の普及が一段と拡大し
ているのです。
 なぜかというと、この法律は民間が太陽光などで発電した自然
エネルギーを電力会社が割高な固定価格で買い取るよう義務づけ
ているのです。その価格は、化石燃料で供給される電力の3〜4
倍に当たるため、太陽光発電が家庭や企業に拡大したのです。
 もともと日本は太陽光発電は導入量世界一を誇っていたはずで
すが、なぜドイツに負けてしまったのでしょうか。国家がサポー
トしなかったからなのです。明らかに国策の失敗であるといえる
のです。           ―― [石油危機を読む/45]


≪画像および関連情報≫
 ●東京大学の岡芳明教授のウェブサイトより
  ―――――――――――――――――――――――――――
  1989年に私たちの研究室で生まれた新しい原子炉の概念
  は、現在では米国・欧州・韓国・カナダをはじめ、私たちを
  中心に世界中で研究されています。また、2001年7月に
  は、米国を中心とする世界10カ国で、第4世代国際フォー
  ラム(GIF)が結成され、2030年までの実用化を目指
  し、他の5つの概念と並び、特に有望とされる第4世代原子
  炉に選ばれました。私たちは国内だけでなく、世界を相手に
  研究しているのです。          ――岡芳明教授
  ―――――――――――――――――――――――――――

岡芳明東京大学教授.jpg
岡 芳明東京大学教授
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2010年11月26日

●なぜ、高値安定になるのか(EJ第2333号)

 原油価格は毎日のように最高値を更新し、日本経済への逆風は
一段と強まってきています。2008年4月〜6月期以降に原油
価格が次のように推移した場合、2008年度の経常利益は大幅
に押し下げられることになります。なお、この数値は原油価格が
100ドルで推移した場合との比較です。
―――――――――――――――――――――――――――――
  130ドルで推移した場合 ・・・ 2.8%ダウン
  140ドルで推移した場合 ・・・ 3.7%ダウン
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、5月22日時点で1バレル当たり135.09ドルの
最高値を既に更新しており、平均しても130〜140ドルより
も高くなることは確実視されています。
 原油価格が高値で安定しているのは、ヘッジファンドなどの短
期マネーに加えて、年金基金などの長期に運用するマネーの流入
があることが影響しているものと思われます。年金基金などのマ
ネーの運用は「買いっ放し戦略」といって、買い続けるだけで基
本的に売り戻さないのです。したがって、高値が長期に安定して
しまうことになるのです。
 なぜ、年金などの長期マネーが流入してくるのかには次の2つ
の理由があります。
―――――――――――――――――――――――――――――
   1.原油価格は今後も上昇続ける可能性が高い
   2.世界的な低金利傾向がその背景にあること
―――――――――――――――――――――――――――――
 とくに米国では、サブプライム問題があって金利を下げている
のですが、その影響が大きいのです。5月22日付の日本経済新
聞は次のように書いています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 世界的な低金利を背景に、余剰マネーが決済期限の近い期近物
 からあふれ出して、超長期先物に流れ込み、8年先に決済期限
 を迎える2016年物まで140ドル台に上昇。これが相場全
 体の急騰を主導している。 
       ――2008年5月22日付の日本経済新聞より
―――――――――――――――――――――――――――――
 ヘッジファンドの短期マネーは満期の近い期近物に投資して短
期で収益を得ようとするので、通常は「期近高・期先安」になる
のですが、年金などの膨大な長期マネーが満期の遠い期先物に流
れ込んだので、5月の後半には「期近安・期先高」に構図が変化
しています。
 この「期近高・期先安」のことをバックワーデーション――逆
ざやといい、「期近安・期先高」をコンタンゴ――順ざやと称す
ることは、4月18日のEJ第2309号で述べています。EJ
第2309号もあわせて参照願います。
―――――――――――――――――――――――――――――
 http://electronic-journal.seesaa.net/archives/20080418-1.html
―――――――――――――――――――――――――――――
 このまま原油価格が高騰し続けると、日本経済はどうなってし
まうのでしょうか。
 三菱UFJリサーチ&コンサルティング主任研究員の芥田知至
氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 三菱UFJリサーチ&コンサルティングの試算では、仮に07
 年の経済構造を前提として、原油の輸入が1バレル=160ド
 ルで行われたと仮定すると、貿易黒字(通関ベース)はゼロに
 なってしまう。そこまでいかなくても、原油価格と連動して他
 の国際市況商品の価格も上昇するとすれば、1バレル=125
 ドルの水準で日本の貿易収支は均衡する。今後、原油高が一段
 と進んでも日本経済はそれに対応していくだろうが、日本の所
 得水準が押し下げられるのは間違いない。  ――芥田知至氏
           ――週刊「エコノミスト」4/8特大号
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本のエネルギー自給率はわずか4%です。これは石油、天然
ガス、石炭など日本が消費しているエネルギーのうち、国内生産
でまかなっている割合です。準国産と位置づけられている原子力
発電を含めても約18%なのです。他国は次の通りです。
―――――――――――――――――――――――――――――
  米 国 ・・・ 71%  ロシア ・・・ 181%
  中 国 ・・・ 95%  英 国 ・・・  96%
  インド ・・・ 82%  ドイツ ・・・  50%
―――――――――――――――――――――――――――――
 これを見ると、日本のエネルギー自給率の低さが際立ってしま
いますが、資源のあるなしについてはそれぞれの国の事情に基づ
くものであり、仕方がないことです。しかし、そのような国では
他国で自主開発油田を獲得するなどすることができます。
 しかし、既に見てきたように、日本のエネルギー確保に関する
戦略はあまりにも場当たりであり、長期的な戦略というものがな
いのです。既出の岩間剛一氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 (日本は)原油価格が上下するたびに一喜一憂し、原油価格が
 安い時に石油開発を怠り、原油価格が高値を付け石油資源の権
 益価格が高くなると慌てて資源獲得に駈けずり回る。その結果
 油田権益の高値つかみを繰り返し、原油価格下落時に損失を被
 るのである。    ――岩間剛一著/アスキー新書/025
『「ガソリン」本当の値段/石油高騰から始まる「食の危機」』
―――――――――――――――――――――――――――――
 岩間剛一氏は、こうなってしまう原因を日本の官僚組織――キ
ャリアシステムにあるとみているのです。このシステムの下では
本当の意味の石油の専門家は育たないのです。したがって、エネ
ルギーの長期戦略を立てられないのです。
               ―― [石油危機を読む/44]


≪画像および関連情報≫
 ●コンタンゴ化する原油先物価格
  ―――――――――――――――――――――――――――
  2008年6月の期近物から、2016年12月の一番期先
  物にいたるまでが、フラット化しました。中期部分が3ドル
  程度垂れ下がっているだけで、両端が同じ、というのも特徴
  的です。以前は一番の期近物に比べて中期部分はドル以上、
  16年12月物も10ドル近く低い値となっていましたがそ
  れらが均等に上昇したと言えるかと思います。見直してみる
  と、5月はじめから徐々にに期先物側が上がりだしていたよ
  うですね。いわゆるバックワーデーション状態ではなくなり
  また先高でもない状況がこのまま継続するのなら、新たな特
  徴的な要素といえるでしょう。
        http://oguogu.iza.ne.jp/blog/entry/582854/
  ―――――――――――――――――――――――――――

コンタンゴ化する先物価格.jpg
コンタンゴ化する先物価格
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2010年11月25日

●原油高騰は投機筋と産油国の結託か(EJ第2332号)

 原油価格の上昇に歯止めがかからなくなっています。2008
年5月22日には次のニュースが伝えられています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 【ニューヨーク21日共同】21日のニューヨーク・マーカン
 タイル取引所の原油先物相場は、需給関係悪化への警戒感から
 急伸し、指標となる米国産標準油種(WTI)7月渡しが通常
 取引終了後の時間外取引で一時1バレル=134・10ドルを
 つけ、前日の最高値(129・60ドル)を大幅に更新した。
 134ドル台となったのは初めてのことである。終値は前日比
 4・19ドル高の1バレル=133・17ドル。終値の最高値
 更新は4営業日連続。需要が膨らむ米国の行楽シーズン入りな
 どで供給不足への懸念が強く、上昇に歯止めがかからない展開
 になっている。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ところが、こういう状況にもかかわらず、産油国は増産を見送
る方針です。原油価格高騰の原因を産油国としては供給側の要因
ではなく、投機とみているからです。
 しかし、専門家の見方によると、今回の原油価格高騰を資源の
国家管理による原油増産の停滞と製油所の能力不足という供給側
の要因にあるとみているのです。中国の大地震の影響で石油製品
需要が増えるという見通しもあり、需給逼迫が長期化するのでは
ないかという懸念が原油価格の高騰を招いていると分析している
のです。そして、この原油の先高感がマネーの流入に拍車をかけ
ている――このようにみているのです。
 国際原油価格はWTIの原油先物価格によって決まりますが、
WTIの原油先物はニューヨークの商品取引所――NYMEXに
上場しています。ここでの先物取引は、米政府の商品先物取引委
員会によって監視されており、投機的な行為は取り締りの対象と
なっているのです。
 ところが、同じ先物商品はロンドンにあるICEという企業が
運営するネット上の先物取引市場でも取引されているのです。し
かし、ICEは外国の民間企業による相対取引の市場であって、
米政府の商品先物取引委員会の監視の枠外なのです。
 このことを利用して、ヘッジファンドや投資銀行などの投機筋
は原油価格をつりあげる目的で、NYMEXだけでなく、米政府
の監視の枠外のICEを通じて先物を売買しているという説があ
るのです。ちなみに「相対取引」とは株式用語で、公開株式の売
買に関して、市場を介さずに売買当事者間で売買方法、取引価格
取引量を決定して売買する取引のことです。
 この問題に関して米上院では報告書を出して、次の指摘を行っ
ているのですが、ブッシュ政権はこの報告書を無視し、何の対策
も取っていないのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 投機資金は、2000年から原油先物相場をつり上げている。
 WTIの先物取引の30%はロンドンICEで取り引きされて
 いる。 ――田中宇の国際ニュース解説/2008.5.14
―――――――――――――――――――――――――――――
 ウィリアム・エングダールという石油・地政学専門家は「現在
の国際原油価格のうち最大で60%が、投機筋によるつりあげ効
果の産物である」といっています。もし、このエングダールの分
析が正しいとすると、投機分を除外すれば原油価格は1バレル=
50ドル程度まで下がる計算になるのです。
 こういう情勢を受けて、米連邦上院議会では、原油市場におけ
る投機資金の規制を強化する「石油取引透明化法」を2人の民主
党議員が提案していますが、商品先物取引委員会は「原油高騰の
原因は投機ではない」として規制強化に反対しています。
 どうやらブッシュ政権は、意図的に原油価格を高騰させようと
しているフシがあります。そのウラには、モルガン、ロックフェ
ラー、ゴールドマンサックスというニューヨークの大資本家たち
がいるのです。米国の連邦準備制度(FRB)の設立のシナリオ
を描いたのも彼らなのです。
 彼らは、ウラ側で米政権を操る糸を握っており、今回の原油高
騰は彼らとブッシュ政権の共同作業ではないか――こういう見方
もあるのです。国際ジャーナリストの田中宇氏は次のように述べ
ています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ブッシュ政権がICEという原油投機の「抜け穴」を開け、ニ
 ューヨークの大資本家たちが石油価格をつり上げるという作業
 の結果、ロシアやサウジアラビア、イラン、ベネズエラなどの
 産油国の国庫が潤い、これらの国々はアメリカの覇権に対抗で
 きうるネットワーク(非米同盟)を強化している。
     ――田中宇の国際ニュース解説/2008.5.14
―――――――――――――――――――――――――――――
 田中宇氏のいう「非米同盟」――実は新セブンシスターズとい
われているのです。かつてのエクソン、シェル、BPなどのかつ
てのセブンシスターズが持つ油田の総埋蔵量は、世界の全埋蔵量
の10%を既に切っているのです。残りは、次の諸国の石油会社
が持っているのです。これら7社を「新セブンシスターズ」と呼
んでいます。
―――――――――――――――――――――――――――――
    1.ロシア        5.マレーシア
    2.イラン        6.ブラジル
    3.サウジアラビア    7.ベネズエラ
    4.中国
―――――――――――――――――――――――――――――
 これら米国に好意を持っていない新セブンシスターズと市場関
係者の思惑が一致すれば、需給バランスを崩すことなく、価格の
高騰を演出できるのです。つまり、現在起こっている原油の高騰
は、投機筋と新セブンシスターズが演出している――そういう見
方もあるのです。       ―― [石油危機を読む/43]


≪画像および関連情報≫
 ●新セブンシスターズ/田中宇氏のコラム
  ―――――――――――――――――――――――――――
  フィナンシャル・タイムスの「新しいセブンシスターズ」と
  いう記事は私から見ると、まるで「アメリカの中枢に陣取る
  多極主義の勢力が書かせた記事広告」である。「セブンシス
  ターズ」は7社で世界の石油利権を支配しているといわれる
  米英の石油会社でエクソン、シェブロン、モービル、ガルフ
  石油、テキサコというアメリカの5社とブリティッシュ・ペ
  トロ−リアムス(BP)ロイヤル・ダッチ・シェルというイ
  ギリス系の2社を指していた。1980−90年代の国際石
  油業界の再編によって、エクソンとモービルが合併し、テキ
  サコがシェブロンに吸収され、ガルフ石油は分割されてBP
  とシェブロンに吸収されたことで、セブン・シスターズは4
  社に減った。この4社が世界の「石油利権」を握り「石油は
  アングロ・サクソン(米英)が支配する」というのが、これ
  までの常識である。 http://tanakanews.com/070320oil.htm
  ―――――――――――――――――――――――――――

ガソリン高騰.jpg
ガソリン高騰
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2010年11月24日

●ガソリン価格の内部構造(EJ第2331号)

 道路特定財源の議論が国会で続いているとき、自民・公明両党
の議員の何人かは、次のようにいっていたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本のガソリン税は、暫定税率分を含めても国際社会の中では
 かなり低い方である。   ――自民・公明両党議員の言い分
―――――――――――――――――――――――――――――
 このこと自体は間違っていないのです。最もガソリン価格の高
い国を4つ上げると次のようになります。
―――――――――――――――――――――――――――――
        ガソリン価格       税  金
   英  国   233円       150円
   ド イ ツ   229円       143円
   フランス   216円       134円
   韓  国   193円       111円
―――――――――――――――――――――――――――――
 ガソリン価格については、それぞれの国によって事情は違って
きます。例えば、1リッター当たり150円を取っている英国で
は、高速道路は無料であるためそういう高い税になっているので
す。与党議員は日本でも150円も税を取れば高速道路を無料に
できるといっています。
 このほか、環境税という性格の税をガソリン税に含めている国
もあります。車を走らせればCO2を排出し、環境を害するので
ガソリン税に環境税を含めるのは合理的であるといえます。
 しかし、与党議員のウェブサイトには、日本よりもガソリン価
格が高い国のケースしか出ていませんが、日本よりガソリン価格
の安い国もたくさんあるのです。主要国だけを上げても、米国、
カナダ、メキシコ、ニュージーランドなどがそうです。
 ところで、あれほど国会でガソリン税について議論が行われな
がら、日本のガソリン価格の内訳について正確な提示がなかった
と思います。そこで、EJではガソリン価格の構造を示しておき
たいと思います。
 現在は、レギュラーガソリンが1リットル当たり160円を超
えていますが、ここでは、便宜上1リットル=129円として、
その内訳について詳しく考えてみることにします。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.原材料費/原油費 ・・・・・・・・・・ 25.80円
 2.ガソリン精製費 ・・・・・・・・・・・ 25.80円
 3.輸送費/ガソリンスタンドのマージン ・ 15.50円
 4.ガソリン税 ・・・・・・・・・・・・・ 53.80円
    ・揮発油税  ・・・ 48.6円
    ・地方道路税 ・・・  5.2円
 5.消費税(1+2+3+4)×0.05 ・・  6.05円
 6.石油石炭税 ・・・・・・・・・・・・・  2.04円
   ――――――――――――――――――――――――――
                         129円
           ――岩間剛一著/アスキー新書/025
『「ガソリン」本当の値段/石油高騰から始まる「食の危機」』
―――――――――――――――――――――――――――――
 これでわかるように、本当のガソリンの価格は約67円≪1〜
3の合計≫であり、あとの約62円はすべて税金なのです。それ
におかしいのは、1〜4までの金額(ガソリン価格+ガソリン税)
に対して、5%の消費税をとっていることです。つまり、税金に
さらに税金をかけているわけです。これはタックス・オン・タッ
クスといって二重課税であり、石油業界は猛反発しているのです
が、そのままになっています。
 野党議員の追及のなかに、このタックス・オン・タックスを問
題にした議員はいなかったはずです。これだけでも6円違ってく
るのです。なぜ、問題にしないのでしょうか。
 揮発油税は1949年に創設されたのですが、1954年には
道路特定財源に定められています。そして1955年には地方道
路税が創設されています。当初揮発油税と地方道路税は次の通り
だったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
  ガソリン1リットル当たり
          揮発油税 ・・・ 24.3円
         地方道路税 ・・・  4.4円
         ―――――――――――――――
                   28.7円
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、1973年に第一次石油危機が起こったのです。第4
次中東戦争のあおりを受けて石油価格が急騰し、狂乱物価など激
しいインフレーションを生んだ石油危機に対して、日本は国家を
あげて「省エネ化」をめざしたのです。深夜放送が自粛され、ネ
オンサインが消えるなど、その努力は相当真剣だったのです。
 そして、省エネのため石油資源を節約し、石油の消費を抑制す
ることを狙いとして、揮発油税などの税率を上乗せする暫定税率
が課せられることになったのです。暫定税率はガソリン税だけで
なく、同じ年に自動車取得税、自動車重量税に、1976年には
軽油取引税にも創設され、これらはすべて現在に至るまで続いて
いるのです。ガソリン税(揮発油税と地方道路税)についてだけ暫
定税率を示すと次のようになります。
―――――――――――――――――――――――――――――
            ガソリン1リットル当たり/暫定税率
  揮発油税  24.3円 + 24.3円 = 48.6円
 地方道路税   4.4円 +  0.8円 =  5.2円
 ――――――――――――――――――――――――――――
        28.7円 + 25.1円 = 53.8円
―――――――――――――――――――――――――――――
 道路特定財源が廃止され、一般財源化されることは一歩前進で
あることは確かです。     ―― [石油危機を読む/42]


≪画像および関連情報≫
 ●タックス・オン・タックスについて
  ―――――――――――――――――――――――――――
  少し前、(社)日本自動車工業会、(社)石油連盟、自動車総連
  などが「ガソリン税は二重課税」とか「消費税と自動車取得
  税との二重課税」という内容で広告をしたり、税制建議をし
  たりしていました。国会でも揮発油税と消費税はタックス・
  オン・タックスになっており改めるべき、などという議論も
  なされました。二重課税はあってはいけない。これらの主張
  の中では「二重課税」が併課と重複課税との両方の意味に使
  われています。税金に対して税金を重複して直接課すること
  を「二重課税」といいます。関税等を除き原則的にありえな
  いことになっています。
   http://ikenokoi.at.webry.info/200610/article_16.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

タックス・オン・タックス.jpg
タックス・オン・タックス
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2010年11月22日

●ドロナワの日本のエネルギー政策(EJ第2330号)

 石油公団による日の丸油田開発プロジェクト――目標は原油輸
入量の30%を目指していたのです。しかし、1985年に10
%を超えたものの、その後の原油の暴落と円高によって日の丸油
田の価値は暴落し、窮地に追い込まれたのです。
 1998年、当時の堀内光雄旧通産大臣は、次のように石油公
団見直しを宣言しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 30%の自主開発油田に切り換えるという数値目標達成のため
 に経済合理性を度外視し、巨額の不良債権を生み出している。
                  ――堀内光雄旧通産大臣
           「SAPIO/2008年4月9日号」
―――――――――――――――――――――――――――――
 そして、いわゆる小泉構造改革の一環として、2002年に石
油公団の廃止が決まったのです。これは、自主開発油田政策の転
換を意味しています。
 結局日本は、石油公団を廃止することによって、石油を市況商
品として位置づけて対処することにしたのです。すなわち、石油
を安いときにできるだけ多く買っておき、備蓄を増やすという市
場万能主義に転換したわけです。
 この政策転換の犠牲になったのが、山下太郎氏による日の丸油
田「カフジ」だったのです。というのは、カフジ油田はちょうど
その時期に油田の権益の契約更改が重なったからです。このとき
サウジアラビアとクウェート側がアラビア石油に求めていたのは
「鉱山鉄道の建設」だったのです。その必要資金は2000億円
だったのです。
 アラビア石油は石油公団に融資を求めたが、拒否され、せっか
くのカフジ油田を失ってしまいます。ちょうど当時の日本は、小
泉構造改革の渦の中にあり、税金を投入して民間企業を救うなど
とんでもないという風潮に満ちていたのです。
 確かにカフジ油田は民間企業の手によるものですが、本来は国
家事業としてやるべきものを国が無策のために動かなかったので
民間企業がやったのです。構造改革の名の下にその重要性を十分
に調査もせず、開発途上の貴重な油田を放棄したのです。
 それだけではないのです。カフジ油田の放棄がキッカケとなり
開発中の油田は次々とバーゲンセールよろしく投売りされて日の
丸油田は壊滅してしまったのです。
 ところが、まるでそれを待っていたかのように、原油が一気に
高騰しはじめたのです。しかし、その原油の値上がりは、専門家
であれば――いや素人であっても、十分読めるはずのものであっ
たといえます。なぜなら、アラビア石油がカフジ油田を諦めたの
が2000年〜2003年ですが、2003年3月にはイラク戦
争が勃発しているからです。
 もちろん原油の値上がりはイラク戦争だけが原因ではないので
す。いわゆるBRICs――ブラジル、ロシア、インド、中国の
4ヶ国の経済発展に伴う石油の需要拡大があります。それに中東
情勢などの地政学的リスクが重なったのです。
 2003年からはじまった原油価格の高騰は、まさに天井知ら
ずで上昇し、遂に100ドルを大きく超えているのです。お粗末
なのは、この原油の高騰に慌てた日本政府が再び自主開発油田を
口にしはじめたことです。そして、2006年5月に「新国家エ
ネルギー戦略」を公表したのです。
 これは日本という国が石油という戦略物質に対する基本的な考
え方が何もないことを意味します。いったん諦めた自主開発油田
を情勢の変化を理由に3年後に再び再現させる――普通の国なら
考えられない無策です。
 しかも、その内容たるやかつての石油公団のときとほとんど変
わらないのです。自主開発原油の目標を以前の30%から40%
に引き上げることを前提に、かつての石油公団に変わる独立行政
法人/JOGMEC――石油・天然ガス・金属鉱物物質資源機構
が出資金額を以前の70%を上回る75%にする――これだけの
ことであり、以前と何も変わっていないのです。
 そんなに早く以前の状態に戻すなら、なぜ石油公団を廃止して
貴重な油田を投売りしたのか――これこそ究極の税金の無駄使い
以外のなにものでもにいと考えます。
 しかし、このようにして自主開発原油に方針を切り換えたにも
かかわらず、イランのアザデガン油田の日本側権益が75%から
10%に削減されているのです。
 アザデガン油田は、1999年にイラン国営石油会社によって
発見された油田で、推定260億バレルに及ぶ世界屈指の埋蔵量
を誇る油田なのです。戦争などで開発が遅れていたが、2004
年に採掘に日本の企業体とイラン国営企業で共同開発する契約が
できており、日本の自主開発油田の目玉になっていたのです。こ
れにブッシュ政権が待ったをかけてきたのです。
 ブッシュ政権は、イランがウラン濃縮を継続する限り、イラン
の原油開発に関して、2000万ドル以上の投資を行った外国企
業を制裁するというものです。日本は簡単にこれに屈してしまい
権益を大幅に削減したのです。
 そして、ほぼ同時期の2006年12月に例の「サハリン2」
もプーチン政権の強権に屈し、シェアを引き下げたことは既に述
べた通りであり、日本の外交政策のまずさが浮き彫りにされてい
るのです。
 石油はメジャーから買えばよいといっていた日本政府は、石油
危機が起こると自主開発原油に切り換え、原油暴落と円高になる
と、石油公団を廃止してもとの政策に逆戻り・・。しかし、原油
が高騰すると、またしても自主開発原油に戻り、イランやロシア
ではさしたる抵抗もせず、莫大な税金を投入した権益を手放して
しまう――一体日本は何をやっているのでしょうか。
 しかし、日本経済は、昨今の原油高騰に耐えられる強靭な体質
になっており、じたばたすることはないのです。もっと腰をすえ
た戦略を持つべきです。    ―― [石油危機を読む/41]


≪画像および関連情報≫
 ●「新・国家エネルギー戦略」について
  ―――――――――――――――――――――――――――
  経済産業省・資源エネルギー庁はエネルギー安全保障を中核
  とする「新・国家エネルギー戦略」を去る5月末に公表しま
  した。これは中長期にわたる日本のエネルギー戦略について
  まとめたものです。この背景には、原油価格の高騰は中長期
  的に継続する可能性が高いことや、少子高齢化の流れの中で
  エネルギー購買力が低下する懸念などがあり、これまでは市
  場原理にまかせていたエネルギー資源について、国として安
  全保障と地球環境問題を同時に克服する新たな戦略をたてた
  ものです。   http://www.mhi.co.jp/atom/senryaku.htm
  ―――――――――――――――――――――――――――

アザデガン油田.jpg
アザデガン油田
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2010年11月19日

●なぜ山下太郎は石油に手を出したか(EJ第2329号)

 ドバイ産の重質油から良質のガソリンを精製する技術において
日本が優れているのは事実です。しかし、それはこれまでの日本
の石油戦略の失敗によってもたらされたものなのです。
 吉川元忠氏のベストセラーに『マネー敗戦』(文春新書)とい
う本があります。世界最大の債権国(日本)が経済危機に陥り、
その債権国に膨大な債務を負う世界最大の債務国(米国)が長期
にわたる好景気を持続する――これは明らかに日本の米国に対す
るマネー戦略の失敗であり、「第2の敗戦」である――吉川氏は
このように主張したのです。
 しかし、敗戦はマネーだけではないのです。戦後の日本は石油
戦略に関してもことごとく失敗し、「石油敗戦」というべき大失
敗をやっているのです。
 前回、アラビア石油による日の丸油田について述べましたが、
これは国策でも何でもなく、山下太郎という希代の事業家による
渾身の挑戦だったのです。
 戦後の日本には石油やエネルギーにおいて、戦略らしきものは
何もなかったのです。和光大学経済経営学部教授の岩間剛一氏に
よると、強いて戦略というべきものを上げるなら「徹底したアメ
リカ追従」だけだったというのです。
 しかし、この「徹底したアメリカ追従」はそれなりの効果を日
本にもたらしたのです。それは1バレル当たり3ドルに固定され
た安価な石油の安定供給が確保されたからです。
 三井物産や三菱商事などの日本の大手商社は、進んで欧米系メ
ジャーの下請けとして働くことに注力し、メジャーを敵に回すこ
とになるリスクの多い石油の自主開発などには手を出さなかった
のです。これが「徹底したアメリカ追従」です。
 こういう時期に石油の自主開発に着目したのが山下太郎氏なの
です。しかし、山下氏は石油に関しては知識もノウハウもなく、
まさに徒手空拳で石油の自主開発にチャレンジしたのです。それ
では山下氏はなぜ石油の開発に手を出したのでしょうか。
 それについて答えるには、当時の中東の情勢について知る必要
があります。当時中東はスエズ運河の国有化の問題をめぐって、
エジプトと英国が対立していたのです。さらにそれに加えて、イ
スラエル問題などによって、中東諸国と欧米の関係は険悪なもの
になりつつあったのです。
 山下太郎氏はこういう状況を見逃さなかったのです。というの
は、それまで中東諸国は油田の権益を欧米系のメジャーにしか与
えていなかったのですが、欧米との関係が険悪化するにつれて、
もし、希望するところがあればメジャー以外にも油田の権益を与
えてもいいと考えはじめていたからです。
 1957年〜58年にかけて山下氏は、サウジアラビアとクゥ
ェート両国の分割地帯から油田の採掘権を取得して、アラビア石
油を設立したのです。これは国策ではなく、まさしく山下氏が事
業としてこれを行ったのです。
 1960年にアラビア石油はカフジ油田を発見し、政財界から
資金を集めて油田の開発をはじめたのです。このようにして、戦
後初めての日の丸油田が誕生したのです。
 しかし、日本政府はアラビア石油の成功を一事業家によるビジ
ネスとしか考えなかったのです。そして、あくまで米国追従のメ
ジャー頼りのエネルギー戦略を続けていたのです。
 しかし、1970年代に入って、2度の石油危機が起きると、
政府の態度は一変します。日本は石油の99.7%を輸入し、そ
のうち、77.5%を中東に依存していたのですが、通常在庫の
20日分しか備蓄していなかったので、国内的に大パニックが起
こったのです。その結果、エネルギー政策に関する政府の無策が
明らかになり、国民の怒りを買ったのです。
 これに懲りて旧通産省は石油公団を設立します。そして、油田
開発プロジェクトに対して必要な資金の70%を融資し、なおか
つ返済は、開発に成功して生産に移行してからという好条件を付
けて、民間企業に石油開発を促したのです。
 その結果、日の丸油田開発は活性化し、1985年には原油輸
入量に占める自主開発原油の割合は、10.7%とはじめて10
%を突破したのです。
 しかし、OPECによる価格支配が始まり、世界的な石油の需
要が縮小したことや、世界各地で有望な油田が次々と発見された
ことなどによって、石油の価格は暴落したのです。
 さらに、1983年からニューヨーク・マーカンタイル取引所
で原油先物市場が設立され、石油は市場で価格が決まる市況商品
になっていくのですが、そういう動きに、日本はついていくこと
ができなかったのです。
 マーケットが価格を決めるようになると、当然のことながら、
需要と供給が価格に反映することになります。1980年代後半
に原油は供給過剰になっており、市場では1バレル当たり10ド
ルという値しかつかなかったのです。そして、この安値が、以後
20年も続くことになるのです。
 皮肉なことにこの価格なら、日本のような石油輸入国にとって
は願ってもない状況になったのです。しかし、そのとき日本は自
主開発油田に戦略の舵を切っていたのです。石油が安値であると
いうことはドル安ということであり、ドル安は円高を意味するの
です。したがって、高値で買った油田採掘権の借金は円高で4倍
に膨れ上がり、一方の原油は4分の1にダウンしたのです。
 こうなると、日の丸油田の価値は円高でみると20分の1に大
暴落し、石油開発会社がどんなに経営努力をしても採算割れは必
至になったのです。また、石油公団は、カナダ北極沖の「北海石
油」にも1217憶円もの資金を注ぎ込み、開発に失敗するなど
不良債権は雪だるまのように増えていったのです。
 出資・融資総額約2兆円――一方で原油価格は安値安定して輸
入には絶好のチャンス――こういう状況において日本は大きな間
違った判断を下すことになります。これについては、明日のEJ
で述べます。         ―― [石油危機を読む/40]

≪画像および関連情報≫
 ●石坂泰三と山下太郎の逸話
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ある時、山下は「財界総理」といわれた経団連の石坂泰三会
  長会長を訪れ、この開発の重要性を切々と訴え、理解はして
  もらったものの、資金協力については「俺にはそんな金はな
  い」と拒否され、しばらく両者に沈黙の時間が経過した。粘
  る山下に、石坂は重い口を開いて、「ところで一体どのくら
  いの金が必要なのかね」。「100億円の保証です」と山下
  が答えると、石坂は表情を変えて「100億円?そんな金額
  は俺には縁がないから・・・夢物語には協力するよ」。「本
  当に100億円の保証をお願いできるのですか?有難うござ
  います」。ここから山下太郎の獅子奮迅の働きが始まる。
  http://blog.canpan.info/sasakawa/archive/1200
  ―――――――――――――――――――――――――――

山下太郎氏.jpg
山下 太郎氏
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2010年11月18日

●重質油をサルファーフリーにする技術(EJ第2328号)

 今回のテーマ「石油危機を読む」も今回で39回――そろそろ
最終章に入ります。ロシアのエネルギー戦略の話はこのぐらいに
して、最後に日本の取るべきエネルギー戦略について考えてみる
ことにします。
 この連載を続けている間も原油価格は最高値を次々と更新し、
米大手投資銀行のゴールドマンサックスは、原油価格は今後2年
以内に1バレル=200ドルまで上昇するという予測を発表して
います。実はゴールドマンサックスは、3年前に原油が100ド
ルまで上昇することを正確に予測していたことがあって、今回の
発表は世界の経済界に衝撃をもたらしたのです。
 この油価高騰に米国やヨーロッパでは悲鳴が上がっています。
もちろん日本でも油価高騰はあらゆる物価上昇に影響を与えるの
で歓迎されざる事態ですが、日本経済のコア部分からの悲鳴は、
あまり聞こえてきてはいないのです。これほどの油価高騰である
にもかかわらず、けっして良くはないものの、日本経済全般は意
外に堅調なのです。
 もともと日本という国は、油価高騰に一番脆弱であるといわれ
ていた国です。しかし、1970年代の2度にわたる石油危機に
よって日本人は石油危機――「油断」の恐ろしさを知り、きちん
と学習してきているからです。
 今回の油価高騰の背景には、世界的な石油製品需要の構造変化
があることを読み取る必要があります。一口に原油といっても、
その性格によって次の3つの種類があります。
―――――――――――――――――――――――――――――
   1.軽質油 ・・・ ガソリン、ジェット燃料
   2.重質油 ・・・ 重油/中小型船舶の燃料
   3.硫黄油 ・・・ 高硫黄油/低硫黄油など
―――――――――――――――――――――――――――――
 これは原油の性格による分類ですが、原油の産出国によって分
類すると次のようになります。日本が一番多く輸入している原油
は、中東産原油であるドバイ原油なのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
   1.WTI原油 ・・・・ 軽質・低硫黄原油
   2.ドバイ原油 ・・・・ 重質・高硫黄原油
―――――――――――――――――――――――――――――
 はっきりしていることは、軽質油の消費量が急増する一方で、
重油の消費が減る現象が起こっていることです。つまり、石油の
需要は、自動車、航空機などの輸送用燃料と家庭の暖房用に中心
が移っており、産業用、発電用の消費は天然ガスに奪われて減少
しているのです。これは明らかに石油製品需要の構造変化である
といえます。
 その結果、軽質原油のWTIは、重油原油であるドバイよりも
1バレル当たり20ドル以上も価格差がついているのです。これ
は、同じ量の原油から採取できるガソリンの比率が、WTIはド
バイよりも6ポイント程度高いからなのです。
 さらに石油需要について、米国と日本とでは石油需要に占める
ガソリンの割合は次のように異なるのです。軽質油の価格が高騰
しているので、その面で日本は有利といえます。
―――――――――――――――――――――――――――――
        米国 ・・・・・ 50%
        日本 ・・・・・ 15%
―――――――――――――――――――――――――――――
 ところで、日本が主として輸入しているのはUAE産のドバイ
原油です。重質で高硫黄であることが難点の原油ですが、日本の
石油会社は脱硫などの二次装置などに対して既に十分な投資を行
っており、重質油を輸入しても製品の品質を十分に補うことがで
きる技術とノウハウを持っているのです。
 これは、国産原油の代表格であるアラビア石油が採掘するサウ
ジアラビアのカフジ油田(重質油)に対して取り組んできた努力
がいま実っているといえるのです。アラビア石油は、「アラビア
太郎」と呼ばれた山下太郎氏が設立した石油や天然ガスの開発事
業を行う会社です。
 アラビア石油は、日本の自主開発油田――日の丸油田をサウジ
アラビアやクウェートなどから獲得し、日本の自主開発油田の約
50%を占める採掘を行い、石油の安定供給に貢献してきのです
が、2000年にサウジアラビア、2003年にクウェートの採
掘権を失い、以降は中東を中心に米国、メキシコなどでオペレー
ターを務める企業などに技術者を派遣するなど共同操業という形
で事業の継続を行っているのです。
 現在日本は、「サルファーフリー/低硫黄化」に関して世界を
リードする存在になっています。サルファーフリーとは、ガソリ
ン、軽油に含まれる硫黄分を10ppm以下まで低減することを
意味しています。もともと硫黄分の多い原油を使って、どこより
も硫黄分の少ないガソリンに精製するのですから、大変高度な技
術であるということができます。
 さらに日本は1970年以降にくる石油危機に備えるため、次
の2つの政策を推進してきているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
         1.エネルギー源の多様化
         2.省エネルギー政策推進
―――――――――――――――――――――――――――――
 「エネルギー源の多様化」については、主として原子力発電の
大幅導入によって、1973年には77%であった石油依存度を
2001年には49%までにダウンさせています。原子力には、
いろいろ問題はあるものの、石油依存度の低下には有効です。
 「省エネルギー政策推進」については、1979年に「エネル
ギーの使用の合理化に関する法律」ができています。省エネなん
てといいますが、1980年代末までに産業部門を中心に大幅な
省エネが進んだのです。1973年を100とすると1990年
は53になったからです。   ―― [石油危機を読む/39]


≪画像および関連情報≫
 ●サルファーフリーについて
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ガソリン、軽油をサルファーフリーにすることによって、自
  動車排ガスのクリーン化と燃費の向上につながります。サル
  ファーフリーガソリンやサルファーフリー軽油は、現在ガソ
  リン車やディーゼル車に取り付けられている排ガス処理装置
  の性能を充分に発揮させることができるため、より一層排ガ
  ス中の有害物質を削減することが出来ます。また、サルファ
  ーフリーの特性を活用した新型の排ガス処理装置を装備すれ
  ば、有害物質のさらなる削減に加え、新型エンジンの燃費性
  能を最大限引き出すことが可能となり、燃費の向上を通じて
  CO2排出量を削減して、地球温暖化対策にも役立ちます。
     http://www.paj.gr.jp/eco/sulphur_free/index.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

カフジ油田/アラビア石油.jpg
カフジ油田/アラビア石油 
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2010年11月17日

●ロシアのエネルギー戦略と博士論文(EJ第2327号)

 ロシアのプーチン首相が「経済科学準博士」の称号を持ってい
ることをご存知でしょうか。
 ロシアにおける旧「準博士」は、社会主義国では博士として扱
われるそうです。少年時代のプーチンの家庭環境はあまり裕福で
はなく、共同アパートで過ごしたと自伝で述べています。
 子供の頃からKGBに憧れており、そのために国立レニングラ
ード大学(現国立サンクトペテルブルグ大学)法学部に入り、大
学卒業後にKGBに就職したのです。
 プーチンはKGBの一員として1985年から1990年まで
東ドイツのドレスデンに派遣され、在ドレスデンソ連領事館のナ
ンバー2として勤務していたのです。しかし、1989年にベル
リンの壁が崩壊し、東ドイツの体制が変わったので、故郷のサン
クトペテルブルグに戻ってきたのです。そしてサンクトペテルブ
ルグ市役所で働き始めたのです。
 といっても、これからプーチン首相の出世物語を述べるわけで
はないのです。彼がサンクトペテルブルグ鉱山大学に提出した博
士論文について述べたいからです。その論文のタイトルは、次の
通りです。論文提出は1997年6月のことです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 市場関係形成の条件下における地域の鉱物・原料資源的基礎
 の再生産の戦略的計画/218ページ ――1997年6月
―――――――――――――――――――――――――――――
 この論文の骨子は、修正・書き換えが行われて、1999年に
「ロシア経済の発展戦略における鉱物資源」というタイトルで出
版されています。
 問題はこの論文の内容です。木村汎教授によるとこの論文では
次の3つのことが強調されているといいます。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.ロシアは巨大な天然・原料資源に恵まれた国である。なか
   でもその鉱物資源は豊富で世界一である
 2.ロシアがこのエネルギー資源の力を国家のために利用する
   ためには同資源を国家管理下におくこと
 3.天然資源を国家管理下おくことはロシアの地政学的利益の
   促進やロシアの内外政策の遂行に役立つ
   木村汎著、『プーチンのエネルギー戦略』より/北星堂刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 この論文の内容を見てすぐわかることは、その内容がプーチン
前大統領が実際にやったこと、そのものであるということです。
つまり、この論文の骨子は、プーチン前大統領のエネルギー戦略
の基本線をあらわしているのです。
 また、木村汎教授は、このプーチン論文は「盗作」ではないか
として次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 「盗作」との結論を下したのは、クリフォード・ガディとイー
 ゴリ・ダンチェンコの2人。ともにブルッキング研究所(ワシ
 ントンDC)に席をおくロシア研究者である。(一部略) ガ
 ディとダンチェンコの2人は、2006年3月25日付の「ワ
 シントン・タイムズ」紙上で、プーチン準博士論文の重要部分
 が2人の米国人経済学者の著書を盗用したものであると発表し
 た。2人の米国人学者とはウィリアム・R・キングとデービッ
 ト・I・クリーランド。ともにピッツバーグ大学教授(当時)
 である。彼らの著作『戦略的計画と政策』(現在、絶版中)は
 ロシア語に翻訳され、ソ連邦でプログレス出版所から1982
 年に刊行された。
   木村汎著、『プーチンのエネルギー戦略』より/北星堂刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 問題はなぜプーチン前大統領は、大統領になる前にこのような
論文をまとめる必要があったのでしょうか。これによって博士号
を取得して、自らの政策が正しくて権威のあるものであることを
強調したかったのでしょうか。
 ところで、このプーチン論文は代作ではないかといわれている
のです。というのは、この論文が提出された1997年6月時点
においてプーチンは大統領府監督局長、論文が本として出版され
た1999年には連邦保安庁長官と安全保障会議書記を兼任する
という最も忙しいときなのです。とても論文なんか書いていられ
るときではないからです。1999年12月にはプーチンは大統
領代行になっているのです。
 論文を書いたのがプーチンではないとしたら、一体誰が論文を
書いたのでしょうか。
 木村教授によると、代作説を唱えているのは、ジョージタウン
准教授のハーレイ・バルザー氏であるというのです。バルザー氏
によると、論文はプーチン自身が書いたものではなく、プーチン
の考え方を受けて、「クドリン・チーム」が代筆したものである
としています。
 このクドリン――アレクセイ・クドリンはプーチン前大統領に
近い人物で、サンクトペテルブルグ市役所でプーチンと一緒に仕
事をし、プーチン政権では財務相を務めている人物です。
 木村教授によると、プーチン政権を支える派閥には2つがある
そうです。ひとつは旧KGB、軍部、検察庁、内務省などのいわ
ゆる「権力省庁」に勤務する「シラヴィキー」と、アレクセイ・
クドリンによって代表されるリベラル・エコノミストたちのグル
ープです。いずれもサンクトペテルブルグ出身者です。
 前者は「武闘派」といわれ「武力」を重視し、後者は「経済」
を重視するのです。しかし、ロシアのエネルギー資源を最大限に
国益に生かすという点では両派とも一致しているのです。
 プーチン前大統領の公式な伝記といわれる『一人称で語る』と
いうものがあるのですが、その中では彼の「経済科学準博士」の
学位については一切ふれられていないというのです。盗作である
という説がウワサになったので、ふれなかったのでしょうか。名
誉なことではないからです。  ―― [石油危機を読む/38]


≪画像および関連情報≫
 ●プーチン露大統領、博士論文ねつ造発覚
  ―――――――――――――――――――――――――――
  自分が優位に立つためにはどんなことでもすると言われる男
  ロシアのウラディミール・プーチン大統領の博士論文が盗作
  ・剽窃だったことが発覚し、プーチンは赤っ恥をかいた自分
  の顔色を隠すためにウォッカを鯨飲しているという報道が入
  った。問題となったのは、プーチンが90年代半ばに博士号
  を取った論文で、その大半が米国の論文の引き写しであると
  米国の研究者らが発表した。この告発を行ったのはワシント
  ンにあるシンクタンク、ブルッキングス研究所の2人の研究
  者で、78年にピッツバーグ大の研究者2人が書いた論文を
  ロシア語に逐語訳したものを元にしているという。
  http://0000000000.net/p-navi/info/news/200604012136.htm
  ―――――――――――――――――――――――――――

サンクトペテルブルグ市役所.jpg
サンクトペテルブルグ市役所
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2010年11月16日

●プーチンはレントの総支配人である(EJ第2326号)

 「オランダ病」という病気(?)をご存知でしょうか。
 これはれっきとした経済用語なのです。1970年代のことで
す。北海で天然ガス田が発見され、それが大量に輸出されたこと
によって、オランダに莫大な為替収入をもたらしたのです。しか
し、資源価格の高騰が終息すると、オランダの国際競争力はすっ
かり低下し、深刻な経済不況がオランダを襲ったのです。
 こういう歴史的事実から、産出する天然資源などの価格の高騰
によって莫大な不労所得を得た国が、財政支出を膨張させるなど
して経済政策の運営を誤ったことによりもたらされる経済危機を
「オランダ病」というのです。
 ロシアの場合は、ソ連時代から豊富なエネルギー資源があるこ
とはわかっており、突然発見されたオランダのケースとは異なる
ことは確かです。
 しかし、当時はエネルギー資源の価格はきわめて低く、国際的
な需要も少なく、西側諸国への輸出もきわめて限定的であったこ
とが、ロシアがオランダ病にかかることを未然に防止していたと
いえます。
 しかし、プーチン政権になって原油価格は急激に高騰し、高値
安定していることから、ロシアがオランダ病にかかる可能性はき
わめて高くなったといえます。このことは、ロシアの有識者たち
も気がついており、いろいろな機会をとらえてその危険性を警告
しているのです。
 世界経済国際関係研究所に付属する国際安全保障センター長で
あるアレクセイ・アルバートフ氏は、プーチン前大統領が外交政
策について語るとき、エネルギー問題がその70%を占めること
を指摘し、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 原材料の輸出にもとづく経済が、真に強力かつ近代的な経済で
 あることはありえない。歴史上そのような例はこれまで一度も
 なかったし、今後もおそらくないだろう。
   木村汎著、『プーチンのエネルギー戦略』より/北星堂刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 プーチン政権の経済を担当するプーチン前大統領の側近であっ
たアレクセイ・クドリン財務相でさえも、エネルギー至上主義に
ついて、次のようにその危険性を訴えています。クドリン財務相
はプーチン氏も一目置いている人物です。
―――――――――――――――――――――――――――――
 過去数年間、原油価格の上昇によってユーフォリア(陶酔感)
 が生まれた。しかし、このユーフォリアはロシアが8年前に苦
 しんだ恐ろしい危機――1998年からの金融危機に比べてさ
 え、より一層危険な現象なのである。  ――クドリン財務相
   2006年12月「ブレーミヤ・ノーボスチェイ」紙より
―――――――――――――――――――――――――――――
 確かにロシアの場合、多角的な貿易を行って急速な経済発展を
遂げているBRICs諸国と比べると、原油や天然ガスなどに過
度に依存しています。2006年におけるBRICs諸国の輸出
額に占めるエネルギー資源の割合は次の通りです。
―――――――――――――――――――――――――――――
             輸出総額   鉱物燃料
     ロシア  2884億ドル  65.7%
     ブラジル 1375億ドル   5.0%
     中国   9691億ドル   1.8%
     インド  1262億ドル     0%
   ――「ニューズウィーク日本版」5月14日号
―――――――――――――――――――――――――――――
 エネルギー資源の割合はロシアが突出しているのに対し、ブラ
ジルと中国は、機械・輸送設備がそれぞれ52.4%、47.1
%、インドについては石油製品の輸出が14.7%になっており
ロシアのいびつな産業構造がよくわかります。
 ロシアのような豊富な資源を有する国はともすると「レント」
に安住するといわれます。木村汎教授によると、「レント」とは
通常の競争市場で受けとる水準を超える所得のことです。独占利
潤とかマフィアなどの法外の収入のようなものを「レント」とい
うのです。そういう意味では、天然資源の国際価格が高騰すると
きに入手する超過利益もレントといってよいと思われます。
 この「レント」という言葉を使ってプーチン前大統領のやって
きたことをまとめるとこうなります。彼が大統領に就任すると同
時に上昇に転じた原油価格――これによって膨大なレントが生じ
ます。まず、この資金を国家や自分の派閥が確保する必要がある
とプ―チン前大統領は考えたのです。
 そしてレントを独占するためにやったのが、サハリン2、サハ
リン1、TNK−BPなどの乗っ取りです。このようにして膨大
なレントを手にしたプーチン政権は、その資金をテコにして自身
に都合のよい内外政策を推し進めると同時に自分の政権基盤を固
めるため、ガスプロムやロスネフチ、トランスネフチなどのトッ
プのポストを自分の側近たちに分配し支配下に置く――木村教授
はこれを「レント・シェアリング」と呼び、その頂点にいるプー
チン前大統領を「レント・マネジャー」、いや「レント・シェア
リング」システム全体の総支配人(ガディ)であるとしています。
 そして側近中の側近といわれるメドベージェフを大統領にし、
自分は首相に収まり院政をひく――こんなことをやっていたので
は、経済がうまくいくはずがないのです。
 また、ロシアでは金融システムの整備も遅れているのです。そ
のため中小企業は、高金利や融資者探しに苦労しているのが現状
です。さらにロシアでは株主の権利も軽視されています。国営石
油ロスチフチの経営に株主として不満を表明したファンドのCE
Oが国外追放処分を受けているのです。こんなことは自由主義国
ではとても考えられないことです。ロシアはソ連に先祖返りしよ
うとしています。       ―― [石油危機を読む/37]


≪画像および関連情報≫
 ●エルミタージュ・キャピタルCEOを脱税で起訴
  ―――――――――――――――――――――――――――
  エルミタージュ・キャピタルは40億ドルの運用資産を持つ
  アクティビスト投資ファンドで、ロシア企業を対象とする世
  界最大のファンドを運用している。ブラウダー氏は1996
  年にロシアでエルミタージュ・ファンドの運用を開始したが
  約2年前にロシア当局から国家の治安にとって脅威になる人
  物と宣言され、ビザを取り消された。
  http://jp.reuters.com/article/idJPJAPAN-26907820070717
  ―――――――――――――――――――――――――――

プーチン前大統領.jpg
プーチン前大統領
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2010年11月15日

●危機的状況にあるロシア経済(EJ第2325号)

 原油価格が高騰を続けて高止まりしつつあるように見えます。
このような状況において、ロシアはかなり強引な手法で石油・天
然ガス資源の国有化を進めています。
 プーチンが大統領になったのは2000年9月のことです。そ
のときの原油の国際価格はそれまでの低迷から脱し、1バレル当
たり33ドルに回復していたのです。それ以来原油価格は一貫し
て上がり続けているのですから、そういう意味でプーチン政権は
幸運な政権といえます。
 ロシアはこの天然資源の国際価格が上昇したことによって、プ
ーチン政権の8年間のGDP成長率は平均7.5%になり、国際
通貨基金(IMF)、債権国会議(パリクラブ)などに対する積年の
借入金を完済しています。
 しかし、ロシアの経済は順調そのものかというと、けっしてそ
うではないのです。そこが経済運営の難しいところなのです。ロ
シア経済には問題点が多々あるのですが、原油がもたらす黒字が
大き過ぎて経済政策の欠陥を隠しているのです。
 7〜8%のGDP成長率というと高い成長率といえますが、本
来であればロシアはその倍以上成長しても少しも不思議ではない
のです。なぜなら、その程度の成長率であれば、ウクライナやト
ルコも上げているからです。
 ウクライナやトルコは、ロシアのように原油や天然ガスなどの
特筆すべき鉱業がなく、むしろエネルギー価格の高騰によって経
済に打撃を受けているにもかかわらず、ロシア並みの経済成長率
を上げているのです。そうなると、膨大な原油収入のあるロシア
経済の非効率さが見えてきます。
 最近発表された調査によると、ロシアには約10万人のミリオ
ネア――資産100万ドル以上――と、55人のビリオネア――
資産10憶ドル以上――がいるといわれます。これは、米国に次
いで世界第2位のポジションを占めています。
 しかし、あるところにはお金が腐るほどあるが、国民の生活は
豊かではなく、深刻な格差社会になっているのです。明らかにロ
シアの経済は伸び悩んでいるのです。インフレや住宅価格の高騰
に加えて労働コストの増加、官僚の汚職の蔓延、高金利などが一
体となって、ロシア経済の足を引っ張っているのです。
 ロシア経済にとって深刻なのは、ガスプロムやロスネフチなど
の国営企業が優遇される一方で、中小企業がないがしろにされて
いることです。
 ロシアでは従業員100人未満の企業がGDPに占める割合は
15%止まりになっています。ちなみに米国の中小企業の割合は
GDPの半分以上を占めています。
 なぜ、中小企業が増えないのでしょうか。
 中小企業が増えないということは、事業家になろうという人が
少ないことを意味します。なぜかというと、事業家よりも官僚の
方が儲かるからです。プーチン政権下の8年間で、官僚の数は実
に50%も増加しているのです。すなわち、52万2000人が
82万8000人になっているのです。
 昨年実施された世論調査によると、「将来どういう職業に就き
たいか」の設問に対し、回答者の70%近くの人が起業家よりも
国家公務員になることを望んでいるのです。このように、エネル
ギー価格の高騰によって国の台所が潤っているはずのロシアの経
済は深刻な問題を抱えているのです。
 米国の非営利団体「平和基金会」が決定している「破綻国家指
数」によると、ロシアは62位になっています。順位が若いほど
破綻の危険が高いことになります。
 この「破綻国家指数」は、社会的・経済的・政治的指標をもと
にして決定されます。2007年は177ヶ国が指定されている
のです。しかし、「財政が危機的状況で破綻直前」と財務省が喧
伝する日本は入っていないのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
    1位.スーダン      74位.ベネズエラ
    2位.イラク       83位.サウジアラビア
    3位.ソマリア     106位.ウクライナ
   22位.ウズベキスタン  110位.インド
   57位.イラン      117位.ブラジル
   62位.ロシア      160位.アメリカ
   62位.中国       177位.ノルウェー
                     ――平和基金会
          「ニューズウィーク日本版」5.14号
―――――――――――――――――――――――――――――
 ロシア政府の2007年度の調査によると、ロシア企業の平均
生産性は米国やEUと比べると、30分の1に過ぎないのです。
航空宇宙産業の従業員1人当たりの平均生産能力をEUと比較す
ると次のようになります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 EUの 1人当たりの平均生産能力 → 12万6800ドル
 ロシアの1人当たりの平均生産能力 →  1万4800ドル
―――――――――――――――――――――――――――――
 社会主義国家から自由主義国家になったはずのロシアですが、
プーチン政権になってからは、逆行しているようにみえます。ロ
シアのGDPに占める民間部門の比率を2004年と2007年
と比較するとそれが顕著になっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
      2004年 ・・・・・ 70%
      2007年 ・・・・・ 61%
―――――――――――――――――――――――――――――
 これはプーチン政権のなりふりかまわぬ基幹産業の再国有化の
結果ですが、それにしても急ピッチです。今年の5月7日に大統
領に就任したメドベージェフはロシア経済の実態はプーチンより
もよく把握しているといわれますが、プーチンの強権の下で経済
を強化できるでしょうか。   ―― [石油危機を読む/36]


≪画像および関連情報≫
 ●平和財団の「破綻国家指数」について
  ―――――――――――――――――――――――――――
  【ワシントンIPS=ジム・ローブ、5月2日】
  合計で月80億ドル以上の軍事・経済援助をもらっていなが
  ら、イラクとアフガニスタンの両国は破綻状態にあると「破
  綻国家指数2006」が明らかにした。指数を作成したのは
  ワシントンにある「平和財団」と雑誌『外交政策』である。
  全148カ国を調査した。
   http://www.news.janjan.jp/world/0605/0605074028/1.php
  ―――――――――――――――――――――――――――

「ニューズウィーク誌」のロシア特集.jpg
「ニューズウィーク誌」のロシア特集
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2010年11月12日

●ロシアはなぜ外国資本を閉め出したか(EJ第2324号)

 考えてみると、プーチン政権は2006年から石油の外国資本
に対して攻撃を強めています。同年1月に行ったウクライナへの
ガスの供給停止はそのスタートの号砲であるかのようでした。
 このことはロシアという国は、いざとなると命綱であるガスの
元栓を平気で閉める国であることを世界に知らしめたのです。そ
して最初に着手したのはサハリン2であり、それは同年7月から
12月までに決着をみたのです。ガスプロムは、サハリン・エナ
ジー社の筆頭株主になり、同社の乗っ取りに成功しています。
 同じ2006年の中間ではロシアはサハリン1のガスを中国に
輸出する動きを止めています。これによってエクソンはガスの輸
出計画を断念せざるを得なくなったのです。
 そして、2007年6月になってTNK−BPがガスプロムに
屈伏してしまいます。これで、シェル、エクソンモービル、BP
の「スリー・シスターズ」は、すべてロシアによって主導権を奪
われてしまったことになります。
 しかし、もともとロシアがプーチン時代に明らかに自国にとっ
て不利なPSAを締結した理由は、資金が不足していたことに加
えて、石油やガスの生産や輸送の技術において、ロシアが未熟で
あったからです。つまり、資源はあるが、それを取り出して製品
化できなかったからこそ、そういう不利な契約を結んだのです。
 それなら、現在はどうなのでしょうか。既にロシアは石油やガ
ス価格の高騰によって資金には不足はしないでしょうが、技術の
面はどうなのでしょうか。
 実はロシアは、石油・天然ガスの生産技術については、まだ十
分ではないのです。とくに、シェル、エクソンモービル、BPの
3大メジャーの石油・ガスに関する生産技術は高度であって、ロ
シアとしては3大メジャーを敵に回すことは得策とはいえないと
いわれるのです。
 このことに関して、露営商工会議所所長であるステファン・ダ
ンジェル氏は、次のようにいっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ロシア側がサハリンやコビクタ天然ガス田のプロジェクトから
 外国専門家を閉め出すことは「近視眼的」で「愚かな」行為で
 ある。ロシア側はこれらのプロジェクトをみずから「実行に移
 すノウハウも設備ももっていない」ので、欧米企業の「助けを
 必要とする」からである。
   木村汎著、『プーチンのエネルギー戦略』より/北星堂刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 それならば、なぜ、プーチン政権は石油専門家である外国資本
を閉め出したのでしょうか。そこに、何か別の意図があったので
しょうか。
 クレムリンウォッチャーによると、閉め出された英蘭系のシェ
ル、米系のエクソンモービル、英系のBP――最近ロシアとオラ
ンダ、米国、英国とロシアの関係は必ずしも芳しいものではなく
そういうことに関係があるのではないかというのです。
 もともとBPがロシアに進出できたのは、トニー・ブレア前英
国首相とBPのCEOのジョン・ブロウニーとプーチンの関係が
良好であったからといわれていますが、すでに2人とも引退して
おり、関係は切れています。
 また、外国資本だからといってすべて閉め出されるわけではな
く、フランス系のトタル、イタリー系のENI、ドイツ系のエー
・オンは残っているし、ドイツの前首相であるゲハルト・シュレ
ーダーが常務取締役を務める「北欧天然ガスパイプライン」は、
目下前途洋々なのです。
 どうやらプーチンには敵と味方がはっきりしているのです。と
くに米国は敵なのです。しかし、エネルギーの需給に関して密接
な関係にあるEU諸国に対してロシアはそれなりの配慮をしてい
ることが読み取れるのです。
 しかし、EU諸国としてはロシアに対して強い警戒感を抱いて
います。とくに2006年冒頭のウクライナに対するガスの供給
停止には震え上がったといいます。なぜなら、EU諸国は平均す
ると約25%のガスをロシアに依存しているからです。
 EUのエネルギー担当委員であるアンドリ・ピエバルグスは次
のようにいっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ロシアが独自のエネルギー戦略をもつことは当然で、われわれ
 側にはそれを止める権利はないかもしれない。もし、そうだと
 するならば、われわれ「ロシアからエネルギーの供給を受けて
 いるヨーロッパ諸国」の側もまた、それに対抗する戦略を形成
 せねばならない。これは、当然の防衛措置であろう。
   木村汎著、『プーチンのエネルギー戦略』より/北星堂刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 それでは、EUとしてどのような防衛措置が考えられるでしょ
うか。エネルギーを武器として利用しようという国に対しては消
費者サイドのEUも結束・連携して対抗するしかないのです。
 そのひとつの方法として検討されているのが、既存の「オデッ
サ・ブロディ」原油パイプラインをヨーロッパまで延長するプラ
ンです。
 「オデッサ」というのは、ウクライナの西部の黒海沿岸にあり
ます。アゼルバイジャン産の原油をグルジアを経由して黒海のピ
ブデン港に運び、黒海をタンカーでオデッサまで運ぶのです。オ
デッサからブロディまでは、2001年にウクライナが作ったパ
イプラインがあるので、それでプロディまで運ぶのです。
 ポーランド国内のプロックを経てバルト海沿岸のグダンスク港
まで新設のパイプラインで運び、同港からバルト3国まで運搬す
るという計画なのです。もし、これが成功すれば、ウクライナ、
ポーランド、バルト3国は、ロシア原油に対する依存度をある程
度減少させることは可能になります。このようにロシアのエネル
ギー政策が加速するにつれて、それに防衛線を張る動きも加速し
つつあるのです。       ―― [石油危機を読む/35]


≪画像および関連情報≫
 ●オデッサと映画『戦艦ポチョムキン』について
  ―――――――――――――――――――――――――――
  第一次ロシア革命前夜。戦艦ポチョムキンでは、水兵が士官
  にウジの湧いた食事を与えられていた。ワクリンチュクを中
  心に水兵らは立ち上がり、反乱は成功するが、ワクリンチュ
  クは殺されてしまう。ポチョムキンはオデッサ港へと入り、
  ワクリンチュクの死体に人々が群がり、やがて一般の人々の
  反乱心をも掻き立てる。政府軍の一斉射撃が始まり、オデッ
  サの階段で右往左往する人々。凄絶な惨劇が繰り広げられ、
  その後ポチョムキン内では、再び襲ってくるであろう政府軍
  に少々怯えながら朝を迎える。水平線を見渡すと、そこには
  政府軍の艦隊が。遭遇により緊張は頂点に達するが、しかし
  政府軍が攻撃することはなく、ポチョムキンはその間を進ん
  でゆく。
  http://www6.plala.or.jp/khx52b/movie/file_s/se0001.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

オデッサ・ブロディパイプライン.jpg
オデッサ・ブロディパイプライン
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2010年11月11日

●エクソンと同じ仕打ちを受けたBP(EJ第2323号)

 5月9日――この日はロシアの第2次世界大戦の対独戦勝記念
日に当たるのですが、モスクワの「赤の広場」でロシア軍による
大規模軍事パレードが行われたのです。
 就任直後のメドベージェフ大統領がプーチン首相とともに観閲
し、新たに発足した「二頭体制」下のロシアの威容を誇示したか
たちになったのです。どうやら、プーチン首相はメドベージェフ
大統領とともにロシアを「ソ連」に戻そうとしているようにすら
見えます。昨今の天然ガスを中心とするプーチンのエネルギー戦
略−−外国資本の追い出しを見ていると、そう考えても不思議は
ないと思います。
 実はロシア経済は、原油1バレル当たり27ドルを基準価格と
しています。この基準価格から国際価格が1ドル上昇するごとに
そのうちの90セントがロシアの国庫収入になるのです。国際原
油価格が現在のように100ドルを大幅に超えれば超えるほど、
ロシア経済にはまるで濡れ手に粟のように余剰収入が転げ込む計
算になるのです。
 ロシアはこれによって、ソ連時代以来の西側先進諸国の金融機
関に負っていた膨大な対外債務を前倒しで完済するという奇跡を
成し遂げているのです。それどころか、ロシアの外貨準備高であ
る4451憶ドルは、台湾を抜いて中国、日本に次いで世界第3
位になっているのです。
 このままで行くと、ロシアは2020年までに国内総生産GD
Pにおいて、米、日、中、印と並ぶ世界5大経済大国の地位を占
めるようになるのは確実の情勢です。
 結局のところ、エクソンはサハリン1のガスをガスプロムと競
合してまで、中国に輸出できなくなったのです。それはパイプラ
イン建設をロシア側に封じられてしまったからです。ロシア側の
主張は、次の2つに集約されます。
―――――――――――――――――――――――――――――
  1.サハリン1が産出する天然ガスをすべてガスプロムに譲
    渡する
  2.サハリン1のガスをサハリン2と協力しLNG化して輸
    出する
―――――――――――――――――――――――――――――
 この場合、「サハリン2と協力し」の意味は、サハリン2は既
にロシアの傘下に入っているので、サハリン2との連携に関して
は許容しているというわけです。
 要するに「どこに」輸出するのかは問題ではないのです。「だ
れが」輸出するかが問題なのです。ガスプロムがそれを行うのは
いいが、外資系会社がそれをやるのは許さない――たとえ過去の
契約にそれを可とする条項があっても許さないというのがロシア
の意思なのです。
 プーチン政権のロシアの意思によって被害を受けたのは、サハ
リン2、サハリン1だけではないのです。英系メジャーであるB
P――ブリティッシュ・ペトロリアムもその例外ではなかったの
です。BPのケースについても述べておくことにします。
 2003年のことです。BPはロシアのTNK――チュメニ石
油会社との間で50%ずつ出資し、合弁企業TNK−BPを設立
したのです。ガス田の開発は成功して、TNK−BPはロシアで
はロスネフチ、ルークオイルに次ぐ石油業界第3位の大企業とな
っているのです。そしてTNK−BPは、コビクタ天然ガス田の
開発を行うコンソーシアムであるロシア石油の62.89%の株
主になったのです。
 コビクタ天然ガス田は1987年に東シベリアのイルクーツク
州で発見されたロシア最大級のガス田なのです。このようなTN
K−BPをロシアがそのままにしておくわけはないのです。当然
強い圧力をかけてきたのです。
 TNK−BPに対してロシアは、今までとは逆に契約内容不履
行によって揺さぶってきたのです。というのは、TNK−BPは
契約によって、年間約90憶立方メートルのガスを産出すること
を義務づけられていたのですが、実際の産出量は年間わずか33
00立方メートル未満のガスしか生産していなかったのです。
 しかし、これには理由があったのです。TNK−BPの言い分
としては、ロシア側がガスを輸出するためのパイプラインの建設
を妨害しているというのです。
 既に述べたようにロシアでは、ガス輸出の権利、すなわち、パ
イプライン建設はガスプロムが握っているのです。TNK−BP
としては、対中国、韓国、アジア諸国へ輸出するためにパイプラ
インの建設をしようとしたのですが、ガスプロムは嫌がらせをし
てそれを認めなかったのです。
 そのため、TNK−BPは生産量を絞って近郊のイルクーツク
州周辺に向けて低価格で売るしかなかったのです。しかし、ロシ
アはそんなTNK−BPの言い分を認めるはずがないのです。
 パイプラインの建設を封じておいて、その一方で生産額をクリ
アしていないことを問題にする――西側では常識的には考えられ
ないことですが、ロシアではその常識は通用しないのです。
 結局のところ、2007年6月にTNK−BPはロシアの圧力
に屈したのです。ロシア石油の62.89%の権益すべてをガス
プロムに譲渡することにしたからです。価格は公表されていませ
んが、7〜9憶ドルといわれています。なんという安さでしょう
か。これはたたき売りに等しい金額です。
 コビクタ天然ガス田プロジェクトの事業価値は完成時で200
憶ドルといわれているのです。この取引が決定後、当時ガスプロ
ムのメドベージェフ副社長は次のようにコメントしたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 コビクタ天然ガス田で産出される天然ガスの潜在的な買い手の
 なかに、中国と韓国は入っている。両国との交渉は進行中。
   木村汎著、『プーチンのエネルギー戦略』より/北星堂刊
―――――――――――――――――――――――――――――
               ―― [石油危機を読む/34]


≪画像および関連情報≫
 ●ロシア復活軍事パレード/2008.5.9
  ―――――――――――――――――――――――――――
  モスクワ=常盤伸――モスクワの赤の広場で九日、第二次大
  戦での対独戦勝を記念するソ連崩壊後、初の大規模軍事パレ
  ードが行われ、就任間もないメドベージェフ大統領とプーチ
  ン首相らが並んで観閲した。双頭政権が発足直後に軍事パレ
  ードを再開した背景には、大国復活を誇示し、米国による東
  欧でのミサイル防衛(MD)配備計画などで対立する欧米を
  けん制する狙いがあるとみられる。メドベージェフ新大統領
  は「戦勝記念日は国民統一の永遠のシンボルである」と強調
  した。                  ――東京新聞
http://www.tokyo-np.co.jp/article/world/news/CK2008051002010080.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

ロシアの軍事パレード復活.jpg
ロシアの軍事パレード復活
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2010年11月10日

●LNGの安定供給は確保できるのか(EJ第2322号)

 サハリン・エナジー社の筆頭株主がロイヤル・ダッチ・シェル
からガスプロムになる――このことは何を意味しているのかわれ
われはよく考える必要があります。
 これについて、三井物産の檜田松榮社長は、プーチン大統領に
招かれたパーティーで次のように述べているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ホスト国「ロシア」が関与することになり、意思疎通の面でも
 状況ははるかに良くなった。ガスプロムがこのプロジェクトに
 参加するとの合意は、サハリン2の一里塚である。それはプロ
 ジェクトをいちじるしく強化すると、三井「物産」は考える。
                 ――檜田松榮三井物産社長
   木村汎著、『プーチンのエネルギー戦略』より/北星堂刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 この発言を聞いていると、ロシアに対する外交辞令もあるが、
三井物産としてはガスプロムがこのプロジェクトに参加し、主導
権を握ることによって、かえって事態は良くなると本気で考えて
いるようです。
 しかし、本当にそういえるのでしょうか。三井物産、三菱商事
の日本勢としては、今まで世界第2位のメジャーとしてのシェル
の圧倒的な発言権によって、おそらく思うような事業運営ができ
なかったと思うのです。したがって、ガスプロムの参加をむしろ
歓迎したのではないかと思われます。もし、そうであるとしたら
日本はあまりにも甘いといわざるを得ないと考えます。
 ガスプロムがサハリン・エナジー社の筆頭株主になったことに
よって、欧州復興開発銀行(EBRD)は、直ちにサハリン2の
プロジェクトに対する資金供与を中止しています。国際ビジネス
はこのくらいの危機感を持ってもいいのです。おそらくEBRD
はロシアという国は外国資本が参加するには政治的リスクの多い
国との判断をして資金供与から手を引いたと思われるからです。
 もちろんサハリン2の結末だけによる判断ではないのです。そ
の前にロシアのウクライナに対する仕打ちを見ているからです。
2006年1月にロシアはウクライナに対し、ガスの供給を停止
しています。そして、同じ年の12月にロシアによるサハリン2
の乗っ取りの顛末があったのです。
 それに加えて「サハリン1」に対するロシアの外資追い出しの
動きが2006年に起こっているのです。サハリン1は、サハリ
ン2と同様に、サハリン州北部東岸の大陸棚の原油・天然ガスの
開発プロジェクトなのですが、サハリン2よりも先に着手したの
で、サハリン1と呼ばれているのです。
 サハリン1は、やはりエリツィン大統領の時代の1995年に
PSA(生産分与協定)を締結しているのですが、サハリン2と
違ってこちらには「ロスネフチ」というロシアの石油企業が入っ
ているのです。株主構成は次の通りです。
―――――――――――――――――――――――――――――
  エクソンモービル ・・・・・・・・・・・ 30%
  サハリン石油ガス開発(SODECO) ・ 30%
  ロスネフチ ・・・・・・・・・・・・・・ 20%
  インド国営石油企業(ONGC) ・・・・ 20%
―――――――――――――――――――――――――――――
 サハリン石油ガス開発(SODECO)というのは、日本石油
公団、伊藤忠商事、丸紅が共同出資する企業です。このサハリン
1の特色は、エクソンにガスを好きなところに売る権利を与えて
いることです。
 プーチンは大統領になると、このサハリン1に関してもPSA
を見直す必要があると考えて行動を起こしているのです。プーチ
ン政権のサハリン1に対する行動は、サハリン2とは違う方法を
とっています。
 繰り返しますが、サハリン1は筆頭株主のエクソンにガスを自
由に売る権利を与えています。そこで、エクソンは2006年に
中国にガスを売る契約を結んだのです。販売先は中国石油天然ガ
ス集団公司(CNPC)――当然の権利です。
 ロシア側の出資比率はロスネフチの20%しかなく、反対のし
ようがなかったのです。しかし、プーチン政権はこれを潰しにか
かったのです。中国は日本や欧州諸国と違ってガスを安く買おう
とするので、中国には売りたくないのです。
 そこでロシア側が主張したのは、「ロシア産のエネルギーはロ
シア国内の消費者の需要を満たす必要がある」という理屈なので
す。ここでいう「ロシア国内」というのは、ハバロフスク州、沿
海州、サハリン州を指しているのです。これらの州の実態はどう
かというと、エネルギーは地元の石炭や水力発電所で対応する方
がサハリンから輸入するよりもずっと安くつくのにです。
 要するに、サハリン1で産出するガスはロシア国内の需要を満
たすため、ロシアで買い取るという意思表明です。これに関して
当時ガスプロムの副社長をしていたアレクサンドル・メドベージ
ェフ(現ロシア大統領)は次のようにいっているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 君(エクソン)はパイプラインをもたない。それにもかかわら
 ず、中国にガスを売りたいという。それはいったいどういう意
 味なのか。では果たしてどのようなやり方で輸出するつもりな
 のか。
   木村汎著、『プーチンのエネルギー戦略』より/北星堂刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 ロシア側のいう理屈は西側諸国では絶対に通用しない屁理屈な
のです。契約ではどこにでも売れるようになっているかもしれな
いが、君が売ろうとしているガスはわれわれロシアのガスなのだ
ということを忘れてもらっては困るというわけです。
 それでいて、このときガスプロムは、中国との間でガス・パイ
プライン建設の交渉をやっているのです。こういう手ごわい相手
と腰が引けている日本の外務省――北方領土はそう簡単には帰っ
てはこないと感じます。    ―― [石油危機を読む/33]


≪画像および関連情報≫
 ●プーチン前大統領の発言
  ―――――――――――――――――――――――――――
  「アサヒ・コム」によると、ロシアのプーチン大統領は20
  06年9月25日、サハリンで開発が進んでいる進んでいる
  石油・天然ガス採掘プロジェクトのうち、パイプラインでロ
  シア本土に運ばれる天然ガス「サハリン1」について「ロシ
  ア国内消費向けであり、国外には輸出しない」と発言した。
  今プロジェクトの筆頭出資者エクソンモービルではこのルー
  トで中国に天然ガスを輸出する交渉を進めているが、今回の
  プーチン大統領の発言はこれを認めない方針を明らかにした
  もので、今後の動向に注目が集まっている。
   http://www.gamenews.ne.jp/archives/2006/09/1_15.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

メドベージェフロシア大統領.jpg
メドベージェフロシア大統領
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2010年11月09日

●外資系3社はなぜ主導権を奪われたか(EJ第2321号)

―――――――――――――――――――――――――――――
 この「環境保護」キャンペーンはあまりにも透明で分かりきっ
 たものだった。まるで喜劇のようにさえ思える。ほとんど無名
 に近い環境監督官が「エナジー社が」樹を一本切るごとに罰金
 をとると威した。そのキャンペーンが、野火のように拡がって
 いった。そして結局、クレムリンは己が狙ったものを手に入れ
 た。アジアへのガス市場を拓くという有利なプロジェクトの管
 理権を。 ――木村汎著、『プーチンのエネルギー戦略』より
                         北星堂刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 これは、サハリン2問題が解決した直後の「ニューヨーク・タ
イムズ」紙の論評です。しかし、これは後の祭りです。なぜ、こ
のような結果になったのでしょうか。
 それは外資系3社がエリツィンに次いで大統領になったプーチ
ンという男を甘く見た結果です。プーチン大統領としては、何が
何でもエリツィンの負の遺産を清算するという強い意思があった
のです。そのように目標を決めると、プーチン大統領はその達成
のためには手段を選ばない人物なのです。
 これに対して、ちゃんとエリツィン大統領時代の契約書がある
からと、外資系3社は安心していたものと思われます。しかし、
エリツィン時代のロシアとプーチン政権になってからのロシアは
すべての点において様変わりしているのです。
 木村汎教授によると、とくにひどかったのはロイヤル・ダッチ
・シェルの対応のまずさなのです。シェルは、三井物産と三菱商
事の日本勢と違って、株式のシェアの面で圧倒的に有利なポジシ
ョンを持ちながらそれを何も生かしておらず、プーチン政権に完
全に振り回されてしまったからです。
 それ以外の要因もあります。シェルは、ユジノサハリンスク郊
外の広大な敷地に豪奢な社員用の住宅を建設し、地元サハリンの
ロシア人を立ち入り禁止にして顰蹙を買ったのです。それに毎週
函館――ユジノサハリンスク間にチャーター便を飛ばす贅沢三昧
をしているのです。このチャーター便は、機材の運搬や乗客がい
るときだけ飛ばすのではなく、定期的に飛ばしたのです。
 それならば、やはり当事者である三井物産、三菱商事と日本国
の対応はどうだったでしょうか。
 このことをはっきりさせるために、実際にガスプロムとサハリ
ン・エナジー社の間にどのぐらいの金額がやり取りされたのかを
知る必要があります。問題は、外資系3社からガスプロムへのサ
ハリン・エナジー社の株式譲渡価格なのです。
 外資系3社としては、ガスプロムから最低でも70億ドル(約
8400億円)は支払ってもらわないと大損失になってしまうと
いうことで、交渉に臨んだのです。
 この70億ドルという数字は、交渉の時点で3社は既に130
億ドル(約1兆5600億円)以上の資金をつぎ込んでいるので
その半分は払ってもらわなければという考え方です。
 しかし、ロシアという国は、これまでの外交戦略においても現
金を支払うということにかけては実に渋い国なのです。この株式
譲渡交渉においてガスプロムが提示してきた金額はたったの26
億ドル(約3120億円)だったのです。
 この金額の根拠は、サハリン2の当初コストである100億ド
ルの半分の50億ドル――ガスプロムとしては最終的にはこの金
額で決着させたいので、その第1回提示金額として、さらにその
半分の金額の26億ドルを提示したのです。
 もし、こんな金額で株を譲渡すると、シェル、三井物産、三菱
商事は株主から代表訴訟を起こされることは確実であったので、
粘り強く交渉したのです。そして決着した株式譲渡金額は次の金
額であったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
    74億5000万ドル(約8940億円)
―――――――――――――――――――――――――――――
 この金額であれば、当初事業費100億ドルの半分の50億ド
ルに、交渉の時点で既に増加していた30億ドルの半分の15億
ドルを加え、さらに10億ドル上積みさせたということで、外資
系3社としては、一応説明のできる金額になったといえます。
 この決着に関する日本側のコメントを次にまとめておくことに
します。
―――――――――――――――――――――――――――――
 <甘利明経済産業相>
 ・今回の合意は、LNGが安定的に日本に供給されることが約
  束された有意義なものである。
 <三井物産>
  ・環境問題も含めてサハリン2が直面している諸問題はすべ
   て解決への道筋がついた。
 <三菱商事>
  ・今後のLNG需要家への安定的な供給への道筋ができ、さ
   らにサハリン周辺の新たなロシアプロジェクトに参画でき
   る可能性も開けた。
―――――――――――――――――――――――――――――
 いずれも楽観的な見通しといわざるを得ないと思います。とく
にこの問題の主務官庁である経済産業省は、完全に腰が引けてい
ると思います。
 これは、ロシア国営独占企業体ガスプロムによるサハリン・エ
ナジー社の乗っ取り行為です。これに対して日本政府はロシアに
対して何ら抗議を行わず、「民間の交渉を見守るしかない」――
経済産業省北畑隆生事務次官はこういって、何も行動を起こさな
かったのです。
 「官民一体となってエネルギー安保に邁進する」といっている
いつもの姿勢はどこに行ったのでしょうか。日本の外交戦略はど
うしてこう軟弱なのでしょうか。サハリン2については、来週も
継続してコメントします。    ―― [石油危機を読む/32]


≪画像および関連情報≫
 ●ユジノサハリンスク(旧豊原)とは
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ユジノサハリンスクは、人口約17万人とサハリン最大の都
  市。外国人向けのホテルやレストラン、デパートなどが複数
  あり(それでも複数程度ではありますが)、サハリン州の経
  済の中心でもあります。食料品店を訪れても、他の町と比べ
  て比較的豊富にものが揃っているようです。
    http://www.linkclub.or.jp/~kiki/sakhalin/yuz1.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

ユジノサハリンスクとその市街風景.jpg
ユジノサハリンスクとその市街風景
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2010年11月08日

●サハリン2に対するプーチンの策略(EJ第2320号)

 2006年7月――ロシアのサンクトペテルブルグで開催され
たサミット――主要国首脳会談が終わると、プーチン大統領はサ
ハリン・エナジー社に対する攻勢を一段と強めたのです。
 一連の批判キャンぺーンの先陣を切ったのは、オレグ・ミトポ
リ天然資源監督局副局長です。ミトポリ副局長は批判キャンペー
ンの露払い役という役柄です。ロシアという国はこのように下の
クラスから徐々に格上げしていくのが常套手段なのです。
 続いてユーリ・トルトネフ天然資源相がサハリン2について、
次のように発言したのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 エナジー社はロシアの森林保護の規定を侵犯し、不法伐採をお
 こなっている。したがって、「サハリン2」のプロジェクトの
 続行はロシアの刑法と国益に反しており、停止されるべきであ
 る。   ――2006年11月1日/トルトネフ天然資源相
      ――木村汎著、『プーチンのエネルギー戦略』より
                         北星堂刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 この発言に対して西側のメディアは、発言者たちは政権トップ
が指示する命令にしたがう忠実な官僚であり、そういう意味にお
いて己自身の信念に従う確信犯ではなく、単なる風見鶏に過ぎな
いとして、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 クレムリンは、サハリン・エナジー社に圧力をかけて、モスク
 ワとのあいだで「己の」協定の内容を再交渉させる目的のため
 に、天然資源監督局を利用しているにすぎない。
    ――「ビジネスス・ウィーク誌」/木村汎著前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、ロシアは発言者を次々と格上げして、サハリン・エナ
ジー社を批判したのです。ユーリー・チャイカ検事総長はサハリ
ン・エナジー社は、ロシアの環境保護法を侵犯していると非難し
続いてゲルマン・グレフ経済発展相――当時、セルゲイ・ラブロ
フ外相まで批判を口にするようになったのです。
 これらの閣僚クラスの批判発言は積み上げられて「サハリン2
計画」の取り消し要求におよび、次いでそれはエナジー社の事業
免許の停止要求に発展したのです。さらにエナジー社を環境破壊
の罪で訴追し、損害賠償金を請求する動きにつながったのです。
 2006年12月8日――遂に追い詰められたサハリン・エナ
ジー社は、ガスプロムとの折衝に入ったのです。交渉はロイヤル
・ダッチ・シェルのファンデルフェールCEOとガスプロムのア
レクセイ・ミレル社長のトップ会談で行われたのです。
 会談はシェル側が譲歩に譲歩を重ねて、遂に12月19日に経
営主導権がガスプロムに事実上移されることによって決着したの
です。何しろガスプロムの条件を飲まないときは事業停止を突き
付けてくるのですから、サハリン・エナジー社の全面降伏という
ことになったのです。
 これによって、ロイヤル・ダッチ・シェル、三井物産、三菱商
事は、それぞれが保有している株の半分をガスプロムに移譲させ
られることになったのです。その結果、サハリン・エナジー社の
株の配分は次のようになります。ガスプロムは50%プラス1で
筆頭株主になったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
   ガスプロム ・・・・・・・・・  50.0%
   ロイヤル・ダッチ・シェル ・・  27.5%
   三井物産 ・・・・・・・・・・  12.5%
   三菱商事 ・・・・・・・・・・  10.0%
―――――――――――――――――――――――――――――
2006年12月21日――ガスプロムとサハリン・エナジー
社との調印式が行われ、シェルのファンデルフェールCEO、三
井物産の槍田松榮社長、三菱商事の小島順彦社長がモスクワ入り
したのです。
 そのときプーチン大統領は、3人の社長をわざわざクレムリン
内に招じ入れ、大歓迎したのです。同席したのは、ビクトル・フ
リスチェンコ産業エネルギー相、当時ガスプロムの会長を兼務し
ていたドミトリー・メドベーチェフ第一副首相です。そのパーテ
ィーで、プーチン大統領は挨拶として次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
これは、ガスプロムが「サハリン2」の共同作業に参加すると
いう決定である。集団的決定である。ロシア政府はこの決定の
通告を受けた。そして、その決定にたいして、われわれは何ら
異論もない。われわれはこれを歓迎する。
       ―プーチン大統領/――木村汎著、前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 それでは、あれほど大騒ぎをした環境問題は一体どうなったの
でしょうか。
 プーチン大統領は、12月21日のクレムリンでの会合で環境
問題について次のように述べているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
さて環境問題にかんして、ロシアの環境当局ならびに監督官た
ちが、この問題を解決するための手続きに合意したことを私は
嬉しく思う。・・・問題は原則として解決されたとみなしうる
との報告を私は受けている。      ――プーチン大統領
                ――木村汎著、前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 ロシアではプーチン大統領の発言が最高にして最終の発言なの
です。彼がこのように述べた瞬間にロシアの環境問題は雲散霧消
してしまったことになるのです。何とも勝手な理屈というしかな
いと思います。
 ちなみに、その後のサハリン・エナジー社の環境破壊は以前よ
りもずっとひどくなったそうですが、ロシア側は一切何もいって
こないということです。    ―― [石油危機を読む/31]


≪画像および関連情報≫
 ●問われるロシアの異質性とサミットの意味
 ―――――――――――――――――――――――――――
  旧ソ連諜報機関のKGB及びその後継組織であるFSB出身
  のリトビネンコ元中佐の不審死事件が注目を集めている。ロ
  シアをめぐっては最近同様の事件が相次いで発生しており、
  10月にはジャーナリストのアンナ・ポリトコフスカヤ氏が
  暗殺されている。いずれもプーチン政権に批判的であった人
  物が殺害されたこれらの事件にプーチン政権がどこまで関与
  しているのか真相は分からないが、ロシアで発生しているこ
  うした事態をほとんど報道してこなかった我が国のマスコミ
  も遅ればせながらリトビネンコ事件については大々的に報じ
  ている。被害者がスパイであったことが関心を引いているの
  かもしれないが、この問題は決して単なる興味本位から論じ
  るべきではない。
http://www.gfj.jp/cgi/m-bbs/contribution_history.php?form%5Bno%5D=271
 ―――――――――――――――――――――――――――

主要国首脳会議/2006/サンクトペテルブルグ.jpg
主要国首脳会議/2006/サンクトペテルブルグ
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2010年11月05日

●なぜ、事業費倍増になったのか(EJ第2319号)

 プーチン大統領は考えたのです。サハリン・エナジー社による
「サハリン2」は、自分のエネルギー戦略の基本原理をやがて侵
犯する――と。しかし、そうかといって、サハリン・エナジー社
を構成する外資系3社のロイヤル・ダッチシェル、三井物産、三
菱商事を直ちに締め出すのは得策ではないと考えたのです。
 なぜなら、当時のロシアには、サハリン2のプロジェクトを単
独で継続運営していくのは困難だったからです。世界一流の技術
に経営ノウハウ、販売ルートの開拓など、ロシアのガス独占企業
体ガスプロムが単独でやっていくのは容易ではなく、そんな力は
なかったのです。とくに液化天然ガス――LNGについてはガス
プロムは知識とノウハウを完全に欠いていたのです。
 ここは時間を稼ぐ必要がある――その間にガスプロムが力をつ
けることが得策であるとプーチン大統領は考えたのです。最終目
的はサハリン2の株主としてガスプロムが入ることであり、しか
も英蘭日3社の株式の合計を1株でもいいからガスプロムが上回
ることである――これがプーチン大統領の狙いだったのです。問
題はどのタイミングでそれをやるかです。
 クレムリンにとってその絶好の機会が訪れたのです。それは、
サハリン・エナジー社が計画の変更を理由として事業費倍増をロ
シア側に申し入れしてきたことです。実はサハリン・エナジー社
がそうせざるを得ないように仕向けたのは、プーチンサイドの仕
掛けだったのです。
 なぜサハリン・エナジー社が、計画の変更をしなければならな
かったかというと、ロシア環境保護団体が「サハリン2プロジェ
クトは環境破壊を冒している」として抗議の申し入れをしてきた
からです。
 具体的には、次の2つの環境破壊が深刻であるというのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.沖合い油田・天然ガス田からサハリン陸上に輸送する海底
   パイプラインがコクジラの餌場を通過していること
 2.河川にも影響がある。サケが産卵期に遡上してくるため、
   パイプラインの建設はサケの遡上通行の妨げになる
―――――――――――――――――――――――――――――
 最大の問題は、こうした環境保護団体の抗議に対してロシア政
府が後押ししたことです。ロシア政府のその措置がいかに突然の
変身であったかについて、既出の木村汎氏は自著において次のよ
うに述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 「モスクワ・ニューズ」(2006年11月3日)紙上のナタリ
 ア・アリヤクリンスカヤ女史の記事は、まさにロシアにおける
 環境保護団体たちのこのような反応を伝えている。環境問題に
 対するロシア政府の関心の増大それ自体は結構で大歓迎する。
 だがその一方、その背後事由にかんして何か胡散臭いものを感
 じる。(中略)というのも、ロシア政府は、次のような実績の持
 ち主だからである。「長年のあいだ環境論者たちの助けを求め
 る叫びを無視して、サハリンの環境に対して致命的な損害を与
 えるパイプライン建設者にフリーハンドをあたえてきた」。と
 ころが今や、ロシア政府は「突如として」「コクジラについて
 語り」、サハリンの「環境保護が第一」と声高に主張しはじめ
 た、と。 ――木村汎著、『プーチンのエネルギー戦略』より
                         北星堂刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 結局のところサハリン・エナジー社としては、コクジラの餌場
を避けてパイプラインのルートを変更したり、サケの産卵期には
工事を中止することなどのコスト上昇に加えて、中国などの急激
な経済成長に伴い、原油や鋼材をはじめ世界的に資源や資材の価
格が高騰したことによって、事業費の倍増をロシア側に伝えざる
を得なかったのです。
 サハリン・エナジー社がロシア側に対して事業費倍増の申し入
れを行ったのは2005年9月のことですが、そのときシェルと
ガスプロムの間ではある取引の話が進行しており、その話がほと
んどまとまりかけていたのです。シェルとしてはガスプロムをサ
ハリン・エナジー社に何らかのかたちで参加させざるを得ないと
感じていたものと思われます。
 その取引の話とは、ガスプロムに対してサハリン・エナジー社
の一部株式を交換するスワッピング取引のことです。シェルはサ
ハリン・エナジー社の株式を25プラス1%提供する代わりに、
ガスプロムが西シベリアのガス田「ザポリアルノエ・ネオコム」
プロジェクトの権益の半分を取得するというものです。この交換
契約は、2005年7月にその覚え書きの調印まで行われている
のです。
 ところが、2005年9月にサハリン・エナジー社が事業費倍
増を申し入れると、ガスプロムはまるでトリックにかけられ、騙
されたように激怒し、交換取引のキャンセルを表明したのです。
今後の交渉においてロシア側を有利にするための一連の陰謀とも
とれる行為であったといえます。
 ところで、これに関して、サハリン・エナジー社における日本
側の立場はどうなっていたのでしょうか。既に述べたように、日
本側としては、三井物産と三菱商事で45%の株式を握っている
のに常日頃から世界第2位のメジャーとしてのロイヤル・ダッチ
シェルの発言権に振り回され、何ら主導的立場が取れているとは
いえなかったのです。
 2006年9月に入ると、突如クレムリンによるサハリン・エ
ナジー社への攻撃は一段と激しさを増してきます。サハリン・エ
ナジー社が事業費倍増をロシア側に提案してからちょうど一年後
です。なぜ、あのしぶといロシアが一年待ったかですが、それは
2006年7月にロシアがはじめて主宰した主要国――G8――
首脳会議があったからではないかと思われます。
 それまでは、サハリン2はほとんど機能停止状態に陥っていた
のです。           ―― [石油危機を読む/30]


≪画像および関連情報≫
 ●佐藤優氏によるロシア事情
  ―――――――――――――――――――――――――――
  プーチン政権が立て続けに日本に対してシグナルを送ってい
  るが、アンテナが鈍くなった外務官僚にはそれがきちんと読
  み取れていないようである。情報収集を強化し、日本政府か
  らきちんとシグナルを打ち返さないと、近未来に政治、経済
  の両面で日本の国益を毀損する事態が生じると筆者は危惧す
  る。           http://web.chokugen.jp/sato/
  ―――――――――――――――――――――――――――

佐藤優氏.jpg
佐藤 優氏
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2010年11月04日

●サハリン2の特色と誤算(EJ第2318号)

 2006年9月19日のことです。日本の新聞各紙の一面に次
の見出しが掲載されたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
        サハリン2、工事承認取り消し
―――――――――――――――――――――――――――――
 「サハリン2」というのは何でしょうか。
 「サハリン2」とは、ロシアのサハリン州で行なわれている石
油・天然ガスの開発事業のひとつです。開発をスタートさせた時
期によって、「サハリン1」とか「サハリン2」とか「サハリン
3」などと名称がつけられています。
 「サハリン2」には、他のプロジェクトと大きく異なる特色が
あります。既出の木村汎氏はその特色について次のように述べて
います。
―――――――――――――――――――――――――――――
 「サハリン2」は、次のような特徴をもつ。第1にそれには、
 「最大」「100%」「はじめての」などの形容詞がつけられ
 るプロジェクトであること。すなわち、「サハリン2」は、世
 界「最大」の液化天然ガス(LNG)プロジェクトである。第
 2に外資「100%」のプロジェクトであり、ロシア企業は一
 切関与していない。第3に、「生産分与協定」にもとづくプロ
 ジェクトである。
      ――木村汎著、『プーチンのエネルギー戦略』より
                         北星堂刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 ところで、外資100%のプロジェクトであり、ロシア企業は
一切関与していないのはどういうことでしょうか。
 サハリン2の事業主体は、サハリン・エナジー社といい、19
94年に、次の外国の3社が出資して作ったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
    ロイヤル・ダッチ・シェル ・・・ 55%
    三井物産 ・・・・・・・・・・・ 25%
    三菱商事 ・・・・・・・・・・・ 20%
    ――――――――――――――――――――
                    100%
―――――――――――――――――――――――――――――
 こういう事態になったのは、ソ連が解体した1991年代当時
のロシア経済がきわめて脆弱であったことが上げられます。この
時代において、ロシアが自国のエネルギーを独力で開発すること
などできるはずがなかったのです。
 資本や技術力を持たない産油国が外国資本を取り入れる方法は
次の4つしかないのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
           1.コンセッション
           2.請負い
           3.合弁
           4.生産分与協定
―――――――――――――――――――――――――――――
 「コンセッション」とは、民間事業者に付与される事業運営や
開発にかかわる権利のことであり、2と3については文字通りの
意味です。ロシアの場合は、4の「生産分与協定(PSA)」を
採用したのです。
 PSAとは、あくまで産油国が事業主体として事業運営の責任
は持つのですが、実際の事業管理は外国企業が行い、産油国は口
を出せないのです。そして、外国企業が投入するコストは生産物
の一部によって回収されることになります。
 そのようにして投資を生産物から回収したあとに残った余剰利
益は、産油国と外国企業の間で生産物のかたちで分配されること
になるのです。
 サハリン2のPSAについて具体的に述べると、次のようにな
ります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.外国企業3社が開発費用の全額――120億ドルを負担し
   て開発を進めることとする
 2.事業主体のサハリン・エナジー社は総事業費を回収するま
   で生産物の所有権を有する
 3.事業主体のサハリン・エナジー社は開発全期間を通じて利
   益の6%をロシアに支払う
―――――――――――――――――――――――――――――
 1993年にエリツィン大統領は、PSAに関する大統領令を
発して翌年からサハリン2は動き出したのです。
 しかし、サハリン2では、次の3つの大きな誤算が生ずること
になったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.事業費が当初の120億ドルより増えて200億ドルにな
   ったこと
 2.LNGの出荷時期が大幅遅延し、2008年以降にずれ込
   んだこと
 3.サハリン2に関して、環境保護団体からのクレームが増大
   したこと
―――――――――――――――――――――――――――――
 実はサハリン2にとって最大の誤算は、2000年5月に大統
領に就任したプーチン大統領がこのPSAの仕組みに疑問を持っ
たことであったと思われます。
 プーチン大統領にとってラッキーだったことは、彼が就任した
頃から原油の国際価格が高騰をはじめたことです。ロシアが19
98年に金融危機に見舞われたときの原油国際価格は1バレル当
たりわずか11.80ドルと底値を記録しているのに対し、20
00年9月には、1バレル当たり33ドルに高騰しはじめたから
です。             ―― [石油危機を読む/29]


≪画像および関連情報≫
 ●「サハリン2」の鉱区について
  ―――――――――――――――――――――――――――
  鉱区は樺太東北部沖のオホーツク海海底に存在する。原油は
  約11億バーレル、天然ガスは約18兆立方フィートの推定
  可採埋蔵量が推定されている。鉱区は主にピルトン・アスト
  フスコエ鉱区とルンスコエ鉱区に分かれる。前者は主に石油
  が、後者は天然ガスが埋蔵されていると見られる。
                    ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

サハリン2のパイプライン.jpg
サハリン2のパイプライン
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2010年11月02日

●ガスプロムとはどういう企業か(EJ第2317号)

 2008年4月26日のことです。福田首相はロシアを訪問し
モスクワ郊外の大統領公邸において、プーチン大統領と会談して
います。プーチン・ロシア大統領最後の日ロ首脳会談となったわ
けです。
 問題は、福田首相がこの忙しい時期になぜロシアにだけは行っ
たかということです。道路特定財源の一般財源化や暫定税率の再
議決問題、後期高齢者医療問題など難問が山積しているにもかか
わらずです。おそらくそれは外交で少しでも得点を稼ぎ、支持率
低下に歯止めをかけたいという思いがあったものと思われます。
 日本サイドから考えると、ロシアとの間には北方領土という領
土問題はあるものの、それ以外に大きな懸案事項はとくにないと
いえます。しかも、ロシアは領土問題を交渉する窓口を閉じてい
るわけではないのです。したがって、日本としてはこれからもロ
シアと粘り強く交渉を重ねる必要があります。
 一方ロシア側としては、現在展開中のエネルギー戦略や環境の
問題において、日本の技術や資金などの協力を引き出したいと考
えています。したがって、北方領土問題という交渉材料を巧みに
使いながら、少しでもロシアに有利に目的を達したいと考えてい
るのです。つまり、両者が交渉のテーブルに着く十分な目的はあ
るといえます。
 4月27日の日本経済新聞は、今回の日ロ首脳会談について次
のように書いています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 プーチン政権は資源外交の一環としてアジア太平洋地域での影
 響力の拡大を図っており、日本との経済・技術協力への期待が
 高い。中国と日本で競り合っていた東シベリアのパイプライン
 建設を巡り、今回、日本向けのパイプライン建設に有利になる
 と見られる日ロの共同探鉱が実現したのもそのためだ。
      ――2008.4.27付、日本経済新聞朝刊より
―――――――――――――――――――――――――――――
 ロシアのエネルギー戦略について語るとき、知っておくべきこ
とがあります。それは「ガスプロム」についてです。
 ガスプロムというのは、ロシア政府系の天然ガス独占体のこと
です。設立は1989年で、旧ソ連邦のガス工業省が改組され、
ガスプロムが設立されたのです。初代社長は、旧ガス工業大臣の
ビクトル・チェルノムイルジンです。
 チェルノムイルジンは、1992年12月にエリツィン大統領
によって首相に任命され、レム・ヴャヒレフが二代目首相に任命
されたのです。
 しかし、チェルノムイルジンにしてもヴャヒレフにしても絵に
描いたようなソ連時代の典型的な官僚であり、腐敗や汚職にまみ
れる閨閥人事を行い、10億ドルを超える私的財産を築いたとい
うどうしようもない社長だったのです。
 プーチン大統領の時代になった2002年6月にレム・ヴャヒ
レフ社長は更迭され、アレクセイ・ミレルが三代目の社長になっ
たのです。アレクセイ・ミレルは、プーチンがサンクトペテルブ
ルグ市役所時代の部下であり、凡庸な人物ではあったものの、プ
ーチンとしては使いやすかったものと思われます。
 プーチン大統領は、ガスプロムに全面的なバックアップ体制を
取り、ガスプロムをして彼のエネルギー戦略の中核的存在を担わ
せたのです。その結果、ミレルが社長になってから2005年ま
での間にガスプロムの資本金は約10倍になったのです。これに
よって、ミレルは難なく社長に再選されたのです。
 現在、ガスプロムは、世界企業番付で、次のように第4位を占
める大企業になっています。エネルギー分野に絞ると、エクソン
モービルに次いで第2位であり、ガス分野では、世界一の存在に
なっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
        1.エクソンモービル
        2.ゼネラル・エレクトリック
        3.マイクロソフト
        4.ガスプロム
―――――――――――――――――――――――――――――
 ガスプロムは、現在ロシア政府がその株式の51%を保有して
おり、事実上の国営企業となっています。それだけではないので
す。その役員構成を見ると大臣がそのまま役員を兼務するという
驚くべきことがわかります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 会 長 ドミトリー・メドベージェフ第一副首相
 社 長 アレクセイ・ミレル
 取締役 ゲルマン・グレフ経済発展相(当時)
 取締役 ビクトル・フリスチェンコ産業エネルギー相
 取締役 イーゴリ・ユスコフ国際エネルギー担当大統領特使
―――――――――――――――――――――――――――――
 彼らはプーチン派の中心的メンバーであり、プーチンの意のま
まに動く人物ばかりです。したがって、今年プーチン大統領が辞
任すると、首相に就任したうえガスプロムの会長職を兼務するの
ではないかと見られているのです。既出の木村汎氏は、ガスプロ
ムについて次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ロシアの政治学者リリア・シェフツオーバはガスプロムを「国
 家核心」であり、「クレムリンの意思の体現者」であるとさえ
 名づけた。別の研究者はガスプロを「クレムリンの旗艦」と呼
 ぶ。(中略) 日本のエネルギー研究家、渥美正洋によれば、
 プーチン大統領の「資源外交の実働部隊」の役割をはたしてい
 る。   ――木村汎著、『プーチンのエネルギー戦略』より
                         北星堂刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 あのウクライナとの紛争でも指令を出していたのは、ガスプロ
ムであったのです。       ―― [石油危機を読む/28]


≪画像および関連情報≫
 ●ガスプロムについて言及しているサイト
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ガスプロム社は、天然ガス生産量世界最大を誇る、ロシアを
  代表する超巨大企業です。1989年設立で、前身はソビエ
  ト連邦ガス工業省。その天然ガスの生産量は、全世界の4分
  の1を占めるほどです。ロシア最大規模の財閥企業ですが、
  株式の過半数をロシア政府が握っており、準国営企業なので
  す。ロシアは「国内のエネルギー産業は国が統制する」と明
  言しており、ガスプロムはその典型といえます。
      http://www.brics-jp.com/russian/gas_purom.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

日ロ首脳会談/2008.4.26.jpg
日ロ首脳会談/2008.4.26
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2010年11月01日

●地理的に優位に立つウクライナ(EJ第2316号)

 ロシアとウクライナの天然ガスを巡る紛争は、次の2社の間の
紛争に置き換えることができます。しかし、両社はともに国営企
業であり、これは完全に2国間の紛争ということになります。
―――――――――――――――――――――――――――――
  ガス供給事業者 ・・・・       ガスプロム社
  ガス需要事業者 ・・・・ ナフトハス・ウクライナ社
―――――――――――――――――――――――――――――
 最初にロシアとウクライナの紛争の結果について述べておくこ
とにします。ロシアは、ウクライナにはガスの供給を止めました
が、ガスはウクライナの領土を通るパイプラインでEU諸国にも
供給されているので、これは止めることはできないわけです。
 寒さの厳しい正月にガスを止められたウクライナは、パイプラ
インの途中に設けられている複数の取り入れ口から、EU諸国向
けのガスを不法に抜き取ったのです。このガスの抜き取り行為に
ついて、ウクライナのユーリー・エハヌロフ首相はそれを認めて
いますが、ウクライナはガスの抜き取りを前にも何回もやってお
り、それほど珍しいことではなかったのです。
 しかし、ウクライナのガスの抜き取りによって、EU諸国への
供給量は3分の1程度減ったのです。こうなると、エネルギーの
安定供給源としてのロシアの信用は毀損することになり、ロシア
としても何らかの手を打たざるを得なかったといえます。
 こういうわけでロシアはガスの供給停止から24時間後にウク
ライナと交渉をはじめ、両国は1月4日に合意に達したのです。
ウクライナのナフトハス・ウクライナ社の交渉の相手になったの
は、ロシア国営ガスプロム社が50%を出資する仲介会社ロスウ
クルエネルゴ社だったのです。
 しかし、その合意の内容としては次の通りですが、ロシア側は
非常に巧妙な仕掛けをしているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.ロシア産のガスについては、1000立方メートル当たり
   230ドルの国際価格を支払う
 2.ロスウクルエネルゴ社は中央アジア産の安いガスを購入し
   てロシア産と混ぜ合わせて提供
 3.上記1と2の処置によって、ウクライナが実際に支払う値
   段は95ドルに減額されること
―――――――――――――――――――――――――――――
 この合意でロシア側が狙ったのは、あくまでウクライナに対し
て230ドルという国際価格を飲ませることにあったのですが、
これはクリアしています。これで、従来50ドルであったガス価
格を4倍〜5倍値上げすることに成功しているのです。
 しかし、価格の安い中央アジア産のガス――1000立方メー
トル当たり50ドルとロシア産を混ぜ合わせて95ドルで提供す
るというのですから、ウクライナは2倍程度の値上がりで済んだ
ことになります。
 しかし、ウクライナが勝ち得た95ドルという合意はきわめて
不安定なものです。なぜなら、この95ドルは、ロシア側が、安
い中央アジア産のガスを入手してロシア産の高いガスと混ぜ合わ
せるということが前提に立っているからです。したがって、もし
ウクライナが、ロシアがさらに嫌う政治的方向に進んだ場合は、
いつでもその前提を変える可能性がないとはいえないからです。
 その証拠にロシアは、天然ガスの価格を経済的要因というより
も自国にとって政治的にどのようなポジションを占めるかによっ
てガスの価格を決めているからです。次の表は天然ガス1000
立方メートル当たりの価格です。単位はドルです。
―――――――――――――――――――――――――――――
             2006  2007   備考
 ラトビア     145〜155   217   反ロ
 リトアニア    115〜155   210   反ロ
 エストニア        190   260   反ロ
 ウクライナ         95   130   親欧
 ベラルーシ      46.68   100   親ロ
 モルドバ     110〜160   170 反ロ共産
 グルジア         110   235 反ロ親欧
 アルメニア        110   110   親ロ
 アゼルバイジャン     110   235 
 ブルがニア    257〜258
 ルーマニア    270〜285
 欧州諸国     245〜285   293
     ――木村汎著、『プーチンのエネルギー戦略』より
                        北星堂刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 これを見ると、欧州諸国に提供するガスの標準価格は240ド
ル、これに対して親ロシアで有名なベラルーシは、約47ドルと
超優遇されています。ラトビア、リトアニア、エストニアなどの
CIS諸国の平均価格が115〜190ドルであることを考える
と、紛争を起こしてロシアともめて親欧のウクライナは95ドル
とかなり優遇されているように思います。それは、2007年の
数字を見ると歴然としています。
 それは、ウクライナがロシアに対して地理的優位性に立ってい
るからです。ウクライナはロシアの国境を接しており、欧州諸国
との間に存在するという優位性に立っているのです。
 EU加盟の27ヶ国が消費するガスの25%はロシアからの輸
入品であり、そのうちの80%はウクライナ経由で欧州諸国に届
くのです。そして、残りの20%はベラルーシ、ポーランド経由
なのです。
 つまり、ロシアが欧州諸国に送るガスに対して、ウクライナは
その地理的優位性がゆえにガスの通過料をロシアに対して請求で
きるポジションを占めています。ロシアがウクライナに本気で強
く出られないのはそういう理由があるからです。
                ―― [石油危機を読む/27]


≪画像および関連情報≫
 ●ヨーロッパの財閥と企業グループ52欧州財閥の系譜
  ―――――――――――――――――――――――――――
  政治・経済の両面でロシアの影響を大きく受けるウクライナ
  は、2005年に改革派で親米派のユシチェンコ政権の成立
  後、暗転し始めました。それまでの好調な経済は、ロシアか
  らの安価なエネルギー資源及び原料の供給、経済発展を続け
  るロシアや中国への輸出等によって支えられてきました。し
  かし、ユシチェンコ大統領は就任直後、ロシアとは距離を置
  き、EUやアメリカなどとの関係を強化する姿勢を示したの
  です。     http://fxthegate.com/2008/02/52_28.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

ロシアとウクライナ.jpg
ロシアとウクライナ
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2010年10月29日

●地政学か地経学か/ロシアの戦略(EJ第2315号)

 ロシアとウクライナの天然ガスを巡る紛争には歴史的に見てい
ろいろないきさつがあるのです。この紛争には直接関係はないも
のの、遠因ではないかとされているのは、ソ連崩壊後の混乱期に
ロシア側がウクライナに対して貿易代金の不払いをやった過去が
あったことです。
 資源が少なく、経済的にも苦しいウクライナとしては、これに
よって、ロシアに対して強い不信感を持つようになったと思われ
るのです。おそらくソ連崩壊後のロシアは、ウクライナへの貿易
代金が払えなかったものと思われます。
 ロシアはソ連時代に東欧から西欧にかけてパイプライン輸送網
を敷き、天然ガスを西欧諸国を含む関係各国に供給していたので
す。とくにウクライナを含む旧共産圏の国に対しては、他の西欧
諸国よりも格段に安い価格で天然ガスを供給していたのです。
 この場合、パイプラインは各国の領内を通るので、その部分は
「パイプライン利用料」として、ロシアがその国に利用料を支払
うことになっているのです。
 ウクライナはソ連邦時代から、再三にわたってロシアに無断で
ガスの抜き取りをしたり、天然ガスの料金を支払わなかったりし
ており、それに対抗してソ連はガスの供給を停止することが何度
も行われていたのです。
 そして、プーチン大統領統治下の2006年1月にロシアはウ
クライナに対して天然ガスの供給停止を行ったのです。ロシアと
しては、今までと同様の経済的なもめごとであり、ビジネス上の
出来事に過ぎないとしているのです。つまり、「地政学」ではな
く、「地経学」であるというわけです。
 しかし、この問題は今後のロシアのエネルギー戦略を読み取る
格好の事例であり、少し詳しく述べることにします。
 そもそも2005年のロシアとウクライナの天然ガスをめぐる
紛争が政治的であるとみられるのは、2004年12月のウクラ
イナ大統領選挙でビクトル・ユーシチェンコ大統領が誕生し、彼
が親欧米の立場を鮮明にしたことにあるのです。この選挙を巡っ
て、いわゆる「オレンジ革命」が発生しています。
 オレンジ革命というのは、米国が仕掛けたとみられる「色つき
革命」と呼ばれる民主化活動であり、ウクライナ大統領選挙のさ
い、巻き起こったのです。なぜ、オレンジ革命というのかという
と、オレンジをシンボルカラーとして、リボンやマフラーにオレ
ンジ色の物を使用したことからなのです。ロシアが応援したのは
ビクトル・ヤヌコビッチ候補であり、この選挙でプーチン大統領
はそれこそなりふりかまわずヤヌコビッチ候補に肩入れしたので
すが、ユーシチェンコ候補に敗れ去ったのです。
 勝利を勝ち取ったユーシチェンコ大統領は、EUへのウクライ
ナの加盟を希望し、ロシア離れの立場を公然と表明したのです。
加えてユーシチェンコ大統領は、ロシアが提唱する「CIS」に
よる「集団安全保障条約機構」と「ユーラシア経済共同体」にも
拒否反応を示したのです。
 CISというのは、旧ソ連邦の12ヶ国で形成された緩やかな
国家共同体であり、これを「独立国家共同体」と称するのです。
ウクライナから見ると、プーチン大統領は、旧ソ連邦の12ヶ国
を再びまとめようと画策しているように見えるのでしょう。
 この事態を見てロシアはウクライナに対して、欧米化路線を取
るなら、CISに対するガスの特別価格を廃して、西欧諸国並み
の料金である230〜40ドル(1000立方メートル当たり)
を支払えと通告したのです。
 それまでロシアはウクライナに対して、ソ連崩壊後、パイプラ
インのウクライナ通過料とバーター決済で、50〜80ドルで提
供していたのです。したがって、ロシアの値上げ通告は、3倍か
ら4倍の大幅値上げになるのです。
 当然ウクライナは猛反発し、ロシアの要求を拒否し続けたので
す。段階的な値上げならともかく、一挙に4倍なんか支払えるは
ずがないというわけです。
 ロシアの本音としては、何とかウクライナをロシアの勢力圏に
取り込みたかったのです。ウクライナは1991年にソ連から独
立しているのですが、ウクライナは、国内においてエネルギー資
源を産出できないので、エネルギーに関しては大きくロシアに依
存せざるを得ない立場です。
 ウクライナという国は、黒海に面しており、カスピ海で産出さ
れる石油・天然ガスの欧米に対しての積み出し港として重要なポ
ジションにあったのです。もちろんロシアはウクライナを地政学
的に重要な地域としてとらえています。
 ロシアとウクライナのガス価格交渉の経過について、ソ連・ロ
シア研究の第一人者である木村汎北海道大学名誉教授は次のよう
に述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 モスクワとキエフ(ウクライナ)の主張は平行線をたどり、決
 着する見通しが一向に立たなかった。業を煮やしたプーチン政
 権は、遂に05年末、キエフ宛に最後通牒を突きつけた。もし
 キエフが1000立方メートル当たり230〜40ドルへの値
 上げに応じなければ、モスクワは翌年1月1日を期して、ウク
 ライナ向けのガス供給を停止する、との通告である。その言葉
 どうりにロシアは、06年元旦の午前10時、ガスの元栓を締
 めた。    ――木村汎著、『プーチンのエネルギー戦略』
                         北星堂刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 これがロシアのプーチン政権がウクライナに対して取った強硬
措置です。ロシアは単なるビジネス上のもめごとであると主張し
ていますが、これはプーチン政権による「エネルギー外交戦略」
そのものです。それは単にウクライナだけではなく、EU諸国や
日本に対しても今後ロシアが取ってくる可能性のある戦略である
といえます。ロシアはエネルギーを外交の手段として使おうとし
ているのです。         ―― [石油危機を読む/26]


≪画像および関連情報≫
 ●オレンジ革命について
  ―――――――――――――――――――――――――――
  プーチンは2003年のイラク戦争には反対して米国と対立
  する。イラクのフセイン政権打倒を果たし、自信を付けたア
  メリカ政府は「世界民主化」と銘打って、西欧のNGOなど
  と共にCIS域内の民主化勢力の支援を行った。この結果、
  グルジア(バラ革命)、ウクライナ(オレンジ革命)、キル
  ギスで独裁政権が倒れて民主化された。しかし、米軍が駐留
  していたウズベキスタンでは、市民運動が革命に繋がらずに
  失敗、その結果アメリカは怒りを買い、同国から米軍を撤収
  させることとなった。また、プーチンはこの動きに対し、2
  006初頭にウクライナへの天然ガス輸出を停止、EU諸国
  にも影響を与え、欧米の民主化勢力を牽制した。
                    ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

木村汎教授の本.jpg
木村 汎教授の本
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2010年10月28日

●エネルギーを外交手段として使うロシア(EJ第2314号)

 ロシアの石油・天然ガス戦略に話が及んできたので、いわゆる
「地政学リスク」といわれるものについて述べることにします。
なぜなら、これも原油価格高騰に大きな影響を与える要素である
からです。
 ところで、ロシアといえば最近プーチン大統領の再婚話が話題
となっています。これについて21日の日刊「ゲンダイ」紙に興
味ある記事が出ていましたのでご紹介します。
 記事の内容は、プーチン大統領の再婚騒動はクレムリンの権力
闘争だったというのです。このニュースを報道した日刊タブロイ
ド紙「モスコフスキー・コレスポンデント」が休刊したことにつ
いて、外務省元主任分析官佐藤優氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 コレスポンデント紙はクレムリンを巡る権力闘争に巻き込まれ
 たのではないか。次期大統領メドベージェフ周辺がプーチン大
 統領に対する世論の支持と国民の恐怖感がどれくらい残ってい
 るのかを政権交代前に探り、プーチンにダメージを与えようと
 仕組んだ可能性が高い。           ――佐藤優氏
        2008.4.21日付、日刊「ゲンダイ」より
―――――――――――――――――――――――――――――
 次期大統領メドベージェフ氏には「プーチンの傀儡」というイ
メージがあり、とてもそんなことができるイメージはないように
みえます。しかし、プーチン自身もエリツィンから大統領の指名
を受けて大統領になったにもかかわらず、プーチンはエリツィン
の力をそいで、絶対的な権力基盤を構築しており、メドベージェ
フも同じことをきっとやると思われているのです。
 それでは、メドベージェフ周辺が今回仕掛けた謀略の成果は、
どうだったのでしょうか。
 その判断は非常に難しいですが、ロシアでは過去に大統領の女
性スキャンダルが表沙汰になったことはないのです。エリツィン
もゴルバチョフにも女性問題があったのですが、表沙汰にはなら
なかったのです。しかし、今回はニュースが世界中に流される結
果となっており、これをどうみるかです。もとよりプーチン大統
領が悪いわけではないのですが、この騒動を権力闘争と考えると
ロシアがどういう国であるかがわかります。
 このニュースをなぜ取り上げたかですが、次期大統領のメドベ
ージェフが、2000年から2002年までロシアのガス企業で
ある「ガスプロム」社の取締役会議長(会長)を務めていたこと
があるからです。彼はエネルギーの問題については熟知している
のです。
 「地政学」というのは、もともと19世紀の欧州におけるパワ
ーポリティクス――権力政治の概念であり、ドイツの政治学者カ
ール・ハウスホーファーが学問として体系化したのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 地政学とは地理的な環境が国家に与える政治的、軍事的、経済
 的な影響を巨視的な視点で研究するものである。イギリスドイ
 ツ、アメリカ合衆国などで国家戦略に科学的根拠と正当性を与
 えることを目的とした。「地政学的」のように言葉として政治
 談議の中で聞かれることがある。    ――ウィキペディア
―――――――――――――――――――――――――――――
 現在、この地政学の概念は拡大され、石油や天然ガスなどの資
源保有国における政治的、宗教的、社会的リスクが国際関係に与
える影響までも含む幅広い問題を取り上げるようになってきてい
るのです。具体的には、イランの核開発問題、ナイジェリアにお
ける反政府運動、ベネズエラにおける反米社会主義的政策による
石油資源の国有化などが上げられますが、いずれも原油価格高騰
に関わる地政学リスクといえるのです。
 ロシアのプーチン大統領は、ロシアにとって石油と天然ガスは
国威発揚の有力な武器になるとの信念を持っているのです。20
05年以降において、彼は石油・天然ガスを次の3つの国家企業
によって独占させることによって、国家戦略として使おうとして
いるのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
   石油       ・・・・・ ロスネッチ
   天然ガス     ・・・・・ ガスプロム
   輸送パイプライン ・・・・・ トランススネフチ
―――――――――――――――――――――――――――――
 2006年になると、プーチン大統領はこれを実施に移してい
ます。2006年正月早々、ロシアはウクライナに対して天然ガ
スの供給を停止したのです。かねてからロシアとウクライナは天
然ガスを巡ってもめていたのです。
 このニュースは衝撃をもって全世界に伝えられたのです。遂に
ロシアはエネルギーを外交手段として使い出してきている――世
界はこう考えたのです。どうみても「ウクライナいじめ」としか
みえなかったので、ウクライナに国際的同情が集まったのです。
 なぜ、このようなことになったのでしょうか。なぜ、ロシアは
ウクライナに対し、天然ガスの供給を止めるという措置を取った
のでしょうか。
 その原因は、ロシアのガスプロム社が2005年11月に、旧
ソ連・東欧諸国に対して、天然ガスの輸出価格の大幅値上げを通
告したことに始まるのです。
 しかし、ウクライナに対しては、1000立方メートル当たり
50ドルであった料金を160ドルに引き上げたのです。これに
対してウクライナが反発すると、ガスプロム社はさらに230ド
ルに引き上げたのです。
 当然ウクライナは拒否したのですが、そうするとガスプロム社
は2006年1月から天然ガスの供給を停止したのです。なぜ、
ウクライナにだけはこういう結果になったのでしょうか。
 これについては、双方にいろいろな事情があり、一概にどちら
が悪いとはいえないのです。この問題については、来週のEJで
述べることにします。     ―― [石油危機を読む/25]


≪画像および関連情報≫
 ●地政学リスクとは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  地政学リスクとは、特定地域が抱える政治的・軍事的な緊張
  の高まりが世界経済全体の先行きを不透明にすること。米連
  邦準備理事会(FRB)が2002年9月に出した声明文で
  触れてから、多く用いられるようになった。主に中東情勢の
  緊迫を指すが、予測が極めて難しく、不確実性の増大が企業
  行動や消費者心理に悪影響を与え、外国為替相場が乱高下す
  るなど、経済活動の障害になる可能性がある。
  ―――――――――――――――――――――――――――

ドミトリー・メドベージェフ.jpg
 
ドミトリー・メドベージェフ
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2010年10月27日

●ベトナム天然ガス事業とロシア(EJ第2313号)

 EJ第2311号で、ベトナム油田の開発について次のことを
書いたのですが、再現しておきます。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ベトナム沖では、これまで主な探鉱対象とみなされていなかっ
 た花崗岩質基盤岩を対象とする探鉱が近年活発化し、大規模油
 ガス田の発見が相次いでいます。このように、探鉱最前線では
 次々と新たな地質プレイ――従来試みられなかった、新しい地
 質概念に基づく探鉱対象にチャレンジする姿が見られ、発見効
 率が向上しているのです。      ――EJ第2311号
―――――――――――――――――――――――――――――
 つまり、ベトナム沖では石油が出ているのですが、この海底油
田はいわく付きであり、ロシアが支援をしていることはあまり知
られていないのです。
 実はロシアは、かなり前から密かに「無機成因説」に立って油
田の探索をやってきていると思われるのです。そのため「超深度
油井」の探索・掘削について高度な技術を持っているのです。
 1970年にロシアは、40230フィートの深度に達する実
験油井を掘ることに成功しています。地球のマントルという非常
に深いところに石油があるという理論なので、深く油井を掘る必
要があるのです。
 ベトナム南部沖の海底油田は、1970年代に米国のモービル
社が開発に着手したのですが、サイゴン陥落後はソ連が引き継い
で、1986年にバクホー油田で商業生産を開始したのです。
 ロシアは、ベトナムに対してある提案をしたのです。ベトナム
に、リスクのない共同石油事業を始めたいと主張したのです。石
油技術者をモスクワから派遣して、ロシアは装備と技術を無料で
提供し、実際に石油が見つかって、その事業が商業ベースに乗っ
た際にはその利益の数パーセントを手数料としてもらえればいい
という提案なのです。
 ロシアとしてはよほど自信がなければ、こういう不利な提案は
しないはずですが、既に超深度油井の掘削に自信を持っていたの
で、ベトナムに提案したのでしょう。一方、ベトナムには失う物
は何もなかったので、ロシアに即時に同意しています。このロシ
アの提案は成功し、ベトナムの石油事業は軌道に乗ったのです。
 結果として、ロシアはベトナムの自信を回復することに助力し
ベトナムは西側諸国の過大な食糧援助への依存を石油事業の成功
によって減らすことができたといわれます。
 ベトナムでの石油採掘は、1960年にハノイトラフで開始さ
れたのですが、当初は成功の可能性が低かったのです。しかし、
当時のソビエト連邦からの技術的・経済的援助のもとでハノイト
ラフにおける採掘は行われ、1969年には初めての試掘井戸が
開坑しています。それ以来多数の油田が掘り当てられ、その過程
で天然ガスも発見されています。このように徐々に石油資源・天
然ガス資源の開発が進められ、やがてベトナムの石油産業は国の
経済を支え、かつ国家歳入の大きな割合――25%近くを占める
基幹的産業となるに至っているのです。
 少し歴史を振り返ると、もともとロシアは1980年代には原
油生産量日量1000万バレルを誇る世界最大の産油国だったの
です。しかし、1980年代後半以降は、原油価格低迷期におい
て石油収入が激減して国家財政が危機に瀕し、ソビエト連邦の崩
壊の引き金になったのです。
 ソ連崩壊後は、社会主義経済から市場経済に移行し、フランス
の石油サービス会社シュランベルジェなどの外国資本の技術を受
け入れ、ロシアの石油産業は劇的に復活を遂げているのです。そ
の結果、ロシアは天然ガス生産第1位、原油生産量はサウジアラ
ビアに次いで第2位のエネルギー大国になっています。
 このようにロシアは、天然ガスに強いのです。実は天然ガスに
強いということは、ロシアが超深度油井の掘削に強いことを証明
しているのです。これは、今後のロシアの国家戦略と深く関って
くるのです。
 天然ガスの利用は、石炭、石油に次いで3番目であり、遅れて
登場してきたエネルギーなのです。なぜでしょうか。その理由に
は次の3つがあります。
―――――――――――――――――――――――――――――
   1.天然ガスは運搬が困難な気体であること
   2.天然ガスは石油より深い地層に存在する
―――――――――――――――――――――――――――――
 第1の理由は、固体の石炭、液体の石油と違って天然ガスは気
体であって、運搬が難しく、パイプラインの敷設などでコストが
かかる点が上げられます。
 したがって、当初天然ガスは、ガス田が消費地に近い場合や所
得水準の高い地域でしか利用できなかったのです。しかし、技術
の発達した現在は、まさに天然ガスの時代といえます。
 第2の理由は、天然ガスは石油よりもさらに深い地層に存在し
ていることです。要するに、深く掘る技術がないとガス田の発見
が困難なのです。
 したがって、ロシアが天然ガス生産第1位であることは、ロシ
アが深い油井を掘る技術に優れていることを意味しています。石
油会社はどちらかというと、なるべく深く掘るのは避ける傾向が
あるのですが、ロシアは、そういう技術に長けているのです。こ
れに関連して、藤和彦氏は次のように書いています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 特に地層が深くなればなるほど石油より天然ガスの方が多く存
 在することが確実なので、今後資源探査の対象がより深い層に
 なればなるほど、多くのガス田が発見されてくることになる。
               ――藤 和彦著『石油を読む』
      より。日本経済新聞社/日経文庫1128/A52
―――――――――――――――――――――――――――――
 繰り返しますが、これからは石油の時代というよりも天然ガス
の時代なのです。       ―― [石油危機を読む/24]


≪画像および関連情報≫
 ●天然ガスとは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  天然ガスとは、地下から噴出するガスのうちの、メタンガス
  などの可燃性天然ガスをいう。同じ化石燃料ではあるが、石
  油や石炭に比べて燃焼したときの二酸化炭素の排出量が少な
  いことから、環境負荷の少ないエネルギーとして注目され、
  利用されるようになったのである。天然ガス自動車、ビルや
  家庭の冷暖房を行うコジェネレーションなどへの活用も図ら
  れている。             ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●天然ガス自動車
  http://www.gas.or.jp/ngvj/text/ngv_str.html

天然ガス自動車.jpg
天然ガス自動車
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2010年10月26日

●『無機成因説』の信憑性/その2(EJ第2312号)

 「生物由来説」が正しいとして、石油はあとどのくらい残って
いるでしょうか。
 精密な根拠に基づくものではありませんが、地球に残されてい
る石油の埋蔵量は、およそ1兆1000億バレル――ちょうど琵
琶湖4杯分といわれます。この量を今までの消費のペースで使う
と、2040年にはなくなってしまう計算だそうです。
 しかし、これは基本的には液体としての原油の残量であり、そ
れに、オイルサンドやオイルシェールというオイルを含んだ砂や
岩からの精製する分を加えると、あと10兆バレルは残っている
計算になります。
 しかし、オイルサンドやオイルシェールからの石油の精製はコ
ストと時間がかかり、どうしても原油価格は高騰せざるを得ない
ことになるのです。いずれにせよ、「生物由来説」が正しいとす
る限り、即座に何らかの対策を講ずる必要があります。このまま
では原油価格は急ピッチで高騰していくことになるはずです。
 しかし、「無機成因説」が正しいとすると、基本的に発想を転
換する必要があります。この説に立つと、実質的に原油は無限に
存在することになり、枯渇を恐れる必要はなくなります。しかし
油田の発見・探索に関しては、今までとは違った考え方で臨む必
要があるのです。
 前回、「無機成因説」の一部の根拠を示しましたが、もうひと
つの説を示しておきます。それは次の本です。
―――――――――――――――――――――――――――――
                 トーマス・ゴールド著
  「未知なる地底高熱生物圏/生命起源説をぬりかえる」
          丸武志訳  2000年/大月書店刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 この内容は驚くべきものです。石油は化石が原料なのではなく
地下の炭化水素が変質して石油やメタンガスに変わるという説な
のです。実際に地球の内部には膨大な量の炭素が存在するのが自
然であり、一部分は炭化水素の形で存在しているのです。この本
について記述しているブログを参考にしてその内容を示しておく
ことにします。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ●トーマス・ゴールドによれば、石油・石炭・天然ガスは「化
  石燃料」ではない。しかも実質的に無尽蔵である。
 ●しかし、だからといって無制限に使って良いものではない。
  資源の枯渇の心配は要らないかもしれないが、環境は間違い
  なく悪化する。
 ●トーマス・ゴールドによれば、地底には地表を凌ぐ生物圏が
  存在する。地表の生命は地底の生命の分家である。まさに母
  なる大地である。
 ●トーマス・ゴールドによれば、他の惑星にも地底生物圏が存
  在する。地球だけが特別なのではない。生命はいたるところ
  にある。
 ●トーマス・ゴールドによれば、科学の定説はしばしば根拠が
  希薄である。科学者だって思ったほど優秀なわけではない。
  思い違い、早とちりも結構多い。
        http://club.pep.ne.jp/~tatematsu/book8.html
―――――――――――――――――――――――――――――
 こういう説に立つと、資源のない日本でも地底には石油や天然
ガスがある可能性があるということになります。まだ記憶に残っ
ている事例として、渋谷のクアハウスの爆発事故がありましたが
原因は天然ガスだといわれています。
 東京都北区の温泉掘削現場から突然大量の天然ガスが噴出して
昼夜燃え続け、大量の泥水の注入でやっと鎮火したという事例、
千葉県九十九里浜町の「いわし博物館」の文書収蔵庫で大爆発が
起き、職員2名が死傷するという事例――いずれも天然ガスに関
係があるのです。
 石油や天然ガスに関しては、いつの頃からなのか、化石燃料で
あるという前提に立って、油田の探索が行われてきています。化
石燃料であれば、石油や天然ガスは堆積岩の下にしかないと考え
るのは常識であり、実際の油田調査はそういうところしかやって
いないのが現状です。
 ところで、日本には、地球深部掘削船『ちきゅう』という特殊
な船があり、これによる調査プロジェクトがあることをご存知で
しょうか。これは地球の地下深くにもぐることによって、「地殻
内流体の解明」を行っているのです。しかし、これは建前であっ
て本当の目的は「地下生物圏の解明」をすることによって「石油
・石炭・天然ガス無機起源説」の解明を目指しているのです。
 石油無機起源説の日本での提唱者に日本エネルギー経済研究所
の中島敬史氏という人物がいます。中島氏が執筆した「無機起源
石油・天然ガスが日本を救う!?―地球深層ガス説」の一部を次
にご紹介しておきます。
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本は、2つの巨大な大陸地殻プレート――ユーラシアプレー
 トと北米プレートが接する境界線があり、サハリン西方から日
 本海を経由して新潟、長野、静岡まで縦断・横断していると推
 定されています。この大きな境界線沿いや、これに雁行して並
 走する断裂が存在すれば、将来の探鉱対象エリアとなるかも知
 れない。こうした新しい視点で日本列島を再評価することによ
 り、我が国に新たな石油・天然ガス資源の発見を導くのではな
 いか。これらの前では、"石油ピーク問題"は霧散する。しかし
 それら豊富な石油・天然ガス資源は決して地表付近に分布する
 ものではなく、深部探鉱に対する投資が不可欠である。石油資
 源量における悲観論が広がり、リスクを避けるべく探鉱への投
 資が滞れば、いずれ"石油ピーク"が訪れるであろう
                      ――中島敬史氏
―――――――――――――――――――――――――――――
               ―― [石油危機を読む/23]


≪画像および関連情報≫
 ●講演・座談会 石油の無機起源説について
  ―――――――――――――――――――――――――――
  誰も予想しなかった石油高価格が続き、世界経済への悪影響
  が懸念される情勢を背景に、石油資源のピーク説が有力視さ
  れる一方で、その対極的とも言える無機起源説が最近の多く
  の事例を元に注目を集めてきている。人類の未来を考える大
  前提となるエネルギーの将来を検討するには、こうした考え
  を無視することはできない。これまであまり紹介されていな
  い無機起源説を取り上げて、その内容の理解を深めることと
  した。    ――日本エネルギー経済研究所/主任研究員
                      中島 敬史 氏
http://www.engy-sqr.com/member_discusion/document/sekiyu-mukisetsu051001.htm
  ―――――――――――――――――――――――――――

「未知なる地底高熱生物圏」/ゴールド.jpg
「未知なる地底高熱生物圏」/ゴールド
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